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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

古酒
2025-08-19

古酒

代表取締役社長 七代目 大井永吉 


 この度 クラマスター2025 審査員賞(各部門トップのプラチナ受賞酒の中のトップ)を2022の生酛部門に続き古酒部門でも受賞しました。9月下旬には表彰式に出席するためパリに行ってまいります。

 日本では古酒のコンテストがありませんが、平安の昔から貴族が古酒を楽しんでいたという文献があるように、熟成貯蔵した日本酒を楽しむ文化は昔からありました。しかし、現在は大吟醸・純米大吟醸・純米・本醸造・普通酒などお酒の醸造方法も多く、貯蔵方法もタンク・樽・瓶など、また貯蔵温度も極低温から常温まで多岐にわたり実施され、様々に表現されるようになり、どのタイプを「佳い古酒」とするか大変審査が難しいものと思います。

 弊社も所属しております「刻SAKE協会」も日本酒の付加価値創造に熟成は非常に重要な要素と考え、時間だけが創る事の出来る味わい、世界の酒共通の貯蔵という熟成手法による付加価値の創造と、そのメンバーである天寿の古酒が審査員賞に輝いたことは、日本酒と刻SAKE協会の将来に大きく影響する予感がしませんか?

 天寿の古酒は昭和47年の大吟醸の発売開始まで遡ります。昭和40年代は全国的にも大吟醸の販売は先駆けで珍しい時代です。

 大吟醸が世間に認知されていないのですから、全国新酒鑑評会出品酒以外は当時の特級酒にブレンドして販売をしていました。その頃の出品酒は現在と反対の非常に若いもろみを上槽した酒が評価され、市販の酒としてはきれいではあるが味の乗りが悪く硬かったそうで、その硬さや薄さの改善方法として貯蔵熟成するためにタンク貯蔵し、酒の状態を確認しながら発売したのが、「3年貯蔵古酒大吟醸天寿」だったのです。

 現在販売中の古酒大吟醸は先日行われた刻SAKE協会総会での持ち寄り利き酒でも大好評でした。他の酒より若い7年古酒でしたが、香りにきれいな熟成感があり、味のりも大吟醸の風格を損なう事の無い、酒全体のバランスを取りながらも丸く広がっていく…古酒には素晴らしくバランスが良い至福の時が何年間の中に度々おとずれるような気がします。シェリー・マデイラ・老酒など醸造酒でも長期熟成を目指す酒があります。通常味わっている日本酒の味とは異なりますが、私は海外のどの酒にも負けずに、柔らかさと繊細さが優れて上品であると思います。

 家には紹興酒花彫甕をまねて、我が子の3人娘が生まれた年の全国新酒鑑評会出品酒を7度の冷蔵庫に貯蔵しております。

 いつかこの掌上明珠が素晴らしいレストランのテーブルで輝くことを夢見て!!


新年度に向けて

杜氏 一関陽介 


 

8月に入りました。7月中旬から2週間以上雨が全く降らず、こんなに雨が降らない7月は今までなかったのでは?と思い気象庁のデータを調べてみると矢島の7月の降水量は1か月で20㎜。昨年は災害級の大雨に見舞われ477㎜。数年遡ってみても平均100㎜は超えているようです。ハッキリ言って異常気象です。

 天寿酒米研究会の農家さんの圃場も7月下旬から穂が出始めましたが、連日35℃に迫る気温と水不足で管理が大変な状況です。この時期の水不足は登熟障害や品質低下に大きな影響を与える為、とにかく早く少しでも雨が降ってくれないかと毎日祈っています。

 酒造りをする私達にとっては、夏の最高気温が高い→米に高温障害が出る→酒造りに影響が出る(割れる・溶けない等)という流れが近年常態化しつつあります。それでも収穫された米をどうすれば美味い酒にできるのかしっかり考え、栽培農家さんの苦労を胸に刻んで酒造りをしたいと毎年思っています。これから秋に向けては台風など様々な試練がまだまだ待ち構えていそうですが、なんとか無事に収穫を迎えられるようにと願うばかりです。

