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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

まず目の前の一歩を懸命に
2018-11-01

まず目の前の一歩を懸命に

代表取締役社長 大井建史

秋田県立金足農業高校の皆さん、準優勝おめでとうございます。そして全国の皆様、我らが秋田県代表の大応援ありがとうございました。私が高校の時に何故か図書館で調べ、第一回大会で旧制秋田中学が準優勝していることは知っていましたが、今や秋田県でも数少ない公立農業高校が夏の甲子園大会で大活躍し、雑草軍団・平成最後の百姓一揆と言われながらも、まさか第百回大会決勝に進出し、東北初の優勝にチャレンジする機会を得るとは思いもしませんでした。

大フィーバーです。八月末になっても特集番組が毎晩あるくらいで、大会中の試合の放映時間帯は、秋田の経済が完全に停止(笑)する程でした。

自分の目線の位置も良く分からなくなりました。親の様でもあり、汗を流して応援する高校生と同じ様でもあり、先生になったりコーチになったり先輩になったり隣のおじさんになったりと、まあ忙しく心が躍り、声を上げ、涙をふき、手に汗を握る興奮の日々が続きました。

決勝翌日の地元秋田魁新報は、なんと号外を含めて十六ページの記事を出しました。たいしたものだと思います。全国最速の人口減少県に久々の喜びの大ニュースでした。

それにしても暑い夏が続きます。連続の台風・ゲリラ豪雨等の異常気象が悲しい事に当たり前になってきました。予報は色々出ていますが秋田県南部は今のところ特に被害はなく、稲の成長も平年通りと聞いております。しかし、この暑さですので高温障害が出る可能性は高いと思われます。田んぼ毎に品質のバラツキが出ると、どのコメがどのような状態なのかなど、確認や調整に非常に困難な対応が求められるのです。何しろ米が溶けなくなるので浸漬や蒸米等々で様々な対策をとるのですが、何をやっても思う様にならないという年もあるのです。

昨年の改築後、酷い雪害で一冬で折れた防火壁も可能な限り頑丈に補修し終わりました。あと一ヶ月で稲刈りも終わり、十月には天寿酒造の百八十九回目・社長の十九回目・一関杜氏の七回目の酒造りが始まります。六年間試験醸造して参りました生酛の純米大吟醸酒・純米酒も近々本格発売を開始いたします。

今年も課題を沢山掲げながら、新しい蔵人も加えて新たな挑戦が始まります。基礎が揺らぐと全てが再現性の無いものになります。困難な時こそ基本に帰り、その一歩一歩を万全と思える形で忠実に懸命に積み重ねて行く事が重要になります。

五十九歳、酷暑の夏を全力で戦った十八歳を見習って気合を込めて頑張ります。ご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

向上心

杜氏 一関 陽介

八月一日から三日の日程で、私の所属する山内杜氏組合の酒造講習会が開催され、その講習の中で約一時間半に渡り、秋田県内の先輩杜氏をはじめ技術者の皆様に向けて講師としてお話をさせていただきました。山内杜氏に所属する現役の杜氏の中で一番若い私ですが、会社の方針や取り組み、技術的な話は当然のこと、会社に入社してからの話や杜氏に就任してからの話など、自分の酒造りに対する気持ちを話す事ができる大変貴重で有難い時間でした。子供の頃はあがり症で、人前で話す事が嫌いでした。しかし、中学校で応援団長、高校生で生徒会長を経験し、趣味で長年続けた和太鼓演奏なども影響してか、社会人になる頃には、人前で自分を表現することを身につけていたような気がします。しかし、さすがに一時間半の講演の依頼を受けるのは初めてでしたので、自分には長過ぎて時間を余してしまうのではないかと心配しましたが、過去のそんな経験が活きたのか、当日はすんなり話をする事ができました。苦手意識を捨て、未知の世界を体験することで、今まで見えなかった自分の一面を見ることができた気がします。皆様も是非、自身の向上の為に、苦手だと思うことに敢えてチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

