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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

座右の銘
2021-03-16

座右の銘

代表取締役社長 大井建史

ついこの間までコロナ禍と大雪に呻いていたが、庭の大雪はそのままながら真っ青な空や輝きを増した太陽と光る鳥海山が春の気配を感じさせる。

緊急事態解除が動き出したがコロナ罹患の数はもう一つ下がらず、耐えて来たこれまでの忍耐の時期から春の躍動の予感とワクチン接種を心待ちにしているのが、正直なところだ。

人は己を律する時、自分の心に留めて置く戒めや励ましの言葉を必要とする。自分の生きて来た経験から共感出来た言葉に、「これこそは」と思う事は誰もが幾度も経験した事だろう。

誰もが生きて来た中で、喜び、傷つき、悲しみ、涙する。一人ひとりがそれぞれの人生において、喜びに震え苦難に堪えて来ているのだとは思うが、十年前の東日本大震災や大規模な洪水、ついには世界規模のコロナ禍。

人類が世界中で同時に居竦み、息を潜め、家に篭る様な事は無かった。可能性はSF小説や戦争小説には有っても、現実世界に起こる程人類は愚かではないと思っていたはずだ。ペスト・天然痘・梅毒・インフルエンザ・エボラ出血熱等々人類は抑え込んで来たのではないのか?

ワクチン開発が人類の英知と平和の希望ではなく、世界の覇権を争う道具と堕するのを目の当たりにすると、何度失敗しても歴史は繰り返し、人間は成長しないのがこの上なく悲しい。

しかし、いつの時代でも希望の光は、狂信ではなく、教条でもなく、経験を経て自分が触れた、自分がそう有りたいと思う「言葉」ではないだろうか。

築二百年に成ろうとしている我が家の仏壇の横には、三代目の書「積善之家必有余慶」がある。若い頃、凡庸な自分の判断基準となる僅かな経験から来る短い定規で、「善」とは何かを考えた事もあった。地元の消防団・商工会・青年会議所等々ボランティア活動にはほぼ参加してきた。「情けは人の為ならず」。先輩から頂いた色紙にある「兀兀地」は現在の私の座右の銘「コツコツと」と言う意味の仏語だそうだ。他の先輩がよく使われるのが「日々是好日」達人の言葉は厳しい。毎日を最高の日にする為に最善を尽くすなど、根が怠け者の私には理想ではあるが鞭の様に感じる言葉だ。

皆様、コロナ禍も一年を超え、人と直接繋りを持つことが難しく、我慢我慢で息苦しい情勢です。天寿では百九十一回目の酒造りが終了間近で、フレッシュな香り漂う新酒が目白押し‼恒例の雪室開封イベントも密を避けるため『第二弾 雪室開封春のドライブスルー販売会』 として行う事に決定致しました。(4P参照)「明けない夜は無い」事を信じて、もう少し家飲みを楽しみながら頑張りましょう。

備える

杜氏 一関 陽介

雪の多かった冬が終わり、矢島にも春の訪れを感じさせる暖かい日が増えてまいりました。今年は四月中旬まで酒造りが続くので、お酒の品質を考えれば、もう少しの間寒いままでいて欲しいと願っているところです。

コロナウイルスの影響で仕込みの量が残念ながら減ってしまった今年度の酒造りですが、その分仕込み一本一本に籠める私達蔵人の気持ちは増していますし、手間を惜しまず自分達が今できる事を考えて日々の酒造りに勤しんでおります。

そんな中、最高峰である全国新酒鑑評会出品酒も二月中に無事に搾り上げ、私は少しホッとしているところです。昨年度は全国新酒鑑評会入賞に始まり、東北・秋田県の品評会で好成績を収める事ができました。中でも秋田県清酒品評会での吟醸酒の部・首席受賞は何よりも私達にとって今年度の酒造りの励みになり、今年も首席・・・という気持ちで取り組みましたが、結果は神のみぞ知るといったところでしょう。

また、日本名門酒会様企画の立春朝搾り、またコロナウイルス対策で天寿酒蔵開放が中止となり、その代替として開催したドライブスルー販売会と行事が続きました。どちらもその日に搾ったお酒を当日出荷するのですが、お酒の質は香りも良く発酵によるガスがお酒に残りピチピチフレッシュに仕上げることができ満足しています。どちらのイベントも今年は例年通りとはいきませんでしたが、お酒が美味しかったという声をいただき嬉しかったのと同時に、来年は通常での開催を願うと共に今年以上の酒の出来にしようと思っておりますのでご期待ください。