 さて、7月下旬に私が所属する山内杜氏組合の夏期講習会が行われました。毎年この時期に秋田県内の技術者約150名が参加する会で、私は講師として天寿の麹造りをメインに麹の製法や酒造りにおける麹の役割など基本的な内容も織り交ぜ約1時間にわたり講義をさせていただきました。

 麹はその持つ力によって出来上がる酒の味に大きく影響し、酒造りの工程の中で1番重要とされているもので、且つ麹に求めるものがメーカーそれぞれで違う為、非常に重要で難しい任務であったと感じています。近年、酒の味が多様化してきていることからも、その味の決め手となる麹作りも万流になってきているのだと推測されます。工程も大事だと思いますが、まずは微生物を扱うことの楽しさや怖さ、微生物がより活躍しやすい環境を作るための衛生管理ができて初めて自分達が求める麹作りができるのだという基本的でありながら大事な事は伝えられたのではないかと思います。教える・伝えることは難しく、あまり得意ではないのですが、聞いてくださった方にとって少しでも有益なものになっていればと願っています。 

 私は平成24年度に杜氏に就任し、今年度で14年目になりました。自分ではまだまだ勉強中の身と思っていても、杜氏歴では中堅~ベテランの域に入ってまいりました。冒頭にも記した通り、原料米の品質が今年度も心配されますが、酒造りのプロとして何ができるのかを今からじっくり考え、ここから2か月しっかり頭の中で酒造りのシミュレーションをしたいと思います。いざ酒造りが始まった瞬間から冷静に動けてこそベテラン。早くそうなれるよう今酒造年度も頑張ります!

令和の米騒動
2025-06-18

令和の米騒動

代表取締役社長 七代目 大井永吉 


 日本全国で国産米が高騰し騒然としておりますね。三年前まで二十年も日本酒の値上げがなかったのは、全体的な販売不振もありましたが、日本の米価が下がり続けた為コスト的に何とかなってきたからです。

 日本は米の消費量が減り続け、食糧自給率や食糧安保に危機感を持つ一部の国会議員以外の無関心議員も、日本の農家の弱体化にやっと気づき、突然農家への同情を表し農業政策をにわかに攻撃し始めました。

 高齢の農業従事者は長年の厳しい農業環境に子供たちへ農業に対する希望が与えられず、後継者がほとんどいない状態で、秋田県だけでも近年は毎年百人以上の高齢離農者がありますから、それだけでも大変な稲作の減少になっています。

 農水省や農協が米の作付面積や収穫量を把握出来ないなどとだれが想像できたでしょう?社会一般の会社が自社で製品をどの位作るか又は作ったか判らないと言っているようなもので、信じがたいです。

 農水省や農協の予想より不作だった・投機的な買い占めがあった・インバウンドでたくさん食べられた・補助金をつけて海外に販売した。色々ととりざたされておりますが、結果的に農家に良いことはほとんどありません。

 庭先販売と言うようですが農家から業者が直接現金で高値での購入をされたところは、例年より倍額以上の売り上げになった様です。しかし、農協経由のものは制度上農家に高値となったお金がまだ入っていないとの事。備蓄米はやっと市場に出始めましたが、スーパーなどの量販店が発注した外国産米もこれから大量に店頭に並ぶようです。高値で買った業者や投機目的者は損をするので安値では販売できず、結果、せっかく米価が上がったのに上がりすぎて販売価格が倍以上では、一般家庭では米離れが加速し、外食産業では国産米の使用をあきらめ、我々酒造業などは昨今の物価高騰の上に、この秋には原料米がさらに倍になるとの見通しに呆然としているのが現状です。長年にわたって築いてきた契約栽培継続の為には農家を犠牲にすることなど到底できませんので、倍額になろうとも購入して翌年の契約に繋げていかなければなりません。

