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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

目指すもの
2015-11-01

目指すもの

代表取締役社長 大井建史

秋も深まり錦秋の鳥海山を愛でた後に、地元の契約栽培酒造好適米の新米が入荷し始めました。蔵人達も元気に勢ぞろいし、10月25日初蒸しが行われ、気合いっぱいで百四十二回目の酒造りが始まりました。

鳥海山の初冠雪が昨年より半月も早く、天気予測も暖冬で大雪に成る等いろいろ取り沙汰されていますが、今の所冷え込みも早いようです。

お陰様で今年もトータル的に、吟醸・純米酒は増産の計画です。本当に有難いことだと思います。ワイングラスでおいしい日本酒アワードとロンドン酒チャレンジで金賞受賞の「純米大吟醸 鳥海山」と、同じくワイングラスでおいしい日本酒アワードで金賞、スローフードジャパン燗酒コンテスト・プレミアム燗酒部門で最高金賞を頂いた「純米酒天寿」 それから限定流通の「縦書き鳥海山」も増産いたします。その他にも定番商品の品質向上の為に、新型の生酛仕込を試験的に応用実験を行いながら更なる進化を求めて仕込む予定です。

必要とされると言う事が如何に有難い事か…社長に成って十七年目、製造量が五分の一に激減していく経験をし、そのさなかも品質こそ選択の胆と信じて皆と頑張ってきましたが、未だに安定感は覚えません。酒蔵は必要とされないと無くなります。だからこそ飲んでいただくお客様、販売頂く酒販店様に必要とされる酒蔵であり続ける事。呑みたい美味しい酒と思われ続けるために「地元で出来る最高の酒」を目指して努力して参ります。

今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

百四十二回目の酒造り

杜氏 一関 陽介

朝晩の冷え込みが強く、日中との寒暖差が大きくなった矢島は木々の落葉も始まり、冬の気配を感じるようになってまいりました。昨年度の酒造りが終了した四月から早六ヶ月。本年度の仕込みがいよいよ始まりを迎え、蔵人メンバーが入蔵し、一気に蔵内が活気に満ち溢れています。また、約二十年間使用してきた蒸米機も先月から改良に出しておりましたが、使用する四日前に戻るという、ギリギリでのスケジュールでした。内心ハラハラしておりましたが、まるで生まれ変わったかのようにピカピカになって帰ってまいりました。設置後の調整を終え、昨年以上の蒸米に仕上がると思います。ご期待下さい!

造りの準備が始まる中で私は、昨年度の作業実績や酒質の反省を踏まえ、本年度新たにチャレンジする事や、効率的且つ安全に作業を進められるように黙々と作業計画を立てています。会社と相談して決めた製造計画を実際に造りの現場で実現する為に、具体的な計画にするのは結構な仕事量です。ただ、ここを疎かにするとスタートから躓くことに繋がり兼ねません。

杜氏の仕事は、社長の求める酒を実現する事。その為には杜氏としての「統率力」・「判断力」・「管理能力」。具体的には、

・蔵人を率いて目的を達成できる事

・技術面のエキスパートである事

・安全な作業環境を作れる事

これが杜氏としてあるべき姿であると私は思いますし、今立てている計画の中に自分がこれまで得てきたスキルをすべて注ぎ込まなくてはならないと考えています。

毎年の事ながら、今年も仕込み一本目から搾られるまで私のドキドキは止まりませんが、前述の三つの事を胸に刻み、社員全員で良質の製品をお届けできるよう、努力致します。まずはこの想いの詰まった計画で生まれる十二月の初しぼり。是非ご期待下さい!

