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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

春よ来い
2018-03-01

春よ来い

代表取締役社長 大井建史

原稿の締め切りが迫り去年の文章を見ると、異様な雪解けの速さ、二月の雨、一昨年は二月に田んぼの土が見えると異常気象に驚愕していました。

今年は寒波と暖気が交互に来て大雪の後は雨。雪に雨が降ると水を含ませたスポンジの様で一挙に重くなります。それが寒気でまた凍るものですから、屋根の雪がミルフィーユの様に段重ねとなり頑丈で簡単に落ちてくれない氷になってしまい、なんと改築して新品同様になった釜場の鉄とコンクリート板で出来た防火壁を折り曲げてしまいました。

雪が消えないと完全修復は無理ですが放っておく事も出来ず、今日は板金屋のプロ集団が特別に準備した命綱を付けて、氷塊を砕きながら何とか雪下ろし?をしてもらっております。

春までもう少し…と雪下ろしをせず見守っていましたが、警戒水位を超えた水害の様にとうとう限界に達し「なんて雪の量だ!」と悲鳴を上げながら、昨年一基雪の重みで壊れた冷蔵コンテナ、冷蔵庫パネルで覆ったので壊してはいけない槽場の屋根、雪の重量で戸が動かなくなってしまった築百九十年の本宅座敷屋根などの雪下ろしを開始。板金屋さんから麹室前通路の折版屋根が歪み始めているとの報告!吟醸の搾り真っ最中!間に合わないのでこれも緊急外注。杜氏と二人で、あれ!あそこの軒折れてないか?今年設置した外部配管の受けが壁から引き剥がされています!三年前に雪にむしり取られた麹室の屋根も危ない!などと一挙に警報が鳴り響く今日この頃です。

とは言え、蔵の中は大吟醸の上槽が連続して行われ、新酒の吟醸香に溢れています。

私が自宅で晩酌するのは天寿純米酒が多く、冷や・常温・ぬる燗・熱燗とどれでも美味しいマルチなお酒です。しかし、もう一捻りしたくて始めたのが生酛仕込。結果は同じ米・同じ精米歩合・同じ酵母・同じ水なのに捻りではなく、異なる酒に成りました。最初はキレだけが目立ち首をかしげていたのですが、こつこつ六年間造り続けた結果、酒が若かったのだと判りました。乳酸発酵をより充実させ、麹をさらに…などなど色々なアイディアが出てきます。それが形になったのが先日天寿頒布会にありました熟成二年目に入った生酛純米酒です。

今回の今だけ屋には、二年前に生酛造りをした本醸造を出しました。原酒とalc. 16・3度。飲み比べてみてください。冷やも常温も燗もいける生酛本醸造熟成酒と精米歩合四十%の純米大吟醸の雫取りおりがらみのフレッシュで上品な味わい。雪下ろしの過酷さを忘れられる至福のチョイスです!!

酒蔵開放を終えて

杜氏 一関 陽介

二月十日、弊社酒蔵開放を開催致しました。ご来場いただきました皆様にこの場をお借りし御礼を申し上げます。来年も楽しい酒蔵開放にするべく社員一丸で企画致しますので是非お楽しみに!!

蔵開放当日、私は今年も蔵案内を担当いたしました。五時間で約五百名のお客様に私を含めた六名の蔵人で酒造りの工程・造り手の想いなどをお話しさせていただきました。私としてはまだまだ話し足りないくらいでしたが、お客様のほろ酔いで赤らんだ楽しそうな笑顔が印象に残る楽しい時間でした。

そんな中、私の文書をいつも読んでくださっているという数名の方に出会いました。「身体に気をつけて」「この時期仕込み忙しいでしょ?」等々声を掛けていただきました。前月号で少し触れたのですが、この蔵元通信に文章を掲載させていただいて五年。乱文で恥ずかしながらも沢山の方々に読んでいただいていると実感すると共に、心温まるお声掛けが嬉しい瞬間でした。

