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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

127回目の酒造りを終えて
2001-05-01

127回目の酒造りを終えて

代表取締役社長 大井建史

前号をお送りした頃から、急に春めいてきました。気温が少し上がると、蔵の周りの雪が急速に融け始め、屋根の雪が雨だれとなって軒下の雪を溶かし、窓から光が入り始めます。この頃には雪室氷温貯蔵用の雪を確保する為、雪を高く積み上げシートを掛けておきます。空にも明るい青空が続くようになると、北国にも春がきた事を実感します。

3月24日には甑倒し(こしきだおし・蒸し米作業の終了の事)4月15日には皆造(かいぞう・酒造り全作業が終了する事)となり、良い酒を無事造り終えられた事を神に感謝し、全社員でお祝いを致しました。

前号でご案内させて頂きました、「大吟醸鳥海しぼりたてにごり生酒」は如何でしたでしょうか?お陰様で予定本数を完売する事が出来、そのうち何人かの方にお褒めを頂き大変嬉しく思っております。また、品切れでお送り出来なかった皆様には大変申し訳ございませんでした。

現在、五月のイベントで記念発売する雪室貯蔵純米生酒や生酒以外のお酒は、火入れ(第一回熱殺菌・ 醗酵を停止させ熟成を促す)の真っ盛りです。この号が着く頃には蔵人も家に帰り、田植えの準備で忙しい時を過ごしている事でしょう。

酒蔵は静かな熟成の

時を迎えました。

麹の造り方を変えた大吟醸・純米酒、新酵母ND‐4・NI‐2で醸したお酒等、今年の進路決定は総て終わりました。後は熟成の環境作り以外できる事はありません。待望の冷蔵倉庫も完成し、大量のびん貯蔵も可能になりました。

今後は、タンク一本一本について、どの子がどんな育ち方をしてくれるか、親ばか話?をさせて頂きたいと思っています。

五月三日はイベントです。

さて、昨年初めての試みで地域共創イベント「やしま駅の市・酒蔵の市」を開催してから、早一年が過ぎました。今年もまた、駅前活性化実行委員会のメンバーと力を合わせ、楽しい一日を過ごして頂けるイベントにしようと、張り切って企画を出し合っております。

皆様と直接お会いできる大切な機会です。社員全員、どうやって日本酒をご理解いただき、天寿に親しみを持って頂こうかと一生懸命です。是非、声をかけて頂き、色々なご意見や質問などをぶつけて見て下さい。上手くお応え出来るかはさておき、私共の精一杯の「思い」をお伝えできる事と思います。

五月三日の「やしま駅の市・酒蔵の市」へ是非お出かけ下さい。

蔵のページ

酒造りが終わり

そして始まる。

4月に入ると今年の酒造りは終盤を迎えます。昨年よりも仕込み本数で17本多い119本目のもろみを搾り上げると皆造となります。

今年の造りは特に純米酒の仕込みが増えました。又、純米吟醸酒「雪ごよみ」もおかげさまで当初計画より2本多い仕込みとなりました。お客様の「美味しいお酒を楽しみたい」という声の高まりと、酒蔵開放を始めとするイベントやこの酒蔵通信を通じて、「蔵には今、こんなに美味しい酒があります」という発信が、直接伝わった結果でもあると考えています。

お客様の生の声が励みになったせいか、村上杜氏も、いつもの年にもまして目を光らせていました。出来上がった純米酒は、ふくらみとキレのある天寿らしい仕上がりと成っており、自信を持ってお薦めできるものとなりました。氷温熟成の雪室酒もその仕上がりが楽しみです。

さて、皆造が近づくと、蔵では今年使用した道具類の手入れと後かたづけを始めます。その後、新酒の殺菌と熟成促進を兼ねた火入れ作業が最盛期を迎えます。そしてこれが終了すると蔵は秋まで眠りにつきます。今年の酒造りが終了するのです。

しかし、実はすでに来年の酒造りは始まっています。酒造りは米作りから始まるのです。4月はもう次年度の原料米を育てる準備の月なのです。

一日の仕事を終えた蔵人は、自宅に戻ると農家の顔に戻り、これからの種蒔き準備に余念がありません。

初めに種籾を水に浸け十分に吸水させます。美山錦は他の品種と比べて発芽率があまり良く無いため、水温と日数を種蒔き日に合わせて調整しています。そして今、苗を育てる培土の調整を行っている処です。