再び挑戦
2015-09-01

再び挑戦

代表取締役社長 大井建史

天寿の里矢島は、お盆を過ぎた頃から急に朝晩が過ごし易くなり、あれ程待ち望んだ雨もこの頃は青空が待ち遠しくなるような変わり方です。八月の前半まではあまりの猛暑に稲作の高温障害を心配しましたが、この半月の秋めいた状況にその心配はないと専門家が言っておりますので一安心です。ただ、茎が伸び過ぎた事を心配されている方もいますので、台風などで稲が倒れない事を祈るあと半月。稲刈りが終わると酒造りに突入です。

八月二十四日秋田県醸造試験場から場長他三名の先生方が来られ、私も一緒に呑み切りを行いました。これはまず今年仕込んだお酒を全て並べ、異常がないかを確認。その後熟度・酒質等の評価を致します。複数本仕込んだお酒も、別々に一本ずつ唎酒をし、その状況を審査表に書き、他の審査員の評価と照らし合わせます。その後に全員で評価会を行い、良い又は悪い評価が共通の認識となるのか確認をします。

また、私の方から今期の酒造りの狙いや方向の話をさせて頂き、その結果について色々と議論を交わします。この時間が我々にとって多くの教訓やヒント、又励みになります。翌日には関係の深い酒屋さんに呑み切りに参加いただき、さらに議論を深める事が出来ました。ご参加いただきました皆様、本当にありがとうございました。

弊社では五~六年の歳月をかけて検討し十年程前からタンク貯蔵に一切炭素を使用しなくなりました。今回は全品異常なしとの評価の後、「精撰(旧二級酒)にも炭素を使わずに貯蔵できる酒質は宣伝に使えますね」とのお褒めを頂きましたので、早速皆様に報告をさせて頂いている次第です。

現在は瓶貯蔵の商品も多く、その仕込みタンク毎の審査が難しく成って参りましたが、可能な限り既に売り切っている商品も呑み切り用に残して審査をしております。

この結果が次の酒造りの挑戦目標・改善目標を明確なものにしてくれるのです。この二年をかけて試験醸造をした七本の生酛系純米酒も、求めていた酸味を造ってくれる様に成って参りました。燗の美味しい落ち着いた純米酒を来年には皆様にお届け出来ると思います。

また、今年は洗米・蒸米の更なる改善を致します。うまく行く様であれば、来年夏には釜場の大工事となる計画です。

今年も一部商品の品薄で大変ご迷惑をお掛けいたしました。安定した大人の酒蔵として可能な限りご希望に応えられますよう努力して参ります。

百四十二回目の酒造り、どうぞご期待ください。

「山内杜氏」

杜氏 一関 陽介

お盆を過ぎ、朝晩が涼しく少しずつ秋の気配が感じられるようになりました。お盆の忙しい時期を終え一休みしたいところですが、蔵内は酒粕のパック詰・ひやおろしの出荷でフル回転しています。

さて、この八月初旬に開催された山内杜氏酒造講習会にて山内杜氏資格試験を受験し、無事合格致しました。入社して十二年目に「山内杜氏」の仲間入りを果たすことが出来ました。今までお世話になったすべての方々に御礼申し上げます。

社内では三年前から酒造りの長「杜氏」に就任しております。杜氏は資格・経験年数ではなく、会社の命令で決まります。ではなぜ杜氏試験を受験したのか…。

①正式な「山内杜氏」となりたかった。

②「山内杜氏」になる事は今までの経験の積み重ねであり、お世話になった方への恩返しになると考えた。

③現役の杜氏として「山内杜氏」という杜氏集団を今後継続・発展させる為の一人になりたいと思った。

この三点が受験の大きな理由です。

現代の清酒業界は杜氏集団や流派などのこだわりは薄くなってきているように感じますが、私は合格したことで「本物感」、「達成感」がありました。また若輩ながら杜氏になれた事で、次の世代へ繋ぐ「緊張感」すら覚えます。

私が今このような事を感じられているのは、間違いなく会社はもとより前杜氏や先輩・家族の教えがあったからだと思います。本当に感謝の一言に尽きます。

酒造りは、杜氏一人の力ではなく、蔵人と共に力を合わせ作業をすることで成り立ちます。チームワークの良し悪しは杜氏の技量。そしてそれがより良い酒質につながると思います。その事を自分の心の中心に置き、合格の喜びを噛み締めながら、「感謝する心」を胸に刻んで今期の造りに向けて準備をしていきたいと思います。

