酒に十の徳あり
代表取締役社長 大井建史
このたびの東日本大震災により、亡くなられた方々に心からお悔やみを申し上げるとともに、被災された皆さまに謹んでお見舞いを申し上げます。
今年の酒造りは、高温障害の原料米に悩み、観測史上最深の降雪による雪害の対応に追われながらも、やっと雪が一息ついた所に今回の大震災が襲いかかりました。
弊社は8本入りP箱三段積みのお陰か破損も無く、お陰様で揺れによる被害はございませんでした。しかし地震直後の停電で、暖房の止まった麹室では杜氏が発芽の熱をうまく誘導し必死の麹づくりを続け、なんとか出麹まで持って行けました。また、上槽中の酒を救う為に古い発電機と格闘するうちに夜が明け、幸運にも翌日のお昼前には電気が復旧し何とか事なきを得ました。
震災翌日から物流が止まり何とも身動きがとれなくなりました。(重大被害地に燃料が運ばれていく映像は見れますが我が地元にはさっぱり参りませんでした。
在庫の重油を酒仕込みだけに集中させ、通勤のガソリンも次に何時給油できるか分からないので、蔵人と管理職以外は自宅待機をさせておりました。
市の救援物資として弊社製品の「鳥海山自然水」(仕込み水)を詰める為に少量の重油が入ったのが一週間後、仕込みの為の重油が入ったのは二週間後でした。
この間、物流も止まり売り上げは落ち込み、卒業の謝恩会等の歓送迎会系は全て中止で飲食店も大変な状態です。
震災の応援は市の救援物資として出された残りの資材(ペットボトル)の在庫全て(資材もなかなか入ってきません。その時は500ml1000本弱)を寄付させて頂きましたが、その後は会社の緊急事態対応で中々動けません。皆造(お酒を全てしぼり終わる事)は4月9日に迎えました。火入れも遅れ気味ですがこれから全力で行います。瓶火入れの瓶確保が少し心配ですが…)
某社から私の所へ、ユーチューブで訴えかけた蔵元の酒で応援キャンペーンを行う事についての意見を求められ「その蔵元は東北の食材や酒を飲む事を呼びかけたはずだ。自社の事ではなく地域の経済の為に頑張って発信していたのだ」と申し上げました。直接被害を受け壊滅的な地域と比べたら弊社は大変幸運です。しかし、東北の日本海側にも経済活動の停止・停滞と言う深刻な二次被害が起こっているのです。
自粛自粛の国内ですが、それでも時は過ぎ春は訪れ酒は熟すのです。酒は人の燃料です。エネルギーの充填が必要なのは車だけではありません。何も浮かれ踊ろうと言うのではありません。今最も大切なのは、今頑張っている人のエネルギーの補給・充填ではないでしょうか?
原子力発電所の事故はまだまだ深刻な状態ではあります。しかし、被災地を始め色々な方々の発信で自粛の悪影響の声が出て参りました。
一番ありがたいのは東北の食品やお酒を買って頂ける事です。ご支援の程よろしくお願い申し上げます。
天寿の歴史
補遺―9
補遺―9 創業時の提出書類
六代目 大井永吉
先号(補遺―8)記載の清酒製造に使用した容器(仕込桶)についての書き上げである。
酒造桶書上
第四大区三小区由利郡城内村
稼人 大井永吉
一酒造桶四本
内
壱番 口径 五尺八寸四分
桶 底経 五尺三寸八分
深サ 五尺一寸七分
弐番 口径 五尺八寸
桶 底経 五尺三寸五分
深サ 五尺五分
参番 口径 五尺八分
桶 底経 五尺三寸五分
深サ 五尺一寸
四番 口径 四尺九寸
桶 底経 四尺五寸
深サ 四尺一寸六分
右之通、奉書上ケ候処相違無御座候、 以上
第四大区三小区
由利郡城内村 大井永吉㊞
明治八年七月廿日
秋田県権令 石田英吉殿
桶材は鳥海山麓の秋田杉、一番から三番桶は十一石(2100L)入り、太い”たが“(竹を割ってたがねた輪。桶・樽その他の器具にはめて、外側を堅く締め固めるのに用いる。)のかかった通称六尺桶といわれた大桶、四番桶が八石(1600L)入り。十一石はその頃の地元の桶屋(矢島では”たが屋“または”たんが“と言った)の技術で出来る最大のものだったろう。当時、酒造の器具・道具類はほとんど木と竹で出来ていたので、蔵にはそれぞれ出入りの桶屋がいて細工場も用意してあった。大桶の場合は”たが“を締めるのに外の広場に足場を組んで大槌を振り下ろしていたことが子供のころの記憶に残っている。現在の容器は金属製のホーローやグラスライニングタンク或いはステンレスタンクになって、大きさは二百石、三百石のものもあるが、十一石桶は今の我が社では吟醸酒用七五〇㎏仕込用の小型タンクにあたる。
清酒は政府にとって大切な税財源であったので、製造数量、在庫数量は税務署の厳しい管理下にあった。その容器についても同様で、検尺(満杯の線からの空き寸を計測すること)で内容量を測定できる表、「桶帳」を全ての容器について備えて置くことが義務つけられた。それは現在も「酒類・酒母・もろみ製造設備(異動)申告書」、「同付表(容器の容量の測定事績の明細)」として申告・整備義務が継続されているのである。