上海
代表取締役社長 大井建史
六月二十二日から七~八年ぶりに上海に行ってきた。シティ・スーパー様とのお取引は二十年に及ぶが上海一号店がオープンして少し経ってから担当を常務としてきた。
今回は五号店がオープンするにあたり、光栄にも酒売り場で酒樽の鏡開きセレモニーに呼んで頂き、初代のカリスマ石川社長の御遺言で指名され三十代前半で抜擢されたと聞く、二代目トーマス社長とも久しぶりにお会いして感激した。
久しぶりの上海は大きく変化していた。一番に感じられたのは全体がすごく豊かになった事。バンド地区は記憶よりもはるかに大規模だったし、フランス租界を中心に古い瀟洒な建物や並木も多く、オープンテラスの有るレストランから通りを眺めていると、欧米人も多く歩いており、その豊かな光景に何処にいるのか判らなくなる様な気さえした。
高層ビルの上層は霞んですぐ見えなくなるが、電気自動車や電機モーター付きのスクーターが増え、クラクション禁止令などにより、街の騒音がかなり抑えられている。
オリンピックや万博前は、バブル崩壊前の輝きだとか言われ、音を立てて発展している感は有った。いかにも地方出の人たちがアリの巣を覗くような速度と数で蠢いている様だった。日本の人口程の富裕層がいると当時から言われていたが、高級日本食レストランはなかなか見つからず、市中で目に付くのは二百元で食べ放題飲み放題の店などが主流だった。
今回はバイヤーお勧めの店に同行営業して頂いた。日本を訪れる方が多くなったせいか「なんちゃって和食」はお客の知識により通用しなくなり、和食店の変貌ぶりは香港や台湾よりも早い様な気がした。中国の発展と大都市上海に自分の夢と将来を賭ける香港・台湾の方々が、それぞれが作り上げた和食店の料理と経営のノウハウを持ち込んで挑戦するせいかもしれない。特に台湾は言葉が同じと言う事で出店意欲が旺盛との事。又は現地資本と組んで台湾人がコーディネートするパターンも多いそうだ。
中国の人口十三.八憶人・上海の二三〇〇万人、とてつもない人口で在り経済的にも国際化でも凄まじい市場であるが、私共で出来るのは足元をしっかり固める事。社員一同スクラム組んで頑張る事。
一冬で壊れた残念な防火壁の修理は大工事になっているが、現在進行中。百八十九回目の酒造り計画も始まった。ご愛顧の程よろしくお願い申し上げます。
基準
杜氏 一関 陽介
六月十一日、平年より三日、昨年より二十日も早い梅雨入りの発表がありました。しかし、その後はどんよりと曇って肌寒い日が続き、梅雨のジメっとした雨の日が少ない感じがいたします。酒米研究会メンバーも無事に田植えを終えました。ただ、この時期の肌寒い天候が稲の生育に影響するのではないかと少し心配です。最終的に個々の管理が重要になる訳ですが、「メンバー内で情報をしっかり共有する事」また、酒造りに携わる私達も含めた全員が、「地元でできる最高の酒を目指す為に、最高の米を収穫する」という同じ意識を持つ事が大切だと圃場を見ながら改めて思うこの頃です。
さて、五月十七日に発表になりました、平成二十九年度全国新酒鑑評会において金賞を受賞することができました。私が杜氏に就任してから六年目で初の受賞です。受賞の喜びと同時に、やっと「全国金賞」に辿り着いたという達成感に満ち溢れています。昨年までの五年間も天寿らしいキレイな酒を醸してきた自信はありますし、金賞を狙っていなかったわけでもありません。
ただ、物の評価には一走の「基準」があると思います。金賞を貰えないということは、「金賞酒の基準」に達していないという評価です。そして、その自分達の酒の評価を受け入れた上で出品を続け、今まで受賞できなかったのが現実です。昔から全国の酒蔵が技術を争う名誉ある賞ですので、会社や酒造りを教えてくださった先輩、何より同じ酒を醸す仲間に対して、今まで受賞できなかった私の技術者としての責任は非常に重いと痛感しています。
分かっていた事なのですが、受賞して思うのは、この鑑評会に向けて狙った酒が醸せたチームへの技術賞が金賞であるという事。また、酒質に及ぼす影響が大きいであろう米や酵母・麹菌など、使用する原料や微生物等それらを含めて一つのチームであるという事。
分かりやすく言えば、
・微生物が働きやすい環境を人が作れた事
・人が働きやすい蔵内環境であった事
これが今年の勝因だと考えています。
鑑評会の出品酒というのは蔵にとっても特別なものであり、最高峰の酒に間違いはありません。しかしながら沢山ある商品の中の一つです。「金賞受賞酒」は絶賛発売中ですので、この機会に皆様にも普段感じられない特別感と「金賞酒の基準」を是非感じていただければと思います。
基準とはブレる事のない大事な物であると同時に、無理に照準を合わせようと人を惑わし操作する要素もあるように思います。何かに合わせる事を考える前に、目の前で起こる事を自分達なりに感じ、しっかり考えることを大切にして、さらに良い方向に基準を超えていけるよう酒造りに邁進したいと思います。
来年度も蔵人一丸、頑張ります!