ひたむきに ひたすらに
代表取締役社長 大井建史
十二月・一月と例年通りの積雪量でしたが、二月はひと月飛ばして三月の陽気で雪も急速に消えて行きました。隣町の田んぼにはひと月早い雪解けで沢山の白鳥が飛来し、これまであまり見る事の無かった白鳥が編隊を組み飛行する姿が間近で見られます。これも嬉しいと言うよりは気候の変化に不安を覚える要素となっております。大吟醸の上槽は二月中に全て終えましたが、槽場の温度は品質に影響を与えますので神経を尖らせました。
それでも酒蔵は雪に囲まれ酒造りも順調に推移しており、甑倒し(米の蒸しを終了する事)まで残すところ一か月弱です。大吟醸の山を越えたとはいえ、これからも中吟クラスの仕込みは続きます。よく酒蔵で「和醸良酒」と言う言葉が使われます。この「和」はもちろんチームワークの良い事を指しますが、これは仲良しな事ではなく、目指すレベルを理解し共通のイメージを持つという事です。酒仕込み一本一本の目指す目標を明確にし、油断すること無く対応する事。終盤は異常な暖冬に対して緊張感を持った対応が重要となります。搾ったお酒の素早い冷蔵・早めの瓶火入れなど、急げ急げのダッシュ対応をどこまで出来るかが勝負です。
私が酒造組合原料米対策委員長となって八年が経ち、県産酒造好適米はもちろんですが、県産酒造米(法律の変更により、産地や品種を指定出来ない加工米から地域流通米として地域と品種を指定)も契約栽培と成し、県外の山田錦も全国初の酒造組合との村米制度に組み入れ秋田村を設立頂いた。今回、その五集落からなる秋田村山田錦生産者大会が行われた山田錦発祥の地 兵庫県多可町を訪れ、全量特等米を作って頂いたメンバーの皆様に五年目の山田錦生産をお願いして、昨日帰ってきました。
「地元で出来る最高の酒」を目指す弊社ですが、独りよがりに成らない様に山田錦の大吟醸も仕込み、地元産米での仕込みと比較を行っています。しかし、兵庫県の発祥でありその元となった町の方々の山田錦に対する技術や品種の保存努力に裏打ちされた誇りと、何処と比較されても自分達が作った米を最良な物にする情熱や秋田村と秋田の酒蔵に対す思いは大変なものがあり、使用させて頂く秋田県酒造組合各社も素晴らしいお酒を醸し出す事で恩返しをしたいものと思いました。みのり農協組合長上羅氏曰く「山田錦を皆さんにお出しすることを嫁に出すと言っています。こうして旨酒となって味わえる事を嫁に出した娘の里帰りと言っています。」また、多可町長は秋田酒銘柄の入った手拭いを壁に貼り、今回お持ちした酒瓶を全て部屋に飾るとおっしゃいます。生産者会会長も昨年秋田で蔵元たちと一緒に飲めた事を心から喜んでいただき、ひたすら品質の向上についてお話頂きました。
私どもは本当に色々な方々の思いを頂き酒造りを続けさせて頂いております。その気持ちにお応えする為にはひたすら良いお酒を醸し続ける事。未熟ではございますが私共の精一杯をお見せ出来ますよう精進致します。
ラストスパート!
杜氏 一関 陽介
冬の寒さが少し緩んで雪解けが一気に進み、日中は暖かく感じる日が増えて参りました。それでも朝晩は寒いので「まだまだ冬は終わらない」と思いながらも、すぐそこまで春が近づいて来ているような気が致します。
さて、蔵の中では出品用クラスの大吟醸の上槽が終わりホッと一息…つきたいところではありますが、三月二十四日の甑倒し(造り仕舞)に向けてラストスパートと言ったところです。「少し休みたい」と思うことはありますが、国内外での特定名称酒の移出数量は好調を維持させて頂いており、仕込みの最後まで純米吟醸・純米大吟醸の仕込みが目白押しです。最後まで気を抜かず突っ走ります!
話は変わりますが、本年度の新酒しぼりたて・生酒はお試しいただいたでしょうか?今までの商品ラインナップに、初槽純吟生酒と寒造純米生原酒が加わりました。
実はこの二つの商品には15度台の原酒であるという共通点があります。精神論かもしれませんがどんなに美味い酒でも「出来上がってしまった」商品ではお客様に想いは伝える事は出来ず、「いつ」・「どのように」飲んでいただくのかを含めた「商品設計」・「酒質目標」をしっかり持った酒造りをすることを徹底すればお酒が蔵人の気持ちを伝えてくれると私は信じています。
前出の二商品は、出来た酒を後で調整するのではなく、もろみ段階での発行経過・加水を工夫する事で、米から生まれた旨味を最後に出来るだけ薄める事のない、「ジューシーでアルコール分も飲みやすい度数に抑えたしぼりたて生酒」を目指しました。これを踏まえて是非お試しいただければと思います。
この他にもいろいろな取り組みをしながら私たちは酒造りをしています。春も近づく矢島に是非足をお運びいただき、蔵見学はいかがでしょうか?