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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

兀兀地(こつこつち)
2017-11-01

兀兀地(こつこつち)

代表取締役社長 大井建史

今年は十月十一日から精米が始まりました。文政十三年以来百八十八回目の酒造りです。

日照不足のため稲の生育が二週間ほど遅れ、さらに雨続きで稲刈りも遅れに遅れました。例年に比べ未登熟米も多く、収量も少なめで等級も全体に下振れしそうな状況です。

そんな中、春から改築していた酒母室と釜場の竣工式を十七日に行いました。設備の設置が一部遅れており少し前倒しになりましたが、これ以上待ってはいられません。二十五日には初蒸しとなりますので、全て間に合わす…ことになります。(蒸米放冷機の足が間に合うかな…)

釜場は造り酒屋の中心の場所であり中枢になります。精米された米を洗い、適切な浸漬をした原料米を甑(大きな蒸し器)に入れ、米の状態や使用目的に合わせて蒸し上げ、適温まで冷ましてから使用場所(麹室・酒母室・仕込蔵)へ搬送します。また、酒造りに使用される道具の洗浄や煮沸殺菌は全てここで行われます。従ってお湯の使用量が多く湯気が大量に出るために、その抜けが良くないと常に天井から雨降り状態になり、衛生を保つ事も難しくなります。

前の釜場は建設後三十七年経過しておりました。湯気の抜き方など鉄骨造りの中で様々な工夫がされていましたが、長年の湯気との戦いに様々な場所が侵食されておりました。その反省を基に数年間試行錯誤の上で、この度の改築工事に挑みました。

改築は難しい!!工場立地法の規制がなければ新築の方が随分早く・安く・楽に出来たことでしょう。予定になかった防火壁も腐食のため全て作り変え、新しい所は可能な限り亜鉛メッキ材を使用し、壁はステンレスの冷蔵庫パネルとしました。

後は狙い通りに蒸気が抜け水が流れるか、一冬かけて検証して行きます。

設備は出来ました。しかし、使用するのは人間です。使いこなすのは蔵人です。返済するのは私です(笑)。

一足飛びにどうにか成る訳ではありません。しかし、理想に近づける事が可能な設備は有ります。所詮は人が使う物、コツコツと一歩ずつ。さてさてどうなります事やら、乞うご期待!!

六期目の酒造り

杜氏 一関 陽介

鳥海山も山頂付近が薄っすら雪化粧し、色とりどりに染まる紅葉とのコントラストが自然の偉大さと素晴らしさを見せてくれています。また、朝晩はいよいよ冷え込むようになり、酒造り本番が始まるのだと感じられる季節がやってまいりました。この自然あふれる地で酒が造れるありがたさを改めて感じているところです。

何と言っても今年の蔵内トピックスは釜場の改修工事。建物の工事は終わっても使用する機械の搬入や据え付け、配管レイアウト等、まだまだやる事が満載といったところです。皆様にこの文章を読んでいただく頃には米研ぎ、麹造りが始まっています。作業効率アップと品質の向上に繋がるよう「必ず良いものにする!」と心に誓っておりますので今期の酒もご期待ください!

さて、釜場の改修については前述の通りですが、清掃や機械メンテナンスを進めながら精米を開始するところまで漕ぎつけております。今年は初夏あたりから天候不順(大雨・低温)による稲の生育不良が心配されておりました。弊社酒米研究会会員の農家さんは平年より七~十日遅い、九月二十五日頃から刈り取りを開始しましたが、やはり天候のせいか充実不足の傾向が少々あるようです。しかしながら、日々の管理努力のおかげで生産された安心・安全な米が続々と入庫になっています。

今の段階で私が考えるべき事は、その原料米からどうすれば最良の酒を生む事ができるのかに尽きます。出穂後の低温で今年は米がよく溶けるのではないかと予測しておりますが、予測や感覚だけではなく、目標に向けた原料処理を徹底して行い、米の特徴を正確に掴む事がその一番の道であり必要な事だと思います。

設備の更新や原料米の調整に悩む今日この頃ですが、まずやってみないと始まらない。考えて、実行して、悩んでの連続でしょう。今年もそれを共有できる頼れる蔵人メンバーと楽しく酒造りができる喜びをかみしめ、素敵な新酒を皆様にお届けできるよう頑張ってまいります。今後とも宜しくお願い致します。