 農協との次年度価格の協議では今年度の更に倍額の要求で、原料米は約束通り購入し酒造りはいたしますが、簡単に酒の値上げもできず途方に暮れるこの頃です。

 守るべき国の基幹産業である農業にどう希望を持たせる事が出来るか、いま皆で考えなければ取り返しがつかないところまで来ていると思います。


熟考する夏

杜氏 一関陽介 


 突然ですが、昨年の同時期と同様の事をご報告できる喜びに浸っております。五月末に審査結果が発表になりました、令和六酒造年度全国新酒鑑評会において金賞をいただくことができました。

 三年連続での金賞、杜氏就任から十三年で七度目の金賞受賞(他入賞四回)となりました。忘れることのできない入賞できずに苦しんだ平成二十七・二十八年度があり、そこからほぼ連続で受賞できるようになった自分のチームの成長を自分で褒めたいと思います。

 また、IWC・クラマスターなど国際的日本酒コンクールにおいても上位の賞をいただくなど、今酒造年度を好成績で締めくくることができました。飲んでくださるお客様のおかげで毎年酒造りができ、それによって私達蔵人の技術が向上できていることに感謝を申し上げます。

 先日、全国新酒鑑評会製造技術研究会に参加し、全国から集まった出品酒を利き酒してきました。令和六年度産の原料米は全体的に難溶傾向であった為、その溶け難い性質からキレイな酒が多かった印象でした。

 弊社の出品酒も同様ではありながらも、華やかで味にふくらみのある酒質であったという自己評価です。金賞をいただくことができた理由を考えつつ、来年度も良い結果を出してこの場に戻れるように頑張ろうと思いながら会場を後にしました。

 また、私も久しぶりの県外出張でしたので、その足で広島県・千葉県の酒蔵の見学をさせていただきました。日本酒を造るという意味では同じですが、気候や米・水等の原料は当然のこと、使用する道具や製法、コンセプトの違いを実際に聞いて肌で感じることができる有難い時間となり、どちらの蔵もベストを目指し様々な事に取り組まれているとのご説明に感銘を受けました。また、自分達の酒造りについて考える上でヒントを与えていただいた有意義な時間となりました。

 時代の流れは早く、今良いとされている流行り(昔からあるが見直されていることを含む)の技術や求められている酒質は短期間で変化するため、蔵の中だけにいるとその流れに追いつけなくなる可能性があります。そういった中で情報を共有していただける横の繋がりは非常に有難く大切です。

 令和七年度も原料米の価格高騰と夏の高温による品質への障害が予想される等、今から心配事は山積みです。それは原料米には限りませんが、できるだけ沢山の方と情報交換をさせていただきながら、令和七年度の自分達の酒造りに起こり得る問題を想定し、どう立ち向かうのか、今からしっかりと熟考する夏にしたいと思います。

甑倒し
2025-04-24

甑倒し

代表取締役社長 七代目 大井永吉 


195回目の酒造りも4月12日に甑倒しとなりました。

甑とは酒造りで米を蒸す時に使われる巨大な蒸籠の事で、酒仕込みの為の作業が終わり、残す作業はその出来上がりを搾るだけとなった事を言います。その年の酒造りの山を越えたという事で一安心し皆でそのお祝いも行います。

昨今の酒造りは温暖化の季節変動による原料米の生育状態への対応に追われるのが、ある意味一番の困難と言えます。今年は近年の中では原料米の高温障害が軽度であったため、過剰に吸水させ、米を溶かしすぎない事や、雪不足による温度管理等例年には無い対応に追われました。ただ、4月の前半にかけて比較的気温が低く、酒造りの環境や生酒対応には大助かりでした。

今年の酒造りでは、昔から精撰等を中心に使用している協会7号酵母に注目し、色々な酒で試してきました。12月初めに県内限定で新発売した「天寿印のにごり酒」の味わい重視の設計や日本名門酒会限定の辛口純米「SHI・CHI・SEI」の炭酸ガス含みのフレッシュ感・その他酒屋万流企画の白ブドウのようなジューシーな香りの吟造り純米酒など、同じ協会7号でもこれ程の違いが出るのかと目を見張りますよ!