さて、話は変わります。全国高校野球選手権大会で準優勝した秋田県代表の金足農業高校は大活躍でした。プロ大注目のエースの踏ん張りもさることながら、一人が全員を全員が一人を助ける気持ちで強豪相手に勝ち進んだ選手達に感動させられっぱなしです。「あいつが苦しんでいるから、俺が頑張る」「あいつが助けてくれたから、今度は自分が恩返しする」という、実に簡単なようで実行するのが難しい言葉を彼らは放つのですが、それを実行に移す力をも彼らは持っているのが本当に凄いと思うのです。

今、私は杜氏となり、チームを引っ張る責任感と酒造りは和(輪)を以ってするという協調性の大切さをヒシヒシと感じているわけですが、私の年齢の半分の彼らが、堂々と発言する姿に尊敬の念を抱きました。

これはただの私の想像でしかありませんが、彼らはただの仲良しではないのでしょう。言い合いをするわけでも馴れ合いでもないのでしょう。きっと全員が相手の事を考えた行動や発言ができるチームなのだと思います。

「失敗した時は自分がしっかり反省する」

「上手くいった時は皆のおかげと思う」

この考え方を理解できる人が増えることでチーム力の向上になっていくのでしょう。

高校球児の美しき汗と涙の裏に、そんな事を感じる私ですが、負けずに頑張ろうと思う、そんな今日この頃です。

まず目の前の一歩を懸命に
2018-09-01

まず目の前の一歩を懸命に

代表取締役社長 大井建史

秋田県立金足農業高校の皆さん、準優勝おめでとうございます。そして全国の皆様、我らが秋田県代表の大応援ありがとうございました。私が高校の時に何故か図書館で調べ、第一回大会で旧制秋田中学が準優勝していることは知っていましたが、今や秋田県でも数少ない公立農業高校が夏の甲子園大会で大活躍し、雑草軍団・平成最後の百姓一揆と言われながらも、まさか第百回大会決勝に進出し、東北初の優勝にチャレンジする機会を得るとは思いもしませんでした。

大フィーバーです。八月末になっても特集番組が毎晩あるくらいで、大会中の試合の放映時間帯は、秋田の経済が完全に停止(笑)する程でした。

自分の目線の位置も良く分からなくなりました。親の様でもあり、汗を流して応援する高校生と同じ様でもあり、先生になったりコーチになったり先輩になったり隣のおじさんになったりと、まあ忙しく心が躍り、声を上げ、涙をふき、手に汗を握る興奮の日々が続きました。

決勝翌日の地元秋田魁新報は、なんと号外を含めて十六ページの記事を出しました。たいしたものだと思います。全国最速の人口減少県に久々の喜びの大ニュースでした。

それにしても暑い夏が続きます。連続の台風・ゲリラ豪雨等の異常気象が悲しい事に当たり前になってきました。予報は色々出ていますが秋田県南部は今のところ特に被害はなく、稲の成長も平年通りと聞いております。しかし、この暑さですので高温障害が出る可能性は高いと思われます。田んぼ毎に品質のバラツキが出ると、どのコメがどのような状態なのかなど、確認や調整に非常に困難な対応が求められるのです。何しろ米が溶けなくなるので浸漬や蒸米等々で様々な対策をとるのですが、何をやっても思う様にならないという年もあるのです。

昨年の改築後、酷い雪害で一冬で折れた防火壁も可能な限り頑丈に補修し終わりました。あと一ヶ月で稲刈りも終わり、十月には天寿酒造の百八十九回目・社長の十九回目・一関杜氏の七回目の酒造りが始まります。六年間試験醸造して参りました生酛の純米大吟醸酒・純米酒も近々本格発売を開始いたします。

今年も課題を沢山掲げながら、新しい蔵人も加えて新たな挑戦が始まります。基礎が揺らぐと全てが再現性の無いものになります。困難な時こそ基本に帰り、その一歩一歩を万全と思える形で忠実に懸命に積み重ねて行く事が重要になります。

