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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

新世紀・新創業の時
2001-01-01

新世紀・新創業の時

代表取締役社長 大井建史

未来と言う言葉で表してきた「二十一世紀」がやって来ました。

思い・感動・誇り・自信・喜び・信頼・愛

人生において、重要な言葉であり、これが無くして人生の充実を感ずる事は出来ません。

仕事においても同じであります。その仕事に思いを込め、学び、共に目標に向かい、改革し、達成の自信と連帯を体感し、実力と信頼を築きあげる喜びと、人生の充実と自身の誇りを実現する、最も重要な場であると思います。

「今」を如何に充実したものにするのか、思い・実力・誇りをどう発揮するのか。自分を計る物差しを伸ばすことが出来るのは、自分の心の姿勢をどのように持つか、貴重な人生の時を、どの様な心の様相を持って過ごすかに懸かっていると思います。

二十一世紀は、これまでの単なる延長には絶対に成りません。自分を計る物差しも、このままでと考えた瞬間に、成長を止めるだけではなく、体力の衰えと比例して縮みはじめます。

昨年のオリンピックでも、数々の感動的なドラマがありました。無名な若者が一躍有名になるシーンも多々有りましたが、私の印象に一番残るのは、輝かしい実績のあるベテラン選手が、事故やスランプからすさまじい努力によって再び栄誉に輝いた時でした。

その人たちが一様に言われることは「ゼロからの出発」と言う言葉です。物事普通にがんばっても普通にしかならない、過去の実績・栄誉をかなぐり捨て、全くの新人に立ち戻り、総ての事を検証し直し、総てに最高を目指して一から始める。なんと凄まじい決意でしょう。

これを企業活動に置き換えると『新創業』と言うのだと思いました。現状に囚われることなく、積極的に成長する努力を続け、高い誇りと自信を持った会社を目指し続けたいと思います。

この一球は絶対無二の一球なり

されば 心身をあげて一打すべし

この一球一打に技をみがき

体力をきたえ 精神力を養うべきなり

この一打に今の自己を発掘すべし

これを 庭球する心という

(福田雅之助)

限りある人生の、限りあるスポーツの出来る時間を、いかに真剣に自己を鍛練することが重要かを、庭球を通じて伝えている言葉でありますが、これは酒造りや会社の仕事にも十分に通じる言葉だと思います。

世界に通用する名醸蔵を目指し、お客様は常に正しいと認識し、会社の、或いは自分の有るべき姿を求め、自信と誇りの持てる仕事をするために、現在の天寿の歴史を担う一人として「今」自分に何が出来るのか良く見つめる。なぜなら「今」は、思いが問われる時代・本気が問われる時代だからです。

近所のいつものお客様に一から細やかにお応えし、喜んでいただいている事を確認しながら、精度を上げてその環を広げて行きたい。テクニックなどではなく、喜んで頂けるお客様がいる事、それが有るべき姿であると考えます。広く浅くは我社の求める姿ではなく、どこまでも深く濃い付き合いの出来る、信頼される酒蔵を目指します。

本年も、皆様のご愛顧を、よろしくお願い申し上げます。

蔵のページ

十二月に入ると、槽(ふね=お酒を搾る道具)からは新酒が滴り落ち、仕込みも出荷も最盛期となり一年で一番活気ある時期を迎えています。今年収穫された中で一番良い美山錦を選び醸される大吟醸、アイガモ達と共に育てた無農薬美山錦で仕込まれた矢島物語、ふりかえれば鳥海も、今、静かに醗酵しながら時を刻んでいます。年明けには搾りに入るため、蔵人達はコツコツと準備を進めています。

今年の美山錦大吟醸に使用される米を栽培したのは、もろみ担当の土田邦夫(2年連続)と槽担当の佐藤政一です。この様に、誰の米がどの仕込みに使用されたのかが明らかなのが、「酒造りは米作りから」を基本姿勢としている天寿なのです。