町に思う
2015-07-01

町に思う

代表取締役社長 大井建史

五月の最終土曜日に恒例の「天寿酒蔵寄席」と「利き酒会」を行いました。十二回目を迎えるイベントですが、この所鳥海山麓で開催される「菜の花祭」と同日となっておりました。今年はさらに「東北六魂祭」ともぶつかり集客に大変苦労致しました。小さい地域でも連絡が悪いと勿体ない事になりますね。

内閣府認定の地域産業おこしの会会員の佐藤晃一氏(前支所長)と、矢島の企業数社で町興し応援グループ「矢島未来ネット」を設立しています。グループ内での情報交換や議論がある訳ですが、町内の色々なグループが強い思いと手弁当で活動をしているのに、それを調整する機関がありません。どんなグループがどの様な意図を持ってどんな内容のイベントを何時行うのか?せめて把握している団体には行政絡みのイベントも含め、全体のスケジュール・情報(目的・内容・経緯・場所・日時等)を共有出来る様に、ネットで検索できれば良いのですから、小規模になった支所(元役場)の観光担当にお願い出来ないものでしょうか?

今回の例会における佐藤氏の視察報告で、中高関連校舎建設で存続した矢島高校ですが、また秋田県の見直しが行われており、今後三年間の生徒数で趨勢が決まる様との事。その解決策のヒントとして同じ状況だった隠岐ノ島海士町の島前高校のV字回復や矢島の産業モデルとして、日本最大のジャージー牛の里「蒜山高原」の産業化・「農業法人伊賀の里モクモク手づくりファーム」の企業化と人口の多さではなく、明確なコンセプトと企業化する強い意志を持った人であるとの大変貴重で示唆に富んだ講演を頂きました。

まずはこの三か所を勉強し、矢島出身の議員・役場支所職員・ユースプラトー職員・矢島の町づくりに思いのある市民がそれぞれに研修の機会があるなら一番に行ってみるべき場所と思いました。矢島高校の修学旅行も宜しいのではないでしょうか。それによって矢島の町造りや観光の向かうべき方向・コンセプトが定まるかもしれません。(興味の有る方は佐藤晃一氏に是非お問い合わせください)

この所お会いする皆様に確実に「太りましたね!」と言われる今日この頃ですが、人間ドックでも「あれもこれも病気にギリギリ半歩手前??全ては肥満からです。」とのお医者様の一言。とにかく旨い酒と肴を食べ続けられる為にと、さわやかな天気が続く矢島の里でウォーキングを始めました。

妻にも同行を頼み三日目をクリアし十日も過ぎました。野菜中心の食事になるよう努力し、炭水化物を減らしているつもりですが、今の所体重には大した変化はありません。町推奨の五キロコースを一時間弱で歩くのにも少し余裕が出て来た様な気がします。朝の光が当たる鳥海山は美しく雄大で、田植えが終わったばかりの田んぼも清々しく、我々が歩く励みになります。

運動の為にジャージをはくのも運動靴を履くのも随分久しぶりですが、「二人でだったら何とか続けられそうだね」と妻と仲良く歩くこの頃です。

『考える夏』

杜氏 一関 陽介

桜の花が咲き誇っていたのがつい先日のような気がしてならないのですが、あっという間に梅雨のジメジメした気候になり、いよいよ夏が来る気配すら感じるようになりました。

蔵の中は忙しかった瓶詰瓶殺菌が終わりホッと一息…といきたいところですが、品質管理を第一優先に考え製造部全員で取り組んだ結果、造りの方では一部まだ細部の機械整備・清掃等を残してしまっているのが現状です。

清掃は酒屋の仕事で一番大事と言える作業です。作業の遅れを反省するのは当然ですが、いつもよりさらに丁寧にやらなくてはいけません。秋が来ればまたその道具を使って酒造りをするのですから愛情を込めて手入れする心がけを忘れないようにしたいものです。

話は変わりますが、五月下旬に発表された全国新酒鑑評会にて入賞を果たしました。私が杜氏に就任して三年。三年連続三回目の入賞です。これに関してはクセの少ないキレイな吟醸酒が出来ている評価だと前向きに捉えております。出品するからには金賞を取りたい一心で取り組む訳ですが…金賞に届かない理由があるのでしょう。「来年こそは‼」頑張ります。

