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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

一意専心
2014-11-01

一意専心

代表取締役社長 大井建史

世間を騒がせた大型台風19号も、矢島の里は被害無く通り過ぎました。稲刈りも台風前に概ね終了し、量は例年より多い感触ですが、秋田の醸造試験場の先生は「今年の米は成長のバラつきが大きいため、割れやすく非常に溶ける可能性が高い。」と予想しております

山田錦の方は先月末に契約栽培の秋田村を原料米対策委員長として視察して参りましたが、その時点までは大変順調でした。「問題は台風…。」と言っていたのですが、稲刈り前に18・19号と大きいのが二つ来てしまいました。古い品種で茎が長く倒れやすいのです。被害が大きくなければ良いのですが…この時期は心配が絶えません。

秋田県最年少杜氏である一関は、非常に溶けない一年目、平年よりやや溶ける二年目、非常に溶けやすい予想の今年と、三回目の造りも前途多難と思われます。

前号発行後にロンドン酒チャレンジの結果発表がありました。

日本酒を扱う海外の飲食関係者がお客様に安心して勧められる高品質な日本酒を決める品評会です。ロンドン酒チャレンジの審査員は、世界で活躍するプロのソムリエたち三十四名で、内日本人審査員は二名、判定項目には風味の他にも洗練度や包装が含まれる珍しいコンテストです。

弊社は「大吟醸鳥海」金賞・「純米大吟醸鳥海山」銀賞・「天寿純米酒」銅賞という結果でした。インターナショナル・サケ・チャレンジに続いての受賞、誠に光栄の至りです。

杜氏とは盆過ぎから百四十一回目の酒造りの計画を検討して参りました。呑切りの結果も良く検討し、前回の試みは有効だったのか・選択した酵母は予想通りの味わいを生み出してくれたのか・熟成は順調なのか・新商品は期待通りの出来だったのかと細かくチェックいたしました。地元の主力商品精撰(旧二級酒)は品質改良も頑張り、賞も頂いているのですが、県内精撰のご多聞にもれず中々厳しい結果でした。しかし全体で見れば、お陰様で若干の増産をする事と成りました。機械の整備も終わりいよいよ酒造りが始まります。

本日(十月十四日)季節蔵人第一号が入蔵し精米を開始いたしました。蔵人で米作りの先生佐藤博美氏(新幹線のトランヴェール十月号に一緒に載りました)の美山錦です。初蒸しは二十七日の予定です。

百四十一回目の酒造り。四股踏んで頑張ります。

今季もよろしくお願いいたします。

百四十一回目の酒造り

杜氏 一関 陽介

最低気温が十度を下回る日が増え、鳥海山の紅葉も一段と色づき秋深まってまいりました。大型の台風が頻発し、連日の被害が報道されており酒造用原料米の品質にも影響があるのでは…と少々心配な状況です。

天寿酒米研究会産の米に関しては、十月十日頃には刈取りが終了し新米の入庫が始まりました。冬期蔵人メンバーも収穫期を終え、既に入蔵しています。精米所では美山錦の精米を開始し、米の香りが所内に漂い、いよいよ本番!といったところです。

弊社では「酒造りは米作りから」始まるという考えの下、天寿酒米研究会の農家の方が出来る限り最高の品質を目指して育てた米を今度は造りの現場でしっかり観察し、商品イメージを膨らませます。「どの米をどういう酒に仕上げるのか」を想像するための非常に重要な工程が精米であり、削り方一つで酒質すべてに影響を及ぼすものでもある技術的に重要な工程です。米の収穫からお客様に届くまでにある工程すべてが大切なのですが、「飲んでいただく事を想像した原料処理」を蔵人全員で徹底して行きたいと考えています。

良い酒を生みだして行くには良質の米・水を原料にする事と同等に人(チームワーク)が不可欠です。人間味が伝わるような温かい酒になるよう頑張りますので、今期の酒にもご期待下さいます様よろしくお願い致します。