さて、前号でお知らせしたマル秘新商品純米吟醸「雪ごよみ」をご紹介します。吟醸酒の特徴である華やかな香りは、酵母菌の特徴を最大限に引き出すことにより生成され、きめ細かな米由来の味わいがさらに香りを引き立てるのです。香りやアルコールを生成するのが酵母菌の仕事(アルコール醗酵)。お米を溶かし、味を引き出すのが麹の仕事(糖化)。そしてこの平衡に進む糖化・醗酵のバランスを取り、香味豊かな味を引き出すのが蔵人の仕事であり、その見極めをするのが杜氏の役割なのです。

十年前、秋田県で開発、発表された秋田流・花酵母AK‐1は、これまでに無い、口に含んだときに豊かに膨らむ香味が特徴の吟醸酒となる酵母菌でした。この酵母菌は秋田県内中の蔵元から清酒もろみを集め、その中から選別された優良菌株でした。これは、砂浜に落とした宝物のイヤリングを見つけ出すのと同じくらい困難な仕事だったであろうと想像します。

一方、現在の酵母菌開発は薬品耐性やDNA解析等、技術の進歩により効率よく新酵母菌を分離出来るようになりました。しかし、この様な新しい酵母菌の中には酒造りの本体であるもろみの末期に発酵力が鈍り、結果としてその特徴を活かすことが困難である事例を数多く耳にします。(この様な状態をもろみのキレが悪いと呼んでいます)

「雪ごよみ」に使用した新酵母ND‐4は、自然界の花から採取された酵母菌で華やかな上立ち香と豊富な含み香を特徴としています。事実、もろみ仕込みの際にはすでに、酒母の段階で蓄積された香りが造り蔵に立ち上がり、日に日にその存在感を強めていきました。

造り前からこの新酵母菌での仕込みを蔵人全員が待ち望み、期待していたため、もろみ担当の土田は入れ替わり立ち替わり様子を聞きに来る他の蔵人や、社長、会長にかなりのプレッシャーを感じていたようです。が、同時に吟醸酒造りに懸ける杜氏の心情をも共感した様子でした。

製造課係長 佐藤俊二

収穫の季節を迎えて
2000-11-01

収穫の季節を迎えて

代表取締役社長 大井建史

東北の麗峰鳥海山の麓、我が矢島町でも稲刈りが済み新米も出始め、秋の気配が急速に深まってまいりました。昨年と同様に今年も大変暑い日が続き、量的には良いのですが品質的にはやや不満な出来具合となりました。

杜氏を先頭に、造り仕舞以来、清酒の熟成を管理しながら、設備のメンテナンスや可能な限りの改善を行って参りました。造り酒屋の設備は冬場だけしか稼動しない割に、タンクの補修、機械類の分解掃除、果ては蔵の外壁のペンキ塗りまで、まあまあ本当に色々有ります。しかし、地道な施設改善が評価され、(社)日本食品衛生協会において食品衛生優良施設として十月二十日に厚生大臣表彰を受け、光栄に存じている所です。

ところで、フランスのワイン、イギリスのスコッチウイスキー、ドイツのビール、中国の老酒、日本の清酒等、文化の高い国には必ずその国固有の酒が有りますが、現在その原産国では例外無く苦戦しております。日本でも世界中のお酒や新しいチュウハイやリキュール類がどんどん発売され、選択肢が大幅に広がってきており、日本酒にとっては大変厳しい冬の時代であります。

この多岐にわたる嗜好の中で選ばれる日本酒とは…、しかも天寿らしくくつろげるお酒とは…、私共は、現在日本酒の造り酒屋としての生き残りをかけて、今度の製造計画の詰めに全力を尽くしている所です。これまでもお伝えして参りました様に、地の酒としてその土地で出来る最高の品質を目指し、米作りから心血を注いで参りました。その米をどのように生かした酒造りをして行くのか、これまで何度も試験醸造を繰り返し、試行錯誤して参りました。これはと思った事も何度かございましたが、なかなか確立したものに成りがたく、毎回新たな気持ちで今年こそと挑戦し続けております。

