六代目永吉永眠
代表取締役社長 大井建史
この度の六代目大井永吉の永眠に際しまして、沢山の弔意・ご会葬を賜り篤くお礼申し上げます。
新型コロナウィルス対策の観点から、ご会葬の皆様の安全を最優先にと考えた為ではありますが、ご焼香のみの簡便な形となりました事をお詫び申し上げます。
父は前立腺癌と六年二ヶ月勇敢に戦い続けましたが、残念ながら五月十四日に家族に見守られる中息を引きとりました。どんなに厳しい治療にも敢然と立ち向かう姿に、還暦過ぎの息子の方が勇気を貰っておりました。
昨年五月の披露宴予定でありました跡継ぎ孫娘の結婚式で、長年親しんできた謡曲で「高砂を謡う」と突然宣言し、それを楽しみにしておりましたが、コロナ禍により延期になり共に祝えなかったのが何とも残念です。
六代目大井永吉は昭和六年十月十八日に五代目の子供七人中六番目の次男として誕生し建徳(たけのり)と命名されました。長男泰造が大東亜戦争末期に戦車隊少尉としてフィリピンで戦死、帰って来た遺骨代わりの石を見つめた五代目が慟哭の中「建徳がいる」との言葉を受け急遽後継ぎとなり、後に全国最多優勝校と成った端艇部で活躍した県立本荘高校から兄と同じ広島大学工学部醗酵工学科に進み、国税庁醸造試験場を経て昭和三十一年に大井酒造店入社。四十四歳で社長就任(六代目永吉襲名五十歳)、九十九%県内での販売でしたが最大九千八百石の販売量を達成しました。
私が帰郷し二十六歳で入社した時は五十三歳で、天寿酒造社長・大井製材所の社長・町会議員(二十八年間)・城内部落(地元財産区)総代(四十六年間)等を歴任し多忙にしておりました。五代目もそうでしたが、六代目も町議会議長を務め、その後秋田県町村議長会会長も歴任し、第三セクター由利高原鉄道株式会社社長(無報酬二十四年間)・株式会社秋田県酒類卸社長(改組も含めた十九年間)・社会福祉法人矢島惠育会矢島保育園理事長(無報酬十一年間)等も歴任致しました。
その様な中でも造り酒屋の六代目として、酒造りの技術・品質に厳しく杜氏と対応している姿に、「この人は酒屋なんだ」と妙に感心した記憶があります。亡くなった後に一関杜氏から「この様な時ですが、六代目が喜ぶと思って」と全国新酒鑑評会金賞受賞を葬儀の準備で慌しくしている時に報告してくれ、素晴らしいたむけに成ったと有り難く…。
息子の私が言うのもおこがましいですが、穏やかな良識の人でジェントリーで、運動部三兄弟が高校生になっても腕相撲で勝てない強い父でありました。
父が九十歳を迎えるまで心豊かに過ごせましたのは、皆様のご厚情の賜物であります。
衷心より感謝申し上げますと共に、教えを守り精進して参りますので、今後とも私共にご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
今できる事を
杜氏 一関 陽介
昨年十月五日に始まった今期の酒造りも五月四日に皆造を迎えました。事故も無くこの日を迎えられた事は非常に嬉しく、ホッとしています。コロナウイルスの影響により昨年比で製造量を減らさざるを得ない非常に悔しい年にはなりましたが、酒造りへの気持ちは例年と変わりなく、また一つ一つの作業をより丁寧に進めることができたのではないかと感じています。その思いが酒質に表れて、少しでも皆様に伝わればと願っております。
もろみをすべて搾り終えたとはいえ、蔵の仕事はまだまだ残っています。搾り終えた酒の火入れ作業・使用した機械の洗浄やメンテナンス・タンクをはじめとする仕込み蔵の大掃除などまだまだ盛り沢山です。長かった仕込みが終わり、自分の時間が欲しい私ですが、そこまでやって初めて酒造りが終わりになります。最後まで蔵人メンバーと協力し良酒の為、そして蔵内を清潔に保ち、来年度の酒造りがスムーズに開始できるよう、もう少し気を張って頑張ろうと思います。
毎年この時期になると休日は何をしようかと考えるのが楽しく、本当であればいろんなところへ行きたい私ですが、感染症対策(移動自粛)により少し物足りなさを感じてしまいます。皆様の中にも自粛疲れの方がいらっしゃるのではないでしょうか。外出する機会が減ったことで私は「考える時間」が長くなり、特に仕事については様々な事を考えるようになりました。「今できる事は何か、この状況下だからこそやれる事・やらなければいけない事はないのか」等々。
会社の取り組みとして、昨年来SNSによる発信を増やす事、また毎年恒例の酒蔵開放や試飲会、飲食店様での日本酒の会等、コロナ禍では開催する事が難しいイベントの代替えとしてドライブスルーでの販売会や限定品のネット販売を行い、皆様に少しでも近づけるようにと社員一丸で取り組んでまいりました。まだまだやれることは考えればきっと沢山あるのでしょう。そして、今取り組んでいる事全てが、後に世の中が平常に戻った時、「旅行で秋田に行こう」「天寿に行って蔵見学しよう」「仲間で集まった際には天寿を飲もう」と皆様に思っていただけるような魅力づくりになっていれば有難いと思っています。
私個人としては、まず杜氏として一番の責務は美味しいお酒をお客様にお届けする事です。良酒の為にやるべき事をコツコツ実行し、コロナ禍によって発生した何処へもぶつけようのないストレスを上手くモチベーションに変え、それを高く持ち続ける事が重要だと思います。自分の立ち居振る舞いは身の回りの仲間に伝わり、お酒に伝わりお客様にも必ず伝わります。どんな状況でも美味しく飲んでいただける自慢のお酒で皆様をおもてなしするべく、今できる事をちゃんとやる。
二度と戻らない今日をただひたすらに頑張ります。