謹賀新年
代表取締役社長 7代目 大井永吉
明けましておめでとうございます
先日、「國酒を醸す日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術」が、ユネスコ無形文化遺産に登録されたことを私も大変誇らしく思っております。
蔵元にはそれぞれ歴史があり、それは、長い年月の中で磨き発展させた酒造りの技によって造られてきました。地域の祭礼や行事に欠かせないものであり、日本酒を知ることは日本の食を含めた伝統文化に触れることだと思います。
このユネスコ無形文化遺産登録を機に、日本酒を支える地域社会、自然環境、地域文化における役割や日本酒の魅力にあらためて目を向けていただければと思います。
この蔵元通信は1999年11月が初発行でした。以下は当時の発刊にあたっての挨拶です。
『この度、弊社が日頃お世話になっている皆様に、私共天寿酒造が、何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その「思い」を皆様にお伝えし御理解頂くために、稚拙ではありますが「天寿蔵元通信」として、お送りさせていただくことになりました。
そのお酒はどのような狙いで造られた物なのか、季節や旬の食べ物に合うお酒・また飲み方は、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子や蔵の様子、天寿酒米研究会やその田圃の様子など、ご愛顧頂いている皆様が、自分の酒蔵として親しみを持ち、お仲間にお話頂けるような内容にするべく努力致してまいります。ご意見やご要望・ご指導をぜひお寄せ頂ければ大変有難く、ご愛読・ご利用賜りますようお願い申し上げます。』
4半世紀前に第1号の私が寄稿した「思い」に、『造り手の思いが伝わること。飲み手と思いが通う関係を早急に作り上げること。何故なら、テクニックなどではなく思いが問われる時代だからだ。社員一人一人が、これからの需要の変化に対応すべく、常に自己改革を重ね、次の時代にも選択される企業になる為に、お客様の喜びを目指し、自分の仕事に使命感を持って、共に新しい時代を築き上げよう。』
とあります。当時と比べると花酵母を含めた新酵母の普及や農大出身杜氏の増加等もあり、新技術も開発され日本酒製造技術は格段に向上しました。酒蔵の数は減少しテクニックは調べればわかる時代となりましたが「思い」はどうでしょうか。
私の目指すものは最初から明確にここに有ったのだと嬉しく、新鮮な感動を覚えました。この思いを大切に日々精進して参ります。本年もよろしくお願いいたします。
コツコツと
杜氏 一関 陽介
あけましておめでとうございます。私がこうして文章を書くようになってから10年以上が経過しました。毎回楽しみに読んでくださっている方には今蔵で取り組んでいることや蔵の雰囲気が少しでも伝わるように、また初めて読まれる方には私達蔵人メンバーがどういう気持ちで酒造りに臨んでいるのかをお伝えしたい一心で書いてまいりました。本年もどうぞ宜しくお付き合いください。
さて、令和6年度の酒造りも序盤を過ぎ、蔵内では鑑評会出品酒の仕込みが始まっています。12月も平年より比較的暖かい日が多く、もう少し寒くならないかと願っていましたが、仕込みも最盛期を迎える中旬頃には気温も下がりようやく冬らしくなってきたように感じます。昨年の暮れは有難い事に皆様から沢山のご注文をいただきまして、酒造りをしている蔵人メンバーも仕込みが終わった午後は全員でラベル貼りや包装作業に勤しみました。お客様に届くまで、「飲んでいただくところまでが酒造り」です。その想いと共に、本年度の新酒が皆様に美味しく召し上がっていただけていればとても嬉しく思います。
さて今年度の酒造りの状況ですが、すでに今季予定している仕込みの3分の1が終わろうとしています。昨年は秋田県産の米が非常に溶けづらく、搾った時に出る粕が大変多い年でした。現状としては昨年の5パーセント程度は少なくなり、その分出来上がるお酒の量は増えそうです。とはいえ特に溶けやすいということでもありません。この文章でもよくお話ししますが、夏の最高気温が高いために米が溶けづらくなるのですが、その平均が年々上がっているため、たまたま昨年より低かったことで昨年より溶けやすいというだけで、過去を遡れば高くなってきているのと同じように米が溶けづらい傾向に少しずつなってきているわけです。どこを基準とするかで変わってくるのですが、今後しばらくは今年ぐらいが平均になるのかなというのが、酒造り20年になる私の感覚です。気候が変わることで米質も変われば、私達はそれに合わせるというか、知識とそれに対応できる技術で自分達らしく昨年より良い酒を造る努力をしていかなければなりません。自分の思い通りにいかないことも時にはありますが、それこそが日々の積み重ねになって、お酒に勉強させてもらえるのだと感じるし、向上心を生む原動力になっていると思います。仮に困難なことがあっても発展のチャンスと考えて笑顔で今年の酒造りにも臨みたいと思います。
昨年度は山田錦を使用した大吟醸で全国新酒鑑評会(金賞)・秋田県清酒品評会(吟醸酒の部知事賞)・東北清酒鑑評会(吟醸酒の部優等賞)で3冠をいただくことができました。今年度は加えて秋田県(県産米の部)・東北(純米酒の部)を加えた5冠を目指して頑張ります。あまり欲張ってはいけませんが狙わずしていただける世界でもありません。鑑評会出品酒に限ったことではなく、やらなければならないことをコツコツと抜かりなくやることが良い酒を生む近道です。それを肝に銘じて頑張ります。本年もよろしくお願いいたします。