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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

百四十三回目の酒造り
2016-11-01

百四十三回目の酒造り

代表取締役社長 大井建史

稲刈りも終わり錦秋の見どころも過ぎて味覚の秋真っ最中の昨今、酒蔵ではいよいよ百四十三回目の酒造りが始まりました。

今年は設備更新に力を入れて参りました。三月の冷凍冷蔵倉庫の竣工後に、ものづくり補助金を獲得するべく努力しました。大規模な設備投資はなかなか厳しい酒蔵にとっては、ものづくり補助金制度(なんと費用の三分の二補助されます!)は本当にありがたい限りです。お陰様でその補助金を獲得する事が出来、試験してきた生酛造りの精度向上の為、頻繁に分析をするための機器を導入しました。また、蒸米もより上質な蒸しを行うために、『連続蒸米機』を和窯と同じ完全な『バッチ式間接蒸気型』とし、生酛の酒母がしっかり・じっくりと乳酸発酵出来る設備も導入、よりおいしい日本酒造りに邁進出来る設備としました。何回も自社改造してきた蒸米放冷機も完全オーバーホールを行いました。

酒造りの最終の工程である上槽(お酒を搾る事)は槽場(ふなば)で行われますが、春先に温度が高くなると様々な雑菌に汚染されやすい場所です。この度温暖化や酒造りの長期化に対応して冷蔵庫化し、槽場の温度の上昇を防げるようにしました。

醸造機械のメーカーは中小企業が多く、長年の低迷が祟り製造能力が小さいため、設備の納品がギリギリとなり、また、補助金制度の対象となる年内完全納品に間に合わず、断念せざるをえなかった大きな設備も有り大変残念な面もありました。

弊社としては大きな酒蔵改造となる為、慎重な検討をした結果、酒蔵の中枢である窯場の建物の改築も一年延期となってしまい、今期の酒造りは設備を仮置き状態で何とか進める事になりました。それでも、皆造(お酒を全て造り終わる事 )早々に改築工事にかかるため、高圧線の引き込みを地下埋設に直したり、工事通路を設置するなど着々と準備を進めております。

品質の維持・向上には「後で」という言葉は通用しません。一つ一つを積み上げて抜かりのない状況を作って初めて先に進む事が出来ます。

慌てず・騒がず・着々と百四十三年間日本酒を造り続けてきた誇りと伝統を糧に、より良きものを目指します。今期もご愛顧の程よろしくお願いいたします。

五期目の酒造り

杜氏 一関 陽介

最低気温が十度を下回る日が増え、鳥海山も山頂付近が薄っすら雪化粧し、いよいよ酒造り本番がやって来るのだと感じられる季節になりました。

蔵内では今期、品質・作業性向上の為に設備の新設・更新を行っていただいており、その関係で例年より造りの準備が若干遅れてスタート致しました。仕込み日程に間に合うのか・・・と自分で立案したはずの計画にハラハラしておりましたが、蔵人総出で清掃・機械メンテナンスに取り組んで、無事に今期の初蒸しを二十五日に迎えるところまで漕ぎつける事ができホッとしているところです。蔵のメンバーには本当に感謝です。

どんなに良い機械を持っていても、目的に合った使い方が出来なければ意味がなく、造る物が高品質でなければなりません。また機械がお酒を造るのではなく、私達が目指すお酒を造る為の手助けをしてくれる大切な仲間ですから、機械の特徴を一早く掴んでコミュニケーションをとることが重要です。十二月に発売になる新酒にいかに反映されているかご期待下さい!