「苗作り八作」と昔から呼ばれます。育苗は米作りの8割を占めるという意味です。従って培土の調整は苗の善し悪しを左右する第一の関門です。昨年の苗の状況を脳裏に浮かべながら肥料の配合を検討し、土に馴染ませ、種まきのタイミングを見計らっています。

4月中旬には種蒔きが始まり、約1ヶ月の育苗期間を経て、健全な苗だけが田んぼにデビューし、来年度の酒造りに使用される美山錦となります。

自ら育てた美山錦を蔵に持ち込んでより良い酒造りをするという事は、1年の最初の仕事として、品質向上を目指した米作りから始まると言う事です。「天寿」の蔵人は酒造りのプロであり、米作りのプロでもあります。

その年の気候や稲の成長過程を知りつくし、原料米に合わせた酒造りを行える蔵人は天寿の誇りです。

酒造りも終盤に・・・・・
2001-03-01

酒造りも終盤に・・・・・

代表取締役社長 大井建史

今年の雪は、北陸や山形のニュースにも関わらず例年並だと申し上げていたのですが、ドカ雪(集中的な大雪)こそ在りませんでしたが毎日のように降り続き、気が付くと蔵が壊れないように皆で一生懸命雪下ろしや雪よせをしておりました。お陰で蔵はすっかり〝かまくら〞状態になり、外気温に関係なく低温で安定し酒造りに適した状態にはなりました。

そんな三月初旬、大吟醸「鳥海の雫」を筆頭に純米吟醸・大吟醸等上級酒の搾りが相次ぎ、全力疾走しながらもその出来具合に息を潜め、頭の中もぶんぶんヒートさせながら、ホッとしたり、ニンマリしたり、顔をしかめたりしながらも、充実した時を過ごしました。

天寿では毎年目的を持って色々な試験醸造をいたします。その中の新酵母への取り組みとして、今年は私の恩師である現在東京農大短期大学部の中田久保教授から頂いた、花(撫子・日々草)から分離した二つの酵母で6本仕込みました。その中から誕生した一つが純米吟醸「雪ごよみ」です。全体に非常に面白いものが出来ましたが、続くものをどのような商品にするべきか検討中です。今だけ屋企画で出させて頂きたいと思いますので、その際には皆様のご意見・ご感想を是非お寄せ下さい。

さて、今年も2月3日に蔵開放イベントを開催いたしました。昨年は午後1時からとした所、700名を超えるお客様が短時間に集中してしまいご迷惑をおかけした反省から、午前10時の開場、会場も分散したレイアウトにして当日を迎えました。ところが、JRの秋田〜本荘間が止まってしまう程の凄まじい寒波が襲い、社員全員大変心配致しました。しかし、開始早々からお客様が見えられ、それも集中することなく良い流れでゆっくりと、最終的に600名を超えるお客様にお楽しみいただくことが出来ました。築百七十年を超える座敷で、今年もお茶席を準備させていただきましたが、はす向かいの「原田栄泉堂」の息子さんが和菓子の修行をして帰られたのでご協力頂き、又ひとつ趣を加える事が出来ましたし、お祖母さんから引き継いだばかりで奮闘している仁賀保の「ダイマル五十嵐商店」さんのハタハタ寿司や鳥海町の新特産品にと頑張っている百宅そばの「ももや」さん等のご協力を得ながら盛会裏に終える事が出来ました。誠に有難うございました。

天寿酒造では、皆様とのつながりを大切に、私の酒・私の蔵と思っていただけるようこれからも精進して参ります。今年はタンクが潰れない様工夫をした上で、雪室貯蔵酒を封印し氷温熟成させており、5月3日地域共創イベント「やしま 駅の市・酒蔵の市」を開催し封印を解く予定ですので、是非ご期待ください。

蔵のページ

1月から3月にかけては酒造りのピークです。寒造りと称されるように、一年の中で最も厳寒期を選んで吟醸酒や純米酒等の上級酒を仕込みます。

酒造りは、外部から雑菌の侵入が無い閉鎖された空間で行われる訳ではありません。空気中には常に雑菌が浮遊していますし、仕込み水、米麹も特に殺菌されていません。

この様に雑菌の侵入が容易な状態で発酵が行われることを開放発酵といいます。

では、酒造りの際、雑菌に侵され発酵が失敗することがあるのでしょうか。答えはNoです。何故なら、酒母に含まれる乳酸の雑菌抑止作用や、三段仕込みの手法が雑菌のつけ入るすきを与えないからです。

