再び挑戦
代表取締役社長 大井建史
天寿の里矢島は、お盆を過ぎた頃から急に朝晩が過ごし易くなり、あれ程待ち望んだ雨もこの頃は青空が待ち遠しくなるような変わり方です。八月の前半まではあまりの猛暑に稲作の高温障害を心配しましたが、この半月の秋めいた状況にその心配はないと専門家が言っておりますので一安心です。ただ、茎が伸び過ぎた事を心配されている方もいますので、台風などで稲が倒れない事を祈るあと半月。稲刈りが終わると酒造りに突入です。
八月二十四日秋田県醸造試験場から場長他三名の先生方が来られ、私も一緒に呑み切りを行いました。これはまず今年仕込んだお酒を全て並べ、異常がないかを確認。その後熟度・酒質等の評価を致します。複数本仕込んだお酒も、別々に一本ずつ唎酒をし、その状況を審査表に書き、他の審査員の評価と照らし合わせます。その後に全員で評価会を行い、良い又は悪い評価が共通の認識となるのか確認をします。
また、私の方から今期の酒造りの狙いや方向の話をさせて頂き、その結果について色々と議論を交わします。この時間が我々にとって多くの教訓やヒント、又励みになります。翌日には関係の深い酒屋さんに呑み切りに参加いただき、さらに議論を深める事が出来ました。ご参加いただきました皆様、本当にありがとうございました。
弊社では五~六年の歳月をかけて検討し十年程前からタンク貯蔵に一切炭素を使用しなくなりました。今回は全品異常なしとの評価の後、「精撰(旧二級酒)にも炭素を使わずに貯蔵できる酒質は宣伝に使えますね」とのお褒めを頂きましたので、早速皆様に報告をさせて頂いている次第です。
現在は瓶貯蔵の商品も多く、その仕込みタンク毎の審査が難しく成って参りましたが、可能な限り既に売り切っている商品も呑み切り用に残して審査をしております。
この結果が次の酒造りの挑戦目標・改善目標を明確なものにしてくれるのです。この二年をかけて試験醸造をした七本の生酛系純米酒も、求めていた酸味を造ってくれる様に成って参りました。燗の美味しい落ち着いた純米酒を来年には皆様にお届け出来ると思います。
また、今年は洗米・蒸米の更なる改善を致します。うまく行く様であれば、来年夏には釜場の大工事となる計画です。
今年も一部商品の品薄で大変ご迷惑をお掛けいたしました。安定した大人の酒蔵として可能な限りご希望に応えられますよう努力して参ります。
百四十二回目の酒造り、どうぞご期待ください。
「山内杜氏」
杜氏 一関 陽介
お盆を過ぎ、朝晩が涼しく少しずつ秋の気配が感じられるようになりました。お盆の忙しい時期を終え一休みしたいところですが、蔵内は酒粕のパック詰・ひやおろしの出荷でフル回転しています。
さて、この八月初旬に開催された山内杜氏酒造講習会にて山内杜氏資格試験を受験し、無事合格致しました。入社して十二年目に「山内杜氏」の仲間入りを果たすことが出来ました。今までお世話になったすべての方々に御礼申し上げます。
社内では三年前から酒造りの長「杜氏」に就任しております。杜氏は資格・経験年数ではなく、会社の命令で決まります。ではなぜ杜氏試験を受験したのか…。
①正式な「山内杜氏」となりたかった。
②「山内杜氏」になる事は今までの経験の積み重ねであり、お世話になった方への恩返しになると考えた。
③現役の杜氏として「山内杜氏」という杜氏集団を今後継続・発展させる為の一人になりたいと思った。
この三点が受験の大きな理由です。
現代の清酒業界は杜氏集団や流派などのこだわりは薄くなってきているように感じますが、私は合格したことで「本物感」、「達成感」がありました。また若輩ながら杜氏になれた事で、次の世代へ繋ぐ「緊張感」すら覚えます。
私が今このような事を感じられているのは、間違いなく会社はもとより前杜氏や先輩・家族の教えがあったからだと思います。本当に感謝の一言に尽きます。
酒造りは、杜氏一人の力ではなく、蔵人と共に力を合わせ作業をすることで成り立ちます。チームワークの良し悪しは杜氏の技量。そしてそれがより良い酒質につながると思います。その事を自分の心の中心に置き、合格の喜びを噛み締めながら、「感謝する心」を胸に刻んで今期の造りに向けて準備をしていきたいと思います。