兀兀地(こつこつち)
代表取締役社長 大井建史
今年は十月十一日から精米が始まりました。文政十三年以来百八十八回目の酒造りです。
日照不足のため稲の生育が二週間ほど遅れ、さらに雨続きで稲刈りも遅れに遅れました。例年に比べ未登熟米も多く、収量も少なめで等級も全体に下振れしそうな状況です。
そんな中、春から改築していた酒母室と釜場の竣工式を十七日に行いました。設備の設置が一部遅れており少し前倒しになりましたが、これ以上待ってはいられません。二十五日には初蒸しとなりますので、全て間に合わす…ことになります。(蒸米放冷機の足が間に合うかな…)
釜場は造り酒屋の中心の場所であり中枢になります。精米された米を洗い、適切な浸漬をした原料米を甑(大きな蒸し器)に入れ、米の状態や使用目的に合わせて蒸し上げ、適温まで冷ましてから使用場所(麹室・酒母室・仕込蔵)へ搬送します。また、酒造りに使用される道具の洗浄や煮沸殺菌は全てここで行われます。従ってお湯の使用量が多く湯気が大量に出るために、その抜けが良くないと常に天井から雨降り状態になり、衛生を保つ事も難しくなります。
前の釜場は建設後三十七年経過しておりました。湯気の抜き方など鉄骨造りの中で様々な工夫がされていましたが、長年の湯気との戦いに様々な場所が侵食されておりました。その反省を基に数年間試行錯誤の上で、この度の改築工事に挑みました。
改築は難しい!!工場立地法の規制がなければ新築の方が随分早く・安く・楽に出来たことでしょう。予定になかった防火壁も腐食のため全て作り変え、新しい所は可能な限り亜鉛メッキ材を使用し、壁はステンレスの冷蔵庫パネルとしました。
後は狙い通りに蒸気が抜け水が流れるか、一冬かけて検証して行きます。
設備は出来ました。しかし、使用するのは人間です。使いこなすのは蔵人です。返済するのは私です(笑)。
一足飛びにどうにか成る訳ではありません。しかし、理想に近づける事が可能な設備は有ります。所詮は人が使う物、コツコツと一歩ずつ。さてさてどうなります事やら、乞うご期待!!
六期目の酒造り
杜氏 一関 陽介
鳥海山も山頂付近が薄っすら雪化粧し、色とりどりに染まる紅葉とのコントラストが自然の偉大さと素晴らしさを見せてくれています。また、朝晩はいよいよ冷え込むようになり、酒造り本番が始まるのだと感じられる季節がやってまいりました。この自然あふれる地で酒が造れるありがたさを改めて感じているところです。
何と言っても今年の蔵内トピックスは釜場の改修工事。建物の工事は終わっても使用する機械の搬入や据え付け、配管レイアウト等、まだまだやる事が満載といったところです。皆様にこの文章を読んでいただく頃には米研ぎ、麹造りが始まっています。作業効率アップと品質の向上に繋がるよう「必ず良いものにする!」と心に誓っておりますので今期の酒もご期待ください!
さて、釜場の改修については前述の通りですが、清掃や機械メンテナンスを進めながら精米を開始するところまで漕ぎつけております。今年は初夏あたりから天候不順(大雨・低温)による稲の生育不良が心配されておりました。弊社酒米研究会会員の農家さんは平年より七~十日遅い、九月二十五日頃から刈り取りを開始しましたが、やはり天候のせいか充実不足の傾向が少々あるようです。しかしながら、日々の管理努力のおかげで生産された安心・安全な米が続々と入庫になっています。
今の段階で私が考えるべき事は、その原料米からどうすれば最良の酒を生む事ができるのかに尽きます。出穂後の低温で今年は米がよく溶けるのではないかと予測しておりますが、予測や感覚だけではなく、目標に向けた原料処理を徹底して行い、米の特徴を正確に掴む事がその一番の道であり必要な事だと思います。
設備の更新や原料米の調整に悩む今日この頃ですが、まずやってみないと始まらない。考えて、実行して、悩んでの連続でしょう。今年もそれを共有できる頼れる蔵人メンバーと楽しく酒造りができる喜びをかみしめ、素敵な新酒を皆様にお届けできるよう頑張ってまいります。今後とも宜しくお願い致します。