出品酒の仕込みやイベントが終わり、少しホッとした毎年この時期に考える事があります。東日本大震災。十年前のあの日、私は仕事が休みで、自宅で昼寝をしておりました。地震にびっくりして飛び起き、前杜氏が出張でいないことを思い出し、直ちに会社に向かったのを今でも鮮明に覚えています。

製麹室には麹が入っていましたし、もろみも沢山ありました。搾りもあったように記憶しています。まだ寒い時期でしたので醪は大丈夫。搾っていた酒も大丈夫。麹は停電で機械が動かないのでストーブで麹室を温め、朝の出麹までなんとか終わらせました。また、余震に備えて箱に入った商品も高くパレット積みしていたものを低い位置に下ろすなど様々な対策を取った記憶があります。あの日から十年。十年経つと人も入れ替わり、あの時いた先輩方の多くが退職され、当時の事を知っている現役メンバーは少なくなりました。何も起こらないのが一番良いのですが、自然には勝てません。自分達にできるのは有事の際に被害を最小限にできるように「備える」というのが非常に大事だと思います。

毎日の酒造りでも予期せぬトラブルはあります。自分が一度経験した事や知識を技術に変え、いつトラブルが起きても対応できるように心の準備をしておくこと。また後輩へ受け継ぎ伝えておくこと。それも「備える」ことの一つだと思います。その備えが商品を守ることは基より、酒質・技術の向上へと繋がると考えています。

世の中、明るい話題は少ないですが、暗くなってもしょうがありません。天寿を飲んで明日も頑張ろうと思ってくださるお客様の為に少しでも美味しいお酒を届けられるよう、蔵人メンバー一丸となって残り一ヶ月気合を入れて醸し続けます。

豪雪の矢島から謹賀新年
2021-01-14

豪雪の矢島から謹賀新年

代表取締役社長 大井建史

明けましておめでとうございます

昨年はコロナ禍に翻弄され、期待されていたオリンピックも延期となり、人類が皆我慢を強いられた年となりました。クリスマス頃には一日の感染者が三千人を超え、また、変異種のウィルスも残念ながら日本に上陸し、コロナ禍の年があけ明るい新年を迎えたと素直に喜ぶ状態ではありません。大変な状況の中、最前線で新型コロナと闘って下さっている医療関係者の皆様に、心からの尊敬と感謝の気持ちで一杯です。我々も出来る限りの自助努力を怠ることなく、この長く暗いトンネルが終わる日まで共に頑張って行きましょう。

天寿酒造は今年百九十一回目の酒造りを行っております。私共大井家も私が七代目を継いでおりますが、大きな変化がございました。昨年四月に娘が入籍し息子が出来ました。コロナ禍で残念ながら披露宴を延期しておりますが、彼らも次の代を継ぐべくスタートいたしました。何年かは造り酒屋の基本を学ぶ事が続きますが、皆様の前に現れましたら未熟な若い二人でございますので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。

さて、毎年ご好評を頂いております天寿蔵開放でございますが、二十二回目を迎える今年はコロナ禍で密を避けるため『ドライブスルー販売会』とさせて頂く事となりました。やしま冬まつりは開催されるとの事でございますが、酒蔵の中にお入り頂き列を成したり飲食したりする事は、今現在最も避けるべき事と考えます。しかし、地域として人としてそして会社としても「今」大事なのは、繋がりと元気とそれを創る美味しさだと思います。

全てを中止ではなく〝可能な繫がり・安心して参加できる・美味しさと生活の豊かさ〟の少しでもお手伝い出来る事を考えて進めております。

初めての試みでご不便・ご不満な部分も露呈するかもしれません。お酒の試飲も出来ませんが敢えて開催するべきと考え、杜氏をはじめとする蔵人達もその朝しぼるお馴染みの「朝しぼり」に全力を注ぎます。その他食卓の喜びに繋がる様な限定酒やお得で美味しい福箱などを取り揃えてお待ちしております。