さて、今期の酒造りがスタートし、概ね今期の製造計画は出来上がっております。所謂特定名称酒の仕込みが増え、春まで緊張が絶えない日々が続きそうです。 私が入社した十三年前は普通酒(精撰)の比率が高く、特定名称酒比率は30%程で、純米大吟醸の仕込みは数本だった記憶があります。私が杜氏を勤めさせていただいて四年になりますが、その間も精撰の製造量は残念ながら減少してしまっています。

ただ、私が天寿で学んだ酒造りの原点は紛れもなくこの精撰であり、天寿の味の基本だと考えています。何ひとつ手を抜く事なく、多くの繰り返しの中に醸される安定。そこに輝く何かが生まれる事を忘れてはいけないと思います。

酒類は違えども、皆様に美味しく飲んでいただく為の想いはどの商品一本とっても同じです。原点回帰ではありませんが、今までやってきた事をしっかりと忠実に、またそこからチャレンジする事も忘れずに社員一丸で今期も酒造りに取り組んでまいりたいと思います。

健気なるかな兵共よ
2016-09-01

健気なるかな兵共よ

代表取締役社長 大井建史

感動のオリンピックも終わりましたが、まだまだ暑い日が続いております。皆様お元気でお過ごしでしょうか?

天寿酒米研究会産契約栽培酒造好適米も、この一か月間ですっかり成長し収穫の時期が楽しみになって参りました。高温障害を心配した時期もありましたが、今年は早めに昼夜の寒暖差が大きくなり、高温時の水の掛け流しなど水管理も適切になされ、刈取りまでのあと一か月台風等で倒れないでくれると万々歳なのですが…。

昨今は私にも年寄り役が回って来る事が増え、腹囲や筋力からももう若者では無い事に気が付いてはおりましたが、オリンピック期間中の涙腺崩壊スピードには自分でも閉口してしまいました。それ程感動的な選手の皆さんの頑張りが、今回のオリンピックにも多かったと言う事ですよね。

長年の練習の積み重ね・戦って勝ち抜いての代表決定・国の代表である事のプライドとプレッシャー・その全てを背負って進み行く者、倒れる者。一途に賭ける清らかさ・清々しさ・溢れる思い。昔読んだ戦記物語にあった、進み行く勇壮な部隊を眺め「健気なるかな兵共(つわものども)よ」と感涙した将軍の言葉が頭を過ぎり又感涙です。

この数年お陰様で日本酒に対する注目度が上がって参りました。業界も四十年にわたる低落傾向に沈んでおりましたが、嗜好品である醸造酒の基本に返り、原料・製造方法の基本を見つめなおし、《吟味して醸すとは》を徹底的に問い直す事によって、現在の注目を頂ける酒に出来たと思っております。

ここにきて若手の蔵元のつわもの共が元気に台頭してまいりました。日本酒の業界は昔から他社の酒蔵見学等、自社の技術を隠す事無く公開し、共に研鑽する歴史を持っています。従って十年二十年かけてたどり着いた技術も、真似だけなら直ぐに出来ますし、紆余曲折の結果出来た設備もそのままなら直ぐ導入出来ます。しかし、そこにたどり着く技術開発の方向性と精神は、設備の導入だけでは簡単に習得出来ません。

味の流行りや、成功例の模倣は近道ではあるでしょうが《吟味して醸すとは》如何なる事かを大切にしないと、何処かで道を間違うことになりますし、吟醸を取り違えて「香りのある酒」などと言ってしまうことになります。吟味して醸した酒には風格が伴うと思います。

残り二か月で酒蔵の整備を大車輪で進め、百四十三回目の造りに備えます。

百四十三歩目の進化をご期待ください。

チームプレー

杜氏 一関 陽介

日中の暑さも少し和らぎ、秋がすぐそこまで迫ってきているような気候になってまいりました。盆が過ぎ、蔵内は純米粕詰とひやおろしの出荷にフル回転。仕事ができる喜びをかみしめている所です。

さて、この夏はリオ五輪が行われ、日本チームは過去最多の41個のメダルを獲得する等、日本中が大いに沸きました。私も30代前半で若いつもりでいましたが、五輪で活躍しているほとんどが10代~20代。世界一を目標に、自分より若い世代がこれまでの成果を発揮する姿に心を打たれ、自分も負けてはいられないと奮起致しました。

眠い目を擦りながら早朝からテレビの前で応援しましたが、団体競技を自分の環境に置き換えながら見ている事に気がついたのです。

体操競技のように、各自の得意種目の点数を積み重ねる事で技術力を競う競技や、リレー等各自の力を繋ぎ合わせて競う競技等がありますが「酒造りにはどちらの要素もあるな・・・」と感じました。