挑戦
2017-09-01

挑戦

代表取締役社長 大井建史

お盆が過ぎ、7月22~23日の秋田県内の豪雨被害総額二二六億円超で未だに一部道路では通行止めが続いておりますが、耐え難いほどの暑さは一段落したような気候が続きます。晴れても日陰で風が吹くと気持ちの良い感じになってきました。契約田の酒造好適米もお陰様で花をつけ、強風でもまれた痕も見えますが順調な生育をしている様です。

今年は「山の日」が出来たせいか、盆休みが早く始まった感がありました。11日は10年に一度の高校同期会を幹事長として開催し、皆で高校時代に?戻ったつもりではしゃぎました。その光景を眺めながら、地元住民比率が低い事と、久しぶりに故郷に戻った友のうれしそうな顔、親の新盆で帰省した人も数名、実家の始末の為という人もあり、それぞれに様々な事情がある訳ですが、だからこそ地元を守る者がこの様な会も進んで行いながら、ゴーストタウンとならない為に、気張る必要があるのです。

都会との時間的距離は非常に短くなり、ⅠT系の環境も劇的に向上して来ました。しかし、秋田県は人口の減少率日本一を走っており、我が町も老齢人口が40%を超え、開墾に汗と涙を流した父祖の土地は山野へ戻り始めました。日本鹿・日本カモシカ・猿・熊等も天敵である猟師の激減により急増し、自然環境も目立って変わって来た感があります。なにしろ過疎の町とは言え、駅前を日本カモシカが散歩していたりするのですから。

しかし、最大の人口・最高の成長の時代と比べて儚んでも仕様がありません。百年前と比べると人口も多く遥かに恵まれた環境にあるのです。

確かに生活環境を落とす事は非常に困難な事ですし、不便で不安な所に縛り付けられるのは、将来的に楽しい事ではありません。しかし、食料自給率も過去最低の記録を伸ばし、国の機能中枢の偏った集中を放置した状態の国の有り様が正しいとは思いません。

この地に立ち未来を思う時、新しい開拓が求められる時代なのだと思います。昨日見た雨の中行われた鳥海高原花立牧場フェスタでも、大きな農業機械が並び大変な環境の中で少数の若者が協力して汗を流す姿に、困難な中でもそれに立ち向かうフロンティア精神と彼らのタフさを感じました。

さて、今・これから・ここで・私達に何が出来るか。その為の準備もここ数年出来る限りやってきました。天寿酒造188回目の挑戦の時が近づいています。

ご期待ください!

思いを馳せる

杜氏 一関 陽介

盆が過ぎ、朝晩は涼しい風が吹くようになりました。毎年夏季休暇は墓参りに行くのですが、自分が今元気に生活できる事への感謝の気持ちを墓前でしっかり伝えられました。また、なかなか会えずにいた祖母と食事したり、家族と過ごす充実した時間を持つことができたような気がします。そんな夏の余韻をもう少し噛みしめていたい私の気持ちを無視するかのように季節は一気に秋へと移り行くわけで…。そろそろ心身共に酒造りモードへ切り替えていかないといけない時期になってきました。

そんなお盆期間中に行われる、全国高等学校野球選手権大会。甲子園を目指して地方大会を勝ち抜いた球児たちの熱い眼差しには毎年感動させられます。ある程度一定の打順やポジションはあるものの、仲間の体調や相手によって試合に出場できたり、できなかったり。時には裏方に回ることも。応援も含めて試合中にそれぞれが持つ能力をチームの為に出し尽くそうとする姿は美しいものです。当然勝敗はあるわけですが、その中身はチームの方針や監督の指示に従うだけでなく、自分で判断する部分や先を読む力など、細かい個々の力が試合を左右するように思います。

酒造りもチームプレー。方向性がブレていたり、誰か一人でも違う方向に進んだりしてもダメ。ミスしたい人などいないのだから、ミスした人を責めたりせず、全員で挽回し、できるならミスをした前よりも良くする。これがチームプレーの鉄則なのでしょう。時には持てる力を出しきれずに納得のいかないことがあるかもしれない。でもその時は全員で反省し、また努力すれば良い。大切なことを高校球児に再認識させられた私の夏季休暇でした。