その様な過程の中で、数々の面白いものが発生致します。例えば昨年の大吟醸鳥海のしぼりたてにごり生酒や、純米しぼりたて氷温貯蔵(雪室貯蔵)の様に、今だけしか味わえないお酒が、蔵の中には沢山有るのです。それを地酒屋だから出来るご希望本数だけの瓶詰めで、天寿「今だけ屋」と名打って、この「酒蔵通信」やよちよち歩きのホームページにご紹介して行こうと考えております。是非ご期待下さい。(十月二十日に入蔵し、気合いの入った作業が始まりました。今年の新酒の搾りも、十二月初旬には始まりますので、その頃のホームページには是非ご注目下さい。)※入蔵…蔵人が酒蔵に入る事

天寿酒造にとってはもちろん、この地域の母なる鳥海山も紅葉が始まり、冬を前にした自然の最後の美しさが山々を飾っています。顔を出すのをとても恥ずかしがる鳥海山ではありますが、秋の美しい一日を堪能しに是非いらして下さい。

田んぼのページ

10月4日、蔵に新米が入荷致しました。いよいよ造りが始まります。今年の仕込み本数は昨年よりも16本多い117本を計画しております。特に純米酒の仕込みが増加しており、お客様の期待に添えるよう蔵人一同、身を引き締めて造りに向かいたいと考えております。

昨年新商品として仕込んだ純米吟醸「鳥海山」は8月に販売開始以来スリムなボトルデザインと軽快な酒質とが相まって、好評を頂いております。今年も又、マル秘「新商品」が計画されております。12月初旬にご注目下さい。

さて、前号より続きの無農薬への挑戦のお話は今回が最終回です。

数年来、手作業による除草作業を行って来たところで、アイガモを田んぼに放すと雑草が生えないという情報を入手しました。

早速アイガモを手に入れましたが、孵化して間も無い小ガモは見るからに頼りなく、本当に大丈夫だろうかという一抹の不安がありました。が、何はともあれ田んぼに放してみました。

小ガモたちは一斉に田んぼの中を物凄い勢いで走り回り、水を掻いて、雑草をつつきながら動きはじめました。社員はもとより、我々も歓声を上げて喜びました。

これなら行ける!。誰もがそう思いながら小ガモの働きぶりに見入っていました。

ところが、10分も経たないうちに小ガモ達の動きが鈍くなり、スローモーション映画のごとく次々と倒れ、泥まみれになって動かなくなってしまいました。

溺れてしまったのです。

あわてて田んぼの中に飛び込み、救い上げ、お風呂に入れて泥を落とし看病しましたが、その甲斐なく数羽は息をひきとりました。

この経験で得たことは、最初元気良く動き回ったのは水鳥の習性ではなく、人間が恐かったのだろうという推測と羽が水を弾くようになるまで馴らす必要があるという結論でした。

又、カモを放すタイミングは田植え直後でなければ効果が上がらない事も経験しました。

結局アイガモ導入初年度は今まで通り人海戦術による手作業となりました。

期待が大きかったため今までになく手取り、足取りも重い年でした。

これらの反省を踏まえ、一昨年より田植え前から小ガモを準備し本番の田んぼに入る前に水に馴れる場所(小ガモの意志で水に入り、自由に岡に上がってひなたぼっこができる訓練場)を設け羽が生え変わってから放しました。又、この間エサを与える人間しか近寄らない様にしました。

効果は絶大で1羽も溺れる事無く、雑草もほとんど発生しないほぼ期待通りの結果となりました。(最終的な仕上げは手作業で行いましたが軽作業)

この様にして栽培した無農薬米は、純米吟醸酒「矢島物語」と「ふりかえれば鳥海」に使用されます。

無農薬米を使用した仕込みは、精米、洗米浸漬、麹、酒母では大きな違いは現われません。

しかし、もろみの段階になりますと醗酵経過が順調で素直に熟成もろみに変化していくような感触を覚えます。

その結果、搾った純米吟醸酒は口当たりまろやかな、穏やかな香りの味わいを与えてくれます。

東北の麗峰「鳥海山」の伏流水と地元だから為し得た無農薬米、そしてこれを育んだ杜氏を先頭とする蔵人、天寿の社員、酒米研究会の会員。人、水、米それぞれにこだわりをもって生まれたこの酒は一つの物語を創り出しました。