蔵の中で考えれば、精米から瓶詰までの様々な工程に人員が配属され、各々がベストを尽くして次工程へと繋ぎ、金メダルが獲れるお酒になるように願って瓶に詰めています。そのあたりが五輪の競技に似ていると思うと同時に、私達にとっての金メダルとは何だろうかと考えました。

弊社は国内はもとより海外で開催されるコンテストにおいても、これまで沢山の賞をいただいてまいりました。このような賞は励みになりますし嬉しい事ですが、何より、飲んだ人が美味しいと感じた時に出る笑顔が一番の金メダルだと改めて思いました。そして、その笑顔を続けてもらう事が大事だと考えました。その為にも必要であり、チームプレーにとって大切な次のような事も学んだ気が致します。

・皆が同じ目標を持つ

・高い技術力集団である

・仲間を信じ失敗・成功を共に分かち合える

・自分の力を信じる

・支えてくれる人への感謝を忘れない

迫りくる次期の酒造りに活かし、良好なチームプレーで美味しい酒を目指したいと考えております。ご期待下さい。

希望
2016-07-01

希望

代表取締役社長 大井建史

秋田も梅雨に入り田んぼの稲も徐々に背が伸び、鳥海山を中心に緑濃い季節となってまいりました。

今年も海外で開かれる最大かつ最難関のコンテストと言われるインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)の審査が行われました。本年は日本酒審査部門の十周年と言う事で山田錦の産地・兵庫県が誘致し、ロンドンから神戸へ審査会場を移しての開催でした。

弊社では純米酒の部の「天寿 米から育てた純米酒」金賞 秋田トロフィーを先頭に「大吟醸鳥海」「天寿大吟醸」が銀賞、「天寿純米大吟醸」「純米大吟醸鳥海山」が銅賞とお陰様で五点が入賞致しました。今年のお酒も評価を頂き安堵しております。

また、商品の審査ではありませんが、国内で最も古く権威の高い全国新酒鑑評会入賞酒の一般公開が行われる、日本酒フェア(於サンシャインシティ)に今年も行って参りました。入賞酒一般公開は今年も沢山の方が来場されており、酒蔵関係者以外の方々の参加も多く有り難いことだと思いました。

一方、併設で開催されている各県や団体などがPRの為に出店している日本酒フェアも大変な人出で、始めた頃の人集めに必死だった事など想像もつかない活況でした。日本全国、各県の各銘柄の皆さんがとても元気で、業界として大変有り難い事だと思いました。我々世代が苦闘していた、ひたすら落ち込む明りの見えない時代に、お酒の本質を伝えきれなかった事を自分達の責任と考え、自分の銘柄を売り込む前に日本酒の魅力とその姿をひたすらアピールする事に尽力しました。こうして地盤を固めた上で個々に品質の向上に取り組み、その成果を全て公開しながら、業界の発展を目指して来た世代にはまぶしい感じがいたします。

これ程改善例を社秘にせず、非常に判りやすく開示されている業界も珍しいと思います。何よりも違うのは今までの「良いものを造っても売れるとは限らない」と言う状況からSNS等情報ツールの発達や個人の発信力の増大等により「良い酒を造れば売れる」と強く思えること。輸出面でも可能性を疑い、売れない期間と経費の心配をしながら出かけた時代から、「頑張れば売れる」と言う確信を持って挑戦できる事が、如何に業界の元気の元になっているかと言う事です。理解してくださるお客様がいると言う事が如何に幸せな事か痛感しております。

皆様のご期待に応えるべく、只今も次の造りの品質向上・品質安定の為の仕込計画・設備更新を進めております。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

『伝える』

杜氏 一関 陽介

梅雨に入り、ジメジメして天候の冴えない日が続いておりますが、皆様如何お過ごしでしょうか。蔵内は新酒の貯蔵作業も終わり、いよいよ夏の商戦へ向けて出荷準備に追われているこの頃です。非常にありがたい事に日々の作業が追い付かない程のご用命をいただき忙しい毎日ではありますが、商品が出荷されていく楽しさや自分達の造った商品を飲んでいただける嬉しさを当たり前と思わず努力して参りたいと思っております。