そして、その理由を考えたり来年はどんな事にチャレンジしてみようか等、最近は「考える時間」を意識的につくるようにしています。杜氏としてこの三年間は、今までの天寿の味を引き継ぐことをテーマにひたすらに走ってきました。百四十余年続く弊社の酒造りの歴史の中でまだ、たったの三年ではありますが心の中はプレッシャーに押し潰されそうで、悩む事は沢山あっても考えることは少なかった気がします。

仲間と一緒に歩んだこの三年で「自分は何をしてきたのか」「三年間の酒質はどうだったのか」「会社の造りたい酒・お客様に伝えたい酒はどんな酒質なのか」そんな事を毎日考えています。反省点は自分の中に書き留めるとして、今思う事を書かせていただくとすれば、自分の造った酒がいろんな人の為に力を添えるもので在って欲しい。一人で飲む安らぎの酒、大勢で飲む楽しい酒・悲しい酒でも良いと思います。ただ飲む人が必ず前向きになれる酒を醸せればと思います。

その為に自分達は何をするのか。「毎日反省をしっかりする事」「何事もベストを尽くす事」「一つ一つの作業に気持ちを籠める事」「飲む人の気持ちを考えて造る事」だと考えます。

酒米研究会メンバーの圃場を回ると順調に稲も生育しているようです。来期の造りが始まるまで有意義な『考える夏』にしたいと思います。

秋田の酒米の話
2015-05-01

秋田の酒米の話

代表取締役社長 大井建史

百四十一回目の酒造りもいよいよ皆造となり、瓶火入れも休みなく猛然と進めていて、連休直前に酒蔵は静寂を迎えます。

また一造り達成いたしました。総数量としては若干の増石ですが、純米吟醸・純米大吟醸の造りはここ数年大きく増加して来ました。その分蔵人達も気を緩める時が無く、三造り目を終えた一関杜氏も「あっという間でした」との感想、心から慰労したいと思います。

今期の反省会でも色々な話題が出ましたが、若手が増えてくると私やベテランの話が増えて来ます。半年を超える酒造り期間中の油断をしない心構え・一本一本の仕込の大切さ・一本の酒造りの中で自分の仕事がその酒にどの様に影響したかを継続的に呑切りや市販商品を通じて思い知る事等々、最終的には天寿の酒蔵の精神の置き所・心意気までの話となり、その後の飲み会まで延々と続きました。その他にも甑倒し・皆造・和泉会(社員親睦会)と宴会が続きます。本日(四月十二日)矢島の里で最も早く咲き始める天寿前の庚申さんの桜が咲き始めました。心にしみる季節です。

前号でも秋田県の酒米について触れましたが、秋田県酒造組合から酒造好適米の契約栽培をされている湯沢市酒米研究会が最も大きな集団で歴史も長く大変お世話になっています。その他弊社も含め個々の酒蔵との契約栽培グループもあります。

酒造好適米は字の如く酒にしか使えませんので酒蔵の製造計画に合わせて栽培されます。農家が勝手に栽培しても契約がなければ買ってくれるところがありません。ですから全てが契約栽培でなければ成立しませんが、稲刈りが終わり酒蔵が酒造りを始める段階で翌年の契約をしないと契約分の種もみの確保が出来なくなります。翌年に販売する酒造りを始める時に翌々年の酒造りの為の原料米を発注しなければならないと言う難事となる訳です。三十年にわたり減産を余儀なくされた日本酒業界ですから、全体的に弱気の発注になりますし、減産を強いられてきた農家側でも増産には懐疑的になります。そんな三年前の状況ですが、純米大吟醸等の予想以上の好調により増産に対応できず、二年前に酒米不足の騒ぎになった訳です。

酒米は基本的に契約栽培である事を軽視し、発注すれば買える物と勘違いしている酒蔵に大騒ぎしている所が多かったように思いますし、翌年の米不足を恐れ自社のリスク回避のために大量発注し、必要量が確保されると過剰分の数千俵の信じ難い大量のキャンセルを入れた大迷惑メーカーも現れました。