可能であればオンラインショップでの事前申込み・支払いをして頂けるように整えます。如何にスムーズな受け渡しが出来るか考えて参りますので、メールニュースやホームページにご注目いただき、ご理解・ご協力の程よろしくお願い申し上げます。

鳥海山麓線も含めた冬まつり開催という事で、徒歩のお客様は店舗対応致しますが、ドライブスルーとの併催となる為、店外での待機・入店は一組ずつ・レジの関係で現金のみのお取り扱いとなります。大変寒い中ご不便・ご迷惑をおかけ致しますが、事情ご賢察賜りご理解・ご協力の程よろしくお願いいたします。

ここまで仕事や地域社会を構成する行事が無くなると、片足が足掛かりを無くしてぶらついている様な不安定感が有ります。家内のメニューコントロールのお陰で体重は五キロ近く減り、そこは有難いのですがコミュニケーションツールとしてのお酒の役割が大好きで、それを介しての人との繫がりに幸せを感じていたことが良く判ります。私などは人生が宴会で出来ている様な男ですから、古い仲間とWEB飲み会をした途端如何に寂しかったか判りました。

秋田県内横手・湯沢に続いて三番目の豪雪と闘いながらではございますが、新年の皆様のご多幸をお祈り申し上げます。

仕事とは

杜氏 一関 陽介

明けましておめでとうございます。昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で行動が制限されるなど、今まで経験した事がないような生活への変化を求められる一年でした。酒造りが一段落した昨年四月、酒造りも終わり、ゆっくり旅行でも行こうかと思った矢先の緊急事態宣言。造ったのは良いけれど、どれだけの酒が残ってしまうのだろうかと、ものすごく不安だったことを覚えています。

「来年は酒が造れるのか?収穫した米は?自分の仕事は?」大げさではなくそこまで考えました。外へ出ればマスクや消毒液を購入する人の長打の列。それを見て今何をするべきなのかを深く考えさせられました。

黙って在庫の酒瓶を毎日眺めていても仕方ないと思っていた四月下旬、普段私達が大吟醸酒や本醸造酒といった所謂アル添酒に使用する原料アルコールを手指の消毒用アルコールの代替として期限付きでの製造・販売ができるようになったとの知らせ。但し、販売するためにはクリアしなければならない手続きが多々あり、税務署や消防署へ連日出向き、なんとかゴールデンウイークギリギリでの販売へ漕ぎつけました。手指の消毒を徹底するように言われても消毒用アルコールはなかなか手に入らない時期でしたので、私達のアルコールで消毒することで少しでも安心をお届けできたのではないかと思っています。

その仕事に携わる中で二つの事を感じました。

一つ目は、普段私の仕事はお客様に喜んでもらえる酒を造る事。この度の消毒用アルコール商品の製造という今までにない経験ではありましたが、自己満足で微力ながらも人助けができたような気がして、自分の行いが人の為になるということがこんなに気持ちの良いものであるのかと実感させていただきました。

二つ目は、言い方は良くないかもしれませんが、お客様が求めているものが見える商品の製造・販売は、酒造りと比較できないほど単純であるということ。単純の中には安定したものを常に供給するという難しい面もありますが、微生物を扱い常にブレと戦う私達の仕事にはないゴールが存在すること。正にそれが無いのが日本酒の醍醐味なんでしょうが…。一からお客様に求められる商品に作りあげる自分の仕事の難しさを改めて思い知らされると共に、なんてやりがいがある仕事なんだろうと感じることができました。

私は、仕事とは根本は人の為であり、求められたいという欲が原動力で努力し、それが自らの生活に跳ね返ってくることでモチベーションを維持でき、また頑張ろうと思える物だと考えています。

今年一年、お客様の為に何ができるのかを常に考えながら酒造りに取り組む所存です。まずは世の中が平常を取り戻し、皆様にとって笑顔の絶えない一年になりますようにお祈り申し上げます。

県知事賞首席
2020-11-03

県知事賞首席

代表取締役社長 大井建史

暑い夏から急に秋が深まり、9月の後半には稲刈りが急速に進んだ。10月には気温が10℃を切るようになり、今は紅葉が見ごろとなっている。天寿の酒蔵では豊醸感謝祭の出荷に向けて10月6日には初蒸しを行い、酒造り作業は順調に進んでいる。