五十九歳、酷暑の夏を全力で戦った十八歳を見習って気合を込めて頑張ります。ご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

向上心

杜氏 一関 陽介

八月一日から三日の日程で、私の所属する山内杜氏組合の酒造講習会が開催され、その講習の中で約一時間半に渡り、秋田県内の先輩杜氏をはじめ技術者の皆様に向けて講師としてお話をさせていただきました。山内杜氏に所属する現役の杜氏の中で一番若い私ですが、会社の方針や取り組み、技術的な話は当然のこと、会社に入社してからの話や杜氏に就任してからの話など、自分の酒造りに対する気持ちを話す事ができる大変貴重で有難い時間でした。子供の頃はあがり症で、人前で話す事が嫌いでした。しかし、中学校で応援団長、高校生で生徒会長を経験し、趣味で長年続けた和太鼓演奏なども影響してか、社会人になる頃には、人前で自分を表現することを身につけていたような気がします。しかし、さすがに一時間半の講演の依頼を受けるのは初めてでしたので、自分には長過ぎて時間を余してしまうのではないかと心配しましたが、過去のそんな経験が活きたのか、当日はすんなり話をする事ができました。苦手意識を捨て、未知の世界を体験することで、今まで見えなかった自分の一面を見ることができた気がします。皆様も是非、自身の向上の為に、苦手だと思うことに敢えてチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

さて、話は変わります。全国高校野球選手権大会で準優勝した秋田県代表の金足農業高校は大活躍でした。プロ大注目のエースの踏ん張りもさることながら、一人が全員を全員が一人を助ける気持ちで強豪相手に勝ち進んだ選手達に感動させられっぱなしです。「あいつが苦しんでいるから、俺が頑張る」「あいつが助けてくれたから、今度は自分が恩返しする」という、実に簡単なようで実行するのが難しい言葉を彼らは放つのですが、それを実行に移す力をも彼らは持っているのが本当に凄いと思うのです。

今、私は杜氏となり、チームを引っ張る責任感と酒造りは和(輪)を以ってするという協調性の大切さをヒシヒシと感じているわけですが、私の年齢の半分の彼らが、堂々と発言する姿に尊敬の念を抱きました。

これはただの私の想像でしかありませんが、彼らはただの仲良しではないのでしょう。言い合いをするわけでも馴れ合いでもないのでしょう。きっと全員が相手の事を考えた行動や発言ができるチームなのだと思います。

「失敗した時は自分がしっかり反省する」

「上手くいった時は皆のおかげと思う」

この考え方を理解できる人が増えることでチーム力の向上になっていくのでしょう。

高校球児の美しき汗と涙の裏に、そんな事を感じる私ですが、負けずに頑張ろうと思う、そんな今日この頃です。

上海
2018-07-01

上海

代表取締役社長 大井建史

六月二十二日から七~八年ぶりに上海に行ってきた。シティ・スーパー様とのお取引は二十年に及ぶが上海一号店がオープンして少し経ってから担当を常務としてきた。

今回は五号店がオープンするにあたり、光栄にも酒売り場で酒樽の鏡開きセレモニーに呼んで頂き、初代のカリスマ石川社長の御遺言で指名され三十代前半で抜擢されたと聞く、二代目トーマス社長とも久しぶりにお会いして感激した。

久しぶりの上海は大きく変化していた。一番に感じられたのは全体がすごく豊かになった事。バンド地区は記憶よりもはるかに大規模だったし、フランス租界を中心に古い瀟洒な建物や並木も多く、オープンテラスの有るレストランから通りを眺めていると、欧米人も多く歩いており、その豊かな光景に何処にいるのか判らなくなる様な気さえした。

