まず目の前の一歩を懸命に
代表取締役社長 大井建史
秋田県立金足農業高校の皆さん、準優勝おめでとうございます。そして全国の皆様、我らが秋田県代表の大応援ありがとうございました。私が高校の時に何故か図書館で調べ、第一回大会で旧制秋田中学が準優勝していることは知っていましたが、今や秋田県でも数少ない公立農業高校が夏の甲子園大会で大活躍し、雑草軍団・平成最後の百姓一揆と言われながらも、まさか第百回大会決勝に進出し、東北初の優勝にチャレンジする機会を得るとは思いもしませんでした。
大フィーバーです。八月末になっても特集番組が毎晩あるくらいで、大会中の試合の放映時間帯は、秋田の経済が完全に停止(笑)する程でした。
自分の目線の位置も良く分からなくなりました。親の様でもあり、汗を流して応援する高校生と同じ様でもあり、先生になったりコーチになったり先輩になったり隣のおじさんになったりと、まあ忙しく心が躍り、声を上げ、涙をふき、手に汗を握る興奮の日々が続きました。
決勝翌日の地元秋田魁新報は、なんと号外を含めて十六ページの記事を出しました。たいしたものだと思います。全国最速の人口減少県に久々の喜びの大ニュースでした。
それにしても暑い夏が続きます。連続の台風・ゲリラ豪雨等の異常気象が悲しい事に当たり前になってきました。予報は色々出ていますが秋田県南部は今のところ特に被害はなく、稲の成長も平年通りと聞いております。しかし、この暑さですので高温障害が出る可能性は高いと思われます。田んぼ毎に品質のバラツキが出ると、どのコメがどのような状態なのかなど、確認や調整に非常に困難な対応が求められるのです。何しろ米が溶けなくなるので浸漬や蒸米等々で様々な対策をとるのですが、何をやっても思う様にならないという年もあるのです。
昨年の改築後、酷い雪害で一冬で折れた防火壁も可能な限り頑丈に補修し終わりました。あと一ヶ月で稲刈りも終わり、十月には天寿酒造の百八十九回目・社長の十九回目・一関杜氏の七回目の酒造りが始まります。六年間試験醸造して参りました生酛の純米大吟醸酒・純米酒も近々本格発売を開始いたします。
今年も課題を沢山掲げながら、新しい蔵人も加えて新たな挑戦が始まります。基礎が揺らぐと全てが再現性の無いものになります。困難な時こそ基本に帰り、その一歩一歩を万全と思える形で忠実に懸命に積み重ねて行く事が重要になります。
五十九歳、酷暑の夏を全力で戦った十八歳を見習って気合を込めて頑張ります。ご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。
向上心
杜氏 一関 陽介
八月一日から三日の日程で、私の所属する山内杜氏組合の酒造講習会が開催され、その講習の中で約一時間半に渡り、秋田県内の先輩杜氏をはじめ技術者の皆様に向けて講師としてお話をさせていただきました。山内杜氏に所属する現役の杜氏の中で一番若い私ですが、会社の方針や取り組み、技術的な話は当然のこと、会社に入社してからの話や杜氏に就任してからの話など、自分の酒造りに対する気持ちを話す事ができる大変貴重で有難い時間でした。子供の頃はあがり症で、人前で話す事が嫌いでした。しかし、中学校で応援団長、高校生で生徒会長を経験し、趣味で長年続けた和太鼓演奏なども影響してか、社会人になる頃には、人前で自分を表現することを身につけていたような気がします。しかし、さすがに一時間半の講演の依頼を受けるのは初めてでしたので、自分には長過ぎて時間を余してしまうのではないかと心配しましたが、過去のそんな経験が活きたのか、当日はすんなり話をする事ができました。苦手意識を捨て、未知の世界を体験することで、今まで見えなかった自分の一面を見ることができた気がします。皆様も是非、自身の向上の為に、苦手だと思うことに敢えてチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
さて、話は変わります。全国高校野球選手権大会で準優勝した秋田県代表の金足農業高校は大活躍でした。プロ大注目のエースの踏ん張りもさることながら、一人が全員を全員が一人を助ける気持ちで強豪相手に勝ち進んだ選手達に感動させられっぱなしです。「あいつが苦しんでいるから、俺が頑張る」「あいつが助けてくれたから、今度は自分が恩返しする」という、実に簡単なようで実行するのが難しい言葉を彼らは放つのですが、それを実行に移す力をも彼らは持っているのが本当に凄いと思うのです。
今、私は杜氏となり、チームを引っ張る責任感と酒造りは和(輪)を以ってするという協調性の大切さをヒシヒシと感じているわけですが、私の年齢の半分の彼らが、堂々と発言する姿に尊敬の念を抱きました。
これはただの私の想像でしかありませんが、彼らはただの仲良しではないのでしょう。言い合いをするわけでも馴れ合いでもないのでしょう。きっと全員が相手の事を考えた行動や発言ができるチームなのだと思います。
「失敗した時は自分がしっかり反省する」
「上手くいった時は皆のおかげと思う」
この考え方を理解できる人が増えることでチーム力の向上になっていくのでしょう。
高校球児の美しき汗と涙の裏に、そんな事を感じる私ですが、負けずに頑張ろうと思う、そんな今日この頃です。