感 謝
2014-09-01

感 謝

代表取締役社長 大井建史

前半は猛暑後半は長雨と、近年の異常気象の典型的な夏でしたが、地元の田んぼは今の所「やや良」と言う事です。穂を垂れた圃場を眺めてその成長を喜びながらも、稲刈り前の台風を警戒している今日この頃です。

酒蔵では西京漬け・奈良漬け・粕汁等に使う夏粕の袋詰めをしながら、蔵や機器の保守点検をし、百四十一回目の酒造りの計画を練っている所です。もうすぐ、呑切(のみきり・新酒を夏越えで貯蔵しその品質を確認する事)もあり、前造りの挑戦の成果に期待しつつも九月は会社の期末でもあり、気持ち的には慌ただしくなって参りました。

七月二十八日(月)、東京・港区のコンラッド東京ホテルにおいて、本格的な国際的日本酒コンテストとして海外の審査員も多数採用して発足した、第八回インターナショナル・サケ・チャレンジが開催されました。http://www.sakechallenge.com/results.html

このコンテストの目標は、国際市場における日本酒に対する理解および認識を向上させ、流通と販売を促進することにあります。

先日その結果発表があり、山田錦やその他有名酒造好適米を使用した有名銘柄の中で、「大吟醸鳥海」と共に契約栽培グループ「天寿酒米研究会」産美山錦で醸した定番「大吟醸天寿」が金賞五点に入り、その中の最高得点を得て「トロフィー」を受賞いたしました。

昔から有る全国新酒鑑評会は、その年造った大吟醸の最高の部分を出品しますが、その他の海外も含めたコンテストでは、実際に販売されている商品そのものが出品されます。従いまして受賞酒その物を皆様は味わう事が可能になるのです。

十六年前に社長に成って以来「地元で出来る最高の酒」を目指して来た弊社です。近年は純米大吟醸鳥海山(今回銀賞)が色々受賞してくれておりましたが、出品酒クラスが多数出展される大吟醸の部で、全て地元産で「トロフィー」を受賞出来た事は、その方針が認められた様で私としては二重に嬉しく有難いのです。

そして今回は、大吟醸天寿「トロフィー」・大吟醸鳥海「金賞」・純米大吟醸天寿「銀賞」・純米大吟醸鳥海山「銀賞」・米から育てた純米酒「銀賞」・純米吟醸天寿「銅賞」・天寿純米酒「銅賞」と出品七点全てが銅賞以上を受賞いたしました。

厳しい要求に挑戦してくれた一関陽介杜氏を頭とする蔵人達と、永年天寿の酒質を支えて来て頂いた天寿酒米研究会の皆様、ありがとうございました。

何よりも力強くご愛顧くださっております皆様に、心から感謝申し上げます。

三年目の意気込み

杜氏 一関 陽介

七月に新酒造年度を迎え、早いものであっという間に二か月が経過しました。日中の厳しい暑さも和らぎ蔵の中も朝晩はひんやりと肌寒くさえ感じるようになってまいりました。蔵の中では純米酒粕の出荷に向けてパック詰め作業を進めております。私も入社して十一年目を迎えますが、これが終わるといよいよ仕込みが始まるなぁ…と感じる初秋の風物詩になりつつあります。

さて、今年度の酒造りについてですが、今心配なのはやはり原料になるコメの状況です。酒米研究会の調査によれば、今のところ気候によってコメに障害を及ぼすような傾向は見られないとの事で、稲作勉強中の私には安心できる一言でした。良質のコメが育つ期待感が増し、十月のコメの入荷がいよいよ待ち遠しくなってまいりました。

今秋で杜氏として三回目の造りを迎えます。只今社長・営業と共に「どのお酒を・どのくらい造るのか」を決定するための計画案作成真っ最中ですが、造りが始まってからは、ただひたすらに打ち込むしかできなかったこの二年とは違い、計画を立てる段階ですでに「どうしたら、自分達の酒が楽しく飲んでいただけるのか」をしっかりと考える余裕をもって臨もうとする自分の(頭の中の)姿勢に自分でもビックリしています。これは酒造りに携わる人間なら当たり前に出来なければいけない事ですし、今までも当然考えながら酒造りをしてきましたが、少し成長したようです。