和食や日本酒などの伝統的酒造りがユネスコの世界遺産となりましたが、日本国民の食はどうなっているでしょう?労働力不足のためにすべての国民に仕事をすることを求め、子供の塾なども含め全ての日本人が忙しく、食事を個々で食べざるを得なくなり、結果家族で食卓を囲む機会が激減し、食は楽しむものではなく栄養を確保するためのものとなって来ているのではと思います。若者がお酒を飲まなくなったのはこの為とも言われております。

日本の食文化は「四季折々の自然の恵みを大切にし、感謝の気持ちと共に受け継がれて来たもの」とあります。

皆さま、美味しく楽しく食事をすることは、人生における大きな楽しみであり幸せであります。美味しい酒の飲み方も、親が楽しく飲んでいる姿を見せていないと伝わらないですよね。

私共も色々なシーンや料理に合うお酒を懸命に造っておりますので、是非ご家族皆様でお楽しみください。


メンテナンス

杜氏 一関陽介 


本日4月15日、例年だとこの文章を書くのは、弊社恒例イベントである雪室氷点熟成生酒の発売後なのですが、今年は少し早い筆取りです。一昨昨日、令和6酒造年度の甑倒し(仕込み終了)を迎えました。なんとか仕込みを終えることができ、ホッとしております。酒造りには私を含め13名が携わり、その内の5名が季節雇用(冬季のみ)です。仕込みが終わったことでそのメンバー達も任務を終え少しずつ少なくなり、本日で5名全員が退蔵し、蔵の中もどこかさみしくなりました。それでも搾りはゴールデンウィーク直前まで続きます。残った私達と瓶詰め出荷作業がメインの社員とで何とか乗り切らなければなりません。桜の便りが近づいてきており浮かれてしまいそうですが最後まで気持ちを切らさないように頑張ります。

さて、今年の酒造りを振り返ってみようと思いますが、一言で言うと、とにかく物が壊れる年でした。弊社の酒造りには米を量る、蒸米を冷やす、もろみを冷やす・搾る、酒を運ぶ等々沢山の機械を使用しています。全部ではありませんが、昨年末に次々と異常・破損する事態となり、緊急での修理、同業者様への委託、代替品や人力のおかげでどうにか終えることができたというのが率直な感想です。メンテナンスの大切さはもちろんですが、困った時にすぐ対応していただける業者様、お互いに知恵を出し合って乗り切ろうとしてくれる蔵人メンバーの大切さや有難さが身に沁みました。物によって故障原因は様々ですが、ここまで続くかというほど立て続けに起こったことで当時の私のメンタルも平穏ではなかったわけですが、もう少し面倒見てくれよと機械達から訴えかけられたのかなと今となっては思えるようになりました。

また、肝心のお酒の方はと言うと、毎回話している原料米が溶けない問題は、昨年に比較すると改善しているものの、やはり今季も溶けが悪かったなという印象です。それでも対策の上で出来上がった酒は全体的に良かったという自己評価です。この数か月でお客様からいただいた受注状況や出品した鑑評会や各種コンテストの入賞率からみても酒質設計は良い方向だったのかなと思える商品が多く一定の満足感を感じられています。

米の価格高騰を含めた物価の上昇により、家計を切り詰めざるを得ない状況の中で日本酒も節約の対象になるのではと推測してしまいます。生意気ながら少しでも多くの方の必需品でありたいと思いながら酒造りをしている私ですが、その為にするべき事は求められる酒であり、かつ自分達らしさが表現された高品質な酒を造り続けることだと考えています。まずは残り少ない今年の酒造りを最後まで気を抜かずに終えること。そして機械も私もしっかり次の酒造りでも活躍できるようにメンテナンスをしてあげたいと思います。


乾杯
2025-02-26

乾杯

代表取締役社長 七代目 大井永吉 

 

先日の立春朝搾りへのご予約ありがとうございました。天寿酒米研究会産契約栽培酒造好適米美山錦は過去2年間ほど極度の高温障害に悩まされました。今年は出穂時期にそれほど気温が上がらなかった為状態が良く、一部水害の被害はありましたがお陰様で醗酵は順調に推移しバランスの良い味わいとなりました。4合瓶換算約6000本の出荷となり誠に有難く心から御礼申し上げます。

