呑み切りの季節になりました。
代表取締役社長 大井建史
矢島の里は、今年も暑い夏でした。しかし昨年の稲のように高温障害が出るほどではなかったと思いますが、天寿酒米研究会の稲刈りはやや早めになりそうです。
8月26日に、「天寿水源探索ツアー」を組み、ご参加の皆様と鳥海山のブナ林を歩いて、湧水群や鳥海マリモの見学をして参りました。雄大な自然に囲まれた中、膨大な量の湧水に圧倒され、あらためて鳥海山の豊かな恵みに深い感謝を覚えました。(詳細は別に報告致します)
8月29日は、仙台国税局鑑定官、秋田醸造試験場の先生、「ふりかえれば鳥海」販売グループの酒販店さん、そして季節も含めた蔵人全員と、呑み切りを致しました。
呑み切りとは、新酒を貯蔵したタンクすべてから酒を出し(貯蔵タンクの酒の取り出し口を「呑み口」と言い、その口をあける事を「切る」と言います)その熟成具合と、新酒の出来をきき酒をして確認する作業の事を言います。しぼりたての段階でも、もちろんきき酒を致しますが、生酒で販売するお酒以外は、夏越えのある程度熟成したこの段階で良否を判断します。
先生方とは、すべて良好である事を確認、弊社の普通酒を含むすべてに活性炭素を使用してない貯蔵についても問題が無い事も確認し、その他の貯蔵方法について議論致しました。
「ふりかえれば鳥海」販売グループの皆さんとは、色々な意見・議論が噴出すると言う感じでした。無農薬純米吟醸「ふりかえれば鳥海」の出来も安定しているとお褒めをいただき、全体の酒質の高い安定感の話もされました。弊社の会議室は非常に暑く、きき酒をするには過酷な環境なのですが(酒にも人にも)、この酒はこの温度が旨いと25 ℃を越えた古酒大吟醸を汗を流しながら何度もきき酒をする、神宮寺の秋元さんが印象的でした。一番気になった話題は、今売れるのは「一合しか飲めなくても、一口で解かりやすいインパクトのある酒」と言う事です。天寿の吟醸は18 ℃位が良いとか、ディキャンティングした方が良い、派手さはないが天寿らしいやわらかさがある等、益々玄人受けするようになったとの話は有りましたが、一合を過ぎてからその良さが分かる?簡単に言いかえれば一般(ワイン派や若者)受けしないのでは、とも言われました。
様々な議論を経たうえで、その内容をしっかり受け止め、色々な試験醸造を含めた、自分達が成した結果を分析し、成すべき事、成さざるべき事を見極めて、杜氏を始めとする蔵人と共に、計画を立てて参ります。
矢島の里は、今「八朔祭り」の準備に明け暮れております。9月9日の宵宮、10日の本祭りと三百年以上の歴史を有する情緒あるお祭りです。若者はかぞえの四十二歳までとされ、私もラストイヤーを迎え、地元城新丁内の若者頭をさせて頂いております。まずお祭りを目一杯頑張って、次に向かって行きたいと存じます。
田んぼのページ
お盆を過ぎても残暑厳しい毎日が続いています。今年の春先は天候不順で冷夏の様相を呈し、田植えもわざわざ一週間延期したのですが完全に予想が外れました。
冷夏で一番心配なのは低温障害(不稔)です。花粉の素を造る時期に日照不足や異常低温に遭うと、お米の花に花粉が形成されません。その結果受粉が出来なくなり、穂が出ても稔らずに終わります。
幸いにして、受粉出来たとしても、この様な年は生育が遅れ、十分な実りに達する前に枯れてしまう事もあるのです。
平成の大飢饉?、平成5年の冷害はこの様にして発生しました。
これに対して人間が出来る対策は水管理です。
冷え込みそうなときには、あらかじめ深く水を張り田んぼを温かくしておきます。
しかし、今年は逆に気温が高すぎ、高温障害による品質低下の恐れがあります。この場合、水をこまめに入れ替え田んぼを冷やしてやります。
この作業は酒造りのもろみ管理と相通じるところがあり、細やかな管理により平成5年の冷害が報道された年でも、天寿酒米研究会産の美山錦は質、量、共に必要量を確保していました。
現在、田んぼの美山錦の生育は順調で出穂を過ぎ、稲穂が頭を垂れ収穫を待つばかりです。
さて、無農薬栽培への挑戦です。(前号続き)雑草との戦いでした。
田堀り(田んぼを耕す)、代掻き(田んぼをきれいに均す事)、田植えまでは従来通りに終えましたが、田植え後1週間も経過すると稲株の間に緑色の雑草が芽を出しはじめ、物凄い勢いで成長してきました。(主に、ノビエという雑草です)油断すると、田んぼがまるで芝生の様になります。
物置小屋から何十年前の「ガンヅメ機」(雑草の根を浮かせる道具、手押し除草機)を引っ張り出し、手で押しながら除草の準備をします。その後、社員全員が一列にならび手作業で雑草を引き抜きます。この除草作業の大変さは、行った人でなければ分からない重労働です。手は痛い、腰は痛い、次の日は皆、筋肉痛で動作がギクシャクします。しかも、又、1週間もすると雑草は芽を出し前述の繰り返しとなるのです。
雑草との戦いは社員全員で前半3回戦ほど行います。しかし、この除草作業のおかげで稲株は見違えるほど成長します。これは土の中に酸素を供給し、又、根に有害なガスを抜く事が出来るためと推定します。
不思議と心配した病気(イモチ病、モンガレ病等)にはかかりませんでした。(以下次号に続く)