今年度のお酒には、自分を支えて下さる方、いつも天寿を飲んで下さる方、これから天寿ファンになって下さる方に気持ちが伝わるお酒が届けられるよう、さらに努力して参ります。新酒ができるのを楽しみにお待ちくださいますよう宜しくお願い致します。

思 い
2014-07-01

思 い

代表取締役社長 大井建史

秀麗な鳥海山が毎日のように姿を現し、梅雨に入る寸前の落語を楽しむ会まで、夏のような暑い日も少々ありましたが、とても穏やかでさわやかな春の季節を過ごしました。

入梅と共に各地からゲリラ豪雨のニュースが相次ぎ、異常気象とは一時的な現象と言うより、地球が本格的に壊れて来たのではないかと、子供たちの為に心配になります。

今年創業百四十年を迎えた弊社ですが、代を繋ぐ為の立地条件が歴代で最も困難になっています。人口の流出及び減少・少子高齢化・農業人口の極端な高齢化と後継問題・空き家や空地の放置・野生動物による農作物被害・山林の荒廃、そのスピードは地元に住んでいても驚くほどです。私も町に対する思いはあっても中々思うに任せぬまま、酒蔵存続に奔走するこの頃であります。

そんな思いもあって、弊社のイベントは企画されています。矢島雪まつりに発展した天寿蔵開放、雪室開封や天寿を楽しむ会。鳳楽師匠を迎えての酒蔵寄席もその一つです。一席二十分程の通常の寄席に比べ、独演会であるこの会は、二時間かけて噺家が思う存分話芸を発揮してくれます。まして師匠の様な名人クラスの噺に、矢島の地でたっぷり浸る事が出来る非常に貴重な機会です。地元からの参加者は三分の一以下と少し残念ではありますが、他町や遠く県外からご参加下さる方も沢山で、いずれも天寿を楽しみたいと集まって下さる方々ですから大変うれしく大歓迎です。人が少なくなる程、人が集う場・晴れの場を創出し、活性化の一助となる事は大事ですよね。今年は小野新副市長(高校同期)や秋田市から浅利香津代さんも駆けつけて下さり、花を添えて頂きました。

6月13日「海中熟成酒プロジェクト」の引き揚げセレモニーが、南伊豆町中木地区で開催されました。昨年の11月から伊豆半島の先端の水がきれいで有名な海中15~18m・8℃~13℃に貯蔵され、その安定した温度と海中の揺れの中で熟成されました。瓶にはふじつぼ等が付着し、海中での長い時間の流れとロマンが感じられます。

このプロジェクトも人と人の繋がりや縁と、関係したダイバーの方々や商工会や役場の皆様のご努力、参加した15蔵、そして南伊豆町への思いで実行できました。本当にありがとうございました。

今後も地域の元気のもとに成れる様努力して参ります。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

新年度に向けて

杜氏 一関 陽介

梅雨も中盤、私としては原料米の生育状況が気になる時期になってまいりました。

もうすぐ夏本番と言いたいところですが、まだまだ寒暖の差が激しく、安定しない天候が続いております。そんな中、「天寿」の源となる天寿酒米研究会会員が育てる「美山錦」・「秋田酒こまち」の稲は少しずつ丈を伸ばし順調に成長を続けております。

昨年のこの時期は暑い日が続いたのも影響したのか、草丈が思ったより伸びて、後の収穫時の倒伏が予想された圃場もあったりと皆でいろいろと心配したのを思い出しました。本年度の現況は「五月中旬の田植えからこの間、若干気温が低温傾向ではあるものの、ひとまず順調に推移している様だ」との話をメンバーから聞き、少しホッとしているところです。

酒米研究会メンバーの日頃の努力への感謝はもとより、良質の米が地元にあるから酒造りが出来る事を有難く思い、私自身米についても今まで以上に勉強し酒造りに活かしていきたいと思います。