また、私の学生時代の友人に、この通信を読む度に私の事を考えてくれる人がいます。そして夫婦で天寿を飲みながら連絡をくれるのです。私が電話に出ることができなくても「忙しいんだな…」と、察してくれる優しい人です。離れていても私を気にしてくれる親友です。

お会いしたことの無い方から遠く離れた学生時代の親友まで、沢山の人が自分を見守っていてくれる。その事を五年この文書を書いてきて最近強く感じます。そう考えると自分を取り巻く環境はどこか「当たり前の事」に感じてしまっているけれど、「有り難い事」なのだと反省するようになりました。

調子が悪いときも良いときも認めてくれる家族。

本当に苦しいときも自分を応援してくれる友人。

お互いに良いところ悪いところを指摘しながら成長できる仲間。

お酒が美味しいといつも天寿を買ってくれる天寿ファンの皆様。

「その皆がいるから、今の自分がいる」

残り少ない今年度の酒造り。この気持ちを忘れずに春へ向けてラストスパートです!!

心機一転
2018-01-01

心機一転

代表取締役社長 大井建史

新年おめでとうございます。

昨年中はご愛顧を賜り篤く御礼申し上げます。

隠居した六代目が本家古文書を発見した事により創業が文政十三年と改められ、社歴が四十四年延びた事を発表した昨年は株式会社創立五十周年の年でした。

五十一年目となるこの冬は雪も早く降り始め、年末恒例に成りつつある爆弾低気圧来襲に、寒さの中皆の雪寄せ作業でコツコツと対抗を続けております。

弊社としては大事業の酒母室と釜場の改築も完了し、将来的な醸造環境にも対応できる体制へと一歩ずつ進んでいます。

蔵人は杜氏や社員も含め十四人中五人が三年以下の新人に代わりましたが、酒造りも新しい型に挑戦し続けております。長年休止していた生酛も五年前から純米を皮切りに純米吟醸・本醸造・精選・純米大吟醸と、精米歩合や酵母の違いも含めて、色々な生酛の可能性を求めた試験醸造を十数本行って参りました。

その他にも多酸系の酵母や、地元特産の鳥海リンドウの花を送り続けついに分離できた新花酵母「リンドウ」の醸造試験も行っています。

影鳥海山等で試験販売も一部行いましたが、それは完成形ではなく、まだまだ全てが発展途上です。更に良くなる事を信じて改善を続けております。

原料米は昭和五十八年から契約栽培グループ「天寿酒米研究会」設立を皮切りに、長い年月をかけて交渉を続け、今では兵庫県秋田村の山田錦を含めて、使用原料米の全てが契約栽培となりました。

「吟」の付く製品は全て、一年前に冷蔵庫型に改築された槽場で上槽されて直ぐに瓶に詰めそれ毎瓶殺菌し、冷蔵貯蔵庫で瓶貯蔵し低温熟成の後出荷されております。

新たに加わった設備と挑戦する姿勢、古くから続けてきた積み重ねの経験と努力。今年の我々にはその両方があります。

杜氏や蔵人も新たな年に心機一転、その環境の中で最善のバランスを模索しながら、更に進化した味わいに挑戦する百八十八年目の酒造りに邁進しております。

本年もどうぞ宜しくお願い致します。

六造り目を迎えて

杜氏 一関 陽介

あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になり、ありがとうございました。本年も皆様方より沢山の「美味しい」が聞けますよう製造メンバー一丸となって頑張る所存ですので、どうぞご期待ください。

早いもので、乱文ながらも蔵元通信に文章を掲載するようになり五年が経ちました。さて今年も例年通り新年らしく新酒の話を・・・と考えたのですが、今年は敢えて少し昔の話をしようと思います。

年末恒例なのですが、昨年末、東京農業大学応用生物科学部醸造学科の学生さんが二週間の日程で矢島へはるばる研修に来てくれました。慣れない寒さの中、朝から晩まで蔵人と同様に蔵に泊まり込みで生活をしてもらいます。熱心に指導を受けている学生さんの姿を見ていると、自分が東京農大短大部在学中、天寿酒造へ研修に来た時のことを思い出すのですが、その当時(十五年前)の蔵人から言われた印象に残っている事があります。