高層ビルの上層は霞んですぐ見えなくなるが、電気自動車や電機モーター付きのスクーターが増え、クラクション禁止令などにより、街の騒音がかなり抑えられている。

オリンピックや万博前は、バブル崩壊前の輝きだとか言われ、音を立てて発展している感は有った。いかにも地方出の人たちがアリの巣を覗くような速度と数で蠢いている様だった。日本の人口程の富裕層がいると当時から言われていたが、高級日本食レストランはなかなか見つからず、市中で目に付くのは二百元で食べ放題飲み放題の店などが主流だった。

今回はバイヤーお勧めの店に同行営業して頂いた。日本を訪れる方が多くなったせいか「なんちゃって和食」はお客の知識により通用しなくなり、和食店の変貌ぶりは香港や台湾よりも早い様な気がした。中国の発展と大都市上海に自分の夢と将来を賭ける香港・台湾の方々が、それぞれが作り上げた和食店の料理と経営のノウハウを持ち込んで挑戦するせいかもしれない。特に台湾は言葉が同じと言う事で出店意欲が旺盛との事。又は現地資本と組んで台湾人がコーディネートするパターンも多いそうだ。

中国の人口十三.八憶人・上海の二三〇〇万人、とてつもない人口で在り経済的にも国際化でも凄まじい市場であるが、私共で出来るのは足元をしっかり固める事。社員一同スクラム組んで頑張る事。

一冬で壊れた残念な防火壁の修理は大工事になっているが、現在進行中。百八十九回目の酒造り計画も始まった。ご愛顧の程よろしくお願い申し上げます。

基準

杜氏 一関 陽介

六月十一日、平年より三日、昨年より二十日も早い梅雨入りの発表がありました。しかし、その後はどんよりと曇って肌寒い日が続き、梅雨のジメっとした雨の日が少ない感じがいたします。酒米研究会メンバーも無事に田植えを終えました。ただ、この時期の肌寒い天候が稲の生育に影響するのではないかと少し心配です。最終的に個々の管理が重要になる訳ですが、「メンバー内で情報をしっかり共有する事」また、酒造りに携わる私達も含めた全員が、「地元でできる最高の酒を目指す為に、最高の米を収穫する」という同じ意識を持つ事が大切だと圃場を見ながら改めて思うこの頃です。

さて、五月十七日に発表になりました、平成二十九年度全国新酒鑑評会において金賞を受賞することができました。私が杜氏に就任してから六年目で初の受賞です。受賞の喜びと同時に、やっと「全国金賞」に辿り着いたという達成感に満ち溢れています。昨年までの五年間も天寿らしいキレイな酒を醸してきた自信はありますし、金賞を狙っていなかったわけでもありません。

ただ、物の評価には一走の「基準」があると思います。金賞を貰えないということは、「金賞酒の基準」に達していないという評価です。そして、その自分達の酒の評価を受け入れた上で出品を続け、今まで受賞できなかったのが現実です。昔から全国の酒蔵が技術を争う名誉ある賞ですので、会社や酒造りを教えてくださった先輩、何より同じ酒を醸す仲間に対して、今まで受賞できなかった私の技術者としての責任は非常に重いと痛感しています。

分かっていた事なのですが、受賞して思うのは、この鑑評会に向けて狙った酒が醸せたチームへの技術賞が金賞であるという事。また、酒質に及ぼす影響が大きいであろう米や酵母・麹菌など、使用する原料や微生物等それらを含めて一つのチームであるという事。

分かりやすく言えば、

・微生物が働きやすい環境を人が作れた事

・人が働きやすい蔵内環境であった事

これが今年の勝因だと考えています。

鑑評会の出品酒というのは蔵にとっても特別なものであり、最高峰の酒に間違いはありません。しかしながら沢山ある商品の中の一つです。「金賞受賞酒」は絶賛発売中ですので、この機会に皆様にも普段感じられない特別感と「金賞酒の基準」を是非感じていただければと思います。

基準とはブレる事のない大事な物であると同時に、無理に照準を合わせようと人を惑わし操作する要素もあるように思います。何かに合わせる事を考える前に、目の前で起こる事を自分達なりに感じ、しっかり考えることを大切にして、さらに良い方向に基準を超えていけるよう酒造りに邁進したいと思います。

来年度も蔵人一丸、頑張ります!