さて、蔵内では醸造期間中に使用した精米所の清掃がやっと終了致しました。言い訳になりますが、酒質の安定・向上を一番に考えて四月・五月は瓶詰・瓶火入作業を優先させた為、少々遅くなってしまいました。酒屋は清潔である事が不可欠ですので当然清掃は毎年丁寧に行うわけですが、前年度の反省点を踏まえた整備・改良を収穫期までに終了させ、万全の態勢で原料米の受け入れが出来るよう、これからの約三カ月で準備していきたいと思います。

六月三十日で平成二十五酒造年度も終わりです。しっかりスタートダッシュを決めて、新年度が良い一年になるよう頑張ってまいりますので今後ともよろしくお願い致します。

一歩一歩
2014-05-01

一歩一歩

代表取締役社長 大井建史

毎年の事ではありますが、今年も皆造(酒の搾りが全て終わる事)となり、大車輪で火入れ(熱殺菌)や酒蔵の片付けも終わりました。蔵人が田植えの準備に気忙しく家路につくと、その静寂に祭りの後の様な寂しさと、同時に満足して休息に入る蔵の充足感も感じます。百四十回目の酒造りが終わりました。

年末に品切れでご迷惑をおかけした純米大吟醸「鳥海山」を、今年は昨年より最大限増産に努め、四月はその瓶火入れと冷蔵倉庫収納に全力を尽くしました。それでも原料全体での玄米の使用量は増減の集計で3.4%増となりました。

今年の秋田県産米の品質は平年並みであり、昨年の高温障害による異常に融けない米とは違い、しっかりと味の出る米でした。一関杜氏は二造り目ですので昨年との大きな差に緊張したと思いますが、概ね満足の行く出来となりました。

また、秋田県企画の蔵付酵母も三年目でやっと分離され、今年から発売となります。他にも新酵母での醸造や醸造試験場との共同試験醸造で秋田生酛仕込にも挑戦いたしました。まだまだ商品化には早いものもありましたが、常に反省と改善の繰り返しです。何年たってもこれで良いと思う事無く、より上質を目指して挑戦です。

若手も一造り毎に成長し自信を深めていきます。四月からは東京農大短期大学から東京生まれの東京育ち高橋晶太君も新卒で入社し、意欲満々で仕事を始めました。百四十回目も収穫の多い酒造りになりました。

これらの新酒もPBを含め続々と出荷されております。是非お楽しみください。

話は変わりますが、天寿好きの農大ОBでヘリコプターの操縦をされている方から、何だかとてもうれしいお話を教わりました。以降がその文章です。

「ヘリコプターの操縦をしていますが、昨年の年末から、秋田の空のルールが変更になり、その際に「TENJU」という位置通報点が出来ました。添付ファイルでフライトチャートを確認して頂けるとわかると思いますが、秋田空港の西側海上に「TENJU」という三角形のポイントがあります。

特に航空会社のJALやANAの東京や大阪伊丹、名古屋セントレアなどからの秋田便は、風が東風の時にこのポイントを通過して着陸しています。

日常的に管制塔との交信では、管制塔から「リポートTENJU」との指示があった場合には、このポイントを通過し、上空で航空機側から「オーバーTENJU」と通報されます。」この通信を聞いていると天寿が飲みたくなるとおっしゃいますが…。

業界の方でないと判りませんし、なぜTENJUになったかはご本人も知らないようです。でも…なんかうれしいな!!今日の晩酌では一杯空ける度に「オーバーTENJU」なんてネ。

平成25年度の造りを終えて

杜氏 一関 陽介

ようやく雪も消え、矢島もいよいよ春の気配を感じられるようになりました。本年度の酒造りは四月十日をもって終了し、蔵の中は今期の後片付けを進めているところです。まず何よりも蔵人が健康で春を迎えられた事にホッとしているところですが、社内は吟醸酒の瓶詰め・瓶火入作業に追われております。

「お客様に飲んでいただくまでが酒造り」と社長にいつも言い聞かされており、お客様に美味しく飲んでいただく為、出来る限り最高の状態でお届けする為に社員一丸で取り組んでおりますので、今年のお酒にも期待していただきたいと存じます。

