新緑の美しい季節を迎えて・・・
代表取締役社長 大井 建史
関東梅雨入りのニュースがあり、矢島の里も近々と思われますが、鳥海高原もそのすそ野の里も新緑にかこまれ、田植えの終わった水田や雪の残る山々が、春の太陽と清々しい空気と草木の旺盛な成長力に、輝いて見える季節を迎えています。
四月に皆造を終えて以来、蔵では静寂の中で新酒が静かに熟成を続けています。前号でご案内した5月3日のイベントの目玉である、「雪室貯蔵純米生酒」は新種の氷温貯蔵を試したわけですが、酒のフレッシュさを残しながらも生熟成の為、私の予想よりはやや若めでしたがとろみも有り、お陰様で完売させて頂きました。誠にありがとうございました。
初めての試みでありましたので心配しておりましたがこんな事が・・・ゴールデンウィーク前には里の方でも完全に雪が無くなってしまいます。蔵人が心配のあまり一生懸命雪を積みすぎ、なんとステンレスの密閉タンクが潰れて変形し、下の木製パレットは粉々に・・・
新種鑑評会につきましては、県・東北までは順調で、酒の評価では秋田県神宮寺のアキモト酒店さんのホームページで『今回一番の収穫はもっとも秋田的にして、全国でもはっきり個性を主張出来る「天寿」の存在感であった。きれいにして繊細、さわやかにしてビロードの様な余韻を残す喉越し。すべての持ち味がここまで洗練されるときれい、水のようだでは終わらない芸術のような品格が有る。秋田の吟醸はこうだ!というのであればまさしくこの「天寿」のことであろう。(http://www.hana.or.jp/hana/akimoto/)』とのご評価をいただき、身に余る光栄と存じました。が、この秋田らしいというのがありますとどうもいけない様で、残念な結果となりまし...。
酒造りが終わった後、リーデル社の大吟醸グラス開発や、新商品用のビン探しなど、色々とやっておりましたが、あっという間に夏の贈答期が近づいて参りました。この時期から完全に新酒に変わるものが多くなって参ります。
代わり映えしないと思われる方もいらっしゃるでしょうが、これまでお伝えしてきた品質的向上の努力の結果の商品です。
よろしくお願い申し上げます。
田んぼのページ
5月に入ると酒蔵は静寂の時を迎え、代わって田んぼ(米作り)が本格的に始まります。
4月中旬に蒔いた酒米「美山錦」の種は順調に芽を伸ばし、すくすく立派な苗へと成長し田んぼに出るのを待ち望んでいるかの様です。私を含め、農家の皆さんはその苗に追い立てられるかの如く、田堀り(田んぼを耕す)、代掻き(田んぼに水を張ってきれいに均す)といった農作業に忙しくなります。その傍らで農作業によって田んぼの土の中から追い出されたミミズやオケラ、カエル等を狙って、ムクドリ、セキレイ、トンビ、そしてはるばる海からウミネコまでが、手を伸ばせば届きそうな所まで近寄ってきて餌を啄み、目を楽しませてくれると共に自然の営みが春を感じさせてくれます。
天寿の蔵元が酒米「美山錦」の栽培を始めたのは昭和58年にさかのぼります。
「自社で使用する酒造好的米(酒米)は地元で確実に確保する」という社長(現会長)の決断により当社独自の「天寿酒米研究会」を設立致しました。構成メンバーは蔵人を中心にこれに賛同する一般農家でした。
しかし、当地八島町は秋田県内の中でも「由利ササ」と称される質の高い食味米を生産する産地であったため、倒伏しやすく収量が少ない上に、当時価格の安い酒米を栽培してくれる農家が少なく、社長の強い想いで奨励金も出しましたが容易には必要量を確保できませんでした。
この様な状況の中、酒米の必要性、栽培方法などの勉強会を毎年繰り返し、種子の提供など農家支援を続けた結果、10年目にしてほぼ必要量に該当する約2,000俵の美山錦を確保できるようになりました。おかげさまで現在では、当社で醸造する特定名称酒のすべて(山田錦を使用するものは除く)及び普通酒の酒母米に「天寿酒米研究会」で栽培された美山錦を使用できるようになりました。
その一方で無農薬栽培にも挑戦し、6年前の弊社創立120周年を記念する新商品に無農薬米を使用した純米吟醸酒「矢島物語」を企画致しました。一番苦労したのは田んぼの確保でした。当社の意図する無農薬は単に農薬を使用しないということで無しに、
一・生活排水の全く入らない清水を確保できること。
(上流に人間が住んでいないこと)
一・日当たりが良いこと。
(南斜面=病害虫が発生しにくい)
一・管理上、あまり遠方に位置しないこと。
以上の条件が満たせる田んぼでした。運良く、矢島町新荘地区に全ての条件を満たす休耕田が見つかり研究会会員が栽培を始める事になりました。
(以下次号に続く)
製造課 係長
佐藤 俊二