話は変わりますが、皆様は酒蔵を見学された事はありますでしょうか?天寿酒造では通年酒蔵見学を受け付けており、平日のみならず土日・祝日もご予約を頂ければ対応致します。ご家族連れやグループで、また各種研修やお取引先、取材の方々を含めると大変多くのお客様にお越し頂いております。大半は私を含め製品課員がご案内致しますが、それ以外の社員がご案内する場合もございます。ですから必ず正確に伝えなければならない事(会社の歴史や製造工程等)以外は案内人によって説明の仕方は多少異なります。その人が酒造りの現場で実際に体験した苦労話や、やりがい等を自分の言葉で伝える事が大切と考えます。それは私自身も工場見学が好きでお客様側の立場になる事がよくあるのですが、全てマニュアル化された案内はどこか心に響くものが無く感動を覚えないからです。

弊社では約1時間の見学時間を設定致しております。短時間ではありますが、自分達がどういう気持ちで酒造りに取り組み、商品にどういう背景があるのかをアピールさせていただけるという私達にとって最高の場です。ですから私達にはそれを完全にお客様に伝え、且つ楽しんでいただく義務があると考えています。「単なる説明」ではダメということです。

私は入社3年目頃から蔵見学を受け持つようになりましたが、今まで沢山の方にお会いしました。お客様によって利き酒したい・話を聞きたい等いらっしゃる目的が若干違うような気が致します。しかし、わざわざ弊社へ来ていただいているのは皆様同じですので、そのお客様にとっても、楽しんでもらえるように自分達に何ができるかを考え「また来たい」と思ってもらえるような楽しいひとときを提供したいと考えています。

人に物事を伝える事は大変難しい事だと実感していますが、これからも印象に残る説明と心に染みる日本語をご準備してお待ちしておりますので、初夏の鳥海山が綺麗な矢島まで是非足をお運びください!

祈り
2016-05-01

祈り

代表取締役社長 大井建史

この度の九州地方の大震災に対し、衷心よりお悔みとお見舞いを申し上げます。

ニュース映像や新聞で被災地の様子を見るとどうしても5年前が思い出されました。3・11のあの日、私は輸出の仕事で香港に向かう飛行機の中でした。到着後ホテルのテレビで津波の映像に驚愕しながら、必死で電話やメールに挑戦しました。通じたのが意外にも携帯メールで、ガラ携の電話で家族・社員・会社の無事を確かめ、停電中の為蔵人と管理職以外は自宅待機を命じ、その他色々な指示をピコピコと一生懸命に入力した事を思い出します。3日後にたどり着いた羽田空港は、電気を落とし薄暗くて肌寒く売店にも食糧類はあまり並んでいなかったことを思い出しました。家にたどり着いた時、妻や子供たちの不安そうな顔が私を見て少し安心してくれた事と、携帯の警報音や余震で眠れぬ夜を過ごした記憶が蘇ります。

今は只、1日も早く地震が鎮まる事と、地域の復興が始まる事をお祈り申し上げます。

矢島の里は桜が5分咲きとなりましたが、気温が突然1℃まで下がったり大風が吹いたりと中々に異常な気象が続き、この通信の届く4月末には桜の花が残っているか心配です。うまく行きますと5月の連休が桜満開と成る年も有るのですが…。

お陰様で昨年より数本の増産で、季節社員の蔵人は一応予定通り15日に解散をしましたが、静寂を迎えるはずの酒蔵内は、まだまだ盛り沢山の作業に社員蔵人が忙しく仕事に励んでいます。

天寿では吟醸の文字が付いたお酒は全て瓶火入れ冷蔵貯蔵をしておりますので、3月20日に竣工した冷凍冷蔵倉庫にたっぷりと貯蔵しております。製造工程の最終部分の設備投資から始めましたので、何時までに出来るかは別として、いよいよこれまで我慢せざるを得なかった「連動する設備投資」を計画しはじめました。

蒸米のさらなる改善の為に、混入物質があると言われるボイラーの蒸気が一切直接入らず、100%間接蒸気となる古来からの和釜の蒸しを現代型にした蒸米機の導入。それに伴う釜場の改築。気温が上がっても菌汚染されない様に槽場の断熱と省エネ蓄冷機を使用した冷蔵化等々山積みですが、一つ一つ進んで参ります。

私が社長になった時に決めた方針全ては「地元で出来る最高の酒を目指す」為に!!