さて今年度の造りに関してですが、開始時は今年の米は良く溶けるといわれておりました。しかし天寿酒米研究会の米は溶けすぎる事はなく、平年通り良質で酒造りには非常に扱いやすく、昨年杜氏一年目での経験と、蔵人メンバーに支えられたおかげで原料処理から搾りまで順調で、天寿らしいキレイな作品に仕上がったのではないかと考えております。その年の天候によって米の出来は毎年違うわけですが、傾向は傾向として地元の農家の皆さんが安定した米作りをして頂いているおかげで、自分達も安定した酒造りができるという事を感じさせられました。

私自身、杜氏一年目の昨年はただ前を向いてただひたすら酒造りと向き合った一年でした。二年目も同じでした。ただ、言葉では言い表せない部分の経験値は上がっていると自負しております。今年経験したことを必ず来年度に活かすべくしっかりと反省し、一歩ずつ酒質と共にレベルアップして参りたいと思いますので、宜しくお願い致します。

元気なふるさとを
2014-03-01

元気なふるさとを

代表取締役社長 大井建史

正月以降、我家では雪の重みで座敷の戸が開かなくなり、屋根と庭の雪がつながり通路が真っ暗になりました。明り取りの為に窓を掘り出しましたが、それは例年の事、久々に雪が少なく今の所無事に過ごしております。

関東大雪のニュースに、最初は東京生まれの家内が「雪国なめるな」と冗談を言っていましたが、あまりの混乱や被害に東京の娘たちを心配し始め、知らないと言う事が如何に恐ろしい事かを同情しながら一緒に思い知っておりました。

若い頃は人間はもっと賢いと思っていました。地震の対策で五十年前・百年前の教訓をと言う話がありますが、普通は到底無理な話です。人間は如何に容易く忘れるか?記憶に頼る対策は無いと同じですね。明確な形にして常に語り続けなければ忘れられます。記録をきちんと残し、読み返す事。そう思いながらも私が帰ってから現在で四代目の杜氏ですが、前の杜氏達の実験記録は他の人が理解するには判り辛く、又は紛失し残念ながら私の断片的な記憶しか残っていない事が沢山あります。記録は杜氏がと思ってきましたが、今になると結局皆がわかる共通情報に(少なくとも私が引き出せるように)しておくべきだったと反省しきりです。

二月も終盤に入り大吟醸が続々と上槽されています。その出来に一喜一憂していますが、天寿酒造百四十回目の酒造りも確かな手ごたえを感じながら、充実した酒造りと成っております。

昨年の高温障害による超溶けない米と違い、味もしっかり乗りますし、気を付けないと溶け過ぎてくどくなる可能性もあります。そこをしっかり管理するのが原料処理です。時間をかけた丁寧な精米・吟と付く酒は全てザル洗いの洗米・バキュームをかけ全量計量する正確な吸水・そして狙い定めた蒸米、この洗米から蒸米を最長老の元気な釜屋直千代氏と三年目ながら元気で気配り人間の人気者角栄君が努めています。原料処理がしっかり安定しないと、改善の評価をする事が出来なくなります。改善の成果を明確にするには一本の酒仕込の全工程で一か所のみにしなければなりません。コツコツとしかし飽く事無く積み重ねて初めて土俵に乗る事が出来るのです。

今年は契約栽培グループ天寿酒米研究会に二名の新人を迎え、三・三hrの増産が出来ます。五年以内の40%減反達成とその後の減反政策廃止の発表により、地方の小規模農業には希望が見えて来ません。それがなくても十年以内に我町の田んぼの一割は耕作放棄地に成るそうです。急速な老齢化と人口減少にゴーストタウンが各地に出来始めるのも遠い将来ではありません。しかし、日本を活性化するには人口増。その為には絶対に地方の元気を取り戻す事が必要だと思います。地方の酒蔵の存続も立脚している地域の情勢が大きく左右します。インフラのコンパクト化や集約も重要ですし、不在地主の空き家・空地の収用が可能な法整備も切実な問題になってきました。(都会に出た人々の空き家・空地が活性化の阻害要因になっています。雪寄せは近所がボランティア、土地も売れるどころか家の解体費で出費になるし、長年の放棄により相続人が多数に成っていたり…せめて役場に要らないと言ってくれていれば行政もどんなに助かるでしょう)