日本酒は原料米が無ければ造る事が出来ません。米価が高く、頼んでも生産性の悪い酒米の栽培が難しく、粘り強い説得で契約栽培集団を作り上げた、三十数年前の天寿酒米研究会立ち上げの頃とは違い、現在は米価の下落で酒米生産を希望する農家は急増しています。しかし、減産と米価の下落が続いても、手間のかかる酒米を造り続けて頂いた酒米農家を犠牲にして、自社の急造酒米グループ作りに走る事無く、今こそしっかりと酒蔵が協力し合って信頼される行動をしていかないと、逆に県内の酒米の生産体制が崩壊する可能性があると警鐘を鳴らしているこの頃です。

皆造を迎えて

杜氏 一関 陽介

雪が例年より少なかった冬も終わり、気が付けば桜の枝の蕾も膨らんで今にも開きそうな気配すら感じる気候になりました。

今期の酒造りも三月二十四日に無事仕込みが終了し、四月十二日に皆造(全て搾って終わる事)を迎える事が出来ました。最後まで事故無くやり抜けた事は、毎日共に酒造りに向き合った蔵人各々がチームワーク良く楽しく仕事に取り組んでくれた事にあると思います。また、今期は仕込みの大きさに大小はありますが、百十七本もの仕込みをする事が出来ました。私達の造る商品を日頃から御愛飲いただいている皆様方のおかげと、本当にありがたく思っております。

振り返ると今年の原料米は良く溶けるという予測で酒造りが始まりました。「良い蒸米にしよう」「どうにか溶け過ぎを防ごう」と原料処理の担当者と毎日蒸米を見ては相談したのを覚えています。

「イメージ通り、天寿らしい酒になるだろうか…」一本目を搾るまで毎年ドキドキのスタートな訳ですが、今期の初めに搾った純米吟醸酒「初槽純吟生酒」がワイングラスでおいしい日本酒アワードで最高金賞を頂くという結果を出す事が出来ました。運もあったのでしょう。しかし、手前味噌になりますが出来る事をしっかりとやり遂げた成果でもあると思います。

今年度の新酒でこのような結果を出す事が出来ましたが、当然喜んでばかりもいられず、四月に入り搾り上がった純米吟醸酒の瓶詰・殺菌作業、今年酒造りに使用した道具の手入・清掃と社員総出で忙しい毎日を送っております。これも皆様に「美味しい」を届ける為。「お客様にお届けするまでが酒造り」を忘れない様、走り続けます!

ひたむきに ひたすらに
2015-03-01

ひたむきに ひたすらに

代表取締役社長 大井建史

十二月・一月と例年通りの積雪量でしたが、二月はひと月飛ばして三月の陽気で雪も急速に消えて行きました。隣町の田んぼにはひと月早い雪解けで沢山の白鳥が飛来し、これまであまり見る事の無かった白鳥が編隊を組み飛行する姿が間近で見られます。これも嬉しいと言うよりは気候の変化に不安を覚える要素となっております。大吟醸の上槽は二月中に全て終えましたが、槽場の温度は品質に影響を与えますので神経を尖らせました。

それでも酒蔵は雪に囲まれ酒造りも順調に推移しており、甑倒し(米の蒸しを終了する事)まで残すところ一か月弱です。大吟醸の山を越えたとはいえ、これからも中吟クラスの仕込みは続きます。よく酒蔵で「和醸良酒」と言う言葉が使われます。この「和」はもちろんチームワークの良い事を指しますが、これは仲良しな事ではなく、目指すレベルを理解し共通のイメージを持つという事です。酒仕込み一本一本の目指す目標を明確にし、油断すること無く対応する事。終盤は異常な暖冬に対して緊張感を持った対応が重要となります。搾ったお酒の素早い冷蔵・早めの瓶火入れなど、急げ急げのダッシュ対応をどこまで出来るかが勝負です。