桜の咲く頃に
2018-05-01

桜の咲く頃に

代表取締役社長 大井建史

四月八日に甑倒しが済み、今年も無事に酒造りが終わろうとしている。蔵人の解散も四月二十日と決まり、通信をお届け出来る頃には酒蔵の中も静かな熟成の時を迎える事になる。

新しい釜場の設備を調整しながら様々な試みにより面白い結果が出た物もある。先日山形で出品酒の持ち寄り審査会があった。技術の研鑽の為に県外にも広く門戸を開放してくれている会なので、表彰等は無いがかなりの出品数の中弊社の酒が第一位となり、業界の中では色々な方からお祝いの声を頂きうれしいスタートを切った。

この百八十八回目の酒造りで四十三年間勤めて頂いた佐藤直千代さんが引退される。七十一歳まで引き留めてしまった。急速に若返っている蔵人に天寿の酒造りの姿勢・心構え・雰囲気を伝えてもらいたいと願ったからである。

長い歴史を重ねる為の伝統とは革新の連続で初めて出来るものではあるが、危機感や強い連帯感・長い歴史の中の今を背負っている誇りや共に上を目指す思いなどが存在しないと簡単に無くなるものではないだろうか?同じ時代に生き、たまたま同じ酒蔵に同職し、酒を造るという事を学び、その品質の向上に己の誇りをかけて共に精進して初めて長い歴史を支えた者の一人となり得る。

私が昭和六十年四月に帰省してからの数年が弊社の数量的なピークで、九十九%県内販売でありながら九千八百石の販売量であった。現在の数量の四.五倍。金額で三倍近かった。その後三十年で人口が半減し、今では人口四千六百人六十五才以上が四十一.二%の町になってしまった。最大数量の販売責任者を務めてくれた植田久三氏の葬儀が明日。私が子供の頃から九年前まで麹の要で頭を務め、品質改善に大きく貢献して頂いた高橋重美氏の葬儀は先月の末にあり、驚きと悲しみの中、共に背負ってきた時代を誇りと共に懐かしみ、過ぎ行く時を感じてしまう。

娘達の影響で最近購入したヘッドホンに昨今ハマっている。ノイズキャンセリング機能もあり、「声をかけたよ」と言う家内が隣で寝たことにも気付かず横を見てギョッとしたりと失笑ものだが、それほど集中して音楽を聴くなど何年ぶりの事だろう。

若い頃に聞いた曲達の言の葉が今でもとても新鮮に聞こえる。春・サクラと共鳴する歌のなんと多い事か!!

東京での桜の開花後一挙に東北も咲いてしまうかの勢いだったが、しばらく寒が戻り一休み。秋田でも一番開花が早い日本海沿岸南部では東京から一月遅れで桜が咲き始め、今週中には我が里も、それでも少し例年より早目ながら桜が咲くことになるであろう。

何時でも心にやさしく温かく元気づけてくれるもの。それに会うと故郷を感じられるもの。DNAを震わせるもの。その様なお酒で在りたいものだ。

精進します。

受け継ぐ

杜氏 一関 陽介

四月八日に甑倒しを迎え、今季の仕込みが無事に終了致しました。この文章を皆様がお読みになる時には皆造(搾りまですべて終える事)まで終えている頃と思います。今季の造りも色々ありましたが、蔵人全員大きな怪我や病気もせず、また、日頃よりご愛飲いただいている皆様方の期待に応えるべく最後の一本まで気を抜くことなく酒造りに向き合ってくれました。蔵人メンバーに対しては、「本当にありがとう、お疲れ様、来年もお願いします」という気持ちでいっぱいです。これから夏に向けて、生酒の発売も控えております。皆様には、そんな私達蔵人の日頃の努力の結晶にご注目いただければ幸いです。