働く所は必要ですから、企業誘致も大切ですが地元農業と共に健全な形の共生を模索・実現したいものです。

補遺―26

矢島酒造組合規約制定趣意書

六代目 大井永吉

大井本家資料の中に次ぎの文書があった。組合規約制定趣意書の下書きである。署名はないが当時組合長だった大井清造氏の起文と見られる。

趣 意 書

物産ノ盛衰ハ土地ノ適否ト衆寡ノ協否トニ係ル抑矢島地方ハ米産ニ富ミ加ルニ薪炭雇人ノ廉価ナルノミナラス至ル所清水混々一トシテ酒造ノ材料アラサルハナシ実ニ天賦ノ好地位ナリ今ヤ酒造ノ盛大ニシテ販路ヲ拡張セントスルハ其費貲ラス固ヨリ一個人ノ為ス能ハサルモ衆寡協同ヲ以セハ豈リ為シ難カランヤ是ニ於テ明治弐十年中本県知事公ノ御諭達ヲ遵法シ酒造営業者協心戮力シテ矢島酒造組合規約ヲ設ケ従来ノ弊習ヲ一洗シ鋭意酒類ノ改良ヲ計り而シテ其販路ヲ拡張セント欲スルニアリ蓋シ当地方酒造業従来甚タ幼弱ニシテ製造完全ナラサルアリ動モスレハ腐変スルノ患ヒナキヲ保セス之レ本業者ノ最モ注目スル所ニシテ敢テ改良ニ参加セズンバアルベカラス今ヤ文明ノ利器アリ科学的ノ作用アリ其ノ適当ノ方法及ヒ器械ヲ以テ不撓耐忍以テ此業ニ励精セハ其功奏セン亊豈遠キニアランヤ乍併是モ一時ノ理論ニ偏スルノ感ナキ能ハス其ノコレヲ目下事業ニ専用スルハ容易ニ実行シ難タキモノヽ如シ先ツ実験ノ功ヲ積ミ而シテ学理的ヲ併行シタランニハ実ニ夫レ完全ナラサルヲ得ンヤ茲ニ於テ同業組合中協議ノ末各國酒造業ヲ視察シ同業実験家ニ就而懇篤ニ醸造ノ精製器械ノ適否其他酒造業ニ関スル百般ノ事項ニ至ル迄或ハ問ヒ或ハ質シ彼我利益ノアルヲ只管請フ所ナリ希クハ各位同業諸君拙組合ノ志願ヲ御許容アラセラレ本業ニ係ル一切ノ事項懇々御教示ヲ得度聊趣意ヲ盡シ以テ切ニ希望スル所也

頓首再拝

矢島酒造組合が秋田県内では最も早い時期に設立され、組合事業として丹波杜氏鷲尾久八氏を招聘し(後年は個々の蔵の指導あり)約十年間にも及ぶ指導や、自己研鑽により矢島酒造組合の各蔵元の酒質は飛躍的に向上し、銘醸地として「矢島酒」の名声を得るに至ったのである。実に先進的な矢島の蔵元たちであった。

油断大敵
2014-01-01

油断大敵

代表取締役社長 大井建史

明けましておめでとうございます。

昨年中はご愛顧いただきまして誠にありがとうございました。心より感謝申し上げます。

矢島の里の元旦は弱い雨の降る穏やかな気候で、例年社員のほとんど居ない三箇日の雪寄せは、私の出番で往生するのですが、今年は楽にすみました。

百四十回目の酒造りも中盤に入り、一月からは大吟醸等重要な仕込が続きます。二年目になった一関杜氏をはじめ蔵人達も今期の酒造りの正念場に、酒蔵にはより一層緊張感が漂っています。