2013年の「和食」に続いて2024年12月に「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録が決まったと前号で書きましたが、これは単なるアルコール飲料ではなく日本の重要な文化として世界に認められたと言うことです。

パリで行われる日本酒コンクール「クラマスター」の生酛部門で2022年に「生酛仕込純米酒鳥海山」がトップとなりパリでの表彰式に出席いたしました。弊社としては生酛仕込み復活後10年弱での快挙でしたが、ホテルクリオンのマスターソムリエを務めている審査委員長に「何故この酒がトップになったのか?」と尋ねると「マリアージュの幅が広かったためだ。クラマスターの特徴は料理とのマリアージュを重視することで、これから出るタラのムニエルに合わせてごらんなさい」と言われ、実際にそのハーモニーに感嘆したことを鮮明に覚えています。「和食のすばらしい特徴である旨味とのマリアージュには日本酒」と言う認識を世界のトップソムリエ達が持っている事を実感できたすばらしい体験でした。

この素晴らしい体験に乾杯をしたわけですが、皆さんは何故「日本酒で乾杯」と我々がアピールするのかご存じですか?

日本では何故サケというのでしょう?中国からの伝来というのであれば、老酒・白酒と酒の部分を「チュウ」と呼びますよね?

サケは漢字が伝来する前からの日本の古語で漢字が伝来したときに漢字をあてただけとの事。「さ」とは神様のことで「さか」は神様が下りてくるところ・「さかい」は神様と人の境界線・「さつき」に「さおとめ」が「さなえ」を植え終わると「さなぶり(さを天に帰す)」のだという事です。どんど(才の神)焼きは「さのかみ焼き」・「さくら」は「さ」の居ます所・「さけ」は「さ」のけ、つまり神様への最高の供物という事。

「~を祈念して乾杯」と神様に願うときは「さけ」でなければいけない。という事で、業界の陰謀ではありませんので、酒のつまみ話として覚えておいてくださいね。


採長補短

杜氏 一関 陽介

 

年始に「2月は比較的暖かい日が多い」という予報を聞いた気がしていたのですが、立春の翌日から気温が氷点下で雪が降る日が約1週間続きました。これが過ぎたら春に向かって行くのだろうと思っているとまたまた寒波がやってくる・・・まだ少し春は遠いようです。数年前までの今頃は鑑評会出品酒を搾る前で気持ちがどこか落ち着かない時期だったのですが、温暖化の影響か2月下旬になると最高気温が10度を超えることが近年しばしばみられることから、鑑評会出品酒は間違いなく低温であろう12月に仕込みをして1月中に搾り殺菌まで終わらせる計画に昨年から変更しました。長い酒造りの期間の中で私が特にピリピリする期間は終わり、既に中盤~後半戦に差し掛かっている状況です。

10月から今年度の酒造りをしてきての感想ですが、令和6年産の秋田県の米は原料処理がしやすく、(精米、浸漬後の割れが少ない・蒸した後の状態が良い)あくまで昨年比ですが、溶けが良いことで粕歩合が低くなり、搾ったお酒は(商品によって異なりますが)香り華やかで旨味のある傾向になっていると感じています。

毎年同じようなことを書いているような気がしますが、お客様の口に入るまでが酒造り。もろみを搾ってお酒になったら終わりではなく、その後の貯蔵管理が品質の維持向上の為に非常に重要です。生酒商品は当日または遅くても搾った翌日、火入れ酒においても1週間以内に瓶詰め火入れまでを完了させています。ここからゴールデンウイークまで酒造りは続きますが、そういった作業を怠らずお客様に飲んでいただくその時に、お酒がベストな状態を迎えられるように努力してまいります。

さて2月3日(立春)に日本名門酒会「立春朝搾り」が全国41の蔵元で開催され、弊社においては15回目の参加になりました。当日は無事に搾りから瓶詰めまで滞りなく終えることができホッとしております。そして有難いことに昨年を超えるご注文をいただき、感謝申し上げます。