今年醸しました弊社のお酒がこれから続々と発売されて参ります。ご期待ください。

今やるべき事

杜氏 一関 陽介

4月5日に甑倒しを迎え、今年度の仕込みが終わりホッと一息。蔵人全員が健康で、事故もなくこの日を迎えられたことが何より嬉しく、長かった酒造りへの達成感でいっぱいです。とは言え、春が来て一気に暖かくなり、残っている醪や製成酒の品温管理に頭を悩ませております。

そのような中、4月12日・13日に東京都北区で行われた日本醸造協会主催の清酒製造技術セミナーに参加してまいりました。全国から技術者が集まり、今年度の酒の傾向や反省点についての意見交換や、新しい技術についての講義を受けました。仕込み期間が終わったばかりの私にとって、自分達が半年間取り組んできた事の反省や来年に向けて考えるべき課題は何なのかを見つめる良い時間を過ごすことが出来ました。思い起こせば、原料処理を向上させる為に、その肝である甑(米を蒸す機械)の修繕と改良を会社からしていただけることになった昨秋。仕込み開始数日前ギリギリに設置が完了し、仕込みが計画通り開始できるのかハラハラとした今期のスタートでした。来年度はそのような事にならぬよう、「何が良くて何がダメだったのか」「来年度の課題は何なのか」を今からしっかり考え、スムーズなスタートを切れるようにしていきたいと考えております。

4月15日を以て製造に関わる蔵人メンバーは解散を迎えましたが、年々増える特定名称酒の瓶火入れ作業の為に製造部総出で土日もフル回転状態です。これもすべてお客様に満足していただける商品作りの為であり、また酒造りができる私達の楽しさや喜びに変わると思えばありがたいことです。例年より少し早く矢島の桜も開花し、花見シーズンが終わると共に、夏向けの生酒商品も続々と発売になります。来年度に向けて今やるべき事を必死で考え取り組み、併せて皆様に安心して飲んでいただけるよう万全の品質管理で臨んでまいりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

暖 冬
2016-03-01

暖 冬

代表取締役社長 大井建史

二月十三日の天寿蔵開放には多くのお客様にご参加いただき誠にありがとうございました。今回の受付は二千二百人に達し、特にお昼前後は満杯状態となり、様々なご不快をお掛けした事も有ったかと存じます。ご意見をお寄せいただき改善して参りますので、宜しくお願い申し上げます。

今年の暖冬は凄いです。雪解けの一番早い子吉地区ではありますが、三月の中旬に土が出るのですが、例年であれば厳冬期と言える二月の初めに土が出ていました。一時的にとは言え記憶にない現象です。除雪も非常に楽なのは良いのですが、蔵内温度の低温での安定が図れず、どうしても電力を使って機械で冷やす事が必要になります。

二年前に設備した夜間低額電気を使用した蓄冷型省エネ設備が大活躍しています。

秋田には冷蔵・冷凍倉庫業がほとんど無い為、生酒や瓶火入れしたお酒の貯蔵庫を自前で確保しなければなりません。その為今年は、製造計画分のお酒の貯蔵用に瓶貯蔵用冷凍・冷蔵倉庫を新設中で、工期がずれこみ雪中での工事を心配しておりましたが、これまでの所は暖冬の御陰で除雪負担も少なく順調に工事が進んでいます。

資材の高騰や人材不足で、建設費が非常に高くなっているうえ、冷蔵庫自体の壁は本来屋外用で囲いは要らないのですが、矢島の地は積雪が一メートルを超えるので囲う倉庫が必要になるのです。雪が降らない又は少ない地域では工事費が五分の二で済むのです。豪雪地帯ならではの非常に頭の痛い現実です。