「あなたは斜に構えている」

「理解しているのか理解してないのかが分からない」

「まず、動きが遅い」

どれも言われて嬉しくなる人はいないでしょう。しかし当時の私には仕方のない言葉ばかりでした。もちろん良い言葉も掛けていただきました。ただ、それが言われて悔しかったのは覚えています。今では、そのどの言葉も愛のある、自分にとって教訓になっているものだと思えます。

酒造りは一人でするわけではない事。自分が動けば周りの人も動き始める事。相手の気持ちにたって話をする事や分からないことがあった時、皆で知恵を出し合って解決する事の大切さをその時に先輩蔵人から学ばせていただいていたのだと思います。

また、研修生を受け入れる事は、指導しているようで教えられることもあるような気がします。入社してから今までの自分を振り返る良い機会であり、今年も頑張ろうと思わせてくれた母校の研修でした。本年度の研修生においても、天寿で学んだことを将来へ活かしてもらいたいと願っています。

本当に最後になりましたが、本年度の新酒はお楽しみいただけましたでしょうか。昨年度に比べ原料米が良く溶け、搾った段階での味乗りが良いような感触を持っています。

これから春まで、まだまだ酒造りは続きます。安全で楽しい酒造りに努め、皆様に満足していただける商品作りに励んでまいります。

本年もご愛飲の程、宜しくお願い致します。

兀兀地(こつこつち)
2017-11-01

兀兀地(こつこつち)

代表取締役社長 大井建史

今年は十月十一日から精米が始まりました。文政十三年以来百八十八回目の酒造りです。

日照不足のため稲の生育が二週間ほど遅れ、さらに雨続きで稲刈りも遅れに遅れました。例年に比べ未登熟米も多く、収量も少なめで等級も全体に下振れしそうな状況です。

そんな中、春から改築していた酒母室と釜場の竣工式を十七日に行いました。設備の設置が一部遅れており少し前倒しになりましたが、これ以上待ってはいられません。二十五日には初蒸しとなりますので、全て間に合わす…ことになります。(蒸米放冷機の足が間に合うかな…)

釜場は造り酒屋の中心の場所であり中枢になります。精米された米を洗い、適切な浸漬をした原料米を甑(大きな蒸し器)に入れ、米の状態や使用目的に合わせて蒸し上げ、適温まで冷ましてから使用場所(麹室・酒母室・仕込蔵)へ搬送します。また、酒造りに使用される道具の洗浄や煮沸殺菌は全てここで行われます。従ってお湯の使用量が多く湯気が大量に出るために、その抜けが良くないと常に天井から雨降り状態になり、衛生を保つ事も難しくなります。

前の釜場は建設後三十七年経過しておりました。湯気の抜き方など鉄骨造りの中で様々な工夫がされていましたが、長年の湯気との戦いに様々な場所が侵食されておりました。その反省を基に数年間試行錯誤の上で、この度の改築工事に挑みました。

改築は難しい!!工場立地法の規制がなければ新築の方が随分早く・安く・楽に出来たことでしょう。予定になかった防火壁も腐食のため全て作り変え、新しい所は可能な限り亜鉛メッキ材を使用し、壁はステンレスの冷蔵庫パネルとしました。

後は狙い通りに蒸気が抜け水が流れるか、一冬かけて検証して行きます。

設備は出来ました。しかし、使用するのは人間です。使いこなすのは蔵人です。返済するのは私です(笑)。

一足飛びにどうにか成る訳ではありません。しかし、理想に近づける事が可能な設備は有ります。所詮は人が使う物、コツコツと一歩ずつ。さてさてどうなります事やら、乞うご期待!!

六期目の酒造り

杜氏 一関 陽介

鳥海山も山頂付近が薄っすら雪化粧し、色とりどりに染まる紅葉とのコントラストが自然の偉大さと素晴らしさを見せてくれています。また、朝晩はいよいよ冷え込むようになり、酒造り本番が始まるのだと感じられる季節がやってまいりました。この自然あふれる地で酒が造れるありがたさを改めて感じているところです。

何と言っても今年の蔵内トピックスは釜場の改修工事。建物の工事は終わっても使用する機械の搬入や据え付け、配管レイアウト等、まだまだやる事が満載といったところです。皆様にこの文章を読んでいただく頃には米研ぎ、麹造りが始まっています。作業効率アップと品質の向上に繋がるよう「必ず良いものにする!」と心に誓っておりますので今期の酒もご期待ください!