無農薬純米吟醸酒 「矢島物語」・「※ ふりかえれば鳥海」は天寿を想像させるお酒です。

製造課係長

佐藤俊二

「ふりかえれば鳥海」は、プライベートブランド商品の為、取扱店限定商品です。

呑み切りの季節になりました。
2000-09-01

呑み切りの季節になりました。

代表取締役社長 大井建史

矢島の里は、今年も暑い夏でした。しかし昨年の稲のように高温障害が出るほどではなかったと思いますが、天寿酒米研究会の稲刈りはやや早めになりそうです。

8月26日に、「天寿水源探索ツアー」を組み、ご参加の皆様と鳥海山のブナ林を歩いて、湧水群や鳥海マリモの見学をして参りました。雄大な自然に囲まれた中、膨大な量の湧水に圧倒され、あらためて鳥海山の豊かな恵みに深い感謝を覚えました。(詳細は別に報告致します)

8月29日は、仙台国税局鑑定官、秋田醸造試験場の先生、「ふりかえれば鳥海」販売グループの酒販店さん、そして季節も含めた蔵人全員と、呑み切りを致しました。

呑み切りとは、新酒を貯蔵したタンクすべてから酒を出し(貯蔵タンクの酒の取り出し口を「呑み口」と言い、その口をあける事を「切る」と言います)その熟成具合と、新酒の出来をきき酒をして確認する作業の事を言います。しぼりたての段階でも、もちろんきき酒を致しますが、生酒で販売するお酒以外は、夏越えのある程度熟成したこの段階で良否を判断します。

先生方とは、すべて良好である事を確認、弊社の普通酒を含むすべてに活性炭素を使用してない貯蔵についても問題が無い事も確認し、その他の貯蔵方法について議論致しました。

「ふりかえれば鳥海」販売グループの皆さんとは、色々な意見・議論が噴出すると言う感じでした。無農薬純米吟醸「ふりかえれば鳥海」の出来も安定しているとお褒めをいただき、全体の酒質の高い安定感の話もされました。弊社の会議室は非常に暑く、きき酒をするには過酷な環境なのですが(酒にも人にも)、この酒はこの温度が旨いと25 ℃を越えた古酒大吟醸を汗を流しながら何度もきき酒をする、神宮寺の秋元さんが印象的でした。一番気になった話題は、今売れるのは「一合しか飲めなくても、一口で解かりやすいインパクトのある酒」と言う事です。天寿の吟醸は18 ℃位が良いとか、ディキャンティングした方が良い、派手さはないが天寿らしいやわらかさがある等、益々玄人受けするようになったとの話は有りましたが、一合を過ぎてからその良さが分かる?簡単に言いかえれば一般(ワイン派や若者)受けしないのでは、とも言われました。

様々な議論を経たうえで、その内容をしっかり受け止め、色々な試験醸造を含めた、自分達が成した結果を分析し、成すべき事、成さざるべき事を見極めて、杜氏を始めとする蔵人と共に、計画を立てて参ります。

矢島の里は、今「八朔祭り」の準備に明け暮れております。9月9日の宵宮、10日の本祭りと三百年以上の歴史を有する情緒あるお祭りです。若者はかぞえの四十二歳までとされ、私もラストイヤーを迎え、地元城新丁内の若者頭をさせて頂いております。まずお祭りを目一杯頑張って、次に向かって行きたいと存じます。

田んぼのページ

お盆を過ぎても残暑厳しい毎日が続いています。今年の春先は天候不順で冷夏の様相を呈し、田植えもわざわざ一週間延期したのですが完全に予想が外れました。

冷夏で一番心配なのは低温障害(不稔)です。花粉の素を造る時期に日照不足や異常低温に遭うと、お米の花に花粉が形成されません。その結果受粉が出来なくなり、穂が出ても稔らずに終わります。

幸いにして、受粉出来たとしても、この様な年は生育が遅れ、十分な実りに達する前に枯れてしまう事もあるのです。

平成の大飢饉?、平成5年の冷害はこの様にして発生しました。

これに対して人間が出来る対策は水管理です。

冷え込みそうなときには、あらかじめ深く水を張り田んぼを温かくしておきます。

しかし、今年は逆に気温が高すぎ、高温障害による品質低下の恐れがあります。この場合、水をこまめに入れ替え田んぼを冷やしてやります。

この作業は酒造りのもろみ管理と相通じるところがあり、細やかな管理により平成5年の冷害が報道された年でも、天寿酒米研究会産の美山錦は質、量、共に必要量を確保していました。

