県知事賞首席
代表取締役社長 大井建史
暑い夏から急に秋が深まり、9月の後半には稲刈りが急速に進んだ。10月には気温が10℃を切るようになり、今は紅葉が見ごろとなっている。天寿の酒蔵では豊醸感謝祭の出荷に向けて10月6日には初蒸しを行い、酒造り作業は順調に進んでいる。
3月以降コロナ禍で全国的に飲食店の営業が難しくなり、それを受けて全国の造り酒屋も売り上げが大不振で、冬場に一年分の販売量を寒造りする地方の酒蔵は、過剰に在庫が残り酒の減産調整が大課題と成っている。また、品質の良い吟醸・純米の造りにこだわっている酒蔵は、原料米からこだわりの契約栽培などを行っていて、農家との共存を目指して全量買い取りとしている。おまけに今年は天候が不順だったのにもかかわらず米はやや豊作で、造り酒屋はその皮肉に呻いている。
弊社もその例外ではなく、今年も昔からの契約栽培米を全て受け入れている。その結果精撰にも酒造好適米を使用せざるをえなくなり、結果「原価が高騰する」という事に頭を抱える事となった。
ただ、ここに来てコロナ禍で遅れていた品評会やコンテストの結果発表が相次ぎ、久々の朗報に蔵内が沸いている。
全国燗酒コンテストではお値打ち部門ぬる燗部門「清澄辛口鳥海山」金賞・お値打ち熱燗部門「精撰天寿」金賞・プレミアム燗酒部門「純米酒天寿」金賞。インターナショナル・サケ・チャレンジでは「大吟醸雫酒 鳥海の雫」・「純米酒天寿」・「米から育てた純米酒天寿」の三点が金賞、銀賞五点、銅賞一点の九点が入賞。フランスで行われるKura Masterは「米から育てた純米酒天寿」がプラチナ賞・「純米大吟醸鳥海山」が金賞。そして秋田県清酒品評会では天寿酒造初の知事賞首席を獲得した。一関杜氏を始め蔵人が一丸となれた成果だと、心から嬉しく思うと共に、インターナショナル・サケ・チャレンジで九点が入賞出来たのは、二十二年にわたる品質改善の結果、全体に品質レベルが向上した事と喜んでいる。
天寿の酒造りの目標は「地元で出来る最高の酒を目指す」事。
秋田で米の品質が一番の産地と言われる子吉川流域で原料米の契約栽培を行い、昔から良いと言われて来た酒造方法や新たな技術情報を検証し、良い事はその内容を蔵人の共通認識とする事で、最良の追求をして行く。目指すことを実現するには、緩みや油断があるとその一穴からあっという間に崩れて行くものだ。良くコミュニケーションをとり「和醸良酒」の精神でチームを育てなければならない。天寿の伝統とは長年この地で培われた「蔵人の酒造りへの姿勢」である事をよく認識し、先人の思いを次世代につなげられる様、各人思いを込めて姿勢を正す事が重要だと考える。
今年もご期待ください。
チームへのご褒美と伸びしろ
杜氏 一関 陽介
十月五日、令和二年度の酒造りがスタートしました。製造メンバーの約半分が地元農家で、ほとんどが農作業を終えてからの入蔵になる為、私を含む常勤メンバー六人で九月後半から清掃を開始し、今は何とか仕込みを軌道に乗せるところまで辿り着きホッとしています。フルメンバーが揃い、安定した酒造りができる日が早く来ないかと待ちわびている今日この頃です。
そのような状況の中で嬉しい知らせがありました。令和二年度秋田県清酒品評会(吟醸酒の部)において弊社の出品酒が秋田県知事賞を首席でいただくことができました。これもひとえに日頃からご愛飲いただいている皆様方の支えがあってこその受賞だと感じています。御礼申し上げます。入社して十七年、杜氏として八期務めさせていただいた私にとって間違いなく一番嬉しい出来事となりました。なんといっても一位ですから・・・。
手前味噌ながら、弊社の商品はこれまでに様々な国際的コンテストにおいて沢山の賞をいただいてきました。それはそれで誇りであり大変嬉しいのですが、今回の受賞は一味違います。蔵によって考え方の違いはあるかもしれませんが、この品評会は最高の米を使い、蔵人が持つ最高の技術を出し切る、謂わば蔵の威信をかけて造ったお酒で勝負する意味合いがあると考えています。また、毎年五月に行われる全国新酒鑑評会において、秋田県のお酒は毎年入賞率が高く全国的にもハイレベルなお酒が非常に多い県なのです。そんなお酒の中で首席に選ばれたことは本当に光栄であり、改めて身の引き締まる思いです。
品評会の酒造りについて言えば、私が杜氏に就任してから、ここに至るまでにはいろいろありました。当初から自分達の経験と受け継いだ技術で最良を目指してきたつもりですが、一緒に働くメンバーも年々少しずつ変わり、技術の変化もある中でもがいていたようにも今となって思います。そんな中で三年前から使用する酵母菌や麹菌の選択を含め、毎年成績の良い蔵でやっていることを自分達なりにアレンジし取り入れること、醸造試験場の先生方にこまめにアドバイスをいただくことを積極的に行ってきました。その甲斐もあってか、その年から全国・県内外の品評会で少しずつ上位に入るようになりました。今回の首席は酒造りに真摯に向き合い、作業を正確に行ってきた私達、チームへのご褒美だと思っています。
そして成績を伝えた時の蔵人頭の一言、「そんなに酒いがったか?」を聞いた私は、「まだまだ伸びしろがある」そう思ったのです。