この地でできる事
代表取締役社長 七代目 大井永吉
七月の大雨の際は、全国の方々からお気にかけていただき、沢山の見舞いの言葉を賜り、ありがたく感謝申し上げます。天寿酒米研究会の契約圃場二町歩の冠水被害はありましたが、酒蔵の無事をご報告出来る事に安堵しております。
秋田県由利本荘市の人口は七万千人ながら、東北で最も面積が広く神奈川県の約半分といわれております。隣の由利町や東由利町の住宅や農地と関連インフラの被害は大きく、高齢で跡継ぎのいない農家も多く、帰農をあきらめるところが出る事を心配しております。
コロナ寸前に還暦をむかえ、誰もが予測もしなかった渦中を夢中でもがいた五年間が過ぎ、一九五九年八月十五日生まれの私が六十五歳の前期高齢者と呼ばれる年齢となった翌日、一八三〇年八月十六日創業の弊社は百九十五年目に突入しました。
新盆で帰郷した東京で会社社長の友と久しぶりに話す機会がありました。体調・健康の話をするのは年寄りだと若いころに思っていた通りの話をしている我々がいます。又、つい最近突然亡くなった友の事。親の葬儀の事。世代交代の在り方やタイミング。まさにお年頃だと苦笑いです。還暦になった頃は具体的には考えていなかったのですから、今更ながらこの五年間の変化は大きいのだと判ります。
直接的な被害で東北に注目されている間に、関東以西の高温がもたらす間接的な農作物への被害の話が伝わってきました。昨年も高温障害で米の作柄が大変悪かったのですが、それよりも更に今年の作柄や品質への影響が大きいのではないかという話です。農家の高齢化と後継者不足は深刻な問題ですが、今目の前に温暖化と米不足と言う危機がそこに迫ってきており、政治資金の規制が第一などと暢気な事を言っている場合でないと国民の大部分が考えているのではないでしょうか?
百九十五年目の酒造りに挑戦できる感謝と喜びを胸に、この素晴らしい水と自然の恵みをもたらす鳥海山の麓由利本荘市矢島の地で酒米を生産し、それに佳酒という付加価値を付与し、各国・各地コンテストで受賞することでその品質の高さを証明しながら、国内外に懸命に販売させていただき、皆さまに愛される美酒を目指して作り続けて参ります。
学び
杜氏 一関 陽介
今年のお盆休みは八連休をいただきました。草刈りに墓参り、趣味の時間など…リラックスできる時間となりました。ゆっくりできた分、あと一か月程度で始まる酒造りに向けてしっかり準備していきたいと思います。
そんなお盆休み前には日本名門酒会様のメーカー技術交流会にて多くの酒造メーカーの社長・杜氏様の前で弊社の酒造りについてお話させていただく機会をいただきました。大勢の前で話をさせていただくのは二年振りで非常に緊張しましたが、なんとか務めることができました。自分が伝える側となるといろいろ話題を詰め込みすぎてしまうところがあり、資料作成を含め頭の中の整理がなかなか大変です。聴いている側の方が良いなと思いながらも、自分のやっていることのまとめや振り返りの機会にもなり、自分が話したことへの質問や意見から教わる事が沢山あります。まずはそういった機会をいただけていることに感謝し、学んだことを活かしていかなければと思います。
話は変わりますが、七月二十五日に弊社のある由利本荘市は集中豪雨に遭い、社員・社屋に被害は無かったものの、子吉川の増水により川沿いにある酒米研究会メンバーの圃場が浸水する被害を受けました。出穂時期の被害であったこともあり非常に心配ですが、今後どのような影響が出るのかしっかりと見ていかなくてはいけないと思っています。
ちょうど一年前に秋田市で豪雨があり市街地の洪水被害を目の当たりにしたことで、いつ自分の身に起こっても不思議ではないと思ってはいたのですが、正直こんなに早く来るとは思ってはいませんでした。バケツをひっくり返したような雨とまではいきませんが、強雨が数時間に亘って一度も止まずに降り続いた記憶があります。
どんな災害でもこれはヤバそうだなと思ってから避難以外にできる事というのは時間的に限られていると思います。災害が起きてしまえば安全に避難することが当然最優先ですが、被災しても毎日の習慣づけや決め事があれば被害を少しでも小さくできるのではないかと実際すぐそこまで災害が迫ったことで学ぶこともありました。昨年同時期にも同じようなことを記した記憶がありますが、物や道具の備えがあっても自分の心の備えができていなければ、いざという時にすぐ動けるか動けないか、さらに被害にも差が出るかもしれません。
この環境でなければ天寿の酒造りはできません。技術力だけでなく、安全で安心して酒造りができる毎日が当たり前ではないというこの夏の「学び」を活かして、まもなく始まる酒造りに挑みたいと思います。