乾杯
代表取締役社長 七代目 大井永吉
先日の立春朝搾りへのご予約ありがとうございました。天寿酒米研究会産契約栽培酒造好適米美山錦は過去2年間ほど極度の高温障害に悩まされました。今年は出穂時期にそれほど気温が上がらなかった為状態が良く、一部水害の被害はありましたがお陰様で醗酵は順調に推移しバランスの良い味わいとなりました。4合瓶換算約6000本の出荷となり誠に有難く心から御礼申し上げます。
2013年の「和食」に続いて2024年12月に「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録が決まったと前号で書きましたが、これは単なるアルコール飲料ではなく日本の重要な文化として世界に認められたと言うことです。
パリで行われる日本酒コンクール「クラマスター」の生酛部門で2022年に「生酛仕込純米酒鳥海山」がトップとなりパリでの表彰式に出席いたしました。弊社としては生酛仕込み復活後10年弱での快挙でしたが、ホテルクリオンのマスターソムリエを務めている審査委員長に「何故この酒がトップになったのか?」と尋ねると「マリアージュの幅が広かったためだ。クラマスターの特徴は料理とのマリアージュを重視することで、これから出るタラのムニエルに合わせてごらんなさい」と言われ、実際にそのハーモニーに感嘆したことを鮮明に覚えています。「和食のすばらしい特徴である旨味とのマリアージュには日本酒」と言う認識を世界のトップソムリエ達が持っている事を実感できたすばらしい体験でした。
この素晴らしい体験に乾杯をしたわけですが、皆さんは何故「日本酒で乾杯」と我々がアピールするのかご存じですか?
日本では何故サケというのでしょう?中国からの伝来というのであれば、老酒・白酒と酒の部分を「チュウ」と呼びますよね?
サケは漢字が伝来する前からの日本の古語で漢字が伝来したときに漢字をあてただけとの事。「さ」とは神様のことで「さか」は神様が下りてくるところ・「さかい」は神様と人の境界線・「さつき」に「さおとめ」が「さなえ」を植え終わると「さなぶり(さを天に帰す)」のだという事です。どんど(才の神)焼きは「さのかみ焼き」・「さくら」は「さ」の居ます所・「さけ」は「さ」のけ、つまり神様への最高の供物という事。
「~を祈念して乾杯」と神様に願うときは「さけ」でなければいけない。という事で、業界の陰謀ではありませんので、酒のつまみ話として覚えておいてくださいね。
採長補短
杜氏 一関 陽介
年始に「2月は比較的暖かい日が多い」という予報を聞いた気がしていたのですが、立春の翌日から気温が氷点下で雪が降る日が約1週間続きました。これが過ぎたら春に向かって行くのだろうと思っているとまたまた寒波がやってくる・・・まだ少し春は遠いようです。数年前までの今頃は鑑評会出品酒を搾る前で気持ちがどこか落ち着かない時期だったのですが、温暖化の影響か2月下旬になると最高気温が10度を超えることが近年しばしばみられることから、鑑評会出品酒は間違いなく低温であろう12月に仕込みをして1月中に搾り殺菌まで終わらせる計画に昨年から変更しました。長い酒造りの期間の中で私が特にピリピリする期間は終わり、既に中盤~後半戦に差し掛かっている状況です。
10月から今年度の酒造りをしてきての感想ですが、令和6年産の秋田県の米は原料処理がしやすく、(精米、浸漬後の割れが少ない・蒸した後の状態が良い)あくまで昨年比ですが、溶けが良いことで粕歩合が低くなり、搾ったお酒は(商品によって異なりますが)香り華やかで旨味のある傾向になっていると感じています。
毎年同じようなことを書いているような気がしますが、お客様の口に入るまでが酒造り。もろみを搾ってお酒になったら終わりではなく、その後の貯蔵管理が品質の維持向上の為に非常に重要です。生酒商品は当日または遅くても搾った翌日、火入れ酒においても1週間以内に瓶詰め火入れまでを完了させています。ここからゴールデンウイークまで酒造りは続きますが、そういった作業を怠らずお客様に飲んでいただくその時に、お酒がベストな状態を迎えられるように努力してまいります。
さて2月3日(立春)に日本名門酒会「立春朝搾り」が全国41の蔵元で開催され、弊社においては15回目の参加になりました。当日は無事に搾りから瓶詰めまで滞りなく終えることができホッとしております。そして有難いことに昨年を超えるご注文をいただき、感謝申し上げます。
先日、立春朝搾りの取り扱いもしていただき日頃からお世話になっている飲食店様が主催するオンラインイベントに参加し、私を含め7社の杜氏によるトークセッションをさせていただきました。原料米・麹菌・酵母菌・水が違うのは当然ながら、7社7様の酒造りについて語る内容の濃い会でした。各蔵違いはあっても共通するのは当日思い通りに搾ることができるかというプレッシャーを自分達のお酒を美味しく飲んでいただけるようにするための原動力に換えているのだということです。お酒に対する想いや苦労したことなどをお聞きしながら飲む各蔵のお酒に私は感動いたしました。講演でも討論でもない、お互いの酒を味わいながら語り合うというなかなかできない本当に貴重な時間だったと思います。
私がお酒の会等でお客様にお話しさせていただく機会はあっても、逆に造り手の方の話を聞きながらそのお酒をいただくという機会は少なかったというか、あまりしてこなかったような気がします。反省とまではいきませんが、これからそういう機会があれば積極的に参加し勉強させていただきたいという気持ちになりました。何年酒造りをしても分からないことや分かっているつもりになっているようなこともあるような気がします。自分が経験したことだけでなく、人の話から聞き得たことも自身のスキルアップにしっかり繋げていかなければと気持ちを改めました。まずは周りにいる仲間の話にしっかり耳を傾け、今期の酒造りが最後まで無事に終わるよう頑張ります。