百四十三回目の酒造り
代表取締役社長 大井建史
稲刈りも終わり錦秋の見どころも過ぎて味覚の秋真っ最中の昨今、酒蔵ではいよいよ百四十三回目の酒造りが始まりました。
今年は設備更新に力を入れて参りました。三月の冷凍冷蔵倉庫の竣工後に、ものづくり補助金を獲得するべく努力しました。大規模な設備投資はなかなか厳しい酒蔵にとっては、ものづくり補助金制度(なんと費用の三分の二補助されます!)は本当にありがたい限りです。お陰様でその補助金を獲得する事が出来、試験してきた生酛造りの精度向上の為、頻繁に分析をするための機器を導入しました。また、蒸米もより上質な蒸しを行うために、『連続蒸米機』を和窯と同じ完全な『バッチ式間接蒸気型』とし、生酛の酒母がしっかり・じっくりと乳酸発酵出来る設備も導入、よりおいしい日本酒造りに邁進出来る設備としました。何回も自社改造してきた蒸米放冷機も完全オーバーホールを行いました。
酒造りの最終の工程である上槽(お酒を搾る事)は槽場(ふなば)で行われますが、春先に温度が高くなると様々な雑菌に汚染されやすい場所です。この度温暖化や酒造りの長期化に対応して冷蔵庫化し、槽場の温度の上昇を防げるようにしました。
醸造機械のメーカーは中小企業が多く、長年の低迷が祟り製造能力が小さいため、設備の納品がギリギリとなり、また、補助金制度の対象となる年内完全納品に間に合わず、断念せざるをえなかった大きな設備も有り大変残念な面もありました。
弊社としては大きな酒蔵改造となる為、慎重な検討をした結果、酒蔵の中枢である窯場の建物の改築も一年延期となってしまい、今期の酒造りは設備を仮置き状態で何とか進める事になりました。それでも、皆造(お酒を全て造り終わる事 )早々に改築工事にかかるため、高圧線の引き込みを地下埋設に直したり、工事通路を設置するなど着々と準備を進めております。
品質の維持・向上には「後で」という言葉は通用しません。一つ一つを積み上げて抜かりのない状況を作って初めて先に進む事が出来ます。
慌てず・騒がず・着々と百四十三年間日本酒を造り続けてきた誇りと伝統を糧に、より良きものを目指します。今期もご愛顧の程よろしくお願いいたします。
五期目の酒造り
杜氏 一関 陽介
最低気温が十度を下回る日が増え、鳥海山も山頂付近が薄っすら雪化粧し、いよいよ酒造り本番がやって来るのだと感じられる季節になりました。
蔵内では今期、品質・作業性向上の為に設備の新設・更新を行っていただいており、その関係で例年より造りの準備が若干遅れてスタート致しました。仕込み日程に間に合うのか・・・と自分で立案したはずの計画にハラハラしておりましたが、蔵人総出で清掃・機械メンテナンスに取り組んで、無事に今期の初蒸しを二十五日に迎えるところまで漕ぎつける事ができホッとしているところです。蔵のメンバーには本当に感謝です。
どんなに良い機械を持っていても、目的に合った使い方が出来なければ意味がなく、造る物が高品質でなければなりません。また機械がお酒を造るのではなく、私達が目指すお酒を造る為の手助けをしてくれる大切な仲間ですから、機械の特徴を一早く掴んでコミュニケーションをとることが重要です。十二月に発売になる新酒にいかに反映されているかご期待下さい!
さて、今期の酒造りがスタートし、概ね今期の製造計画は出来上がっております。所謂特定名称酒の仕込みが増え、春まで緊張が絶えない日々が続きそうです。 私が入社した十三年前は普通酒(精撰)の比率が高く、特定名称酒比率は30%程で、純米大吟醸の仕込みは数本だった記憶があります。私が杜氏を勤めさせていただいて四年になりますが、その間も精撰の製造量は残念ながら減少してしまっています。
ただ、私が天寿で学んだ酒造りの原点は紛れもなくこの精撰であり、天寿の味の基本だと考えています。何ひとつ手を抜く事なく、多くの繰り返しの中に醸される安定。そこに輝く何かが生まれる事を忘れてはいけないと思います。
酒類は違えども、皆様に美味しく飲んでいただく為の想いはどの商品一本とっても同じです。原点回帰ではありませんが、今までやってきた事をしっかりと忠実に、またそこからチャレンジする事も忘れずに社員一丸で今期も酒造りに取り組んでまいりたいと思います。