さて、釜場の改修については前述の通りですが、清掃や機械メンテナンスを進めながら精米を開始するところまで漕ぎつけております。今年は初夏あたりから天候不順(大雨・低温)による稲の生育不良が心配されておりました。弊社酒米研究会会員の農家さんは平年より七~十日遅い、九月二十五日頃から刈り取りを開始しましたが、やはり天候のせいか充実不足の傾向が少々あるようです。しかしながら、日々の管理努力のおかげで生産された安心・安全な米が続々と入庫になっています。

今の段階で私が考えるべき事は、その原料米からどうすれば最良の酒を生む事ができるのかに尽きます。出穂後の低温で今年は米がよく溶けるのではないかと予測しておりますが、予測や感覚だけではなく、目標に向けた原料処理を徹底して行い、米の特徴を正確に掴む事がその一番の道であり必要な事だと思います。

設備の更新や原料米の調整に悩む今日この頃ですが、まずやってみないと始まらない。考えて、実行して、悩んでの連続でしょう。今年もそれを共有できる頼れる蔵人メンバーと楽しく酒造りができる喜びをかみしめ、素敵な新酒を皆様にお届けできるよう頑張ってまいります。今後とも宜しくお願い致します。

挑戦
2017-09-01

挑戦

代表取締役社長 大井建史

お盆が過ぎ、7月22~23日の秋田県内の豪雨被害総額二二六億円超で未だに一部道路では通行止めが続いておりますが、耐え難いほどの暑さは一段落したような気候が続きます。晴れても日陰で風が吹くと気持ちの良い感じになってきました。契約田の酒造好適米もお陰様で花をつけ、強風でもまれた痕も見えますが順調な生育をしている様です。

今年は「山の日」が出来たせいか、盆休みが早く始まった感がありました。11日は10年に一度の高校同期会を幹事長として開催し、皆で高校時代に?戻ったつもりではしゃぎました。その光景を眺めながら、地元住民比率が低い事と、久しぶりに故郷に戻った友のうれしそうな顔、親の新盆で帰省した人も数名、実家の始末の為という人もあり、それぞれに様々な事情がある訳ですが、だからこそ地元を守る者がこの様な会も進んで行いながら、ゴーストタウンとならない為に、気張る必要があるのです。

都会との時間的距離は非常に短くなり、ⅠT系の環境も劇的に向上して来ました。しかし、秋田県は人口の減少率日本一を走っており、我が町も老齢人口が40%を超え、開墾に汗と涙を流した父祖の土地は山野へ戻り始めました。日本鹿・日本カモシカ・猿・熊等も天敵である猟師の激減により急増し、自然環境も目立って変わって来た感があります。なにしろ過疎の町とは言え、駅前を日本カモシカが散歩していたりするのですから。

しかし、最大の人口・最高の成長の時代と比べて儚んでも仕様がありません。百年前と比べると人口も多く遥かに恵まれた環境にあるのです。

確かに生活環境を落とす事は非常に困難な事ですし、不便で不安な所に縛り付けられるのは、将来的に楽しい事ではありません。しかし、食料自給率も過去最低の記録を伸ばし、国の機能中枢の偏った集中を放置した状態の国の有り様が正しいとは思いません。

この地に立ち未来を思う時、新しい開拓が求められる時代なのだと思います。昨日見た雨の中行われた鳥海高原花立牧場フェスタでも、大きな農業機械が並び大変な環境の中で少数の若者が協力して汗を流す姿に、困難な中でもそれに立ち向かうフロンティア精神と彼らのタフさを感じました。

さて、今・これから・ここで・私達に何が出来るか。その為の準備もここ数年出来る限りやってきました。天寿酒造188回目の挑戦の時が近づいています。

ご期待ください!