さて、釜場の工事も佳境を迎え、自分達が作業する絵が想像できるようになってきました。何かが新しくなると、すべて新しくすれば良いような気持ちになってしまうのですが、大切なのは自分達が目指すところに到達する為に何が必要で何が足りないのか。それは道具ではなく技術も然りです。機械化は進んでいるものの、酒造りの基本スタイルは昔から変わっていません。変わっているところは、なぜ・何の為にそうしていたのか、今一度先人達に思いを馳せてみたいと思います。昔に戻るのではなく、前へ進む為に。

経過
2017-07-01

経過

代表取締役社長 大井建史

今年の酒造りも5月の連休前には終わりましたが、6月の前半になっても吟醸系の瓶火入れが終わらず、製造・瓶詰のメンバーには土日も交代出勤で頑張ってもらいました。その甲斐あって酒蔵のタンクや冷蔵庫の中は新酒ではちきれそうな程に成りました。

雪消えの清澄で爽やかな季節の中で、念願の釜場の改築が進んでいます。次の酒造りの為にも9月末にはどうしても終了し、設備の試運転も10月初旬には終わっていなければなりません。

こんな田舎でも東京と同じ基準が適用される全国一律の工場立地法の下で、工場立地法上既存建物から五メートル離すため「用を成さない面積になる」か、「酒蔵全体を立て直す」か又は現状のままの改築かと言う選択になり、全国一律を恨みながらも渋々面積も高さも変更出来ない改築を選択しました。

改築は難しいです。36年前に建築した釜場ですが、その時は元々有った釜場を囲う形で建てた物でした。何時から使い始めたかは判りませんが、何度も改修して来たこの古い釜場は、造り酒屋のシンボルの様な物ですから、記念に残す方法は無いかとも考えました。しかし細長い敷地の真ん中では到底難しく、解体と決定しても残念な思いが消え去りません。しかし、煙突と共に解体し、煙道と共に潰して次の新しい設備の床となります。

そう、改築は難しいのです。現在は変更がきかない中でも可能な設備配置に知恵を絞っている所です。蔵の真ん中は全てが通っている為、電気・水道・井戸水・冷媒・蒸気・重油・消火栓・酒の線や配管を最初に全て仮設工事し、それから解体。細い鉄骨は交換しますが、構造の鉄骨を1本1本全て錆を落し、防錆塗装のうえ、初めて建設が始まります。そうなのです。配管・配線は2度しなければいけません。空気の流れ・蒸気の抜け・洗米浸漬のルート・蒸米作業の流れ・洗浄の導線・排水路の確保+酒母室の新設。はい、それはもう色々あります。え~!釜場と造り蔵の間の防火壁が怪しい??? 孫子の為にと剝がしてみたらやはり出てくるお化け。はい、これも作り直し!!費用がかさんでゆく工事の増加に私のこめかみはぴくぴくし、現場監督の表情は工程表を見ながらだんだん強張り始めた今日この頃です。

『良い部分に目を向ける』

杜氏 一関 陽介

4月27日に今期のもろみを全て搾り終わり、約2ケ月が経ちました。その瓶詰め作業も終了し、ホッとしているところです。

そんな中蔵内は釜場の大幅な改修工事の真っ最中で、今までお世話になった釜場の面影がなく寂しい限りです。改修後の釜場への期待と不安はありますが、それを良い形にする意欲に変えて仲間と乗り越えて行く所存です。

さて話は変わりますが、先日全国約200酒類もの日本酒を1度に評価(利き酒)させていただく機会を得ました。「利き酒」は行わない日はないと言っても良いくらい大切な私の毎日の仕事の1つです。年間を通して自社の品質管理の為に、また、造りの時期は毎日のように搾りあがる上槽後の品質チェックの為に行います。