それでもご愛顧頂いております「純米大吟醸鳥海山」をはじめ、瓶貯蔵商品の品質保持・品質向上・ご予約数量確保の為に建設に踏み切りました。

この所、純米吟醸系の冷やで美味しいお酒がご注目を頂いて参りました。天寿には燗酒コンクールで最高金賞等を頂いた「天寿純米酒」等、吟醸以外の常温や燗も美味しい自慢のお酒もあります。しかし、さらに進化を求めもう一つ上の美味しさを目指して、ここ三年程秋田県醸造試験場と協力しながら新型の生酛系酒母の研究をして参りました。遠くない将来に新しいご提案が出来るものと、ワクワクしているこの頃です。

常に「もう一つ上の味わい」を目指して今年も挑戦しております。酒蔵では大吟醸のしぼりが続き、二月の末は一関杜氏を先頭に蔵人一同が大わらわです。

是非ご期待下さい。

酒蔵開放を終えて

杜氏 一関 陽介

全国的に暖冬と予想された今年の冬でしたが、弊社のある矢島町もいつもより雪が少なかったように思います。例年この時期になりますと蔵内では鑑評会出品用酒を搾るのですが、気温がこれ以上あがらないよう願うばかりです。とは言っても自然には勝てませんので、自分達の技術と冷蔵設備を駆使し、ここから3月31日までの約一か月間は外気温に細心の注意を払い、徹底した品温・品質管理に努めて参りたいと考えております。

去る、2月13日に毎年恒例となりました酒蔵開放を開催し、二千人を超えるお客様にご来場いただき誠にありがとうございました。

弊社では蔵開放当日、酒造りに携わる蔵人がお客様を蔵の中に案内する企画がございます。昨年までは酒造りの現場(工場内)を入場者全員が自由に入退場できるスタイルをとって参りました。しかし、安全面(タンクへの転落防止など)や衛生面(商品への異物混入防止など)の観点から本年度より入場時間・人数・見学場所を制限し、案内人(蔵人)の目の行き届く範囲での企画とさせていただきました。食品を製造するメーカーとしては今までやっていなかったのが不思議な位当たり前の事。皆様にも理解していただけると思います。 ただ、数時間に二千人のお客様が来るわけです。見学時間・人数も先着順にしてしまったことで、「本当に蔵の中を見たかったお客様をご案内できなかったのではないか」「面白くない思いをしたお客様がいたのではないか」と感じた一日でした。実際、運営に関して当日多くのお客様からご意見を頂きました。貴重な御意見ですので、必ず次回に活かしていければと考えております。

これは一例で、毎年酒蔵開放は沢山のお客様がわざわざ矢島まで足を運んでくださる一年に一度の行事です。私は皆様に楽しんで帰っていただき、また来年も来たい!また天寿を飲みたい!と思ってもらいたい。その為には魅力的な企画や美味しいお酒を提供していくことが当然と考えています。今年の反省をふまえ、何を求められているのかしっかりと考え、来年は更に良いものになるように改善していければと思っております。最後に、これからの季節、出会いや別れ・花が咲く頃には、お酒の席も増えるでしょう。その際は是非、天寿・鳥海山で乾杯していただければと思います。様々な場面で皆様にご利用いただける商品を目指して、残り二か月の酒造りに励んでまいります。

新年に思う事
2016-01-01

新年に思う事

代表取締役社長 大井建史

明けましておめでとうございます。

今年もご愛顧の程よろしくお願い申し上げます。

年末に少し降った雪も二日から降り続く雨に屋根から落ちた雪以外はすっかり消えてしまいました。今の所滅多にない程の暖冬です。

酒造りの方は順調に進み、四日から兵庫県多可町にある秋田村での契約栽培山田錦特上米による大吟醸の仕込が始まりました。秋田県内最年少杜氏四回目の正念場です。

弊社の原料米は天寿酒米研究会を中心として全てが契約栽培米です。「酒造りは米作りから」の考えから、昭和五十八年に天寿酒米研究会を設立し、最初は矢島の蔵人二人で八十俵からのスタートでした。食糧管理法があり農協に米を出せば高値で売れる時代に、品種を分ける事で天候的な収量の保険としての考え方や、食管法終了後に具体的な売り先を目の前に確保する事の優位を説いて一軒づつ説得した結果、今ではグループとして二千俵を超えて久しくなりました。

