古酒
代表取締役社長 七代目 大井永吉
この度 クラマスター2025 審査員賞(各部門トップのプラチナ受賞酒の中のトップ)を2022の生酛部門に続き古酒部門でも受賞しました。9月下旬には表彰式に出席するためパリに行ってまいります。
日本では古酒のコンテストがありませんが、平安の昔から貴族が古酒を楽しんでいたという文献があるように、熟成貯蔵した日本酒を楽しむ文化は昔からありました。しかし、現在は大吟醸・純米大吟醸・純米・本醸造・普通酒などお酒の醸造方法も多く、貯蔵方法もタンク・樽・瓶など、また貯蔵温度も極低温から常温まで多岐にわたり実施され、様々に表現されるようになり、どのタイプを「佳い古酒」とするか大変審査が難しいものと思います。
弊社も所属しております「刻SAKE協会」も日本酒の付加価値創造に熟成は非常に重要な要素と考え、時間だけが創る事の出来る味わい、世界の酒共通の貯蔵という熟成手法による付加価値の創造と、そのメンバーである天寿の古酒が審査員賞に輝いたことは、日本酒と刻SAKE協会の将来に大きく影響する予感がしませんか?
天寿の古酒は昭和47年の大吟醸の発売開始まで遡ります。昭和40年代は全国的にも大吟醸の販売は先駆けで珍しい時代です。
大吟醸が世間に認知されていないのですから、全国新酒鑑評会出品酒以外は当時の特級酒にブレンドして販売をしていました。その頃の出品酒は現在と反対の非常に若いもろみを上槽した酒が評価され、市販の酒としてはきれいではあるが味の乗りが悪く硬かったそうで、その硬さや薄さの改善方法として貯蔵熟成するためにタンク貯蔵し、酒の状態を確認しながら発売したのが、「3年貯蔵古酒大吟醸天寿」だったのです。
現在販売中の古酒大吟醸は先日行われた刻SAKE協会総会での持ち寄り利き酒でも大好評でした。他の酒より若い7年古酒でしたが、香りにきれいな熟成感があり、味のりも大吟醸の風格を損なう事の無い、酒全体のバランスを取りながらも丸く広がっていく…古酒には素晴らしくバランスが良い至福の時が何年間の中に度々おとずれるような気がします。シェリー・マデイラ・老酒など醸造酒でも長期熟成を目指す酒があります。通常味わっている日本酒の味とは異なりますが、私は海外のどの酒にも負けずに、柔らかさと繊細さが優れて上品であると思います。
家には紹興酒花彫甕をまねて、我が子の3人娘が生まれた年の全国新酒鑑評会出品酒を7度の冷蔵庫に貯蔵しております。
いつかこの掌上明珠が素晴らしいレストランのテーブルで輝くことを夢見て!!
新年度に向けて
杜氏 一関陽介
8月に入りました。7月中旬から2週間以上雨が全く降らず、こんなに雨が降らない7月は今までなかったのでは?と思い気象庁のデータを調べてみると矢島の7月の降水量は1か月で20㎜。昨年は災害級の大雨に見舞われ477㎜。数年遡ってみても平均100㎜は超えているようです。ハッキリ言って異常気象です。
天寿酒米研究会の農家さんの圃場も7月下旬から穂が出始めましたが、連日35℃に迫る気温と水不足で管理が大変な状況です。この時期の水不足は登熟障害や品質低下に大きな影響を与える為、とにかく早く少しでも雨が降ってくれないかと毎日祈っています。
酒造りをする私達にとっては、夏の最高気温が高い→米に高温障害が出る→酒造りに影響が出る(割れる・溶けない等)という流れが近年常態化しつつあります。それでも収穫された米をどうすれば美味い酒にできるのかしっかり考え、栽培農家さんの苦労を胸に刻んで酒造りをしたいと毎年思っています。これから秋に向けては台風など様々な試練がまだまだ待ち構えていそうですが、なんとか無事に収穫を迎えられるようにと願うばかりです。
さて、7月下旬に私が所属する山内杜氏組合の夏期講習会が行われました。毎年この時期に秋田県内の技術者約150名が参加する会で、私は講師として天寿の麹造りをメインに麹の製法や酒造りにおける麹の役割など基本的な内容も織り交ぜ約1時間にわたり講義をさせていただきました。
麹はその持つ力によって出来上がる酒の味に大きく影響し、酒造りの工程の中で1番重要とされているもので、且つ麹に求めるものがメーカーそれぞれで違う為、非常に重要で難しい任務であったと感じています。近年、酒の味が多様化してきていることからも、その味の決め手となる麹作りも万流になってきているのだと推測されます。工程も大事だと思いますが、まずは微生物を扱うことの楽しさや怖さ、微生物がより活躍しやすい環境を作るための衛生管理ができて初めて自分達が求める麹作りができるのだという基本的でありながら大事な事は伝えられたのではないかと思います。教える・伝えることは難しく、あまり得意ではないのですが、聞いてくださった方にとって少しでも有益なものになっていればと願っています。
私は平成24年度に杜氏に就任し、今年度で14年目になりました。自分ではまだまだ勉強中の身と思っていても、杜氏歴では中堅~ベテランの域に入ってまいりました。冒頭にも記した通り、原料米の品質が今年度も心配されますが、酒造りのプロとして何ができるのかを今からじっくり考え、ここから2か月しっかり頭の中で酒造りのシミュレーションをしたいと思います。いざ酒造りが始まった瞬間から冷静に動けてこそベテラン。早くそうなれるよう今酒造年度も頑張ります!