この事に加え、寒の時期は気温と湿度が下がり、降り積もる大量の雪は空気中のチリや埃を押さえ込み、菌学的に一年で最も清澄な時期になります。また、その雪が蔵をかまくら状態にし、気温の変動を最小限に抑えて品温管理を容易にしてくれます。

もちろん、蔵の中や道具類は全て清潔でなければなりません。仕込みに使用する道具類は、使用するたびに釜で煮沸消毒しています。

日本酒の醸造の大きな特徴は、糖化とアルコール発酵が仕込みタンクの中で同時に進行する独特の発酵形式を持つ事です(併行複発酵)。ご存じのように清酒の原料は米、米麹、水です。米はデンプンの固まりです。酵母菌は糖分が無いと発酵できません。そこで米麹が蒸米に作用してデンプンを分解し、ブドウ糖に変化させてくれます(糖化)。蔵開放でお飲み頂いた一〇〇%米麹の、あの甘酒を思い出して頂けばお解かりになると思います。次に、酵母菌がそのブドウ糖を食べてアルコールや華やかな香りに変化させてくれるのです(アルコール発酵)。

この様に酒造りは麹菌と酵母菌という2種類の微生物を巧く利用して、糖化を追いかけるようにアルコール発酵が併行に進行し、醸造酒の中で最高の20度までアルコールを出す事が可能です。この事でも世界の醸造酒の中で最も高度な醸造技術であると言えるのです。

さて、2月3日酒蔵開放の際には大寒波の中、大勢のお客様にご来場頂きありがとうございました。私ども6名の蔵人が案内役を務め酒造りの行程を説明させていただきましたが、いかがだったでしょうか。酒蔵開放の目玉は酒造りを間近で体感できることだと思います。天寿では毎日1本(1升びんで約3000本位)の〝もろみ〞を仕込んでいますので、もろみの日々の変化が非常に分かり易くなっています。今日仕込んだもろみが次の日どの様に変化しているかは隣のタンクを覗くことで理解できるのです。

言葉では上手く説明できませんが興味を持たれた方は是非蔵に足を運んで下さい。きっとその日々の変化に感動し、お酒への興味が湧くことは間違いありません。私もその一人なのです。

製造課係長 佐藤俊二

新世紀・新創業の時
2001-01-01

新世紀・新創業の時

代表取締役社長 大井建史

未来と言う言葉で表してきた「二十一世紀」がやって来ました。

思い・感動・誇り・自信・喜び・信頼・愛

人生において、重要な言葉であり、これが無くして人生の充実を感ずる事は出来ません。

仕事においても同じであります。その仕事に思いを込め、学び、共に目標に向かい、改革し、達成の自信と連帯を体感し、実力と信頼を築きあげる喜びと、人生の充実と自身の誇りを実現する、最も重要な場であると思います。

「今」を如何に充実したものにするのか、思い・実力・誇りをどう発揮するのか。自分を計る物差しを伸ばすことが出来るのは、自分の心の姿勢をどのように持つか、貴重な人生の時を、どの様な心の様相を持って過ごすかに懸かっていると思います。

二十一世紀は、これまでの単なる延長には絶対に成りません。自分を計る物差しも、このままでと考えた瞬間に、成長を止めるだけではなく、体力の衰えと比例して縮みはじめます。

昨年のオリンピックでも、数々の感動的なドラマがありました。無名な若者が一躍有名になるシーンも多々有りましたが、私の印象に一番残るのは、輝かしい実績のあるベテラン選手が、事故やスランプからすさまじい努力によって再び栄誉に輝いた時でした。

その人たちが一様に言われることは「ゼロからの出発」と言う言葉です。物事普通にがんばっても普通にしかならない、過去の実績・栄誉をかなぐり捨て、全くの新人に立ち戻り、総ての事を検証し直し、総てに最高を目指して一から始める。なんと凄まじい決意でしょう。

これを企業活動に置き換えると『新創業』と言うのだと思いました。現状に囚われることなく、積極的に成長する努力を続け、高い誇りと自信を持った会社を目指し続けたいと思います。