思いを馳せる

杜氏 一関 陽介

盆が過ぎ、朝晩は涼しい風が吹くようになりました。毎年夏季休暇は墓参りに行くのですが、自分が今元気に生活できる事への感謝の気持ちを墓前でしっかり伝えられました。また、なかなか会えずにいた祖母と食事したり、家族と過ごす充実した時間を持つことができたような気がします。そんな夏の余韻をもう少し噛みしめていたい私の気持ちを無視するかのように季節は一気に秋へと移り行くわけで…。そろそろ心身共に酒造りモードへ切り替えていかないといけない時期になってきました。

そんなお盆期間中に行われる、全国高等学校野球選手権大会。甲子園を目指して地方大会を勝ち抜いた球児たちの熱い眼差しには毎年感動させられます。ある程度一定の打順やポジションはあるものの、仲間の体調や相手によって試合に出場できたり、できなかったり。時には裏方に回ることも。応援も含めて試合中にそれぞれが持つ能力をチームの為に出し尽くそうとする姿は美しいものです。当然勝敗はあるわけですが、その中身はチームの方針や監督の指示に従うだけでなく、自分で判断する部分や先を読む力など、細かい個々の力が試合を左右するように思います。

酒造りもチームプレー。方向性がブレていたり、誰か一人でも違う方向に進んだりしてもダメ。ミスしたい人などいないのだから、ミスした人を責めたりせず、全員で挽回し、できるならミスをした前よりも良くする。これがチームプレーの鉄則なのでしょう。時には持てる力を出しきれずに納得のいかないことがあるかもしれない。でもその時は全員で反省し、また努力すれば良い。大切なことを高校球児に再認識させられた私の夏季休暇でした。

さて、釜場の工事も佳境を迎え、自分達が作業する絵が想像できるようになってきました。何かが新しくなると、すべて新しくすれば良いような気持ちになってしまうのですが、大切なのは自分達が目指すところに到達する為に何が必要で何が足りないのか。それは道具ではなく技術も然りです。機械化は進んでいるものの、酒造りの基本スタイルは昔から変わっていません。変わっているところは、なぜ・何の為にそうしていたのか、今一度先人達に思いを馳せてみたいと思います。昔に戻るのではなく、前へ進む為に。

経過
2017-07-01

経過

代表取締役社長 大井建史

今年の酒造りも5月の連休前には終わりましたが、6月の前半になっても吟醸系の瓶火入れが終わらず、製造・瓶詰のメンバーには土日も交代出勤で頑張ってもらいました。その甲斐あって酒蔵のタンクや冷蔵庫の中は新酒ではちきれそうな程に成りました。

雪消えの清澄で爽やかな季節の中で、念願の釜場の改築が進んでいます。次の酒造りの為にも9月末にはどうしても終了し、設備の試運転も10月初旬には終わっていなければなりません。

こんな田舎でも東京と同じ基準が適用される全国一律の工場立地法の下で、工場立地法上既存建物から五メートル離すため「用を成さない面積になる」か、「酒蔵全体を立て直す」か又は現状のままの改築かと言う選択になり、全国一律を恨みながらも渋々面積も高さも変更出来ない改築を選択しました。

改築は難しいです。36年前に建築した釜場ですが、その時は元々有った釜場を囲う形で建てた物でした。何時から使い始めたかは判りませんが、何度も改修して来たこの古い釜場は、造り酒屋のシンボルの様な物ですから、記念に残す方法は無いかとも考えました。しかし細長い敷地の真ん中では到底難しく、解体と決定しても残念な思いが消え去りません。しかし、煙突と共に解体し、煙道と共に潰して次の新しい設備の床となります。