現在、田んぼの美山錦の生育は順調で出穂を過ぎ、稲穂が頭を垂れ収穫を待つばかりです。

さて、無農薬栽培への挑戦です。(前号続き)雑草との戦いでした。

田堀り(田んぼを耕す)、代掻き(田んぼをきれいに均す事)、田植えまでは従来通りに終えましたが、田植え後1週間も経過すると稲株の間に緑色の雑草が芽を出しはじめ、物凄い勢いで成長してきました。(主に、ノビエという雑草です)油断すると、田んぼがまるで芝生の様になります。

物置小屋から何十年前の「ガンヅメ機」(雑草の根を浮かせる道具、手押し除草機)を引っ張り出し、手で押しながら除草の準備をします。その後、社員全員が一列にならび手作業で雑草を引き抜きます。この除草作業の大変さは、行った人でなければ分からない重労働です。手は痛い、腰は痛い、次の日は皆、筋肉痛で動作がギクシャクします。しかも、又、1週間もすると雑草は芽を出し前述の繰り返しとなるのです。

雑草との戦いは社員全員で前半3回戦ほど行います。しかし、この除草作業のおかげで稲株は見違えるほど成長します。これは土の中に酸素を供給し、又、根に有害なガスを抜く事が出来るためと推定します。

不思議と心配した病気(イモチ病、モンガレ病等)にはかかりませんでした。(以下次号に続く)

新緑の美しい季節を迎えて・・・
2000-07-01

新緑の美しい季節を迎えて・・・

代表取締役社長 大井 建史

関東梅雨入りのニュースがあり、矢島の里も近々と思われますが、鳥海高原もそのすそ野の里も新緑にかこまれ、田植えの終わった水田や雪の残る山々が、春の太陽と清々しい空気と草木の旺盛な成長力に、輝いて見える季節を迎えています。

四月に皆造を終えて以来、蔵では静寂の中で新酒が静かに熟成を続けています。前号でご案内した5月3日のイベントの目玉である、「雪室貯蔵純米生酒」は新種の氷温貯蔵を試したわけですが、酒のフレッシュさを残しながらも生熟成の為、私の予想よりはやや若めでしたがとろみも有り、お陰様で完売させて頂きました。誠にありがとうございました。

初めての試みでありましたので心配しておりましたがこんな事が・・・ゴールデンウィーク前には里の方でも完全に雪が無くなってしまいます。蔵人が心配のあまり一生懸命雪を積みすぎ、なんとステンレスの密閉タンクが潰れて変形し、下の木製パレットは粉々に・・・

新種鑑評会につきましては、県・東北までは順調で、酒の評価では秋田県神宮寺のアキモト酒店さんのホームページで『今回一番の収穫はもっとも秋田的にして、全国でもはっきり個性を主張出来る「天寿」の存在感であった。きれいにして繊細、さわやかにしてビロードの様な余韻を残す喉越し。すべての持ち味がここまで洗練されるときれい、水のようだでは終わらない芸術のような品格が有る。秋田の吟醸はこうだ!というのであればまさしくこの「天寿」のことであろう。(http://www.hana.or.jp/hana/akimoto/)』とのご評価をいただき、身に余る光栄と存じました。が、この秋田らしいというのがありますとどうもいけない様で、残念な結果となりまし...

酒造りが終わった後、リーデル社の大吟醸グラス開発や、新商品用のビン探しなど、色々とやっておりましたが、あっという間に夏の贈答期が近づいて参りました。この時期から完全に新酒に変わるものが多くなって参ります。

