吟醸香漂う酒蔵から…
今年の冬は異常気象で、二月の半ばまでほとんど雪が無く、雪国の冬の生活としては楽でしたが、酒造りをしている私共としては、例年のかまくら状態の安定した低温にならず気を使いました。しかし、一転して二月の後半から二週間続けて雪害対策室が出来るほどの豪雪に見舞われる中、品評会出品用の大吟醸の搾りが終わったばかりで、杜氏をはじめとした蔵人達は、吟醸香の漂う蔵で、その達成感にしばし身を任せたところです。
前号でも触れましたが、この造り期間を通じて、全ての酒造りを見直し、商品ごとの特徴やねらいを更に明確にし、さまざまな試みをして参りました。その成果は夏越しの呑み切り(タンクの酒の取り出し口を開いて品質検査をする事)の時に結論がでます。9月頃からの酒質にご注目下さい。
他にも、小回りが利く蔵だからこそ可能な季節だけの味わい、同じお酒でも貯蔵方法や搾り方の違いで如何に楽しめるかを、天寿に繋がりの有る皆様にのみ限定で、お楽しみ頂きます。
蔵のページ
酒蔵開放直前の社員
早いもので山田錦大吟醸を仕込んで一ヶ月余りが経過しました。先月の酒蔵開放直前まで吟醸蔵への仕込みが行われたため、公開した二号蔵のもろみ本数が少なかったことに見学にいらしたお客様はお気付きになられたでしょうか。
賑やかな二号蔵を横目に吟醸蔵のもろみ達は淡々と変化を続けていました。丁度そのころから玉泡が立ち始め、大きなもので私たちが使用している帽子程の大きな玉泡が発生していました。
この玉泡、初めは小さな玉泡が徐々に大きくなり3つ、4つとくっつきながら大きな玉泡を形成します。どこまで大きくなるか?との期待に反してやがて自らの重さに耐えかねて破れてしまいました。破れる瞬間は「パチン」ではなく「ぱあ〜ふっ」とスローモーションの如く破れるのです。この様に杜氏の目を盗み、もろみの変化に見入ってしまう私ですが、おかげで仕事は溜まる一方です。
吟醸蔵に華やかな香りが充満する頃をすぎ、品温を下げ十分に含み香を有する様になるのを見計らって搾ります。吟醸酒の搾り方は、昔ながらの槽(ふね)を使う方法と袋吊りが一般的です。しずく取りに代表される袋吊り法は熟成もろみを酒袋に詰め、口を紐で縛り縦に吊り下げます。自然ににじみ出るしずくを集めるこの方法は非常に柔らかな、キレイな味わいを与えてくれます。
槽を使用する場合は酒袋の口は縛らず、折って横に積み重ねていきます。槽はもろみ酒袋を入れる容器なのです。袋吊り、槽掛け、共に最初は垂れが早く白濁しています(荒走り)。無加圧のまま自然に酒が垂れるのを待ち、垂れなくなってから酒袋の上に乗せた押板に圧力を掛けます(中垂れ)。翌日酒袋を積み替えてさらに圧力を加え搾り(責め)残った固形分が酒粕となるのです。
搾り操作から容易に想像される様に、酒は同じ1仕込みであっても刻々と垂れてくる酒質は違います。どの場面の酒が一番良い酒かは議論の分かれるところですが、静かに流れ落ちる酒をいつ斗ビンに取るのかは、きき酒、もろみの経過、原料米を育てた気象条件、垂れ具合など杜氏の経験から総合的に判断して1仕込みの代表を数本決定します。
選ばれた代表は斗ビンに囲い、適切に管理され春、夏、秋の鑑評会に出品されます。その際のきき酒がそれ以後の貯蔵温度を決め、さらに商品として販売される酒全ての貯蔵温度へとフィードバックされるのです。吟醸酒、そしてその斗ビン囲いとはこの様な意味を持ち、天寿に於いて出品酒以外は「鳥海の雫」或いは、「秘蔵大吟醸」として10年以上熟成させた後でなければ販売されることはありません。
製造課係長
佐藤俊二