この一球は絶対無二の一球なり

されば 心身をあげて一打すべし

この一球一打に技をみがき

体力をきたえ 精神力を養うべきなり

この一打に今の自己を発掘すべし

これを 庭球する心という

(福田雅之助)

限りある人生の、限りあるスポーツの出来る時間を、いかに真剣に自己を鍛練することが重要かを、庭球を通じて伝えている言葉でありますが、これは酒造りや会社の仕事にも十分に通じる言葉だと思います。

世界に通用する名醸蔵を目指し、お客様は常に正しいと認識し、会社の、或いは自分の有るべき姿を求め、自信と誇りの持てる仕事をするために、現在の天寿の歴史を担う一人として「今」自分に何が出来るのか良く見つめる。なぜなら「今」は、思いが問われる時代・本気が問われる時代だからです。

近所のいつものお客様に一から細やかにお応えし、喜んでいただいている事を確認しながら、精度を上げてその環を広げて行きたい。テクニックなどではなく、喜んで頂けるお客様がいる事、それが有るべき姿であると考えます。広く浅くは我社の求める姿ではなく、どこまでも深く濃い付き合いの出来る、信頼される酒蔵を目指します。

本年も、皆様のご愛顧を、よろしくお願い申し上げます。

蔵のページ

十二月に入ると、槽(ふね=お酒を搾る道具)からは新酒が滴り落ち、仕込みも出荷も最盛期となり一年で一番活気ある時期を迎えています。今年収穫された中で一番良い美山錦を選び醸される大吟醸、アイガモ達と共に育てた無農薬美山錦で仕込まれた矢島物語、ふりかえれば鳥海も、今、静かに醗酵しながら時を刻んでいます。年明けには搾りに入るため、蔵人達はコツコツと準備を進めています。

今年の美山錦大吟醸に使用される米を栽培したのは、もろみ担当の土田邦夫(2年連続)と槽担当の佐藤政一です。この様に、誰の米がどの仕込みに使用されたのかが明らかなのが、「酒造りは米作りから」を基本姿勢としている天寿なのです。

さて、前号でお知らせしたマル秘新商品純米吟醸「雪ごよみ」をご紹介します。吟醸酒の特徴である華やかな香りは、酵母菌の特徴を最大限に引き出すことにより生成され、きめ細かな米由来の味わいがさらに香りを引き立てるのです。香りやアルコールを生成するのが酵母菌の仕事(アルコール醗酵)。お米を溶かし、味を引き出すのが麹の仕事(糖化)。そしてこの平衡に進む糖化・醗酵のバランスを取り、香味豊かな味を引き出すのが蔵人の仕事であり、その見極めをするのが杜氏の役割なのです。

十年前、秋田県で開発、発表された秋田流・花酵母AK‐1は、これまでに無い、口に含んだときに豊かに膨らむ香味が特徴の吟醸酒となる酵母菌でした。この酵母菌は秋田県内中の蔵元から清酒もろみを集め、その中から選別された優良菌株でした。これは、砂浜に落とした宝物のイヤリングを見つけ出すのと同じくらい困難な仕事だったであろうと想像します。

一方、現在の酵母菌開発は薬品耐性やDNA解析等、技術の進歩により効率よく新酵母菌を分離出来るようになりました。しかし、この様な新しい酵母菌の中には酒造りの本体であるもろみの末期に発酵力が鈍り、結果としてその特徴を活かすことが困難である事例を数多く耳にします。(この様な状態をもろみのキレが悪いと呼んでいます)

「雪ごよみ」に使用した新酵母ND‐4は、自然界の花から採取された酵母菌で華やかな上立ち香と豊富な含み香を特徴としています。事実、もろみ仕込みの際にはすでに、酒母の段階で蓄積された香りが造り蔵に立ち上がり、日に日にその存在感を強めていきました。

造り前からこの新酵母菌での仕込みを蔵人全員が待ち望み、期待していたため、もろみ担当の土田は入れ替わり立ち替わり様子を聞きに来る他の蔵人や、社長、会長にかなりのプレッシャーを感じていたようです。が、同時に吟醸酒造りに懸ける杜氏の心情をも共感した様子でした。