そう、改築は難しいのです。現在は変更がきかない中でも可能な設備配置に知恵を絞っている所です。蔵の真ん中は全てが通っている為、電気・水道・井戸水・冷媒・蒸気・重油・消火栓・酒の線や配管を最初に全て仮設工事し、それから解体。細い鉄骨は交換しますが、構造の鉄骨を1本1本全て錆を落し、防錆塗装のうえ、初めて建設が始まります。そうなのです。配管・配線は2度しなければいけません。空気の流れ・蒸気の抜け・洗米浸漬のルート・蒸米作業の流れ・洗浄の導線・排水路の確保+酒母室の新設。はい、それはもう色々あります。え~!釜場と造り蔵の間の防火壁が怪しい??? 孫子の為にと剝がしてみたらやはり出てくるお化け。はい、これも作り直し!!費用がかさんでゆく工事の増加に私のこめかみはぴくぴくし、現場監督の表情は工程表を見ながらだんだん強張り始めた今日この頃です。

『良い部分に目を向ける』

杜氏 一関 陽介

4月27日に今期のもろみを全て搾り終わり、約2ケ月が経ちました。その瓶詰め作業も終了し、ホッとしているところです。

そんな中蔵内は釜場の大幅な改修工事の真っ最中で、今までお世話になった釜場の面影がなく寂しい限りです。改修後の釜場への期待と不安はありますが、それを良い形にする意欲に変えて仲間と乗り越えて行く所存です。

さて話は変わりますが、先日全国約200酒類もの日本酒を1度に評価(利き酒)させていただく機会を得ました。「利き酒」は行わない日はないと言っても良いくらい大切な私の毎日の仕事の1つです。年間を通して自社の品質管理の為に、また、造りの時期は毎日のように搾りあがる上槽後の品質チェックの為に行います。

基本的に毎日の仕事という観点では「異味・異臭がないか」「商品の特徴を維持しているか」「熟成が適正であるか」など、どちらかというと欠点がないかを探すことがメインになりがちです。ここで前述の評価会で感じたことを少しお話したいと思います。当然の事ですが、お酒は嗜好品であるので「良い」という基準は人それぞれであると思います。自分が「欠点」と感じた部分が他の方には「個性」になる場合が多分にあると思うのです。大勢で利き酒をするとそれが顕著にわかり、簡単に言うと良いが悪いにもなり得るのです。

今までの自分の利き酒スタイルはどこか簡単に個性を欠点として扱いすぎていたような感覚を覚え、如何にマイナス思考な利き酒であったのかを痛感しました。ただし、その中でも私も1人の人間ですし、酒造りの長としてのポリシーに反するものは欠点であると堂々と言える事も大切なことであり必要です。正解であるかは分かりませんが、これを機会にまず良いところを1番先に挙げられる利き酒を実践していきたいと思いました。

日本酒にも色々あるように人間も十人十色です。悪い部分をみてしまいがちな私ですがお互いを尊重し、良い部分を更に伸ばし合えるようなチーム意識を高く掲げて、夏の繁忙期に向けて挑んでまいりたいと思います。今後とも宜しくお願い致します。

春爛漫
2017-05-01

春爛漫

代表取締役社長 大井建史

出張で10日ぶりに帰った日曜日の午後、天気が良く桜も満開ですが通信の私の原稿だけが空欄の為、パソコンに向かいました。

今回の出張の初めは、台湾での日本酒フェアでした。店頭での試飲販売や飲食店でお客様との楽しむ会・日本酒に興味を持つ方々への酒セミナーは質問も多く2時間びっちり話をした充実した会でした。我々世代は自社ブランド云々よりも「日本酒とは何か」等お酒そのものの普及に努めて参りましたが、その成果?が実感される会でした。その他飲食店への挨拶など盛沢山の5日間でした。

帰国し東京では、リニューアルの為1年休館していた東京プリンスホテル再オープンに伴い、和食清水における17年目に入った酒楽活菜の復活祭を2夜連続満員で盛会裏に行って参りました。お陰様でどちらでも純米大吟醸鳥海山を始め、弊社製品はご好評を給わりました。