3月以降コロナ禍で全国的に飲食店の営業が難しくなり、それを受けて全国の造り酒屋も売り上げが大不振で、冬場に一年分の販売量を寒造りする地方の酒蔵は、過剰に在庫が残り酒の減産調整が大課題と成っている。また、品質の良い吟醸・純米の造りにこだわっている酒蔵は、原料米からこだわりの契約栽培などを行っていて、農家との共存を目指して全量買い取りとしている。おまけに今年は天候が不順だったのにもかかわらず米はやや豊作で、造り酒屋はその皮肉に呻いている。

弊社もその例外ではなく、今年も昔からの契約栽培米を全て受け入れている。その結果精撰にも酒造好適米を使用せざるをえなくなり、結果「原価が高騰する」という事に頭を抱える事となった。

ただ、ここに来てコロナ禍で遅れていた品評会やコンテストの結果発表が相次ぎ、久々の朗報に蔵内が沸いている。

全国燗酒コンテストではお値打ち部門ぬる燗部門「清澄辛口鳥海山」金賞・お値打ち熱燗部門「精撰天寿」金賞・プレミアム燗酒部門「純米酒天寿」金賞。インターナショナル・サケ・チャレンジでは「大吟醸雫酒 鳥海の雫」・「純米酒天寿」・「米から育てた純米酒天寿」の三点が金賞、銀賞五点、銅賞一点の九点が入賞。フランスで行われるKura Masterは「米から育てた純米酒天寿」がプラチナ賞・「純米大吟醸鳥海山」が金賞。そして秋田県清酒品評会では天寿酒造初の知事賞首席を獲得した。一関杜氏を始め蔵人が一丸となれた成果だと、心から嬉しく思うと共に、インターナショナル・サケ・チャレンジで九点が入賞出来たのは、二十二年にわたる品質改善の結果、全体に品質レベルが向上した事と喜んでいる。

天寿の酒造りの目標は「地元で出来る最高の酒を目指す」事。

秋田で米の品質が一番の産地と言われる子吉川流域で原料米の契約栽培を行い、昔から良いと言われて来た酒造方法や新たな技術情報を検証し、良い事はその内容を蔵人の共通認識とする事で、最良の追求をして行く。目指すことを実現するには、緩みや油断があるとその一穴からあっという間に崩れて行くものだ。良くコミュニケーションをとり「和醸良酒」の精神でチームを育てなければならない。天寿の伝統とは長年この地で培われた「蔵人の酒造りへの姿勢」である事をよく認識し、先人の思いを次世代につなげられる様、各人思いを込めて姿勢を正す事が重要だと考える。

今年もご期待ください。

チームへのご褒美と伸びしろ

杜氏 一関 陽介

十月五日、令和二年度の酒造りがスタートしました。製造メンバーの約半分が地元農家で、ほとんどが農作業を終えてからの入蔵になる為、私を含む常勤メンバー六人で九月後半から清掃を開始し、今は何とか仕込みを軌道に乗せるところまで辿り着きホッとしています。フルメンバーが揃い、安定した酒造りができる日が早く来ないかと待ちわびている今日この頃です。

そのような状況の中で嬉しい知らせがありました。令和二年度秋田県清酒品評会(吟醸酒の部)において弊社の出品酒が秋田県知事賞を首席でいただくことができました。これもひとえに日頃からご愛飲いただいている皆様方の支えがあってこその受賞だと感じています。御礼申し上げます。入社して十七年、杜氏として八期務めさせていただいた私にとって間違いなく一番嬉しい出来事となりました。なんといっても一位ですから・・・。

手前味噌ながら、弊社の商品はこれまでに様々な国際的コンテストにおいて沢山の賞をいただいてきました。それはそれで誇りであり大変嬉しいのですが、今回の受賞は一味違います。蔵によって考え方の違いはあるかもしれませんが、この品評会は最高の米を使い、蔵人が持つ最高の技術を出し切る、謂わば蔵の威信をかけて造ったお酒で勝負する意味合いがあると考えています。また、毎年五月に行われる全国新酒鑑評会において、秋田県のお酒は毎年入賞率が高く全国的にもハイレベルなお酒が非常に多い県なのです。そんなお酒の中で首席に選ばれたことは本当に光栄であり、改めて身の引き締まる思いです。

