家譜
代表取締役社長 大井建史
今年は二月早々から雨が降る暖冬で、一月後半には雪の量も例年に追い付いたかに見えましたが、暖かい空気が何度も入ることで雪消えも急速に進んだようです。激しい寒暖差はありましたが、蔵は雪に覆われて低温で安定しており、蔵人の頑張りもあり、品質的にも順調に推移しております。
二月二十七日に発表された「ワイングラスで美味しい日本酒アワード二〇一七」で、大吟醸部門では純米大吟醸 鳥海山が最高金賞・大吟醸 鳥海が金賞、メイン部門(一・八L 二千六〇〇円/税別以下)で初槽純吟生酒が最高金賞・天寿純米酒が金賞を受賞いたしました。
このコンクールの審査に使用されているリーデル大吟醸グラスは、十三年前に発売されたのですが、実はその開発の審査員を私も務めておりました。百数十個のグラスの中から一つに絞り込む審査を一年以上かけて選ぶ中、グラスの形が如何に味や香りに影響するのかを、頭では判っていたつもりでしたが、この体験は良い意味でその影響の大きさを思い知った貴重な体験となりました。そのリーデル社が後援するコンテストで最高金賞を受賞できた事に大変感銘を覚えます。
さて、昔で言う隠居している六代目永吉が、地元の古文書研究会に所属しており、本家五代目大井幸左衛門光曙が記録した本家文書「本末親類帳」を読み解いたところ、初代永吉は本家二代目弟平兵衛の次男伴内を本家三代目が養子としたが相続ないまま病死、その子の栄吉を本家四代目が文政十三年(一八三〇年)八月十六日分家し、矢島藩御用達の酒屋だった本家で学んだ技で濁酒と麹の製造を生業としたと記されていたとの事。分家して名前を栄吉から永吉に変えたそうです。
これまで、清酒免許を取得した明治七年を創業年としてきた事も間違いありませんが、正式に分家の年が明確となり、どういう流れで分家したのかも(複雑ではありましたが)判りました。六代目は「濁酒ではあるが文政十三年創業とする方が妥当」と言っております。そうなると弊社は今年創業百八十八年となります。これまでは「清酒免許を取得したのは二代目永吉の晩年で、四代目は三代目より先に亡くなりましたが、その子(私の祖父)がしっかり仕事をしていた父親を四代目としたい為五代目を名乗りましたので、清酒業としては二・三・五・六・七代となり、私は実質五代目です」と説明が長~くなるのです。七代目と名乗る割には年数が短いのではなどと妙に詳しく突っ込まれても、これで年数的にも違和感なく説明が出来そうです。
と言う事で、皆さま百八十八回目の酒造りも終盤となりました。渾身の酒造りによる新酒が毎日のように生み出されています。ご愛顧のほどよろしくお願い致します。
2月のイベントを終えて
杜氏 一関 陽介
酒造りに集中していると時間が経つのも早いもので2017年も2ヶ月が過ぎ、まもなく春を迎えようとしています。最高峰である全国新酒鑑評会出品酒も数日前に無事に搾り上げ、私も少しホッとしているところです。杜氏就任から5年目の酒造り。そろそろ全国新酒鑑評会「金賞」が欲しいところですが…。
新年になり、日本名門酒会企画の立春朝搾り、また天寿酒蔵開放と2月はイベントが続きました。どちらもその日に搾ったお酒を当日出荷するのですが、その日に向けて酒を醸すのは良いとして、搾る日がイベント開催日に限定されるというのは造り手には難しい課題です。
立春朝搾りの参加は杜氏として5回目になりました。詳しい事は書きませんが、例年と同じスペックの中で何か「立春」の朝に搾った事をお酒の中に表現したいと思い、少し仕込み経過を変えてみました。結果としては味乗りも良く微発泡でフレッシュ&ジューシーに仕上げることができ、立春の朝の清々しさが表現できたと自負しております。来年は今年以上に色々な方に飲んでいただきたいと思っております。
話は変わりますが、これも毎年恒例になりました酒蔵開放は2千人を超えるお客様を迎え盛会に終えることができました。ご来場下さいました皆様には御礼申し上げます。この日もまた当日の朝に搾る「朝しぼり」の販売がありました。立春朝搾りと違うところは、当日蔵にいらっしゃったお客様がその場で試飲をしてお買い求めになるというわけですから造り手としては酒質がダイレクトに売り上げにつながり少し怖いものです。ただ、これの良いところは当日お客様の声・反応を私達が直に感じる事ができるところにあります。当日の「美味しい」という声に救われるのです…(笑)そして明日の励みになるのです。
この2つのイベントに限らずして、飲むシーンに合わせたお酒の提供をするために酒質設計があります。これからもお客様の声をよく聞いて自分の力に変えていけるように、また新しい発想というのも人との会話の中から生まれると感じますので、自分の造りに生かせるよう色々な人との会話を大事に生活したいと思います。
ともあれ、今期の仕込みもまだ1ヶ月残っています。一層気を引き締めて頑張る所存ですので、今後とも宜しくお願い致します。