さて、今季の造りを振り返ると、何と言っても釜場の大改修が一番の変化でした。使用しているものは大きく変わらなくても、機械の配置や人の動線が変わることによって、作業スタイルというのは変わります。酒屋にとって釜場は中心であり、何より出来上がった蒸米の良し悪しで麹・酒母・もろみに大きな影響を与える心臓部と言っても良いと思います。改修一年目ですので改善・対策すべきことが沢山見つかりましたが、非常に溶けやすかった今年の原料米を限定的な吸水と強力でクリーンな蒸気で締まりの良い蒸米に仕上がったのではないかと感じています。それでも、米が溶けやすいという状況から考えると貯蔵中のお酒の味や香りが変化するのが早いのではないかと心配しているところです。それでもどうにか良い状態でお酒をキープしたいと考え、土日も社員一丸交代制で火入れ作業に勤しんでいます。とにかくその努力が実を結び、皆様に満足いただける酒質になればと願うばかりです。

今季の仕込みを終えると同時に四十三年間釜場担当一筋の蔵人が退職することになりました。天寿の原料処理を支えてきたことは間違いありませんし、私からすると、釜場の作業以外にも蔵人の心構えや礼儀、酒造りの楽しい部分、大変な部分を私に教えてくださったように思います。

「作業は引き継ぐ、技は受け継ぐ」

作業の引継ぎはマニュアル化する事がとても大事です。しかしそれだけでなく、マニュアルでは表せない技や伝統を今後どう受け継ぐのかが「酒造り」には大切だと思います。「昔はこうだった」を理解した上で、今の自分達に必要な物を選択し、今の時代に沿ったものに変えていくことが「受け継ぐ」の本当の意味なのではないでしょうか。

ベテラン蔵人の退職で寂しさはもとより、抜ける穴の大きさを痛感しております。今季の反省もまだこれからなのですが、先人から続く伝統を受け継いで行くことが恩返しになり、それがお客様に伝わる酒に繋がるのだと信じて来季の酒造りに取り組もうと気持ちを新たにする、そんな春です。

春よ来い
2018-03-01

春よ来い

代表取締役社長 大井建史

原稿の締め切りが迫り去年の文章を見ると、異様な雪解けの速さ、二月の雨、一昨年は二月に田んぼの土が見えると異常気象に驚愕していました。

今年は寒波と暖気が交互に来て大雪の後は雨。雪に雨が降ると水を含ませたスポンジの様で一挙に重くなります。それが寒気でまた凍るものですから、屋根の雪がミルフィーユの様に段重ねとなり頑丈で簡単に落ちてくれない氷になってしまい、なんと改築して新品同様になった釜場の鉄とコンクリート板で出来た防火壁を折り曲げてしまいました。

雪が消えないと完全修復は無理ですが放っておく事も出来ず、今日は板金屋のプロ集団が特別に準備した命綱を付けて、氷塊を砕きながら何とか雪下ろし?をしてもらっております。

春までもう少し…と雪下ろしをせず見守っていましたが、警戒水位を超えた水害の様にとうとう限界に達し「なんて雪の量だ!」と悲鳴を上げながら、昨年一基雪の重みで壊れた冷蔵コンテナ、冷蔵庫パネルで覆ったので壊してはいけない槽場の屋根、雪の重量で戸が動かなくなってしまった築百九十年の本宅座敷屋根などの雪下ろしを開始。板金屋さんから麹室前通路の折版屋根が歪み始めているとの報告!吟醸の搾り真っ最中!間に合わないのでこれも緊急外注。杜氏と二人で、あれ!あそこの軒折れてないか?今年設置した外部配管の受けが壁から引き剥がされています!三年前に雪にむしり取られた麹室の屋根も危ない!などと一挙に警報が鳴り響く今日この頃です。

