原料米事情
代表取締役社長 大井建史
今年は四月十五日に皆造となり、十九日には蔵人が家路につきました。
昨年より9本増の酒造りでしたが、前にお話ししました様に高温障害のため溶けない米に悩まされる非常に難しい酒造りの年でした。それでも蔵人が一丸となって一関新杜氏を盛り立て、杜氏もその責任を全うしようと立派な酒造りをしてくれました。
今期の新酒生酒商品も、お陰様で全て前年を超える出荷量で一安心ではありますが、純米大吟醸鳥海山をはじめ、清澄辛口本醸造鳥海山・純米酒・本醸造・精撰等早くも新酒へ切り替えた商品が出てしまい、昨年・今年の原料米不足も深刻になって参りました。
昨年までは、放射能問題や天候不順によるものと考えておりましたが、政府や酒造組合中央会で手配する加工用の米の集荷が非常に悪く、当てにならなくなったと思います。県によっては予定の20%しか集荷できないなど、唖然とする数字が出てきます。一昨年は政府の備蓄米を充てましたが、今度は放出した備蓄米の補充をしようと高値を付け国内の米の値段が上がると言う悪循環になってきました。
現在秋田県酒造組合の原料米対策委員長として原料米確保や品質向上に係わっていますので、値段もさることながら量が足りない事は大問題です。天寿では、JA新あきたと契約している地域流通米、JAこまち(湯沢酒米研究会)の美山錦・酒こまち、兵庫県みのり農協と契約しているあきた村の山田錦、そして、天寿酒米研究会の酒造好適米を使用しておりますが、現在増産の話はかなり厳しくなっております。これには長年にわたる減反政策による農業従事者の意欲の減退・高齢化・後継者不足等が一挙に表面化して来た様な怖さを感じます。
それなのに減反政策はそのまま継続、現況が見えていないのか米が足りない今も備蓄米買い上げへの執着を改めない政府は無策と言わざるを得ないのでは無いでしょうか?
これまで東京は地方が育てた優秀な人材を吸い込む事で発展して来ましたが、地方の営みを知らない役人や国会議員が多くなりすぎるのも地方衰退の原因になるでしょうし、地方の衰退した東京もまた活力が急激に落ちるのではないでしょうか?
日本酒の業界は長年値上げをしておりません。これは長期にわたる売り上げ不振の弱気と米価の下落による原価低減のお蔭でした。しかし、加工用の玄米でさえ過去二年で一俵(60㎏)3,000円上がり来年は少なくとも2,000円は上がる事が確定しています。三年で一俵5,000円の値上げ・電気・重油の値上げに加え、アベノミクスのインフレ狙いに日本酒業界は耐えられないのではないかと考えます。
定価販売をやらない大手・低価格蔵以外では、値上げの話が出てきており佐賀県では既に値上げを実施いたしました。値上げが有るとすればこれまでの大手主導型から地方酒蔵主導型になるのではと考えます。
弊社もコストアップと高温障害原料米の酒化率の悪化に溜息をついているところです。
天寿の歴史
補遺―21
補遺―21
明治十四年・十六年
六代目 大井永吉
明治十四年九月三十日、醸造見込み届と同時に「引き継ぎ営業願」(営業税三拾円)を大井与四郎名で出している。此の年から醸造と経営は長男与四郎の手に移り、二代目永吉は隠居している。与四郎は二十六才、既に二男一女の父親であった。
当時、厳しいことに、酒造のための他所からの住込み雇人は警察に届が必要だったことが分かる。
明治十六年には「酒造関係建物書き上げ」という極簡単な図面と「酒造諸器械調」を提出している。
酒 造 見 込 石 御 届
一 玄米百二十石
白米百八石 但、玄米一石
ニ付一割減
此清酒百弐拾石
内 新酒弐拾石
夏酒百石
右者、明治十四年十月ヨリ来ル明治十五年マテ一期醸造見込石相違無之、依而此段御届申上候也、
由利郡城内村 大井与四郎㊞
明治十四年九月三十日
由利郡長 蒔田広隆殿
前書之通相違無之、依而奥印仕候
戸長代理
筆者 佐藤昇三郎㊞
(朱書)
「書面届出之趣聞置候事」
明治十四年九月三十日
秋田県由利郡長 蒔田広隆㊞
清 酒 醸 造 引 継 営 業 願
清酒醸造引継仕度奉存候間御許可相成度、依之営業税金三拾円並ニ見込石書・醸造方法書相添、此段奉願候也、
由利郡城内村 大井与四郎㊞
明治十四年九月三十日
由利郡長 蒔田広隆殿
前書之通相違無之、依而奥印仕候
戸長代理
筆者 佐藤昇三郎㊞
(朱書)
「書面願之趣聞届候事」
明治十四年九月三十日
秋田県由利郡長 蒔田広隆㊞
臨 時 止 宿 御 届
秋田県羽後国平鹿郡沼館村
塩田利吉
当三十三年
妻 オリエ
当弐十六年
右者、本日五日私方ニ於テ酒造為致度、臨時止宿為致候間、此段御届申上候、以上
由利郡城内村
明治十四年十二月六日
大井与四郎㊞
矢島警察分署 御中
酒 造 関 係 建 物 書 上
天寿の歴史(五)ー4前出に付き省略
酒 造 諸 器 械 調
一酒槽 壱個
一枠 ナシ
一男柱 壱本
一締メ木 壱本
一掛ケ袋 百五拾箇
一タリ桶 弐箇
一蒸酒器 壱組
一磑 ナシ
一甑 弐箇
一層枠 五箇
一蒸釜 弐箇
一半切 四拾弐箇
一試シ桶 四箇
一桃桶 八箇
一担桶 八箇
一柄杓 ナシ
一麹板 百五拾枚
一碓 ナシ
右ハ、酒造ニ属スル諸器械即今処持之分書面ニ相違無之候、尤、以後増減在之節者其段々御届可仕候也、
明治十六年十月
由利郡城内村酒造営業人
大井与四郎
右戸長 竹村秀高
秋田県由利郡 酒造検査官