品評会の酒造りについて言えば、私が杜氏に就任してから、ここに至るまでにはいろいろありました。当初から自分達の経験と受け継いだ技術で最良を目指してきたつもりですが、一緒に働くメンバーも年々少しずつ変わり、技術の変化もある中でもがいていたようにも今となって思います。そんな中で三年前から使用する酵母菌や麹菌の選択を含め、毎年成績の良い蔵でやっていることを自分達なりにアレンジし取り入れること、醸造試験場の先生方にこまめにアドバイスをいただくことを積極的に行ってきました。その甲斐もあってか、その年から全国・県内外の品評会で少しずつ上位に入るようになりました。今回の首席は酒造りに真摯に向き合い、作業を正確に行ってきた私達、チームへのご褒美だと思っています。

そして成績を伝えた時の蔵人頭の一言、「そんなに酒いがったか?」を聞いた私は、「まだまだ伸びしろがある」そう思ったのです。

吟味して醸す
2020-09-10

吟味して醸す

代表取締役社長 大井建史

未曾有の被害が広がるコロナ禍の中、世界中がその苦しみの中でもがいている。100年前の大正時代に三十九万人以上亡くなったと言われる香港風邪等、日本でも全国的に蔓延した伝染病は有った。しかし、これだけ文明が進んだと思っている我々が、近年の頻発する震災や豪雨による洪水などの自然災害には、現代でも人間の力は何程の物かと思わせられる。

世界的にもイギリスのEU離脱や北朝鮮の核開発問題、中国の自由社会破壊を思わせる香港支配への露骨な活動やアメリカとの対立、そして何より新型コロナウィルスの蔓延が、経済の健全性を阻害している状況だ。

日本もリーマンショックをはるかに超える大変厳しい経済状況にあり、コロナの影響を大きく受けた弊社も、雇用確保のための休業処置等政府の支援策を利用しながら、何とか体力の温存に努めている。

二十年前に社長に就任し、清酒消費の大縮小期に差し掛かった時代を社員の皆と共に乗り切ろうと頑張ってきた。愚直に品質の向上に努め、製造作業の一つ一つを確認・改善し、その作業精度にとことんこだわる事で、純米大吟醸鳥海山を生み出し、結果全ての商品の品質向上へとつながり、コンテストの入賞率・回数等から2019年は世界酒蔵ランキング6位に賞された。

当時と比べると現在全国の日本酒消費量は六分の一となり、弊社は数量でピーク時20%となっている。

厳しい時に一挙にV字回復出来るのは天才的な発想がないと難しい。しかし、天才はいなくても、方向を定め皆で知恵を出し合い、目の前の仕事を確実に・正確に・思いを込めて一歩一歩進めて行く事が我々に出来る事だ。

私は社員皆と今ここにいる縁を思い、仕事へのプライドを持ち、コミュニケーションの活性化を図り、緊密な連携により相互理解を深め、各部署の仕事にもっと深く入り込んで、積極的に改革を進める事を期待する。

生物の進化では強い者が生き残ったのではなく、うまく環境に適合できたものが生き残ってきたと言う。Re:Start 今時代にそれを求められてしまった。周りの環境は色々な要因で大きく変化しており、我々だけが何も変わらずに生き残れるはずはない。変化に応じて、スピードに負けずに常に進化して行かねばならない。

吟味して進む・吟味して醸す!!

あと二ケ月で191回目の酒造りが始まる。圃場の酒米の稲穂は、頭を垂れはじめた。

パック酒の実力

杜氏 一関 陽介

新型コロナウイルス感染症の影響で旅行やお盆の帰省を自粛せざるを得なかった夏もあっという間に過ぎていきました。人が動かないことで飲食店やお土産品店では非常に寂しい夏になったのではとお察しいたします。

三月の緊急事態宣言から半年。行動自粛、生活様式の変化を求められたことによって、何とも言えない息苦しい生活の中で増加する自然災害や四十度を超える猛暑。私たちの生活において過去に例を見ない程の影響があった半年だったのではないでしょうか。

さて、そんなコロナ禍で感じる日本酒の話をしようと思います。まず、生活スタイルが変わった事で私たちが欲しいと思う物が大きく変わったのではないでしょうか。分かっている話ですが、マスクや体温計の欠品に始まり、ウェブカメラが好調でゲーム機は品薄、バーベキュー用品等の需要増など衛生用品やステイホーム関連の商品が好調のようです。