基本的に毎日の仕事という観点では「異味・異臭がないか」「商品の特徴を維持しているか」「熟成が適正であるか」など、どちらかというと欠点がないかを探すことがメインになりがちです。ここで前述の評価会で感じたことを少しお話したいと思います。当然の事ですが、お酒は嗜好品であるので「良い」という基準は人それぞれであると思います。自分が「欠点」と感じた部分が他の方には「個性」になる場合が多分にあると思うのです。大勢で利き酒をするとそれが顕著にわかり、簡単に言うと良いが悪いにもなり得るのです。

今までの自分の利き酒スタイルはどこか簡単に個性を欠点として扱いすぎていたような感覚を覚え、如何にマイナス思考な利き酒であったのかを痛感しました。ただし、その中でも私も1人の人間ですし、酒造りの長としてのポリシーに反するものは欠点であると堂々と言える事も大切なことであり必要です。正解であるかは分かりませんが、これを機会にまず良いところを1番先に挙げられる利き酒を実践していきたいと思いました。

日本酒にも色々あるように人間も十人十色です。悪い部分をみてしまいがちな私ですがお互いを尊重し、良い部分を更に伸ばし合えるようなチーム意識を高く掲げて、夏の繁忙期に向けて挑んでまいりたいと思います。今後とも宜しくお願い致します。

春爛漫
2017-05-01

春爛漫

代表取締役社長 大井建史

出張で10日ぶりに帰った日曜日の午後、天気が良く桜も満開ですが通信の私の原稿だけが空欄の為、パソコンに向かいました。

今回の出張の初めは、台湾での日本酒フェアでした。店頭での試飲販売や飲食店でお客様との楽しむ会・日本酒に興味を持つ方々への酒セミナーは質問も多く2時間びっちり話をした充実した会でした。我々世代は自社ブランド云々よりも「日本酒とは何か」等お酒そのものの普及に努めて参りましたが、その成果?が実感される会でした。その他飲食店への挨拶など盛沢山の5日間でした。

帰国し東京では、リニューアルの為1年休館していた東京プリンスホテル再オープンに伴い、和食清水における17年目に入った酒楽活菜の復活祭を2夜連続満員で盛会裏に行って参りました。お陰様でどちらでも純米大吟醸鳥海山を始め、弊社製品はご好評を給わりました。

今、改めて考えてみますと弊社の技術改革は全て純米大吟醸「鳥海山」を創り上げる為に行ってきたように思います。「1升瓶3千円以下でどこまで良い酒が造れるか?」これが命題でした。もちろん「地元で出来る最高の酒」ですから、地元契約栽培の原料米の品質にこだわり、農家毎の米の分析からはじまり、酒造好適米を作ると言う事はどういう事なのかをご理解いただき、地元の契約栽培グループ「天寿酒米研究会」の意識の向上を図りました。精米の精度や湿度の管理の為に設備改善を行い白米の触れる所は全てステンレスに改善しております。次に洗米の改善に入り自動計量機を作成導入、吟醸は全量手を入れないザル洗い限定給水、今期から蒸米も連続蒸米機を廃止し、間接蒸気型の蒸米機をもう1台導入、安定感が大きく増しました。原料処理の高度化こそが高品質キープの礎なのです。

今までも、麹の作業内容を洗い直し大箱を導入し、酒母 (速醸の他高温糖化・生酛) の比較試験・秋田型の水を詰めた醪の汲み水歩合から、花酵母の仕込で学んだ柔軟な汲み水の形に変更、醪タンクを(OS・サーマル・日本容器等)色々な機種の比較導入、並びに醪の温度管理の高度化・農大花酵母を含む各種酵母の試験・瓶火入れ冷蔵貯蔵の導入・冷蔵倉庫の建設をしてきました。長年のコツコツ積み上げた技術の上に今の品質が成り立っているのです。

さらにこれから釜場と酒母室の改築に入り、秋には蒸気の抜けや浸漬設備の改善された作業効率の良い環境を実現いたします。

これから始まる工事に私も大きな期待を持って向かいます。

189回目の造りが始まるこの秋には蔵が大きく変わります。ご期待下さい。

今年の酒造りを終えて

杜氏 一関 陽介

平成28酒造年度の酒造りも終盤を迎え、昨年秋から共に酒造りに向き合った蔵人メンバーも4月21日で解散を迎えました。今年も最後まで事故もなく仕込みができた事にホッと安堵の息をついているところです。今年度は私の杜氏就任後では最大の128本のもろみを仕込むことができました。これも、ご愛飲いただいている皆様のおかげと感謝申し上げます。

