基 準
代表取締役社長 大井建史
四月も終わりに近づいた今、矢島の里にもようやく桜が咲き始めました。四月二十日には蔵人も家路につき、酒蔵の中は静寂に包まれ熟成の時を刻んでいます。
今年の冬は前年と正反対の暖冬で一月・二月に全く雪がない異常な冬でしたが、もちろんしっかりとした対応をし、万全の体制で色々な取り組みも成果を上げて無事終了致しました。
今期を最後に二人の蔵人が退職致しました。今が蔵の最高の状態と自負しているだけに、誠に残念でありますが、若い年代への技術の伝承・世代交代を考えますと必要な事だと自分に言い聞かせるしかありません。
物事を集団で進める時に「当然」とか「当たり前」「常識」と言う言葉がその集団内で交わされ、それが異なる又は通じない人間がいると混乱が起きます。その言葉を言い換えると「基準」となるのだと思います。
そう思って気を付けて見ると「常識」と言う言葉には本当に色々な基準があるものだなと思いますし、自分たちの思い込みも恥ずかしくなるほどあると痛感してしまいます。
お酒の表示を見ましても新しいものが増えています。「ビン火入れ」「ビン貯蔵」等はある程度のクラスになれば言わば「常識」と思い込み、「自家精米」も品質保持の為に行う秋田の造り酒屋の常識であると思っておりましたが、ある酒販店から「なんで表示しないの?表示しないと判らないでしょ。」と言われるまで、他社の表示を見ても「当然努力する事なのに、ここまで書くか?」位で新奇な表示と軽く考えておりました。その割には、この通信で品質向上のための試みや設備投資の事をご理解頂きたくて執拗に書いておりましたのに…。
「当然」「常識」と考えるものには「思い込み」と言う危険分子も含めて考えなければいけない事を、今更ではありますが実感し、「基準」として洗いなおさなければいけないと思っている所です。そうしませんと、弊社が60%純米吟醸まで「ビン火入れ」冷蔵「ビン貯蔵」している品質が目で見てはご理解頂けない事に成るのです。(飲めば判って頂けるとの思いに頼りすぎ、ある意味逆に傲慢だったのかもしれません)しかし、全体のデザインのバランスもありますので、徐々にではありますが、出来るだけ早く表示をしていきたいと思います。
天寿の歴史
(六)ー2
新商品開発- 〔ミルシュ〕- 2
代表取締役会長
六代目 大井 永吉
『草原を思わせる、透き通った淡いエメラルドグリーンに微炭酸。さわやかなイメージのアルコール飲料が酒の本場・秋田に新登場―。名前は「ミルシュ」。由来は至って単純で、ミルクが原料の酒。なあんだ、ええっ?そう、想像つきにくいでしょうが、牛乳から酒ができたんです。秋田県矢島町と地元の酒造会社が試行錯誤の末、開発に成功しました。
緑色は牛乳に含まれるビタミン。ほんのりヨーグルト風味で、甘くなくすっきりした飲み口、だそうです。というのも発売一ヶ月で売り切れ状態。十二月初めの第二回発売まで、待たなければならないので・・・』
平成九年十一月七日の河北新報のコラム《みちのく》に掲載された記事だが、発売当初の状況がよくまとめられてある。NHKの取材でテレビの東北版にも紹介され注目された。
十一月、秋田県、県物産振興協会、発明協会県支部主催の平成九年度第十七回《県特産品開発コンクール》に出品、最優秀賞 新開発商品部門(知事賞)を受賞。
このコンクールは新商品の開発を促進し、県特産品への関心を高めようと毎年実施され、この年は一年間に商品化された工芸品や食料品、菓子など百九点が六十三企業から出品された。品質、デザイン、話題性、価格などを基準に審査され、受賞したのであった。
秋田さきがけ新聞でも同賞受賞を記事として取り上げて頂き、『女性向けに開発した。低カロリー、低アルコール(7%以下)、豊富なビタミンB2が売り物だ。黄緑色がかった透明で、発泡酒というよりもシャンパンのイメージに近く、ライト感覚で楽しめる。先月、本荘由利地区で市販したが人気を呼び品薄状態、二回目の仕込み中で、来月から県内各地へ出荷する予定』と紹介され、生産が追い着かないほどに人気を博した。
また、平成13年度には農林水産省と財団法人食品産業センター共催の優良ふるさと食品中央コンクールに於いて農林水産大臣賞を受賞し、平成十四年三月十二日、幕張メッセで開催された「FOODEX JAPAN2002」内で開催された第十七回「ふるさと食品全国フェア」にて授賞式が行われた。
地域と共にの社是のもと、地元の素材を活かした商品開発に成功し、この様に数々の栄誉にも恵まれたのである。