製造課係長 佐藤俊二

収穫の季節を迎えて
2000-11-01

収穫の季節を迎えて

代表取締役社長 大井建史

東北の麗峰鳥海山の麓、我が矢島町でも稲刈りが済み新米も出始め、秋の気配が急速に深まってまいりました。昨年と同様に今年も大変暑い日が続き、量的には良いのですが品質的にはやや不満な出来具合となりました。

杜氏を先頭に、造り仕舞以来、清酒の熟成を管理しながら、設備のメンテナンスや可能な限りの改善を行って参りました。造り酒屋の設備は冬場だけしか稼動しない割に、タンクの補修、機械類の分解掃除、果ては蔵の外壁のペンキ塗りまで、まあまあ本当に色々有ります。しかし、地道な施設改善が評価され、(社)日本食品衛生協会において食品衛生優良施設として十月二十日に厚生大臣表彰を受け、光栄に存じている所です。

ところで、フランスのワイン、イギリスのスコッチウイスキー、ドイツのビール、中国の老酒、日本の清酒等、文化の高い国には必ずその国固有の酒が有りますが、現在その原産国では例外無く苦戦しております。日本でも世界中のお酒や新しいチュウハイやリキュール類がどんどん発売され、選択肢が大幅に広がってきており、日本酒にとっては大変厳しい冬の時代であります。

この多岐にわたる嗜好の中で選ばれる日本酒とは…、しかも天寿らしくくつろげるお酒とは…、私共は、現在日本酒の造り酒屋としての生き残りをかけて、今度の製造計画の詰めに全力を尽くしている所です。これまでもお伝えして参りました様に、地の酒としてその土地で出来る最高の品質を目指し、米作りから心血を注いで参りました。その米をどのように生かした酒造りをして行くのか、これまで何度も試験醸造を繰り返し、試行錯誤して参りました。これはと思った事も何度かございましたが、なかなか確立したものに成りがたく、毎回新たな気持ちで今年こそと挑戦し続けております。

その様な過程の中で、数々の面白いものが発生致します。例えば昨年の大吟醸鳥海のしぼりたてにごり生酒や、純米しぼりたて氷温貯蔵(雪室貯蔵)の様に、今だけしか味わえないお酒が、蔵の中には沢山有るのです。それを地酒屋だから出来るご希望本数だけの瓶詰めで、天寿「今だけ屋」と名打って、この「酒蔵通信」やよちよち歩きのホームページにご紹介して行こうと考えております。是非ご期待下さい。(十月二十日に入蔵し、気合いの入った作業が始まりました。今年の新酒の搾りも、十二月初旬には始まりますので、その頃のホームページには是非ご注目下さい。)※入蔵…蔵人が酒蔵に入る事

天寿酒造にとってはもちろん、この地域の母なる鳥海山も紅葉が始まり、冬を前にした自然の最後の美しさが山々を飾っています。顔を出すのをとても恥ずかしがる鳥海山ではありますが、秋の美しい一日を堪能しに是非いらして下さい。

田んぼのページ

10月4日、蔵に新米が入荷致しました。いよいよ造りが始まります。今年の仕込み本数は昨年よりも16本多い117本を計画しております。特に純米酒の仕込みが増加しており、お客様の期待に添えるよう蔵人一同、身を引き締めて造りに向かいたいと考えております。

昨年新商品として仕込んだ純米吟醸「鳥海山」は8月に販売開始以来スリムなボトルデザインと軽快な酒質とが相まって、好評を頂いております。今年も又、マル秘「新商品」が計画されております。12月初旬にご注目下さい。

さて、前号より続きの無農薬への挑戦のお話は今回が最終回です。

数年来、手作業による除草作業を行って来たところで、アイガモを田んぼに放すと雑草が生えないという情報を入手しました。

早速アイガモを手に入れましたが、孵化して間も無い小ガモは見るからに頼りなく、本当に大丈夫だろうかという一抹の不安がありました。が、何はともあれ田んぼに放してみました。