先日、立春朝搾りの取り扱いもしていただき日頃からお世話になっている飲食店様が主催するオンラインイベントに参加し、私を含め7社の杜氏によるトークセッションをさせていただきました。原料米・麹菌・酵母菌・水が違うのは当然ながら、7社7様の酒造りについて語る内容の濃い会でした。各蔵違いはあっても共通するのは当日思い通りに搾ることができるかというプレッシャーを自分達のお酒を美味しく飲んでいただけるようにするための原動力に換えているのだということです。お酒に対する想いや苦労したことなどをお聞きしながら飲む各蔵のお酒に私は感動いたしました。講演でも討論でもない、お互いの酒を味わいながら語り合うというなかなかできない本当に貴重な時間だったと思います。

私がお酒の会等でお客様にお話しさせていただく機会はあっても、逆に造り手の方の話を聞きながらそのお酒をいただくという機会は少なかったというか、あまりしてこなかったような気がします。反省とまではいきませんが、これからそういう機会があれば積極的に参加し勉強させていただきたいという気持ちになりました。何年酒造りをしても分からないことや分かっているつもりになっているようなこともあるような気がします。自分が経験したことだけでなく、人の話から聞き得たことも自身のスキルアップにしっかり繋げていかなければと気持ちを改めました。まずは周りにいる仲間の話にしっかり耳を傾け、今期の酒造りが最後まで無事に終わるよう頑張ります。

謹賀新年
2025-01-01

謹賀新年

代表取締役社長 7代目 大井永吉 

明けましておめでとうございます

先日、「國酒を醸す日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術」が、ユネスコ無形文化遺産に登録されたことを私も大変誇らしく思っております。

蔵元にはそれぞれ歴史があり、それは、長い年月の中で磨き発展させた酒造りの技によって造られてきました。地域の祭礼や行事に欠かせないものであり、日本酒を知ることは日本の食を含めた伝統文化に触れることだと思います。

このユネスコ無形文化遺産登録を機に、日本酒を支える地域社会、自然環境、地域文化における役割や日本酒の魅力にあらためて目を向けていただければと思います。

この蔵元通信は1999年11月が初発行でした。以下は当時の発刊にあたっての挨拶です。    

『この度、弊社が日頃お世話になっている皆様に、私共天寿酒造が、何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その「思い」を皆様にお伝えし御理解頂くために、稚拙ではありますが「天寿蔵元通信」として、お送りさせていただくことになりました。

そのお酒はどのような狙いで造られた物なのか、季節や旬の食べ物に合うお酒・また飲み方は、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子や蔵の様子、天寿酒米研究会やその田圃の様子など、ご愛顧頂いている皆様が、自分の酒蔵として親しみを持ち、お仲間にお話頂けるような内容にするべく努力致してまいります。ご意見やご要望・ご指導をぜひお寄せ頂ければ大変有難く、ご愛読・ご利用賜りますようお願い申し上げます。』

4半世紀前に第1号の私が寄稿した「思い」に、『造り手の思いが伝わること。飲み手と思いが通う関係を早急に作り上げること。何故なら、テクニックなどではなく思いが問われる時代だからだ。社員一人一人が、これからの需要の変化に対応すべく、常に自己改革を重ね、次の時代にも選択される企業になる為に、お客様の喜びを目指し、自分の仕事に使命感を持って、共に新しい時代を築き上げよう。』

とあります。当時と比べると花酵母を含めた新酵母の普及や農大出身杜氏の増加等もあり、新技術も開発され日本酒製造技術は格段に向上しました。酒蔵の数は減少しテクニックは調べればわかる時代となりましたが「思い」はどうでしょうか。

私の目指すものは最初から明確にここに有ったのだと嬉しく、新鮮な感動を覚えました。この思いを大切に日々精進して参ります。本年もよろしくお願いいたします。


コツコツと

杜氏 一関 陽介 

あけましておめでとうございます。私がこうして文章を書くようになってから10年以上が経過しました。毎回楽しみに読んでくださっている方には今蔵で取り組んでいることや蔵の雰囲気が少しでも伝わるように、また初めて読まれる方には私達蔵人メンバーがどういう気持ちで酒造りに臨んでいるのかをお伝えしたい一心で書いてまいりました。本年もどうぞ宜しくお付き合いください。