代わり映えしないと思われる方もいらっしゃるでしょうが、これまでお伝えしてきた品質的向上の努力の結果の商品です。

よろしくお願い申し上げます。

田んぼのページ

5月に入ると酒蔵は静寂の時を迎え、代わって田んぼ(米作り)が本格的に始まります。

4月中旬に蒔いた酒米「美山錦」の種は順調に芽を伸ばし、すくすく立派な苗へと成長し田んぼに出るのを待ち望んでいるかの様です。私を含め、農家の皆さんはその苗に追い立てられるかの如く、田堀り(田んぼを耕す)、代掻き(田んぼに水を張ってきれいに均す)といった農作業に忙しくなります。その傍らで農作業によって田んぼの土の中から追い出されたミミズやオケラ、カエル等を狙って、ムクドリ、セキレイ、トンビ、そしてはるばる海からウミネコまでが、手を伸ばせば届きそうな所まで近寄ってきて餌を啄み、目を楽しませてくれると共に自然の営みが春を感じさせてくれます。

天寿の蔵元が酒米「美山錦」の栽培を始めたのは昭和58年にさかのぼります。

「自社で使用する酒造好的米(酒米)は地元で確実に確保する」という社長(現会長)の決断により当社独自の「天寿酒米研究会」を設立致しました。構成メンバーは蔵人を中心にこれに賛同する一般農家でした。

しかし、当地八島町は秋田県内の中でも「由利ササ」と称される質の高い食味米を生産する産地であったため、倒伏しやすく収量が少ない上に、当時価格の安い酒米を栽培してくれる農家が少なく、社長の強い想いで奨励金も出しましたが容易には必要量を確保できませんでした。

この様な状況の中、酒米の必要性、栽培方法などの勉強会を毎年繰り返し、種子の提供など農家支援を続けた結果、10年目にしてほぼ必要量に該当する約2,000俵の美山錦を確保できるようになりました。おかげさまで現在では、当社で醸造する特定名称酒のすべて(山田錦を使用するものは除く)及び普通酒の酒母米に「天寿酒米研究会」で栽培された美山錦を使用できるようになりました。

その一方で無農薬栽培にも挑戦し、6年前の弊社創立120周年を記念する新商品に無農薬米を使用した純米吟醸酒「矢島物語」を企画致しました。一番苦労したのは田んぼの確保でした。当社の意図する無農薬は単に農薬を使用しないということで無しに、

一・生活排水の全く入らない清水を確保できること。

(上流に人間が住んでいないこと)

一・日当たりが良いこと。

(南斜面=病害虫が発生しにくい)

一・管理上、あまり遠方に位置しないこと。

以上の条件が満たせる田んぼでした。運良く、矢島町新荘地区に全ての条件を満たす休耕田が見つかり研究会会員が栽培を始める事になりました。

(以下次号に続く)

製造課 係長

佐藤 俊二

今年の造りを終えて
2000-05-01

今年の造りを終えて

今、造りを終えた酒蔵は、静寂と熟成の時を迎えています。

四月二十日、季節の蔵人達は酒造りと後片付けを終え、充足感溢れる顔でそれぞれ家路に就きました。

造り期間の終盤になると、蔵人は饒舌に成ってきます。普段は口下手の者が多いのですが、今回できなかった事、何故出来なかったのか、どうしたかったのかを、酒を酌み交わしながら一生懸命伝えようとして来ます。思い通り行った事は、こちらが引き出さないとなかなか出て来ない職人らしい人?が多くおります。その為、反省をまとめる会議はしっかり行いました。

杜氏を初めとする蔵人が目指す目標を明確にし、それを実行する為に働きやすい環境を整備する事が、酒蔵の経営者の仕事です。本年126回目の造りが終わりましたが、非常に多岐にわたる仕事が有り、万全を望みながらも、如何に失敗や反省が多いかを残念ながら毎回思い知らされます。どんなに環境を整えても、我々が目・鼻・手・足を使わなくなれば、そして何よりも、より良いものを目指す情熱が無くなれば、その酒蔵は終わります。その仕込み一つ一つに最高を目指す事。いつの時代に成ってもそれは変わる事はありません。そんな思いを胸に、目指すものにどこまで近づけるかへの挑戦の連続です。