とは言え、蔵の中は大吟醸の上槽が連続して行われ、新酒の吟醸香に溢れています。

私が自宅で晩酌するのは天寿純米酒が多く、冷や・常温・ぬる燗・熱燗とどれでも美味しいマルチなお酒です。しかし、もう一捻りしたくて始めたのが生酛仕込。結果は同じ米・同じ精米歩合・同じ酵母・同じ水なのに捻りではなく、異なる酒に成りました。最初はキレだけが目立ち首をかしげていたのですが、こつこつ六年間造り続けた結果、酒が若かったのだと判りました。乳酸発酵をより充実させ、麹をさらに…などなど色々なアイディアが出てきます。それが形になったのが先日天寿頒布会にありました熟成二年目に入った生酛純米酒です。

今回の今だけ屋には、二年前に生酛造りをした本醸造を出しました。原酒とalc. 16・3度。飲み比べてみてください。冷やも常温も燗もいける生酛本醸造熟成酒と精米歩合四十%の純米大吟醸の雫取りおりがらみのフレッシュで上品な味わい。雪下ろしの過酷さを忘れられる至福のチョイスです!!

酒蔵開放を終えて

杜氏 一関 陽介

二月十日、弊社酒蔵開放を開催致しました。ご来場いただきました皆様にこの場をお借りし御礼を申し上げます。来年も楽しい酒蔵開放にするべく社員一丸で企画致しますので是非お楽しみに!!

蔵開放当日、私は今年も蔵案内を担当いたしました。五時間で約五百名のお客様に私を含めた六名の蔵人で酒造りの工程・造り手の想いなどをお話しさせていただきました。私としてはまだまだ話し足りないくらいでしたが、お客様のほろ酔いで赤らんだ楽しそうな笑顔が印象に残る楽しい時間でした。

そんな中、私の文書をいつも読んでくださっているという数名の方に出会いました。「身体に気をつけて」「この時期仕込み忙しいでしょ?」等々声を掛けていただきました。前月号で少し触れたのですが、この蔵元通信に文章を掲載させていただいて五年。乱文で恥ずかしながらも沢山の方々に読んでいただいていると実感すると共に、心温まるお声掛けが嬉しい瞬間でした。

また、私の学生時代の友人に、この通信を読む度に私の事を考えてくれる人がいます。そして夫婦で天寿を飲みながら連絡をくれるのです。私が電話に出ることができなくても「忙しいんだな…」と、察してくれる優しい人です。離れていても私を気にしてくれる親友です。

お会いしたことの無い方から遠く離れた学生時代の親友まで、沢山の人が自分を見守っていてくれる。その事を五年この文書を書いてきて最近強く感じます。そう考えると自分を取り巻く環境はどこか「当たり前の事」に感じてしまっているけれど、「有り難い事」なのだと反省するようになりました。

調子が悪いときも良いときも認めてくれる家族。

本当に苦しいときも自分を応援してくれる友人。

お互いに良いところ悪いところを指摘しながら成長できる仲間。

お酒が美味しいといつも天寿を買ってくれる天寿ファンの皆様。

「その皆がいるから、今の自分がいる」

残り少ない今年度の酒造り。この気持ちを忘れずに春へ向けてラストスパートです!!

心機一転
2018-01-01

心機一転

代表取締役社長 大井建史

新年おめでとうございます。

昨年中はご愛顧を賜り篤く御礼申し上げます。

隠居した六代目が本家古文書を発見した事により創業が文政十三年と改められ、社歴が四十四年延びた事を発表した昨年は株式会社創立五十周年の年でした。

五十一年目となるこの冬は雪も早く降り始め、年末恒例に成りつつある爆弾低気圧来襲に、寒さの中皆の雪寄せ作業でコツコツと対抗を続けております。

弊社としては大事業の酒母室と釜場の改築も完了し、将来的な醸造環境にも対応できる体制へと一歩ずつ進んでいます。

蔵人は杜氏や社員も含め十四人中五人が三年以下の新人に代わりましたが、酒造りも新しい型に挑戦し続けております。長年休止していた生酛も五年前から純米を皮切りに純米吟醸・本醸造・精選・純米大吟醸と、精米歩合や酵母の違いも含めて、色々な生酛の可能性を求めた試験醸造を十数本行って参りました。