さて、今年の酒造りについて反省も交えながらお話したいと思います。1月号の蔵元通信にも書きましたが、今期は原料処理の設備更新があった為、早急に対応が必要な課題がありました。

1つ目に蒸米機の新調を行ったことによる、蒸米の状態変化に対応する事。2つ目は、浸漬方法の変更をしたので作業内容に慣れるのは当然の事、蒸米機の蒸し上がりを予測した洗米・浸漬時間をつかむ事が求められました。

そんな今までとの感覚の違いに苦しんでいた私達に追い打ちをかけるように、予想以上の米の難溶性という難題がありました。結果、仕込み序盤のお酒はどれも粕歩合が高く、思い描いていたものよりキレイ過ぎる出来になりました。

しかし、新年を迎えて「今年の酒はどうなんだろうか…」と不安になっていた私に吉報が届きました。今季最初に搾った純米吟醸酒(初槽純米吟醸生酒)がワイングラスでおいしい日本酒アワードで最高金賞という結果。 この結果には「数字だけで物は判断できない・してはいけない」ということを身を持って感じさせられました。賞をいただくと自信はつくもので、気持ちも晴れやかになり、そこから最後の仕込みまでは順調というか、蔵人も毎日の作業にリズムが出てきて、最後までスムーズに乗り切ることができたように思います。機械や環境、米の品質が変わっていく中でも自分達が今まで培ってきた技術や勘も大事にしていこうと改めて勉強になりました。

私自身13回目、杜氏として5回目の酒造りが終わりを迎えます。初心に返ろうと、この文書を書きながら入社当時の仕込み計画を眺めています。仕込みは80本弱。普通酒が全体の4割、今や弊社には無くてはならない存在に成長した純米大吟醸鳥海山は僅か仕込み3本。今期は残念ながら普通酒がその頃の半分。反面、鳥海山は26本です。1年毎でみると変化は少なくても13年間ではものすごい変化です。

今年経験した事や感じた事を来年に活かすと共に、「1年」の大きさを噛みしめて次の造りの準備をしたいと思います。苦労したお酒が多い年でしたが、皆様には楽しく味わっていただければ幸いです。

家譜
2017-03-01

家譜

代表取締役社長 大井建史

今年は二月早々から雨が降る暖冬で、一月後半には雪の量も例年に追い付いたかに見えましたが、暖かい空気が何度も入ることで雪消えも急速に進んだようです。激しい寒暖差はありましたが、蔵は雪に覆われて低温で安定しており、蔵人の頑張りもあり、品質的にも順調に推移しております。

二月二十七日に発表された「ワイングラスで美味しい日本酒アワード二〇一七」で、大吟醸部門では純米大吟醸 鳥海山が最高金賞・大吟醸 鳥海が金賞、メイン部門(一・八L 二千六〇〇円/税別以下)で初槽純吟生酒が最高金賞・天寿純米酒が金賞を受賞いたしました。

このコンクールの審査に使用されているリーデル大吟醸グラスは、十三年前に発売されたのですが、実はその開発の審査員を私も務めておりました。百数十個のグラスの中から一つに絞り込む審査を一年以上かけて選ぶ中、グラスの形が如何に味や香りに影響するのかを、頭では判っていたつもりでしたが、この体験は良い意味でその影響の大きさを思い知った貴重な体験となりました。そのリーデル社が後援するコンテストで最高金賞を受賞できた事に大変感銘を覚えます。

さて、昔で言う隠居している六代目永吉が、地元の古文書研究会に所属しており、本家五代目大井幸左衛門光曙が記録した本家文書「本末親類帳」を読み解いたところ、初代永吉は本家二代目弟平兵衛の次男伴内を本家三代目が養子としたが相続ないまま病死、その子の栄吉を本家四代目が文政十三年(一八三〇年)八月十六日分家し、矢島藩御用達の酒屋だった本家で学んだ技で濁酒と麹の製造を生業としたと記されていたとの事。分家して名前を栄吉から永吉に変えたそうです。