小ガモたちは一斉に田んぼの中を物凄い勢いで走り回り、水を掻いて、雑草をつつきながら動きはじめました。社員はもとより、我々も歓声を上げて喜びました。

これなら行ける!。誰もがそう思いながら小ガモの働きぶりに見入っていました。

ところが、10分も経たないうちに小ガモ達の動きが鈍くなり、スローモーション映画のごとく次々と倒れ、泥まみれになって動かなくなってしまいました。

溺れてしまったのです。

あわてて田んぼの中に飛び込み、救い上げ、お風呂に入れて泥を落とし看病しましたが、その甲斐なく数羽は息をひきとりました。

この経験で得たことは、最初元気良く動き回ったのは水鳥の習性ではなく、人間が恐かったのだろうという推測と羽が水を弾くようになるまで馴らす必要があるという結論でした。

又、カモを放すタイミングは田植え直後でなければ効果が上がらない事も経験しました。

結局アイガモ導入初年度は今まで通り人海戦術による手作業となりました。

期待が大きかったため今までになく手取り、足取りも重い年でした。

これらの反省を踏まえ、一昨年より田植え前から小ガモを準備し本番の田んぼに入る前に水に馴れる場所(小ガモの意志で水に入り、自由に岡に上がってひなたぼっこができる訓練場)を設け羽が生え変わってから放しました。又、この間エサを与える人間しか近寄らない様にしました。

効果は絶大で1羽も溺れる事無く、雑草もほとんど発生しないほぼ期待通りの結果となりました。(最終的な仕上げは手作業で行いましたが軽作業)

この様にして栽培した無農薬米は、純米吟醸酒「矢島物語」と「ふりかえれば鳥海」に使用されます。

無農薬米を使用した仕込みは、精米、洗米浸漬、麹、酒母では大きな違いは現われません。

しかし、もろみの段階になりますと醗酵経過が順調で素直に熟成もろみに変化していくような感触を覚えます。

その結果、搾った純米吟醸酒は口当たりまろやかな、穏やかな香りの味わいを与えてくれます。

東北の麗峰「鳥海山」の伏流水と地元だから為し得た無農薬米、そしてこれを育んだ杜氏を先頭とする蔵人、天寿の社員、酒米研究会の会員。人、水、米それぞれにこだわりをもって生まれたこの酒は一つの物語を創り出しました。

無農薬純米吟醸酒 「矢島物語」・「※ ふりかえれば鳥海」は天寿を想像させるお酒です。

製造課係長

佐藤俊二

「ふりかえれば鳥海」は、プライベートブランド商品の為、取扱店限定商品です。

呑み切りの季節になりました。
2000-09-01

呑み切りの季節になりました。

代表取締役社長 大井建史

矢島の里は、今年も暑い夏でした。しかし昨年の稲のように高温障害が出るほどではなかったと思いますが、天寿酒米研究会の稲刈りはやや早めになりそうです。

8月26日に、「天寿水源探索ツアー」を組み、ご参加の皆様と鳥海山のブナ林を歩いて、湧水群や鳥海マリモの見学をして参りました。雄大な自然に囲まれた中、膨大な量の湧水に圧倒され、あらためて鳥海山の豊かな恵みに深い感謝を覚えました。(詳細は別に報告致します)

8月29日は、仙台国税局鑑定官、秋田醸造試験場の先生、「ふりかえれば鳥海」販売グループの酒販店さん、そして季節も含めた蔵人全員と、呑み切りを致しました。

呑み切りとは、新酒を貯蔵したタンクすべてから酒を出し(貯蔵タンクの酒の取り出し口を「呑み口」と言い、その口をあける事を「切る」と言います)その熟成具合と、新酒の出来をきき酒をして確認する作業の事を言います。しぼりたての段階でも、もちろんきき酒を致しますが、生酒で販売するお酒以外は、夏越えのある程度熟成したこの段階で良否を判断します。

先生方とは、すべて良好である事を確認、弊社の普通酒を含むすべてに活性炭素を使用してない貯蔵についても問題が無い事も確認し、その他の貯蔵方法について議論致しました。

「ふりかえれば鳥海」販売グループの皆さんとは、色々な意見・議論が噴出すると言う感じでした。無農薬純米吟醸「ふりかえれば鳥海」の出来も安定しているとお褒めをいただき、全体の酒質の高い安定感の話もされました。弊社の会議室は非常に暑く、きき酒をするには過酷な環境なのですが(酒にも人にも)、この酒はこの温度が旨いと25 ℃を越えた古酒大吟醸を汗を流しながら何度もきき酒をする、神宮寺の秋元さんが印象的でした。一番気になった話題は、今売れるのは「一合しか飲めなくても、一口で解かりやすいインパクトのある酒」と言う事です。天寿の吟醸は18 ℃位が良いとか、ディキャンティングした方が良い、派手さはないが天寿らしいやわらかさがある等、益々玄人受けするようになったとの話は有りましたが、一合を過ぎてからその良さが分かる?簡単に言いかえれば一般(ワイン派や若者)受けしないのでは、とも言われました。