私が酒造組合原料米対策委員長となって八年が経ち、県産酒造好適米はもちろんですが、県産酒造米(法律の変更により、産地や品種を指定出来ない加工米から地域流通米として地域と品種を指定)も契約栽培と成し、県外の山田錦も全国初の酒造組合との村米制度に組み入れ秋田村を設立頂いた。今回、その五集落からなる秋田村山田錦生産者大会が行われた山田錦発祥の地 兵庫県多可町を訪れ、全量特等米を作って頂いたメンバーの皆様に五年目の山田錦生産をお願いして、昨日帰ってきました。

「地元で出来る最高の酒」を目指す弊社ですが、独りよがりに成らない様に山田錦の大吟醸も仕込み、地元産米での仕込みと比較を行っています。しかし、兵庫県の発祥でありその元となった町の方々の山田錦に対する技術や品種の保存努力に裏打ちされた誇りと、何処と比較されても自分達が作った米を最良な物にする情熱や秋田村と秋田の酒蔵に対す思いは大変なものがあり、使用させて頂く秋田県酒造組合各社も素晴らしいお酒を醸し出す事で恩返しをしたいものと思いました。みのり農協組合長上羅氏曰く「山田錦を皆さんにお出しすることを嫁に出すと言っています。こうして旨酒となって味わえる事を嫁に出した娘の里帰りと言っています。」また、多可町長は秋田酒銘柄の入った手拭いを壁に貼り、今回お持ちした酒瓶を全て部屋に飾るとおっしゃいます。生産者会会長も昨年秋田で蔵元たちと一緒に飲めた事を心から喜んでいただき、ひたすら品質の向上についてお話頂きました。

私どもは本当に色々な方々の思いを頂き酒造りを続けさせて頂いております。その気持ちにお応えする為にはひたすら良いお酒を醸し続ける事。未熟ではございますが私共の精一杯をお見せ出来ますよう精進致します。

ラストスパート!

杜氏 一関 陽介

冬の寒さが少し緩んで雪解けが一気に進み、日中は暖かく感じる日が増えて参りました。それでも朝晩は寒いので「まだまだ冬は終わらない」と思いながらも、すぐそこまで春が近づいて来ているような気が致します。

さて、蔵の中では出品用クラスの大吟醸の上槽が終わりホッと一息…つきたいところではありますが、三月二十四日の甑倒し(造り仕舞)に向けてラストスパートと言ったところです。「少し休みたい」と思うことはありますが、国内外での特定名称酒の移出数量は好調を維持させて頂いており、仕込みの最後まで純米吟醸・純米大吟醸の仕込みが目白押しです。最後まで気を抜かず突っ走ります!

話は変わりますが、本年度の新酒しぼりたて・生酒はお試しいただいたでしょうか?今までの商品ラインナップに、初槽純吟生酒と寒造純米生原酒が加わりました。

実はこの二つの商品には15度台の原酒であるという共通点があります。精神論かもしれませんがどんなに美味い酒でも「出来上がってしまった」商品ではお客様に想いは伝える事は出来ず、「いつ」・「どのように」飲んでいただくのかを含めた「商品設計」・「酒質目標」をしっかり持った酒造りをすることを徹底すればお酒が蔵人の気持ちを伝えてくれると私は信じています。

前出の二商品は、出来た酒を後で調整するのではなく、もろみ段階での発行経過・加水を工夫する事で、米から生まれた旨味を最後に出来るだけ薄める事のない、「ジューシーでアルコール分も飲みやすい度数に抑えたしぼりたて生酒」を目指しました。これを踏まえて是非お試しいただければと思います。

この他にもいろいろな取り組みをしながら私たちは酒造りをしています。春も近づく矢島に是非足をお運びいただき、蔵見学はいかがでしょうか?