これまで、清酒免許を取得した明治七年を創業年としてきた事も間違いありませんが、正式に分家の年が明確となり、どういう流れで分家したのかも(複雑ではありましたが)判りました。六代目は「濁酒ではあるが文政十三年創業とする方が妥当」と言っております。そうなると弊社は今年創業百八十八年となります。これまでは「清酒免許を取得したのは二代目永吉の晩年で、四代目は三代目より先に亡くなりましたが、その子(私の祖父)がしっかり仕事をしていた父親を四代目としたい為五代目を名乗りましたので、清酒業としては二・三・五・六・七代となり、私は実質五代目です」と説明が長~くなるのです。七代目と名乗る割には年数が短いのではなどと妙に詳しく突っ込まれても、これで年数的にも違和感なく説明が出来そうです。

と言う事で、皆さま百八十八回目の酒造りも終盤となりました。渾身の酒造りによる新酒が毎日のように生み出されています。ご愛顧のほどよろしくお願い致します。

2月のイベントを終えて

杜氏 一関 陽介

酒造りに集中していると時間が経つのも早いもので2017年も2ヶ月が過ぎ、まもなく春を迎えようとしています。最高峰である全国新酒鑑評会出品酒も数日前に無事に搾り上げ、私も少しホッとしているところです。杜氏就任から5年目の酒造り。そろそろ全国新酒鑑評会「金賞」が欲しいところですが…。

新年になり、日本名門酒会企画の立春朝搾り、また天寿酒蔵開放と2月はイベントが続きました。どちらもその日に搾ったお酒を当日出荷するのですが、その日に向けて酒を醸すのは良いとして、搾る日がイベント開催日に限定されるというのは造り手には難しい課題です。

立春朝搾りの参加は杜氏として5回目になりました。詳しい事は書きませんが、例年と同じスペックの中で何か「立春」の朝に搾った事をお酒の中に表現したいと思い、少し仕込み経過を変えてみました。結果としては味乗りも良く微発泡でフレッシュ&ジューシーに仕上げることができ、立春の朝の清々しさが表現できたと自負しております。来年は今年以上に色々な方に飲んでいただきたいと思っております。

話は変わりますが、これも毎年恒例になりました酒蔵開放は2千人を超えるお客様を迎え盛会に終えることができました。ご来場下さいました皆様には御礼申し上げます。この日もまた当日の朝に搾る「朝しぼり」の販売がありました。立春朝搾りと違うところは、当日蔵にいらっしゃったお客様がその場で試飲をしてお買い求めになるというわけですから造り手としては酒質がダイレクトに売り上げにつながり少し怖いものです。ただ、これの良いところは当日お客様の声・反応を私達が直に感じる事ができるところにあります。当日の「美味しい」という声に救われるのです…(笑)そして明日の励みになるのです。

この2つのイベントに限らずして、飲むシーンに合わせたお酒の提供をするために酒質設計があります。これからもお客様の声をよく聞いて自分の力に変えていけるように、また新しい発想というのも人との会話の中から生まれると感じますので、自分の造りに生かせるよう色々な人との会話を大事に生活したいと思います。

ともあれ、今期の仕込みもまだ1ヶ月残っています。一層気を引き締めて頑張る所存ですので、今後とも宜しくお願い致します。

吟味して醸す
2017-01-01

吟味して醸す

代表取締役社長 大井建史

明けましておめでとうございます。旧年中のご愛顧に心から感謝申し上げます。

天寿の酒蔵では年初めから大吟醸の仕込が始まります。お陰様で昨今は純米大吟醸を含む大吟醸クラスの仕込数が増え、蔵人達の緊張が高まる酒造りが続きます。中でも全国新酒鑑評会出品酒の仕込ともなると、技術的な挑戦も加わるため、杜氏の号令のもと一丸となり、その年の集中のピークの時になるのです。

酒蔵は昔から吟醸造りにこだわって来ました。蔵の持つ最高の技術を発揮し、新しい技術的挑戦をする機会を毎年持つ事。これこそが日本酒史上最高の品質を作り上げた基だと思います。現在のような高精米は縦型精米機が出来てから可能になりました。全国にその精米機が普及したのは昭和に入ってから、思う存分高精米に挑戦できるようになったのは、戦争もあり昭和四十年代から一般的には五十年代に入ってからだと思います。