さて、四月十八日に仙台局の鑑評会一般公開があり、お蔭様で金賞を受賞しました。杜氏を初め蔵人全員の努力が評価された事と、社員一同喜んでおります。

天寿の出品酒はおだやかでまるい旨味のある弊社らしい酒質でありましたが、全体的な受賞酒を見ますと、香りが強く味の濃い酒が大勢をしめております。ワインの流行により、強い味に慣れ、求められてきた事も有るでしょうが、一方で味の酒と香りの酒のブレンドに頼る出品酒が当然とされ、ブレンド力競争のごとき風潮は、私としては悲しい事であると同時に、天寿の出品酒はその様な受賞酒と距離があり、全国鑑評会には両方のタイプを選択するような許容性は無いと思われます。

地の酒としてのこだわりを、自己満足に陥らずに確立する事。多くの皆様に支えて頂いている事への感謝を羅針盤にし、頑張って参ります。

代表取締役社長

大井 建史

清酒鑑評会

清酒鑑評会は戦前から、日本醸造協会や国税庁、東京農大等色々な団体や形式で、業界のレベル向上の為行われてきた。現在は秋田県・仙台国税局(東北)・国税庁醸造研究所の主催で県・地区・全国の三段階で行われている。入賞する栄誉もさることながら、杜氏を初めとする蔵人が、一丸となって誇りをかけた逸品を世に問う事になる。その緊張が蔵内のレベル向上に大きく貢献している。

蔵のページ

皆造を迎えて

4月7日、102本全てのもろみを搾り上げました。全てのもろみを搾り上げることを皆造(かいぞう)と言います。

皆造にあたり今年の造りを振り返ると、全般的には昨年の異常気象の為か原料米の溶解が悪く例年よりも酒粕がやや多めの年のように思われましたが、酒質の方はふくらみとキレのある天寿らしい酒に仕上がったと思っています。今年の酒造りの出来映えを示す一つの指標となる新酒鑑評会に於いては秋田県の審査では上位、仙台国税局の審査では栄えある優等賞を受賞しました。気になる全国新酒鑑評会の審査は今月19日から始まり5月16日の発表となります。吉報を待つ日々が続きます。

皆造を迎えても酒造りが終わった訳ではありません。前号でもお話したように搾り上げた新酒はわずかに濁りを伴っています。この新酒は底冷えのする貯蔵庫の中で約1週間から10日の間、静置され濁りの素である微細な固形分を沈降させ除き(この事をオリ引きと言います)、最後に濾過を行って清澄な新酒を得ます。そして厳密には仕込み1本ごとに異なる味わいの新酒を調合(ブレンド)し、変わらぬ天寿の味わいに仕上げさらに生酒での調熟をはかります。 実はこの生酒期間の熟成管理がもろみ管理と同じくらい重要です。きれいに濾過された酒は糖化や発酵は完全に止まってしまい、清酒の成分はその後ほとんど変化しないと思いがちですが、日が経つにつれ酵素的、化学的、物理的に変化(熟成を経て過熟)します。生酒は特に酵素的変化が不安定です。その為、殺菌と品質を安定させるため火入れ(60度以上で熱殺菌及び酵素変化を止める事)を行います。

出品酒を例に挙げますと生酒の状態で香味が最良と思われる酒でも、蔵を出て審査を受けるまでに変化が続き、更に一般に公開されるまでに変化が進むと言うことは十分に考えられることです。

鑑評会の審査日や会場の気候に合わせて、どの酒を、いつ、どの様にして出品するのかは、やはり杜氏のきき酒と酒の変化を見極める読みによります。

出品酒の様な吟醸酒は香味が非常に繊細なので極端な例ですが、どの酒も本質的には変わりありません。

今、蔵では火入れが着々と行われています。皆造を迎え、火入れが終了すると蔵は新米が収穫されるまで眠りにつきます。春、桜の便りが届いていますが、杜氏にとって本当の春はまだまだ遠いのだろうと隣にいる私は感じています。

造課 佐藤俊二

酒米研究会開催

春の農作業にあたり、今年の注意点を確認すべく講師の日下先生をお迎えして酒米研究会を開催致しました。

昨年の異常気象を踏まえ、種子から予想される点は育苗時に軟らかく、細い苗になる可能性が高い事、又、美山錦の特性を更に引き出す対策など、突っ込んだ話し合いが行われました。