様々な議論を経たうえで、その内容をしっかり受け止め、色々な試験醸造を含めた、自分達が成した結果を分析し、成すべき事、成さざるべき事を見極めて、杜氏を始めとする蔵人と共に、計画を立てて参ります。

矢島の里は、今「八朔祭り」の準備に明け暮れております。9月9日の宵宮、10日の本祭りと三百年以上の歴史を有する情緒あるお祭りです。若者はかぞえの四十二歳までとされ、私もラストイヤーを迎え、地元城新丁内の若者頭をさせて頂いております。まずお祭りを目一杯頑張って、次に向かって行きたいと存じます。

田んぼのページ

お盆を過ぎても残暑厳しい毎日が続いています。今年の春先は天候不順で冷夏の様相を呈し、田植えもわざわざ一週間延期したのですが完全に予想が外れました。

冷夏で一番心配なのは低温障害(不稔)です。花粉の素を造る時期に日照不足や異常低温に遭うと、お米の花に花粉が形成されません。その結果受粉が出来なくなり、穂が出ても稔らずに終わります。

幸いにして、受粉出来たとしても、この様な年は生育が遅れ、十分な実りに達する前に枯れてしまう事もあるのです。

平成の大飢饉?、平成5年の冷害はこの様にして発生しました。

これに対して人間が出来る対策は水管理です。

冷え込みそうなときには、あらかじめ深く水を張り田んぼを温かくしておきます。

しかし、今年は逆に気温が高すぎ、高温障害による品質低下の恐れがあります。この場合、水をこまめに入れ替え田んぼを冷やしてやります。

この作業は酒造りのもろみ管理と相通じるところがあり、細やかな管理により平成5年の冷害が報道された年でも、天寿酒米研究会産の美山錦は質、量、共に必要量を確保していました。

現在、田んぼの美山錦の生育は順調で出穂を過ぎ、稲穂が頭を垂れ収穫を待つばかりです。

さて、無農薬栽培への挑戦です。(前号続き)雑草との戦いでした。

田堀り(田んぼを耕す)、代掻き(田んぼをきれいに均す事)、田植えまでは従来通りに終えましたが、田植え後1週間も経過すると稲株の間に緑色の雑草が芽を出しはじめ、物凄い勢いで成長してきました。(主に、ノビエという雑草です)油断すると、田んぼがまるで芝生の様になります。

物置小屋から何十年前の「ガンヅメ機」(雑草の根を浮かせる道具、手押し除草機)を引っ張り出し、手で押しながら除草の準備をします。その後、社員全員が一列にならび手作業で雑草を引き抜きます。この除草作業の大変さは、行った人でなければ分からない重労働です。手は痛い、腰は痛い、次の日は皆、筋肉痛で動作がギクシャクします。しかも、又、1週間もすると雑草は芽を出し前述の繰り返しとなるのです。

雑草との戦いは社員全員で前半3回戦ほど行います。しかし、この除草作業のおかげで稲株は見違えるほど成長します。これは土の中に酸素を供給し、又、根に有害なガスを抜く事が出来るためと推定します。

不思議と心配した病気(イモチ病、モンガレ病等)にはかかりませんでした。(以下次号に続く)

新緑の美しい季節を迎えて・・・
2000-07-01

新緑の美しい季節を迎えて・・・

代表取締役社長 大井 建史

関東梅雨入りのニュースがあり、矢島の里も近々と思われますが、鳥海高原もそのすそ野の里も新緑にかこまれ、田植えの終わった水田や雪の残る山々が、春の太陽と清々しい空気と草木の旺盛な成長力に、輝いて見える季節を迎えています。

四月に皆造を終えて以来、蔵では静寂の中で新酒が静かに熟成を続けています。前号でご案内した5月3日のイベントの目玉である、「雪室貯蔵純米生酒」は新種の氷温貯蔵を試したわけですが、酒のフレッシュさを残しながらも生熟成の為、私の予想よりはやや若めでしたがとろみも有り、お陰様で完売させて頂きました。誠にありがとうございました。