弊社は昭和四十七年から大吟醸の販売を開始しましたが、これはかなり早い方だったようです。さばけの良い蒸米を創るために無理な加熱で釜を割ってしまったり、米の統制時代に精米歩合を上げるために密かに米を買い足したり、吟醸香を出すため低温で酵母を攻めすぎて発酵が止まりタンク丸々一本ダメにしたりと、日本酒業界をあげて努力して参りました。私自身も過去に品質基準に達しなかった三本の大吟醸を、残念ながら本醸造(旧一級酒)にブレンドしたことがあります。自戒として強烈なインパクトが残った経験でした。

この頃、吟醸酒を「香りの有る酒」と表現する人がいます。その中には「生酛・山廃の純米こそ味わいの酒」と短絡的な考えで、吟醸は香りの出る酵母を使えば直ぐ出来ると思慮の浅い発言も見受けられます。ワインに例えるとどちらも素晴らしい酒なのに「赤ワインこそが本物で、白ワインは簡単でとるに足りないものだ」と言っている様なものです。日本酒の雰囲気がやっと良くなってきた気配が感じられるのに悲しく思います。

吟味して醸す究極の「大吟醸」を目指し、仕込(原料米・精米・浸漬・蒸米・酵母・酒母・麹・もろみ・上槽・火入れ・貯蔵)全ての細かい違いに血眼になって研鑽をかさねてきました。だからこそ全ての酒造りで使われる今の技術が出来、今の酵母が出来、今の味わいがあるのです。

日本酒に対する深い愛と理解を持って頂けるよう、微力ながら尽力して参ります。

今年もよろしくお願い申し上げます。

五造り目を迎えて

杜氏 一関 陽介

あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になり誠にありがとうございました。今年も美味しい日本酒をお届けできるよう製造メンバー一丸となって頑張る所存ですので、何卒ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します。

さて、前号では設備の更新により少し準備が遅れハラハラのスタートを切ったというようなお話を致しましたが、それから早いものであっという間に二ヵ月が経過してしまいました。平成二十八年度産の原料米は溶けが悪いという予測でしたので、新酒しぼりたてに関してはしっかりと味が乗るようにと考え仕込みを行いました。ご賞味いただけましたでしょうか?

私としては予想以上の米の難溶性に苦労し、仕込み開始時に頭で想い描いていたものよりキレイでスッキリと仕上がったという印象を受けています。それでも純米吟醸酒はキレよく華やかで、純米酒は爽やかな酸味と旨味の程良いバランスが表現できたと自負しておりますので、まだ飲まれていらっしゃらない方は是非お試しくださればと思います。

蔵の中はというと、既に仕込みは中盤戦に突入しており、間もなく最高峰である鑑評会用の大吟醸の仕込みも始まります。米の浸透方法が変わった事で造り序盤は吸水時間等に少々戸惑ったものの、会社から新設していただいた蒸米機に替わった事で外硬内軟で安定した蒸米になっていると感じています。天寿に入荷する原料米すべてが契約栽培米であり、一粒一粒に想いのこもった米を如何に良い酒にするかを蔵人全員で考え前に進もうと思います。

前にも書いた覚えがありますが、日本酒は人(私達)が造って人(お客様)が飲む物です。商品には私達の想いが良くも悪くも必ず反映されます。私達が米農家さんに感謝して毎日の酒造りを切磋琢磨し、飲み手の気持ちになって楽しんで造る。美味しい酒にはそれが必要だと感じていますし、その為に杜氏として良質な酒を醸す事は当然ながら、毎日の仕事の中でより良い商品にする為に相手を尊重し意見を出し合い向上しようと皆が努力するチーム作りが重要と考えています。

毎年同じ気持ちではありますが、残り約三ヵ月の酒造り。真剣に、また楽しい酒造りを心掛け、皆様に飲んで楽しんでいただけるような伝わる酒を目指し努力する事をお約束して新年のご挨拶とさせていただきます。

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20歳未満のアルコール類の購入や飲酒は法律で禁止されています。