今年は昨年と一転して冷夏となる様相を呈している事から、特に厳重な栽培管理が要求される事を会員一同が確認しました。

吟醸香漂う酒蔵から…
2000-03-01

吟醸香漂う酒蔵から…

今年の冬は異常気象で、二月の半ばまでほとんど雪が無く、雪国の冬の生活としては楽でしたが、酒造りをしている私共としては、例年のかまくら状態の安定した低温にならず気を使いました。しかし、一転して二月の後半から二週間続けて雪害対策室が出来るほどの豪雪に見舞われる中、品評会出品用の大吟醸の搾りが終わったばかりで、杜氏をはじめとした蔵人達は、吟醸香の漂う蔵で、その達成感にしばし身を任せたところです。

前号でも触れましたが、この造り期間を通じて、全ての酒造りを見直し、商品ごとの特徴やねらいを更に明確にし、さまざまな試みをして参りました。その成果は夏越しの呑み切り(タンクの酒の取り出し口を開いて品質検査をする事)の時に結論がでます。9月頃からの酒質にご注目下さい。

他にも、小回りが利く蔵だからこそ可能な季節だけの味わい、同じお酒でも貯蔵方法や搾り方の違いで如何に楽しめるかを、天寿に繋がりの有る皆様にのみ限定で、お楽しみ頂きます。

蔵のページ

酒蔵開放直前の社員

早いもので山田錦大吟醸を仕込んで一ヶ月余りが経過しました。先月の酒蔵開放直前まで吟醸蔵への仕込みが行われたため、公開した二号蔵のもろみ本数が少なかったことに見学にいらしたお客様はお気付きになられたでしょうか。

賑やかな二号蔵を横目に吟醸蔵のもろみ達は淡々と変化を続けていました。丁度そのころから玉泡が立ち始め、大きなもので私たちが使用している帽子程の大きな玉泡が発生していました。

この玉泡、初めは小さな玉泡が徐々に大きくなり3つ、4つとくっつきながら大きな玉泡を形成します。どこまで大きくなるか?との期待に反してやがて自らの重さに耐えかねて破れてしまいました。破れる瞬間は「パチン」ではなく「ぱあ〜ふっ」とスローモーションの如く破れるのです。この様に杜氏の目を盗み、もろみの変化に見入ってしまう私ですが、おかげで仕事は溜まる一方です。

吟醸蔵に華やかな香りが充満する頃をすぎ、品温を下げ十分に含み香を有する様になるのを見計らって搾ります。吟醸酒の搾り方は、昔ながらの槽(ふね)を使う方法と袋吊りが一般的です。しずく取りに代表される袋吊り法は熟成もろみを酒袋に詰め、口を紐で縛り縦に吊り下げます。自然ににじみ出るしずくを集めるこの方法は非常に柔らかな、キレイな味わいを与えてくれます。

槽を使用する場合は酒袋の口は縛らず、折って横に積み重ねていきます。槽はもろみ酒袋を入れる容器なのです。袋吊り、槽掛け、共に最初は垂れが早く白濁しています(荒走り)。無加圧のまま自然に酒が垂れるのを待ち、垂れなくなってから酒袋の上に乗せた押板に圧力を掛けます(中垂れ)。翌日酒袋を積み替えてさらに圧力を加え搾り(責め)残った固形分が酒粕となるのです。

搾り操作から容易に想像される様に、酒は同じ1仕込みであっても刻々と垂れてくる酒質は違います。どの場面の酒が一番良い酒かは議論の分かれるところですが、静かに流れ落ちる酒をいつ斗ビンに取るのかは、きき酒、もろみの経過、原料米を育てた気象条件、垂れ具合など杜氏の経験から総合的に判断して1仕込みの代表を数本決定します。

選ばれた代表は斗ビンに囲い、適切に管理され春、夏、秋の鑑評会に出品されます。その際のきき酒がそれ以後の貯蔵温度を決め、さらに商品として販売される酒全ての貯蔵温度へとフィードバックされるのです。吟醸酒、そしてその斗ビン囲いとはこの様な意味を持ち、天寿に於いて出品酒以外は「鳥海の雫」或いは、「秘蔵大吟醸」として10年以上熟成させた後でなければ販売されることはありません。

製造課係長

佐藤俊二

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