謹賀新年
2015-01-01

謹賀新年

代表取締役社長 大井建史

明けましておめでとうございます。

天寿の里のお正月は酒蔵が雪でかまくら状態になり、酒仕込に好適な温度環境となる十分な量はありますが、ニュースで報道された大寒波は避けて通ってくれた様で、正月三箇日恒例の社長夫婦除雪も適度な運動レベル?で終えられました。

今年は五日が仕事始めとなりましたが、酒蔵の方はもちろん常に活動を続けております。三造り目になった一関杜氏も、「視野を広げて、もっと悩め!!」と叱咤されながら日々邁進しております。寒造りに最適の新年からは特に大吟醸系の酒造りが続き、気の休まらない日々が続きます。今年の原料米のやや溶ける状況も把握し、さらに踏み込んだ挑戦の始まりです。全て新米での仕込の為、十二月十日頃から次々と新酒を送り出して参りましたが、百四十一回目の酒造りで生まれた味わいは如何でしたでしょうか?

さて、そんな天寿の里ですが、町を車で走ると雪で所々道幅が狭くなります。実は道が狭くなっているのは住民の居なくなった空き家の前なのです。

五千人を切って益々人口減少が加速する矢島町では、行政としてはかなり良いレベルの除雪がなされていますが、それでも仕上げは住民の仕事です。文字通り出勤前・朝飯前の仕事ではありますが毎日の事、しかも空き家の除雪までボランティアで行うとなると大仕事です。秋田県の空家数は平成二十五年調査で五万六千六百戸、五年間で一千三百戸増加しています。先日も社員宅の隣の家屋が老朽化し、積雪による倒壊の恐れが出てきましたが、相続人は皆県外に居住していることが発覚する事案がありました。相続も未手続の上複雑で今後の方針を決める目処が立たず、かといって町では税金を使って雪下ろしを数度はしてくれたもののこれ以上は今の所何も出来ないとの返答で、隣の建物の倒壊で被害が出た場合誰が責任を取ってくれるのか…こんな事がざらに有る様です。地元で育った子ども達が都会に出て、残った親が亡くなり住宅が空き家になる。時間の経過に伴う仕方のない事ではありますが、地元の税金で保育園・小学校・中学校・高校を出て今がある人又はその子供たちには、せめて残って地元を支えている人達に安全な道を守るという、地元への恩返しを一度考えて頂くことをお願いしたい次第です。(空家対応策を役場に相談することも可能だそうです。) 矢島の町を安全な除雪の行き届いた美しい街にするため、悩める住民の一人として年始にもかかわらず一言申し上げました。

百四十一年目の酒造り。今年も酒造りに邁進出来ます事を、皆様に心から感謝申し上げますとともに、本年もご愛顧の程よろしくお願い申し上げます。

三造り目を迎えて

杜氏 一関 陽介

あけましておめでとうございます。本年も美味い酒をお届けできる様に精進して参りますので宜しくお願い致します。

さて、今年度のしぼりたてはご賞味いただけましたでしょうか?数種類あるしぼりたて商品は、全体的に米の溶け具合が昨年より良かった事で搾った時に残る粕が少なく、出来上がった酒は味乗りが良かった印象です。特に新商品「初槽純吟生酒」は原料米全量(めんこいな)を使用したお酒で、私自身酒造好適米を全く使用しない純米吟醸酒に初めてチャレンジしましたが、ナデシコ酵母の特性である華やかな香りと米から出る旨味が上手くマッチした仕上がりになっていると思います。おすすめです!!

仮にしぼりたてが飲み頃であるとするならば、新年を迎えた今ここでしっかり考えなければならない事があります。ここから春までの間は同じ造りをしていてはダメで、商品として一年間安定した品質を保って出荷ができる酒造りをしなければならない事です。近年、製成酒の熱殺菌・低温貯蔵管理をしっかりする事で一定の品質は保つことができるようになりましたが、やはり原点は造りであると思います。自分たちが造りあげる酒質目標に向かって蔵人全員の意思疎通はもちろん、原料処理から搾るまでどの工程が欠けてもいけません。

杜氏に就任して三造り目。「弊社に求められている酒質は?」「天寿の酒質の方向性は?」を社長と共にしっかりと考え、原料米生産者の想い・蔵人の想いをしっかり酒に乗せて、品質の安定した安心して飲める商品造りを継続して行くことをお約束して、新年のご挨拶とさせていただきます。

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20歳未満のアルコール類の購入や飲酒は法律で禁止されています。