甑倒し
代表取締役社長 七代目 大井永吉
195回目の酒造りも4月12日に甑倒しとなりました。
甑とは酒造りで米を蒸す時に使われる巨大な蒸籠の事で、酒仕込みの為の作業が終わり、残す作業はその出来上がりを搾るだけとなった事を言います。その年の酒造りの山を越えたという事で一安心し皆でそのお祝いも行います。
昨今の酒造りは温暖化の季節変動による原料米の生育状態への対応に追われるのが、ある意味一番の困難と言えます。今年は近年の中では原料米の高温障害が軽度であったため、過剰に吸水させ、米を溶かしすぎない事や、雪不足による温度管理等例年には無い対応に追われました。ただ、4月の前半にかけて比較的気温が低く、酒造りの環境や生酒対応には大助かりでした。
今年の酒造りでは、昔から精撰等を中心に使用している協会7号酵母に注目し、色々な酒で試してきました。12月初めに県内限定で新発売した「天寿印のにごり酒」の味わい重視の設計や日本名門酒会限定の辛口純米「SHI・CHI・SEI」の炭酸ガス含みのフレッシュ感・その他酒屋万流企画の白ブドウのようなジューシーな香りの吟造り純米酒など、同じ協会7号でもこれ程の違いが出るのかと目を見張りますよ!
和食や日本酒などの伝統的酒造りがユネスコの世界遺産となりましたが、日本国民の食はどうなっているでしょう?労働力不足のためにすべての国民に仕事をすることを求め、子供の塾なども含め全ての日本人が忙しく、食事を個々で食べざるを得なくなり、結果家族で食卓を囲む機会が激減し、食は楽しむものではなく栄養を確保するためのものとなって来ているのではと思います。若者がお酒を飲まなくなったのはこの為とも言われております。
日本の食文化は「四季折々の自然の恵みを大切にし、感謝の気持ちと共に受け継がれて来たもの」とあります。
皆さま、美味しく楽しく食事をすることは、人生における大きな楽しみであり幸せであります。美味しい酒の飲み方も、親が楽しく飲んでいる姿を見せていないと伝わらないですよね。
私共も色々なシーンや料理に合うお酒を懸命に造っておりますので、是非ご家族皆様でお楽しみください。
メンテナンス
杜氏 一関陽介
本日4月15日、例年だとこの文章を書くのは、弊社恒例イベントである雪室氷点熟成生酒の発売後なのですが、今年は少し早い筆取りです。一昨昨日、令和6酒造年度の甑倒し(仕込み終了)を迎えました。なんとか仕込みを終えることができ、ホッとしております。酒造りには私を含め13名が携わり、その内の5名が季節雇用(冬季のみ)です。仕込みが終わったことでそのメンバー達も任務を終え少しずつ少なくなり、本日で5名全員が退蔵し、蔵の中もどこかさみしくなりました。それでも搾りはゴールデンウィーク直前まで続きます。残った私達と瓶詰め出荷作業がメインの社員とで何とか乗り切らなければなりません。桜の便りが近づいてきており浮かれてしまいそうですが最後まで気持ちを切らさないように頑張ります。
さて、今年の酒造りを振り返ってみようと思いますが、一言で言うと、とにかく物が壊れる年でした。弊社の酒造りには米を量る、蒸米を冷やす、もろみを冷やす・搾る、酒を運ぶ等々沢山の機械を使用しています。全部ではありませんが、昨年末に次々と異常・破損する事態となり、緊急での修理、同業者様への委託、代替品や人力のおかげでどうにか終えることができたというのが率直な感想です。メンテナンスの大切さはもちろんですが、困った時にすぐ対応していただける業者様、お互いに知恵を出し合って乗り切ろうとしてくれる蔵人メンバーの大切さや有難さが身に沁みました。物によって故障原因は様々ですが、ここまで続くかというほど立て続けに起こったことで当時の私のメンタルも平穏ではなかったわけですが、もう少し面倒見てくれよと機械達から訴えかけられたのかなと今となっては思えるようになりました。
また、肝心のお酒の方はと言うと、毎回話している原料米が溶けない問題は、昨年に比較すると改善しているものの、やはり今季も溶けが悪かったなという印象です。それでも対策の上で出来上がった酒は全体的に良かったという自己評価です。この数か月でお客様からいただいた受注状況や出品した鑑評会や各種コンテストの入賞率からみても酒質設計は良い方向だったのかなと思える商品が多く一定の満足感を感じられています。
米の価格高騰を含めた物価の上昇により、家計を切り詰めざるを得ない状況の中で日本酒も節約の対象になるのではと推測してしまいます。生意気ながら少しでも多くの方の必需品でありたいと思いながら酒造りをしている私ですが、その為にするべき事は求められる酒であり、かつ自分達らしさが表現された高品質な酒を造り続けることだと考えています。まずは残り少ない今年の酒造りを最後まで気を抜かずに終えること。そして機械も私もしっかり次の酒造りでも活躍できるようにメンテナンスをしてあげたいと思います。