さて、令和6年度の酒造りも序盤を過ぎ、蔵内では鑑評会出品酒の仕込みが始まっています。12月も平年より比較的暖かい日が多く、もう少し寒くならないかと願っていましたが、仕込みも最盛期を迎える中旬頃には気温も下がりようやく冬らしくなってきたように感じます。昨年の暮れは有難い事に皆様から沢山のご注文をいただきまして、酒造りをしている蔵人メンバーも仕込みが終わった午後は全員でラベル貼りや包装作業に勤しみました。お客様に届くまで、「飲んでいただくところまでが酒造り」です。その想いと共に、本年度の新酒が皆様に美味しく召し上がっていただけていればとても嬉しく思います。

さて今年度の酒造りの状況ですが、すでに今季予定している仕込みの3分の1が終わろうとしています。昨年は秋田県産の米が非常に溶けづらく、搾った時に出る粕が大変多い年でした。現状としては昨年の5パーセント程度は少なくなり、その分出来上がるお酒の量は増えそうです。とはいえ特に溶けやすいということでもありません。この文章でもよくお話ししますが、夏の最高気温が高いために米が溶けづらくなるのですが、その平均が年々上がっているため、たまたま昨年より低かったことで昨年より溶けやすいというだけで、過去を遡れば高くなってきているのと同じように米が溶けづらい傾向に少しずつなってきているわけです。どこを基準とするかで変わってくるのですが、今後しばらくは今年ぐらいが平均になるのかなというのが、酒造り20年になる私の感覚です。気候が変わることで米質も変われば、私達はそれに合わせるというか、知識とそれに対応できる技術で自分達らしく昨年より良い酒を造る努力をしていかなければなりません。自分の思い通りにいかないことも時にはありますが、それこそが日々の積み重ねになって、お酒に勉強させてもらえるのだと感じるし、向上心を生む原動力になっていると思います。仮に困難なことがあっても発展のチャンスと考えて笑顔で今年の酒造りにも臨みたいと思います。

昨年度は山田錦を使用した大吟醸で全国新酒鑑評会(金賞)・秋田県清酒品評会(吟醸酒の部知事賞)・東北清酒鑑評会(吟醸酒の部優等賞)で3冠をいただくことができました。今年度は加えて秋田県(県産米の部)・東北(純米酒の部)を加えた5冠を目指して頑張ります。あまり欲張ってはいけませんが狙わずしていただける世界でもありません。鑑評会出品酒に限ったことではなく、やらなければならないことをコツコツと抜かりなくやることが良い酒を生む近道です。それを肝に銘じて頑張ります。本年もよろしくお願いいたします。


食を楽しむ
2024-10-29

食を楽しむ

代表取締役社長 七代目 大井永吉 

稲刈りも終盤に入り十月八日には初蒸しが行われ、天寿酒造百九十五回目の酒造りが始まりました。

先月は今年の原料米の価格交渉が大詰めを迎え、農協や米問屋等から新米刈り取りの寸前にもかかわらず米の在庫不足が声高に訴えられ、米価安定の為に行われていた政府買い上げの備蓄米は大量にあるにもかかわらず中々放出されず、米価は一挙に高値となりました。これまであまりの低価格で農家は苦しんできましたが、農家から買い取る業者が奪い合うように高値買取に狂奔し前年の二〇〇%を超える価格も出るなど、食糧安保・安定確保とは真逆の現状が日本の食品環境の混迷を深めております。

その米を原料として確保しなければならない業態は、その激変に大変苦しい状況に追い込まれ、不本意ながらも値上げせざるおえなくなると考えます。一番の心配は長年の付き合いではありますが、酒造好適米が飯米の価格と大きく逆転したことにより、今後の契約栽培が継続できるかということ。恐ろしい市況となってしまいました。