弊社でもコロナ禍において売り上げに影響がある中で好調な商品があります。

その名は『精撰サケパック』。

今の日本酒業界は特定名称酒、さらに言えばアルコール添加をしない「純米酒」が売れる時代です。その勢いに圧倒され精撰は年々減少を続けているのが現状です。そんな中でこの半年間のサケパックの売り上げを見ると、前年比で約10%の伸びを記録しています。私感も入っておりますが、幾つか理由がありそうです。「容器が紙なので捨てるのに楽だ」「家飲みは量が増えるので低価格帯が良い」「料理をする回数が増え、料理酒として使われている」「単に美味い」などを推測しています。

さて、この精撰については一年ほど前にもこの通信に書いた通り、十五年前の三分の一の量にまで減っている中でまだまだ地元の看板商品であり、私がこの仕事に就いて天寿の酒造りを覚えたベースでもあります。蔵に見学に来られた方に私が良く話すことがあります。「最近は特定名称酒(所謂高精白米と華やかな香りが高く出る酵母で醸し、搾ったら直ぐに瓶詰め・火入れをして冷蔵庫で貯蔵したもの)が人気で精撰は影を潜めている。良質の米と徹底した品質管理ができれば悪い酒はできない。米をそんなに削らなくても、貯蔵環境が違っても、できる限り特定名称酒の管理に近づけていくことで自分の造る酒のベースである精撰の品質向上をしたい」と。前述で「単に美味い」と冗談のように書きましたが、その気持ちで酒造りをしているからこそ、そうあって欲しいという願いも込めています。

最後に、いつになったら普通の生活に戻るのか、戻れるのか。もしかすると「普通」が変わる事も想定しなければならないかもしれません。そして、健康でなければ良い酒造りはできないので、自分の身は自分でしっかり守ること。嗅覚を研ぎ澄まし、次はどんな商品が求められるのか、自分達にできる事は何なのかを常に意識すること。この事を念頭に置いて、一ケ月後に迫りくる新年度の酒造りに臨もうと考えています。

日本酒をお楽しみください
2020-07-02

日本酒をお楽しみください

代表取締役社長 大井建史

清々しい五月晴れから梅雨に移行する時期ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

コロナ禍の中、世界中が呻きながら耐えてやり過ごそうとしています。この間の経済的損失は想像を絶するものが有り、飲食業や我々造り酒屋はすでに貧血状態に陥っています。感染しない広げないが最優先事項と判ってはいますが、この先出血多量にならない様にそろそろアクションを起こさなければとは思うのですが…。

そこでまず足元から。今だから出来る事をと頭を切り替え、製造の詰口部門の体制改善に取り組み始めました。これからの酒蔵のありかたとして「重要なのは酒販店様やお客様に選択し続けて頂ける酒蔵であること」と色々な試みやご要望にお応えすべく頑張った結果、アイテム数が増え続け、その保管・管理に冷蔵庫が圧迫される状況でした。

瓶貯蔵用冷蔵庫内にバラエティーに富んだお酒があることあること。それらを杜氏と共に恐る恐る唎酒をすると、恐れとは全く違う貴重な熟成されたおいしさが!これはうれしい驚きでした。

例えば、4年前の純米酒の生酒に全く生ヒネや老香が無く、酸味や甘味に熟成だけが成し得る柔らかさとキレ!!想像できますか?

しかし、マイナス5度で4年間の生熟成酒の宝物でも、販売する術がなければ熱殺菌してレギュラー純米にブレンドで使う事になります。あぁ、もったいない!今イベントや唎酒会・楽しむ会が全く開けない中、どの様にしてそれを伝えられるかに頭を抱えたり、抱えたり、抱えたりしております。

それにこの系統のお酒は物流に乗せにくいのです。その理由は、

●数がそれ程多くない。多い物でも何件かの酒販店様に売ると言って頂けると無くなります。

●再現性がない。例えば今回は4年置いても生ヒネも老香も出ずバランスよく熟しましたが、次もそうなるとは言えないし怖くて出来ません。

●多くても百本単位なのでラベルは弊社でパソコン作成となります。

●今の所、営業に行き酒販店様に説明できない。通常商品との違いを説明しづらい。熟成と言うとすぐ紹興酒系の変化を想像する方がいますが、その系統とは全く違います。

等々です。しかし、逆に考えると、

●数量超限定

●今この時に飲まなければ二度と味わえない超レアもの。再現は難しい。

●ラベルにお金をかけない超リーズナブルな価格

もし同じお酒の新酒がある物なら、ビフォーアフターの比べのみがお勧めですね。実に面白いと思います。

ワイワイがやがや飲むのも楽しいですが、今この時期は家でゆっくりお気に入りの盃やグラスで、世界がその繊細な味わいに注目する日本酒を、じっくり味わい尽くしてみてください。