その他にも多酸系の酵母や、地元特産の鳥海リンドウの花を送り続けついに分離できた新花酵母「リンドウ」の醸造試験も行っています。

影鳥海山等で試験販売も一部行いましたが、それは完成形ではなく、まだまだ全てが発展途上です。更に良くなる事を信じて改善を続けております。

原料米は昭和五十八年から契約栽培グループ「天寿酒米研究会」設立を皮切りに、長い年月をかけて交渉を続け、今では兵庫県秋田村の山田錦を含めて、使用原料米の全てが契約栽培となりました。

「吟」の付く製品は全て、一年前に冷蔵庫型に改築された槽場で上槽されて直ぐに瓶に詰めそれ毎瓶殺菌し、冷蔵貯蔵庫で瓶貯蔵し低温熟成の後出荷されております。

新たに加わった設備と挑戦する姿勢、古くから続けてきた積み重ねの経験と努力。今年の我々にはその両方があります。

杜氏や蔵人も新たな年に心機一転、その環境の中で最善のバランスを模索しながら、更に進化した味わいに挑戦する百八十八年目の酒造りに邁進しております。

本年もどうぞ宜しくお願い致します。

六造り目を迎えて

杜氏 一関 陽介

あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になり、ありがとうございました。本年も皆様方より沢山の「美味しい」が聞けますよう製造メンバー一丸となって頑張る所存ですので、どうぞご期待ください。

早いもので、乱文ながらも蔵元通信に文章を掲載するようになり五年が経ちました。さて今年も例年通り新年らしく新酒の話を・・・と考えたのですが、今年は敢えて少し昔の話をしようと思います。

年末恒例なのですが、昨年末、東京農業大学応用生物科学部醸造学科の学生さんが二週間の日程で矢島へはるばる研修に来てくれました。慣れない寒さの中、朝から晩まで蔵人と同様に蔵に泊まり込みで生活をしてもらいます。熱心に指導を受けている学生さんの姿を見ていると、自分が東京農大短大部在学中、天寿酒造へ研修に来た時のことを思い出すのですが、その当時(十五年前)の蔵人から言われた印象に残っている事があります。

「あなたは斜に構えている」

「理解しているのか理解してないのかが分からない」

「まず、動きが遅い」

どれも言われて嬉しくなる人はいないでしょう。しかし当時の私には仕方のない言葉ばかりでした。もちろん良い言葉も掛けていただきました。ただ、それが言われて悔しかったのは覚えています。今では、そのどの言葉も愛のある、自分にとって教訓になっているものだと思えます。

酒造りは一人でするわけではない事。自分が動けば周りの人も動き始める事。相手の気持ちにたって話をする事や分からないことがあった時、皆で知恵を出し合って解決する事の大切さをその時に先輩蔵人から学ばせていただいていたのだと思います。

また、研修生を受け入れる事は、指導しているようで教えられることもあるような気がします。入社してから今までの自分を振り返る良い機会であり、今年も頑張ろうと思わせてくれた母校の研修でした。本年度の研修生においても、天寿で学んだことを将来へ活かしてもらいたいと願っています。

本当に最後になりましたが、本年度の新酒はお楽しみいただけましたでしょうか。昨年度に比べ原料米が良く溶け、搾った段階での味乗りが良いような感触を持っています。

これから春まで、まだまだ酒造りは続きます。安全で楽しい酒造りに努め、皆様に満足していただける商品作りに励んでまいります。

本年もご愛飲の程、宜しくお願い致します。

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0184-55-3165

フリーダイヤル:0120-50-3165

平日8:00~17:00

20歳未満のアルコール類の購入や飲酒は法律で禁止されています。