初めての試みでありましたので心配しておりましたがこんな事が・・・ゴールデンウィーク前には里の方でも完全に雪が無くなってしまいます。蔵人が心配のあまり一生懸命雪を積みすぎ、なんとステンレスの密閉タンクが潰れて変形し、下の木製パレットは粉々に・・・

新種鑑評会につきましては、県・東北までは順調で、酒の評価では秋田県神宮寺のアキモト酒店さんのホームページで『今回一番の収穫はもっとも秋田的にして、全国でもはっきり個性を主張出来る「天寿」の存在感であった。きれいにして繊細、さわやかにしてビロードの様な余韻を残す喉越し。すべての持ち味がここまで洗練されるときれい、水のようだでは終わらない芸術のような品格が有る。秋田の吟醸はこうだ!というのであればまさしくこの「天寿」のことであろう。(http://www.hana.or.jp/hana/akimoto/)』とのご評価をいただき、身に余る光栄と存じました。が、この秋田らしいというのがありますとどうもいけない様で、残念な結果となりまし...

酒造りが終わった後、リーデル社の大吟醸グラス開発や、新商品用のビン探しなど、色々とやっておりましたが、あっという間に夏の贈答期が近づいて参りました。この時期から完全に新酒に変わるものが多くなって参ります。

代わり映えしないと思われる方もいらっしゃるでしょうが、これまでお伝えしてきた品質的向上の努力の結果の商品です。

よろしくお願い申し上げます。

田んぼのページ

5月に入ると酒蔵は静寂の時を迎え、代わって田んぼ(米作り)が本格的に始まります。

4月中旬に蒔いた酒米「美山錦」の種は順調に芽を伸ばし、すくすく立派な苗へと成長し田んぼに出るのを待ち望んでいるかの様です。私を含め、農家の皆さんはその苗に追い立てられるかの如く、田堀り(田んぼを耕す)、代掻き(田んぼに水を張ってきれいに均す)といった農作業に忙しくなります。その傍らで農作業によって田んぼの土の中から追い出されたミミズやオケラ、カエル等を狙って、ムクドリ、セキレイ、トンビ、そしてはるばる海からウミネコまでが、手を伸ばせば届きそうな所まで近寄ってきて餌を啄み、目を楽しませてくれると共に自然の営みが春を感じさせてくれます。

天寿の蔵元が酒米「美山錦」の栽培を始めたのは昭和58年にさかのぼります。

「自社で使用する酒造好的米(酒米)は地元で確実に確保する」という社長(現会長)の決断により当社独自の「天寿酒米研究会」を設立致しました。構成メンバーは蔵人を中心にこれに賛同する一般農家でした。

しかし、当地八島町は秋田県内の中でも「由利ササ」と称される質の高い食味米を生産する産地であったため、倒伏しやすく収量が少ない上に、当時価格の安い酒米を栽培してくれる農家が少なく、社長の強い想いで奨励金も出しましたが容易には必要量を確保できませんでした。

この様な状況の中、酒米の必要性、栽培方法などの勉強会を毎年繰り返し、種子の提供など農家支援を続けた結果、10年目にしてほぼ必要量に該当する約2,000俵の美山錦を確保できるようになりました。おかげさまで現在では、当社で醸造する特定名称酒のすべて(山田錦を使用するものは除く)及び普通酒の酒母米に「天寿酒米研究会」で栽培された美山錦を使用できるようになりました。

その一方で無農薬栽培にも挑戦し、6年前の弊社創立120周年を記念する新商品に無農薬米を使用した純米吟醸酒「矢島物語」を企画致しました。一番苦労したのは田んぼの確保でした。当社の意図する無農薬は単に農薬を使用しないということで無しに、

一・生活排水の全く入らない清水を確保できること。

(上流に人間が住んでいないこと)

一・日当たりが良いこと。

(南斜面=病害虫が発生しにくい)

一・管理上、あまり遠方に位置しないこと。

以上の条件が満たせる田んぼでした。運良く、矢島町新荘地区に全ての条件を満たす休耕田が見つかり研究会会員が栽培を始める事になりました。

(以下次号に続く)

製造課 係長

佐藤 俊二

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