127回目の酒造りを終えて
代表取締役社長 大井建史
前号をお送りした頃から、急に春めいてきました。気温が少し上がると、蔵の周りの雪が急速に融け始め、屋根の雪が雨だれとなって軒下の雪を溶かし、窓から光が入り始めます。この頃には雪室氷温貯蔵用の雪を確保する為、雪を高く積み上げシートを掛けておきます。空にも明るい青空が続くようになると、北国にも春がきた事を実感します。
3月24日には甑倒し(こしきだおし・蒸し米作業の終了の事)4月15日には皆造(かいぞう・酒造り全作業が終了する事)となり、良い酒を無事造り終えられた事を神に感謝し、全社員でお祝いを致しました。
前号でご案内させて頂きました、「大吟醸鳥海しぼりたてにごり生酒」は如何でしたでしょうか?お陰様で予定本数を完売する事が出来、そのうち何人かの方にお褒めを頂き大変嬉しく思っております。また、品切れでお送り出来なかった皆様には大変申し訳ございませんでした。
現在、五月のイベントで記念発売する雪室貯蔵純米生酒や生酒以外のお酒は、火入れ(第一回熱殺菌・ 醗酵を停止させ熟成を促す)の真っ盛りです。この号が着く頃には蔵人も家に帰り、田植えの準備で忙しい時を過ごしている事でしょう。
酒蔵は静かな熟成の
時を迎えました。
麹の造り方を変えた大吟醸・純米酒、新酵母ND‐4・NI‐2で醸したお酒等、今年の進路決定は総て終わりました。後は熟成の環境作り以外できる事はありません。待望の冷蔵倉庫も完成し、大量のびん貯蔵も可能になりました。
今後は、タンク一本一本について、どの子がどんな育ち方をしてくれるか、親ばか話?をさせて頂きたいと思っています。
五月三日はイベントです。
さて、昨年初めての試みで地域共創イベント「やしま駅の市・酒蔵の市」を開催してから、早一年が過ぎました。今年もまた、駅前活性化実行委員会のメンバーと力を合わせ、楽しい一日を過ごして頂けるイベントにしようと、張り切って企画を出し合っております。
皆様と直接お会いできる大切な機会です。社員全員、どうやって日本酒をご理解いただき、天寿に親しみを持って頂こうかと一生懸命です。是非、声をかけて頂き、色々なご意見や質問などをぶつけて見て下さい。上手くお応え出来るかはさておき、私共の精一杯の「思い」をお伝えできる事と思います。
五月三日の「やしま駅の市・酒蔵の市」へ是非お出かけ下さい。
蔵のページ
酒造りが終わり
そして始まる。
4月に入ると今年の酒造りは終盤を迎えます。昨年よりも仕込み本数で17本多い119本目のもろみを搾り上げると皆造となります。
今年の造りは特に純米酒の仕込みが増えました。又、純米吟醸酒「雪ごよみ」もおかげさまで当初計画より2本多い仕込みとなりました。お客様の「美味しいお酒を楽しみたい」という声の高まりと、酒蔵開放を始めとするイベントやこの酒蔵通信を通じて、「蔵には今、こんなに美味しい酒があります」という発信が、直接伝わった結果でもあると考えています。
お客様の生の声が励みになったせいか、村上杜氏も、いつもの年にもまして目を光らせていました。出来上がった純米酒は、ふくらみとキレのある天寿らしい仕上がりと成っており、自信を持ってお薦めできるものとなりました。氷温熟成の雪室酒もその仕上がりが楽しみです。
さて、皆造が近づくと、蔵では今年使用した道具類の手入れと後かたづけを始めます。その後、新酒の殺菌と熟成促進を兼ねた火入れ作業が最盛期を迎えます。そしてこれが終了すると蔵は秋まで眠りにつきます。今年の酒造りが終了するのです。
しかし、実はすでに来年の酒造りは始まっています。酒造りは米作りから始まるのです。4月はもう次年度の原料米を育てる準備の月なのです。
一日の仕事を終えた蔵人は、自宅に戻ると農家の顔に戻り、これからの種蒔き準備に余念がありません。
初めに種籾を水に浸け十分に吸水させます。美山錦は他の品種と比べて発芽率があまり良く無いため、水温と日数を種蒔き日に合わせて調整しています。そして今、苗を育てる培土の調整を行っている処です。
「苗作り八作」と昔から呼ばれます。育苗は米作りの8割を占めるという意味です。従って培土の調整は苗の善し悪しを左右する第一の関門です。昨年の苗の状況を脳裏に浮かべながら肥料の配合を検討し、土に馴染ませ、種まきのタイミングを見計らっています。
4月中旬には種蒔きが始まり、約1ヶ月の育苗期間を経て、健全な苗だけが田んぼにデビューし、来年度の酒造りに使用される美山錦となります。
自ら育てた美山錦を蔵に持ち込んでより良い酒造りをするという事は、1年の最初の仕事として、品質向上を目指した米作りから始まると言う事です。「天寿」の蔵人は酒造りのプロであり、米作りのプロでもあります。
その年の気候や稲の成長過程を知りつくし、原料米に合わせた酒造りを行える蔵人は天寿の誇りです。