天寿では近年の受賞数から2019年世界酒蔵ランキング第六位・2018年全国燗酒コンテスト最優秀燗酒蔵を受賞しております。今だけ屋やメールニュースに紹介いたしますので是非ご注目下さい。

菌と生きる

杜氏 一関 陽介

六月十九日からコロナウイルスによる他県への移動自粛が解除になり、いよいよ人が動き始めている状況ですが、緊急事態宣言前と同じ状況へ完全に戻るにはまだまだ時間がかかりそうです。いつどこで感染するのか分からない事や重篤になる可能性がある事への恐怖、もしそうなった時に身の回りの人へ迷惑をかける事を想像すると、正直なかなか足が外へ向きません。頭の中では積極的に外出し消費活動を行わないと経済が回らない事、当然自分達の酒の需要も増えていかない事も分かっていますので、とるべき行動の難しさに悩んでいるところです。

怖いのは未知だということ。そのような状況の中、恐怖に立ち向かう医療関係者や治療薬やワクチンの開発に携わる方々の苦労には頭が下がります。元々、人間は細菌やウイルスと共生しているわけですから、早くコロナウイルスとも上手に付き合えるようになればと願うばかりです。

移動自粛が解除になることで考えたことがあります。酒蔵は酵母菌や麹菌を使って麹を造り発酵させ酒を醸します。言ってみれば菌にとって活躍しやすい環境を私達蔵人が整える役目を担っているのです。ですから、蔵に入る人間が優良な菌の活動を阻害するような菌(雑菌)を持ち込んだり、蔵内で増殖させたりする行動は、やがて麹やもろみに混入し、酒に持ち込まれ品質に悪影響を及ぼします。そのような事が起きることを防ぐべく、私達は清潔な帽子・白衣・長靴等の着用・オゾン水や紫外線・高濃度アルコールによる手指や使用する道具類の殺菌などを行っています。この事は、世界的に行われているコロナウイルス感染予防対策と同じだと思うのです。

ウイルスと細菌とは大きさや増殖の仕組みは異なりますが、同じ微生物ですから人が動けば共に動きます。ウイルス感染予防と、良質の酒を醸す為の微生物管理の目的は同じで、人が動いた際に如何に不必要な物を取り込まずに拡げないかだと思います。

菌を扱う仕事をしている者として、人間が行動することで菌を拡げてしまうことや、逆に有用な菌を封じ込めてしまうこともできる恐ろしさを併せ持つのだと認識して、個々が責任ある行動をする必要があると思うのです。酒造りが終わり、時間に余裕がある私ですが、そんなことで遠出は控え、地元の良さを発見できるような夏にできたら良いのかなと考えています。

桜満開の時に
2020-04-28

桜満開の時に

代表取締役社長 大井建史

新型コロナウィルスに罹られた方々や、その影響で大変な思いをされているすべての皆様に心からお見舞い申し上げます。

その様な厳しい環境の中ですが、鳥海山の麓矢島の里は、今まさに桜満開を迎えました。

天寿の酒蔵は百九十回目の酒造りも最終時期で、四月二十七日に皆造を迎える予定です。毎日続々と新酒が生まれ、この状況でも生産を途中で止めようも無く、また、その出来に喜びを感じながらも、貯蔵能力を超えそうな量に胸が詰まります。

例年ならば誇らしい時期に、この喜びを皆様にお伝えする役割の営業も、会社に待機せざるを得ず、新酒の出来をご贔屓頂いている皆様と、喜びを分かち合いながら盃を上げたい所ではありますが、世の中は自粛自粛の縄で縛られ、終わりの見えない苦境に悶々としております。

家業に就いて三十六年。こんなに会社から出かけないのは入社した年以来初めてではないかと思います。仕事のテンポが普段とまるで違うのです。中々この環境に合わせられず、頭を切り替えるには努力が必要です。

