春爛漫
代表取締役社長 大井建史
出張で10日ぶりに帰った日曜日の午後、天気が良く桜も満開ですが通信の私の原稿だけが空欄の為、パソコンに向かいました。
今回の出張の初めは、台湾での日本酒フェアでした。店頭での試飲販売や飲食店でお客様との楽しむ会・日本酒に興味を持つ方々への酒セミナーは質問も多く2時間びっちり話をした充実した会でした。我々世代は自社ブランド云々よりも「日本酒とは何か」等お酒そのものの普及に努めて参りましたが、その成果?が実感される会でした。その他飲食店への挨拶など盛沢山の5日間でした。
帰国し東京では、リニューアルの為1年休館していた東京プリンスホテル再オープンに伴い、和食清水における17年目に入った酒楽活菜の復活祭を2夜連続満員で盛会裏に行って参りました。お陰様でどちらでも純米大吟醸鳥海山を始め、弊社製品はご好評を給わりました。
今、改めて考えてみますと弊社の技術改革は全て純米大吟醸「鳥海山」を創り上げる為に行ってきたように思います。「1升瓶3千円以下でどこまで良い酒が造れるか?」これが命題でした。もちろん「地元で出来る最高の酒」ですから、地元契約栽培の原料米の品質にこだわり、農家毎の米の分析からはじまり、酒造好適米を作ると言う事はどういう事なのかをご理解いただき、地元の契約栽培グループ「天寿酒米研究会」の意識の向上を図りました。精米の精度や湿度の管理の為に設備改善を行い白米の触れる所は全てステンレスに改善しております。次に洗米の改善に入り自動計量機を作成導入、吟醸は全量手を入れないザル洗い限定給水、今期から蒸米も連続蒸米機を廃止し、間接蒸気型の蒸米機をもう1台導入、安定感が大きく増しました。原料処理の高度化こそが高品質キープの礎なのです。
今までも、麹の作業内容を洗い直し大箱を導入し、酒母 (速醸の他高温糖化・生酛) の比較試験・秋田型の水を詰めた醪の汲み水歩合から、花酵母の仕込で学んだ柔軟な汲み水の形に変更、醪タンクを(OS・サーマル・日本容器等)色々な機種の比較導入、並びに醪の温度管理の高度化・農大花酵母を含む各種酵母の試験・瓶火入れ冷蔵貯蔵の導入・冷蔵倉庫の建設をしてきました。長年のコツコツ積み上げた技術の上に今の品質が成り立っているのです。
さらにこれから釜場と酒母室の改築に入り、秋には蒸気の抜けや浸漬設備の改善された作業効率の良い環境を実現いたします。
これから始まる工事に私も大きな期待を持って向かいます。
189回目の造りが始まるこの秋には蔵が大きく変わります。ご期待下さい。
今年の酒造りを終えて
杜氏 一関 陽介
平成28酒造年度の酒造りも終盤を迎え、昨年秋から共に酒造りに向き合った蔵人メンバーも4月21日で解散を迎えました。今年も最後まで事故もなく仕込みができた事にホッと安堵の息をついているところです。今年度は私の杜氏就任後では最大の128本のもろみを仕込むことができました。これも、ご愛飲いただいている皆様のおかげと感謝申し上げます。
さて、今年の酒造りについて反省も交えながらお話したいと思います。1月号の蔵元通信にも書きましたが、今期は原料処理の設備更新があった為、早急に対応が必要な課題がありました。
1つ目に蒸米機の新調を行ったことによる、蒸米の状態変化に対応する事。2つ目は、浸漬方法の変更をしたので作業内容に慣れるのは当然の事、蒸米機の蒸し上がりを予測した洗米・浸漬時間をつかむ事が求められました。
そんな今までとの感覚の違いに苦しんでいた私達に追い打ちをかけるように、予想以上の米の難溶性という難題がありました。結果、仕込み序盤のお酒はどれも粕歩合が高く、思い描いていたものよりキレイ過ぎる出来になりました。
しかし、新年を迎えて「今年の酒はどうなんだろうか…」と不安になっていた私に吉報が届きました。今季最初に搾った純米吟醸酒(初槽純米吟醸生酒)がワイングラスでおいしい日本酒アワードで最高金賞という結果。 この結果には「数字だけで物は判断できない・してはいけない」ということを身を持って感じさせられました。賞をいただくと自信はつくもので、気持ちも晴れやかになり、そこから最後の仕込みまでは順調というか、蔵人も毎日の作業にリズムが出てきて、最後までスムーズに乗り切ることができたように思います。機械や環境、米の品質が変わっていく中でも自分達が今まで培ってきた技術や勘も大事にしていこうと改めて勉強になりました。
私自身13回目、杜氏として5回目の酒造りが終わりを迎えます。初心に返ろうと、この文書を書きながら入社当時の仕込み計画を眺めています。仕込みは80本弱。普通酒が全体の4割、今や弊社には無くてはならない存在に成長した純米大吟醸鳥海山は僅か仕込み3本。今期は残念ながら普通酒がその頃の半分。反面、鳥海山は26本です。1年毎でみると変化は少なくても13年間ではものすごい変化です。
今年経験した事や感じた事を来年に活かすと共に、「1年」の大きさを噛みしめて次の造りの準備をしたいと思います。苦労したお酒が多い年でしたが、皆様には楽しく味わっていただければ幸いです。