只今の私の喜びは料理を味わう事と孫とのふれあいです。おいしい物を食べながら酒を飲み、家族と共に家内の手料理を楽しみながら酒を飲む。まさに至福の時ですね。

日本酒は旨味の酒です。日本食が世界遺産に認められるほど世界に広がっておりますが、その中でうまみを表現する英語はなく「UМAМI」という単語が出来ました。ワインのうんちく話にはマリアージュ(結婚・相性・料理といかに合わせ双方をおいしくするか)という事が重要視されますが、うまみに最も合わせやすいのが日本酒(清酒)なのです。例えば刺身にワインを合わせるとほとんどの場合を生臭く感じますよね?一方日本酒は相乗効果でより深い旨味が感じられます。

醸造酒はただ酔うものではなく、そのマッチングによりお互いを引き立たせ美味しさに深みと喜びをもたらし、コミュニケーションをなごやかでスムースにします。同じ食事でも栄養として取り込むのと美味しさを味わう事との違いは、人生の喜びが倍以上違いますね。

法律の変更で朝の残存アルコール検査が義務付けられましたが、食中の適量飲酒であれば朝までに十分消化されます。

皆様健康には注意して、美味しく食事を味わいましょう。その為にはお酒も一緒により豊かな幸せを味わいましょう。



良い酒

杜氏 一関 陽介 

前年度の酒造りが終わり約五か月、あっという間に酒造りの季節がやってきました。昨年の今頃は、洗瓶機・瓶詰め機の更新、それに伴う生産ライン移設工事の真っ只中でした。当然ながら瓶詰めができない状況で酒を搾るわけにはいかないので、工事が順調に進んではいたとはいえ、無事予定通りに稼働まで漕ぎ着けられるのか不安を抱えたまま酒造りをスタートした記憶があります。

今年度は大きな工事もなく、また例年より洗米開始も数日遅いこともあり、続々と精米所に入荷される原料米を観察しながら、米質の予測を参考に原料処理の対策について考える時間を多く取れているように思います。加えて昨年度の酒造りの反省から、継続すること・しないこと、今年新しくチャレンジすること等、頭の中を整理することに集中できているようにも感じています。

さて、今年度産の原料米の状況についてお話します。ここ数年あまり変わらないのですが、五月は比較的低温多雨、六月になると突然暑くなり少雨、七月以降は比較的高温多雨での栽培となりました。特に七月下旬に由利本荘を襲った集中豪雨の際に浸水被害にあった圃場もあり、想像していたよりも収穫量が少ないのが現状のようです。質については、出穂時の異常な猛暑で過去最大級の難溶性となった昨年と比較すると今年は平均気温が低く、大きな障害もなく比較的酒造りがしやすい傾向になるのではと推察しています。

できる限り良い酒にしようという私の想いは毎年同じですが、同じ品種とはいえ気象状況によって生じる米の性質差が年々大きくなってきているように感じ、その米を活かして造る酒の質に造り手の経験値や勘所をとらえられているかが大きく影響することを益々実感しています。

一本一本が美味しい酒であることは重要ですが、天寿の目指している酒ができてこそ良い酒であり、お客様に喜んでもらえるのだと思います。異常気象に堪え、地元農家さんが育てた米の特徴をどう酒に引き出すのか。味や香りを決める麹菌や酵母菌等、蔵で生きる優良な微生物が活躍できる蔵内環境を如何に整えるのか。それが酒の味を決める大きなポイントであり、私達造り手の使命です。

毎年この時期思うのは、「想い」を思い通りに酒で表現するのは簡単ではないということです。お客様からいただく期待や農家さんの想いを含め、酒に関わる全ての人の感情が混じりあうものだからこそ酒造りは素敵だと思うのです。振り返った時に今年度も酒造りが楽しかったと思えるように最後まで気を抜かず、更にお客様の期待を超えられる良い酒「天寿」「鳥海山」ができるように自分にプレッシャーをかけて頑張ります。

令和六年度のお酒にも是非ご期待ください。

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フリーダイヤル:0120-50-3165

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20歳未満のアルコール類の購入や飲酒は法律で禁止されています。