天寿の酒造りへのこだわりは「地元で出来る最高の酒を造る」事。何を持って最高とするかは、

○地元で出来る最高の米を育て使用する。

○地元の母なる鳥海山の水を使用する。

○昔から良いと言われて来た製法を検証し、その良さをとことん追求する。

○今自分達が出来る最高の品質・品位を生み出すと言う事になります。

いくら理想を述べても、その実現に緩みや油断があるとあっと言う間に崩れていくのが酒造りです。

昨年の高温障害の米と比べ酒米の質はグッと良くなりました。昨年あれ程溶けなかった米が何の苦労も無く溶けて行きますが、当然その事で酒の味は濃くなりやすく、甘くなりやすく…全てが変化の要因となります。全体として酒造好適米が足りないので、純米大吟醸鳥海山でも、どちらも契約栽培ではありますが美山錦と酒こまちの両方が使用されます。これも味の変化の要因になります。

ここで重要なのはブレない事。1パーセントもずれない事。理想を求め緩まない事こそが大事となるのです。

例えば「原料米」で話をすれば、同じ産地の米→同じエリアの米→同じ人の米→同じ田んぼの米、同じ品種が理想となるのです。これにより均一な質の精米ができ、ブレの少ない均一の吸水となり、整った蒸米となります。この安定した原料処理が出来る事で、新しい試みの効果が初めて確認出来る様になります。

ブレない酒造りの中で如何に挑戦するか?気力を如何に維持するか?

勝負の時を迎えます。

本年も変わらぬご愛顧の程よろしくお願い申し上げます

補遺―25

矢島酒造組合規約制定趣意書

六代目 大井永吉

八月の返信に対し、再度交渉されたとみえて、九月に成約の回答である。

『貴墨拝見仕り候。時下秋冷相厳し候所、御満堂様御健勝上賀奉り候。陳者貴殿御懇切にお申し越し下され、有難く、実は九州地方より雇い入れの義、申し込まれ候得共、相成るべく御地方の方へ罷り越し度候義に付、尤も殊に御懇意をも蒙り居り候を以て、貴殿御申越し成られ候通り、三ヶ月を百五拾円にて、路費等小生引き受けにて御雇入下され候事を承諾仕り候間、御雇入下され度、出発は本年十一月下旬と相見込み居候。依って左之通、申上候。

右給料之内。六拾円丈、前金として十一月上旬迄に丹波国篠山郵便局へ為替にて御振込成られ度、御依頼申上候。

右之通りに付、須貝様へも宜敷御申伝へ下され度、何れ参舘之節は、尓直宜敷御依頼申上候。

明治三拾年九月十二日

摂津国有馬郡小野村ノ内丹後村

鷲尾久八

大井様』

交渉の結果(須貝酒造場と兼務の指導か?)八月よりは有利な条件で契約成立したようである。住込みで食・住は雇い主もちだから、当時としてはかなりの高給だったと思われる。《参考までに明治三十年頃の物価をネットで調べてみると、「当時の一円は?」の問いにベストアンサーとして、『石川啄木が明治三十七年に岩手県の小学校の先生だった時の月給は八円だったそうです。八円で部屋代払って炭代払って一家五人が何とか暮らせたのですから生活費の安い地方では今の二万円近い値打ちがあったのでは?』とあった。》

器械(設備、道具)の問いについても回答(別紙同封)があった。

○御新調下され候器械之義は、エダ桶(枝桶)御都合拾三、四本、尤荒木之寸法は四尺

幷にフタは枡に応じ御調下さるべく候。

○親桶は在来之分にて宜敷と相考候。

○掛ケ船は拾弐石掛ケ位、尤ツギ輪ともの亊に候。横幅内ノリ弐尺三寸、長さ大阪袋(モロミ)入レ八枚、ならびに成されたき所は、大工職の者承引致し居り候。

○袋数は凡四百枚入用に付、尤二タかわりと相成候。

猶なお、真に申上兼ね候得共、醸造好結果を得たる節は、氏神へ供にも神酒を御交付成され候亊を御承諾下さる可様、兼而願い上げ奉り候。

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