春よ来い
代表取締役社長 大井建史
原稿の締め切りが迫り去年の文章を見ると、異様な雪解けの速さ、二月の雨、一昨年は二月に田んぼの土が見えると異常気象に驚愕していました。
今年は寒波と暖気が交互に来て大雪の後は雨。雪に雨が降ると水を含ませたスポンジの様で一挙に重くなります。それが寒気でまた凍るものですから、屋根の雪がミルフィーユの様に段重ねとなり頑丈で簡単に落ちてくれない氷になってしまい、なんと改築して新品同様になった釜場の鉄とコンクリート板で出来た防火壁を折り曲げてしまいました。
雪が消えないと完全修復は無理ですが放っておく事も出来ず、今日は板金屋のプロ集団が特別に準備した命綱を付けて、氷塊を砕きながら何とか雪下ろし?をしてもらっております。
春までもう少し…と雪下ろしをせず見守っていましたが、警戒水位を超えた水害の様にとうとう限界に達し「なんて雪の量だ!」と悲鳴を上げながら、昨年一基雪の重みで壊れた冷蔵コンテナ、冷蔵庫パネルで覆ったので壊してはいけない槽場の屋根、雪の重量で戸が動かなくなってしまった築百九十年の本宅座敷屋根などの雪下ろしを開始。板金屋さんから麹室前通路の折版屋根が歪み始めているとの報告!吟醸の搾り真っ最中!間に合わないのでこれも緊急外注。杜氏と二人で、あれ!あそこの軒折れてないか?今年設置した外部配管の受けが壁から引き剥がされています!三年前に雪にむしり取られた麹室の屋根も危ない!などと一挙に警報が鳴り響く今日この頃です。
とは言え、蔵の中は大吟醸の上槽が連続して行われ、新酒の吟醸香に溢れています。
私が自宅で晩酌するのは天寿純米酒が多く、冷や・常温・ぬる燗・熱燗とどれでも美味しいマルチなお酒です。しかし、もう一捻りしたくて始めたのが生酛仕込。結果は同じ米・同じ精米歩合・同じ酵母・同じ水なのに捻りではなく、異なる酒に成りました。最初はキレだけが目立ち首をかしげていたのですが、こつこつ六年間造り続けた結果、酒が若かったのだと判りました。乳酸発酵をより充実させ、麹をさらに…などなど色々なアイディアが出てきます。それが形になったのが先日天寿頒布会にありました熟成二年目に入った生酛純米酒です。
今回の今だけ屋には、二年前に生酛造りをした本醸造を出しました。原酒とalc. 16・3度。飲み比べてみてください。冷やも常温も燗もいける生酛本醸造熟成酒と精米歩合四十%の純米大吟醸の雫取りおりがらみのフレッシュで上品な味わい。雪下ろしの過酷さを忘れられる至福のチョイスです!!
酒蔵開放を終えて
杜氏 一関 陽介
二月十日、弊社酒蔵開放を開催致しました。ご来場いただきました皆様にこの場をお借りし御礼を申し上げます。来年も楽しい酒蔵開放にするべく社員一丸で企画致しますので是非お楽しみに!!
蔵開放当日、私は今年も蔵案内を担当いたしました。五時間で約五百名のお客様に私を含めた六名の蔵人で酒造りの工程・造り手の想いなどをお話しさせていただきました。私としてはまだまだ話し足りないくらいでしたが、お客様のほろ酔いで赤らんだ楽しそうな笑顔が印象に残る楽しい時間でした。
そんな中、私の文書をいつも読んでくださっているという数名の方に出会いました。「身体に気をつけて」「この時期仕込み忙しいでしょ?」等々声を掛けていただきました。前月号で少し触れたのですが、この蔵元通信に文章を掲載させていただいて五年。乱文で恥ずかしながらも沢山の方々に読んでいただいていると実感すると共に、心温まるお声掛けが嬉しい瞬間でした。
また、私の学生時代の友人に、この通信を読む度に私の事を考えてくれる人がいます。そして夫婦で天寿を飲みながら連絡をくれるのです。私が電話に出ることができなくても「忙しいんだな…」と、察してくれる優しい人です。離れていても私を気にしてくれる親友です。
お会いしたことの無い方から遠く離れた学生時代の親友まで、沢山の人が自分を見守っていてくれる。その事を五年この文書を書いてきて最近強く感じます。そう考えると自分を取り巻く環境はどこか「当たり前の事」に感じてしまっているけれど、「有り難い事」なのだと反省するようになりました。
調子が悪いときも良いときも認めてくれる家族。
本当に苦しいときも自分を応援してくれる友人。
お互いに良いところ悪いところを指摘しながら成長できる仲間。
お酒が美味しいといつも天寿を買ってくれる天寿ファンの皆様。
「その皆がいるから、今の自分がいる」
残り少ない今年度の酒造り。この気持ちを忘れずに春へ向けてラストスパートです!!