今、改めて考えてみますと弊社の技術改革は全て純米大吟醸「鳥海山」を創り上げる為に行ってきたように思います。「1升瓶3千円以下でどこまで良い酒が造れるか?」これが命題でした。もちろん「地元で出来る最高の酒」ですから、地元契約栽培の原料米の品質にこだわり、農家毎の米の分析からはじまり、酒造好適米を作ると言う事はどういう事なのかをご理解いただき、地元の契約栽培グループ「天寿酒米研究会」の意識の向上を図りました。精米の精度や湿度の管理の為に設備改善を行い白米の触れる所は全てステンレスに改善しております。次に洗米の改善に入り自動計量機を作成導入、吟醸は全量手を入れないザル洗い限定給水、今期から蒸米も連続蒸米機を廃止し、間接蒸気型の蒸米機をもう1台導入、安定感が大きく増しました。原料処理の高度化こそが高品質キープの礎なのです。

今までも、麹の作業内容を洗い直し大箱を導入し、酒母 (速醸の他高温糖化・生酛) の比較試験・秋田型の水を詰めた醪の汲み水歩合から、花酵母の仕込で学んだ柔軟な汲み水の形に変更、醪タンクを(OS・サーマル・日本容器等)色々な機種の比較導入、並びに醪の温度管理の高度化・農大花酵母を含む各種酵母の試験・瓶火入れ冷蔵貯蔵の導入・冷蔵倉庫の建設をしてきました。長年のコツコツ積み上げた技術の上に今の品質が成り立っているのです。

さらにこれから釜場と酒母室の改築に入り、秋には蒸気の抜けや浸漬設備の改善された作業効率の良い環境を実現いたします。

これから始まる工事に私も大きな期待を持って向かいます。

189回目の造りが始まるこの秋には蔵が大きく変わります。ご期待下さい。

今年の酒造りを終えて

杜氏 一関 陽介

平成28酒造年度の酒造りも終盤を迎え、昨年秋から共に酒造りに向き合った蔵人メンバーも4月21日で解散を迎えました。今年も最後まで事故もなく仕込みができた事にホッと安堵の息をついているところです。今年度は私の杜氏就任後では最大の128本のもろみを仕込むことができました。これも、ご愛飲いただいている皆様のおかげと感謝申し上げます。

さて、今年の酒造りについて反省も交えながらお話したいと思います。1月号の蔵元通信にも書きましたが、今期は原料処理の設備更新があった為、早急に対応が必要な課題がありました。

1つ目に蒸米機の新調を行ったことによる、蒸米の状態変化に対応する事。2つ目は、浸漬方法の変更をしたので作業内容に慣れるのは当然の事、蒸米機の蒸し上がりを予測した洗米・浸漬時間をつかむ事が求められました。

そんな今までとの感覚の違いに苦しんでいた私達に追い打ちをかけるように、予想以上の米の難溶性という難題がありました。結果、仕込み序盤のお酒はどれも粕歩合が高く、思い描いていたものよりキレイ過ぎる出来になりました。

しかし、新年を迎えて「今年の酒はどうなんだろうか…」と不安になっていた私に吉報が届きました。今季最初に搾った純米吟醸酒(初槽純米吟醸生酒)がワイングラスでおいしい日本酒アワードで最高金賞という結果。 この結果には「数字だけで物は判断できない・してはいけない」ということを身を持って感じさせられました。賞をいただくと自信はつくもので、気持ちも晴れやかになり、そこから最後の仕込みまでは順調というか、蔵人も毎日の作業にリズムが出てきて、最後までスムーズに乗り切ることができたように思います。機械や環境、米の品質が変わっていく中でも自分達が今まで培ってきた技術や勘も大事にしていこうと改めて勉強になりました。

私自身13回目、杜氏として5回目の酒造りが終わりを迎えます。初心に返ろうと、この文書を書きながら入社当時の仕込み計画を眺めています。仕込みは80本弱。普通酒が全体の4割、今や弊社には無くてはならない存在に成長した純米大吟醸鳥海山は僅か仕込み3本。今期は残念ながら普通酒がその頃の半分。反面、鳥海山は26本です。1年毎でみると変化は少なくても13年間ではものすごい変化です。

今年経験した事や感じた事を来年に活かすと共に、「1年」の大きさを噛みしめて次の造りの準備をしたいと思います。苦労したお酒が多い年でしたが、皆様には楽しく味わっていただければ幸いです。

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