酒造業界三十九年の私が二か月近く飲食店にお邪魔していないのはもちろん初めてです。(そうか!家内の今日は何にしようかなと言うやるせない顔は「今日も家にいるのか…」だったのか。)

私はこの地の人間として、ボランティア的役割を地元の高校や保育園に持っております。卒業を自由に祝えない卒業生や予定通り授業の始まらない学生たち、緊急事態宣言で何時休みになるか判らず、登園も自粛を促され送迎の保護者は玄関より中に入れない保育園の状況、現在休業を許されない保育園で、自分が罹患する事も大変ですが知らないうちに子供達にうつす事を恐れる保育士さん達を見ていると、本当に恐ろしい事が起こったのだと実感します。

このコロナ危機は第二次世界大戦以来の最大の危機と言われる方がいます。戦争ではありませんが若者が夢を追えないという意味では重大な事だと思います。学者によっては一~二年かかると言われますが、学生にとっての一年は誰より貴重で輝く年です。その切なさを慮って想いを馳せていると、卒業・桜の絡む歌がテレビから流れます。忙しいと忘れていますが、こんな時間が出来るとセンチメンタルな若い頃を思い出します。

出会い・別れ・巣立ち。同級生である高校の校長が、「卒業式の日は大雪が降って、その日大学受験で上京組が夜行一本しか動かなくて…」私も何時間も遅れた同じ夜行で東京へ…。

昔懐かしい思い出で心が切なくなり、こんな感じを何というのか考えていたら「心房細動が起きそうだ…」美味い酒を飲みながら一人で苦笑いです。あぁ、たまにはこんな晩酌もいいなぁ と思う今日この頃です。ストレス解消には天寿・鳥海山でゆっくり晩酌が一番です(笑)

春よ、来い

杜氏 一関 陽介

皆様に蔵元通信が届く頃には皆造(今期のもろみをすべて搾り終える事)を迎え、今年も無事に酒造りを終えられたことで、達成感に浸っているであろう自分を想像しながらこの文章を書いています。

昨日は、冬期雇用の蔵人メンバーが今期の任務を終えて解散を迎えた日でした。解散にはなったものの、もろみはまだ残っており、残ったメンバーで最後の一本まで丁寧に仕上げ、最後の清掃までしっかりやりきろうと気持ちを入れ直す日でもありました。

とは言え、今期も昨年十月から今日まで大半の時間を酒造りに向けてきましたので、皆造を迎えた暁には「あれをしよう、ここに行こう」などと自分の時間についても計画を立て始めていました。

そんな中、コロナウイルス蔓延による緊急事態宣言が全国に発布され、国内は不要不急の行動を自粛せざるを得ない状況になりました。自分の行動を制限されるのは誰しも不便ではありますが、亡くなられた方や罹患し辛い状況にある方々の事を考えると他人事ではなく、蔓延を防ぐためにも自粛は必要だと思います。テレビでは毎日フィクション映画じゃないかと思いたくなるような報道が流れ、いつ我が身に…と思うと恐ろしくなります。

そして経済面では弊社の取引先の皆様が、この行動自粛で悲鳴をあげています。本当に深刻です。皆様同じだと思いますが、この先どうなるのか分からない事が一番不安です。

私は今のところ普段とあまり変わらない生活ができていることにつくづく感謝しています。

家族が健康で、仕事があって、会社に行けば仲間がいる。「友人は元気か?」と気になれば、SNSで確認できる。住んでいる場所は田舎ですが、人・水・空気は最高で食べ物も美味しい。この日常生活全てが幸せな事で、あって当たり前じゃないのだと気付かされます。

そして、この状況だからこそ自分が生きていくのに本当に必要な事が見えてきます。終息するにはまだ時間が必要な状況のようですが、これからは今まで以上に身の回りの大切な人や物に対して優しい気持ちで接しようと心に決めています。

矢島の桜も人にあまり見られることも無くどこか寂し気に散り始め、あっという間に春は終わってしまいそうですが、早く日常に春がやってくることを願うしかありません。

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お電話でのお問い合わせ

0184-55-3165

フリーダイヤル:0120-50-3165

平日8:00~17:00

20歳未満のアルコール類の購入や飲酒は法律で禁止されています。