私が秋田県酒造協同組合の原料米対策委員長に成ってから7年を超え、その間湯沢地区との県産酒造好適米の契約栽培の品質向上や数量調整と、新品種「酒こまち」の種子の保全・流出防止を図りながら、県外への販売にも努めました。

また、一般酒造米も地域流通米とし全量契約栽培としました。加えて県外ではありますが山田錦の村米制度(地域との契約栽培制度)に団体(酒造組合)として初めて秋田村を実現しました。結果、酒造協同組合経由の原料米はほとんどが契約栽培となっております。

昨年末農大から二名の研修生が来ました。弊社で女子学生を受け入れるのは初めてでしたが、一人は何と私の学生時の卒論実験ペアだった同期の御嬢さんでした。三姉妹の親としては二人の感覚が初々しく時の流れを感じました。伝統産業のそれも長年苦しんで来た中で躍り出すには奇も必要な事ではありますし、色々チャレンジできる技術的な進歩もあります。一世代前と比べると農大醸造学科出身が増え各醸造試験場のご努力もあり、時代の要請からも酒の事を良く知る蔵主が断然増えて来ました(当然のことではありますが)。若い世代が我々の地ならしの後に芽吹き始めました。起きそうで無かった日本酒のブームの気配も出て参りました。その様な今だからこそ真の酒造りを探求しなければなりません。

何事も基本の上に物事は成り立ちますが、何処までその基本を突き詰める事が出来るか…。私にとっての真の酒造りとは何か…。百四十二年の天寿の伝統とは何か…挑戦は続きます。

四造り目を迎えて 

杜氏 一関 陽介

明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。また日頃よりご愛顧いただいております皆様方にとりまして良い一年になりますよう、お祈り申し上げます。

さて、本年度の新酒はいかがでしたでしょうか?米の品質は年によって異なります。「今年の原料米は溶ける」という情報を基に米の吸水はやや少なめ、しっかり締めて十月末より仕込みを行って参りました。その為、しぼりたての生酒はとても綺麗な仕上がりになったと思っております。今月から春に向けては、夏の生酒や秋のひやおろし等の仕込みも徐々に始まります。

一年間美味しく飲んでいただく酒を造るわけですから、ただ米を「溶かす」「溶かさない」だけで無く、最高の酒になるような原料米の処理方法を出来るだけ早く手中の物とし、その方法をベースとして、商品コンセプトに合わせ、仕込みに応用させる事が重要です。

毎年新酒の状態が見れる今頃までには出来ていなければいけない事なのですが、なかなか難しいものです。

当然良い酒を造る条件は米の質だけではありません。弊社の設備は麹や醪の温度管理も安定して出来る環境が整ってはおりますが、今冬は暖冬なのか矢島もさらっと雪が積もる程度で蔵内温度も例年より高めで推移しているように感じます。そうした自然環境の変化に対応する温度管理も重要です。

また、杜氏四年目の私が一番大事に思う事は、実際に酒造りを行う為に必要な道具・機械・人です。使う物を修理するのも人です。自分達が使う道具を理解する事、共に働くメンバーを思いやる事、これが欠ける事が一番酒に影響するように感じます。酒造りに大切な事は考えれば色々あって尽きないですが、良いと思った事はしっかりと検証し、取り入れる姿勢を忘れず、本年も励んでまいります。

最後に、私を含め蔵人全員が弊社の社是にあります「製品に誇りを・顧客に感謝を」を常に念頭において「酒造りは人作りである」という考え方と「周りの人への感謝の気持ち」を忘れず、酒造りに取り組む事をお約束して、新年の挨拶とさせていただきます。

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