変わりゆくもの、変わらないもの
代表取締役社長 大井建史
コロナウイルス感染症発生以来一年半になろうとしている。
この様な現況の中、お陰様で六代目永吉の七七日忌を終える事が出来た事に安堵しております。
私が社長を継いでからすでに二十三年目となり、次代の教育や新体制・新設備構築等の大切な時期とする筈がコロナ禍のため予測された市場状況から大きく異なる変化が起きてしまった。地方の零細な酒蔵でも、必要な設備の更新を実行しなければ、事業の継続が困難になるが、昨年行うつもりでいた計画は大きく後れ作業に差し障ろうとしている。
コロナ禍の影響は凄まじく、飲食店の営業がウィルス蔓延防止のためとは言うのだが、ワクチン接種や補助金配布の遅れは棚に上げ、飲酒禁止・会食禁止と言う国の施策により経営が困難になり、そのお願いを守り秋田県民は出歩かず感染爆発を防いできたが、行政が責任を負う指示・命令でないため営業成績がいくら悪くても補助金は無く、飲食業界並びに酒業界の業況は大きく落ち込み廃業・倒産するお店が後を絶たない。
小説には自然発生の物でも人為的な物でも、病原体のパンデミックが世界を席巻し、人類の滅亡の危機を迎えるという話は沢山あった。結論は人間の征服欲や対抗意識等の愚かさは死んでも治らない?気が付いたときには遅すぎると言うものだ。
コロナ禍の中、我々業界でも可能な限り協力して来たという事に、ほとんどの方は反論されないだろうと思う。しかし、協力しろとは言っても、強制力のある指示を出すための法改正をするとか、憲法改正に政治生命をかけるという気概のある人は出て来ない。不測の事態に国民のために断固たる決断をするのが真の政治家だと思うのだが…
今年の米も田んぼが緑に覆われて順調に育っている。鹿・カモシカ・熊が新幹線や高速道路で車に当たる事故が増えてきている。天敵である猟師が高齢化で激減しているからだ。家を建てるにもウッドショックで木材がないと言うが、輸入に頼ってきたため国内の製材所は激減し、日本の山には木を切る人が足りない。
昔の様に山に人が入りと言うのは今更難しい。現代に合った山の管理・選択したくなる魅力的な農業・住みたくなる地方の街とはどんな物なのか、地方の行政に丸投げではなく、もっと真剣な具体策を考えなければならない。
人がエネルギーに溢れて近代化に向かった明治時代より、遥かに多い人口を抱えている日本。世界で三番目の経済大国。それにふさわしい行動の力は伴っているのだろうか?
飲食の有り方もお酒の飲み方も、変化して行くのだろうと思う。しかし、美味い物を食べたいとの想いは無くならない。それをさらに美味しくするのが酒で在り、それを囲む家族や友達・仲間であることは変わらないだろう。
共通の記憶、共通のアイテム、共通の話題。何千年も続けてきたそれを人は捨てる事は出来ないし、よりそれが花開く環境を求めると思う。
その舞台になる飲食の場を皆で守る事はとても大切な事ではないだろうか?
明るく豊かな毎日を支える環境を自分達で守っていこうと意識して頂けたら有り難い。
それは、規則破りの宴会をやろうと言うのではなく、無理な行動を起こす事でもない。
何か出来る事を一つでもと思いをはせながら、心の一杯を傾ける事なのです。
新年度に向けて
杜氏 一関 陽介
七月、酒造年度が変わり、酒蔵にとって新年を迎えました。昨年度を振り返ればいろんな事がありましたが、何よりコロナウイルスによって行動自粛が影響し、お酒が売れない一年だったという一言に尽きます。それでも日頃からご愛飲いただいているお客様に支えられながら生産量の調整がありながらも酒造りをすることができました。如何に自分の仕事が人から支えられているのかを体感した一年でした。
また受賞から一か月以上経過してしまいましたが、令和二酒造年度全国新酒鑑評会において「金賞」を受賞いたしました。昨年度はコロナウイルス感染拡大防止の為、「金賞」の発表はなく「入賞」でしたが(入賞が最高賞)、それも含めれば四年連続の受賞となりました。その他にも、純米大吟醸鳥海山がワイングラスでおいしい日本酒アワードプレミアム大吟醸部門で「最高金賞」を受賞するなど、その他多数の賞をいただいております。お客様の為に美味しいものを造るのが最大目的でありますが、この厳しい市況の中で少しでも社内の士気を高める評価が得られた事に私は嬉しく思っています。
さて、平成二十四年度に杜氏に任命されてから、今年で十回目の酒造りをこの秋に迎えます。自己評価すれば不安で、がむしゃらに取り組んだ五年、自分の酒造りスタイルに少しずつ自信と安定を身に着けてきた四年。会社が目指す「地元でできる最高の酒」を目指すべく、毎年変わる米の品質に向き合い蔵人メンバーに助けられながらひたむきにやってきたと自信を持って言えます。一定の品質の維持ができているからこそ様々な賞がいただけて、またお客様にも購入していただけている。私にとって賞を取り続けることについては喜びよりもその商品位置を確認できるという大きな意味があります。正直良い時も悪い時もあるわけですが、客観的な視点で自分達の酒を見つめ直し改善していく。そしてその内容やスピード感で杜氏の力量や蔵人のレベルが量られるような気がします。十年一括りではないですが、今から始まる一年を今まで体感し学び得た事を発揮するべき年と位置付けています。一言では言えませんが、「良い酒の為に必ずやったほうが良い事は妥協せずに行う」ということです。また会社の方針の中で自分にしかできない事、今のメンバーだからできることを考え秋からの酒造りに臨みたいと考えていますのでどうぞご期待ください。
最後に…。天寿のある由利本荘市矢島は都市部に比べれば人も建物も少ない自然にあふれた町です。住んで十七年になりますが、雪が多いくらいで住んで不便だと思ったことは正直ありません。空気が綺麗で、水が豊富で、良質の米が育ち、人も良い。車がないと生きていけないかもしれませんが…。というのも、私が入社した頃お世話になったベテラン蔵人のほとんどが定年を迎え若返り化を進めています。米の栽培から酒造り、造ったお酒を飲んでもらえる喜びを私達と共感してもらえる人を探しています。電話・FAX・HPからでもなんでも結構です。本気であることが大前提ですが、ご興味のある方からの連絡お待ちしています!