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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

県知事賞首席
2020-11-03

県知事賞首席

代表取締役社長 大井建史

暑い夏から急に秋が深まり、9月の後半には稲刈りが急速に進んだ。10月には気温が10℃を切るようになり、今は紅葉が見ごろとなっている。天寿の酒蔵では豊醸感謝祭の出荷に向けて10月6日には初蒸しを行い、酒造り作業は順調に進んでいる。

3月以降コロナ禍で全国的に飲食店の営業が難しくなり、それを受けて全国の造り酒屋も売り上げが大不振で、冬場に一年分の販売量を寒造りする地方の酒蔵は、過剰に在庫が残り酒の減産調整が大課題と成っている。また、品質の良い吟醸・純米の造りにこだわっている酒蔵は、原料米からこだわりの契約栽培などを行っていて、農家との共存を目指して全量買い取りとしている。おまけに今年は天候が不順だったのにもかかわらず米はやや豊作で、造り酒屋はその皮肉に呻いている。

弊社もその例外ではなく、今年も昔からの契約栽培米を全て受け入れている。その結果精撰にも酒造好適米を使用せざるをえなくなり、結果「原価が高騰する」という事に頭を抱える事となった。

ただ、ここに来てコロナ禍で遅れていた品評会やコンテストの結果発表が相次ぎ、久々の朗報に蔵内が沸いている。

全国燗酒コンテストではお値打ち部門ぬる燗部門「清澄辛口鳥海山」金賞・お値打ち熱燗部門「精撰天寿」金賞・プレミアム燗酒部門「純米酒天寿」金賞。インターナショナル・サケ・チャレンジでは「大吟醸雫酒 鳥海の雫」・「純米酒天寿」・「米から育てた純米酒天寿」の三点が金賞、銀賞五点、銅賞一点の九点が入賞。フランスで行われるKura Masterは「米から育てた純米酒天寿」がプラチナ賞・「純米大吟醸鳥海山」が金賞。そして秋田県清酒品評会では天寿酒造初の知事賞首席を獲得した。一関杜氏を始め蔵人が一丸となれた成果だと、心から嬉しく思うと共に、インターナショナル・サケ・チャレンジで九点が入賞出来たのは、二十二年にわたる品質改善の結果、全体に品質レベルが向上した事と喜んでいる。

天寿の酒造りの目標は「地元で出来る最高の酒を目指す」事。

秋田で米の品質が一番の産地と言われる子吉川流域で原料米の契約栽培を行い、昔から良いと言われて来た酒造方法や新たな技術情報を検証し、良い事はその内容を蔵人の共通認識とする事で、最良の追求をして行く。目指すことを実現するには、緩みや油断があるとその一穴からあっという間に崩れて行くものだ。良くコミュニケーションをとり「和醸良酒」の精神でチームを育てなければならない。天寿の伝統とは長年この地で培われた「蔵人の酒造りへの姿勢」である事をよく認識し、先人の思いを次世代につなげられる様、各人思いを込めて姿勢を正す事が重要だと考える。

今年もご期待ください。

チームへのご褒美と伸びしろ

杜氏 一関 陽介

十月五日、令和二年度の酒造りがスタートしました。製造メンバーの約半分が地元農家で、ほとんどが農作業を終えてからの入蔵になる為、私を含む常勤メンバー六人で九月後半から清掃を開始し、今は何とか仕込みを軌道に乗せるところまで辿り着きホッとしています。フルメンバーが揃い、安定した酒造りができる日が早く来ないかと待ちわびている今日この頃です。

そのような状況の中で嬉しい知らせがありました。令和二年度秋田県清酒品評会(吟醸酒の部)において弊社の出品酒が秋田県知事賞を首席でいただくことができました。これもひとえに日頃からご愛飲いただいている皆様方の支えがあってこその受賞だと感じています。御礼申し上げます。入社して十七年、杜氏として八期務めさせていただいた私にとって間違いなく一番嬉しい出来事となりました。なんといっても一位ですから・・・。

手前味噌ながら、弊社の商品はこれまでに様々な国際的コンテストにおいて沢山の賞をいただいてきました。それはそれで誇りであり大変嬉しいのですが、今回の受賞は一味違います。蔵によって考え方の違いはあるかもしれませんが、この品評会は最高の米を使い、蔵人が持つ最高の技術を出し切る、謂わば蔵の威信をかけて造ったお酒で勝負する意味合いがあると考えています。また、毎年五月に行われる全国新酒鑑評会において、秋田県のお酒は毎年入賞率が高く全国的にもハイレベルなお酒が非常に多い県なのです。そんなお酒の中で首席に選ばれたことは本当に光栄であり、改めて身の引き締まる思いです。

品評会の酒造りについて言えば、私が杜氏に就任してから、ここに至るまでにはいろいろありました。当初から自分達の経験と受け継いだ技術で最良を目指してきたつもりですが、一緒に働くメンバーも年々少しずつ変わり、技術の変化もある中でもがいていたようにも今となって思います。そんな中で三年前から使用する酵母菌や麹菌の選択を含め、毎年成績の良い蔵でやっていることを自分達なりにアレンジし取り入れること、醸造試験場の先生方にこまめにアドバイスをいただくことを積極的に行ってきました。その甲斐もあってか、その年から全国・県内外の品評会で少しずつ上位に入るようになりました。今回の首席は酒造りに真摯に向き合い、作業を正確に行ってきた私達、チームへのご褒美だと思っています。

そして成績を伝えた時の蔵人頭の一言、「そんなに酒いがったか?」を聞いた私は、「まだまだ伸びしろがある」そう思ったのです。

吟味して醸す
2020-09-10

吟味して醸す

代表取締役社長 大井建史

未曾有の被害が広がるコロナ禍の中、世界中がその苦しみの中でもがいている。100年前の大正時代に三十九万人以上亡くなったと言われる香港風邪等、日本でも全国的に蔓延した伝染病は有った。しかし、これだけ文明が進んだと思っている我々が、近年の頻発する震災や豪雨による洪水などの自然災害には、現代でも人間の力は何程の物かと思わせられる。

世界的にもイギリスのEU離脱や北朝鮮の核開発問題、中国の自由社会破壊を思わせる香港支配への露骨な活動やアメリカとの対立、そして何より新型コロナウィルスの蔓延が、経済の健全性を阻害している状況だ。

日本もリーマンショックをはるかに超える大変厳しい経済状況にあり、コロナの影響を大きく受けた弊社も、雇用確保のための休業処置等政府の支援策を利用しながら、何とか体力の温存に努めている。

二十年前に社長に就任し、清酒消費の大縮小期に差し掛かった時代を社員の皆と共に乗り切ろうと頑張ってきた。愚直に品質の向上に努め、製造作業の一つ一つを確認・改善し、その作業精度にとことんこだわる事で、純米大吟醸鳥海山を生み出し、結果全ての商品の品質向上へとつながり、コンテストの入賞率・回数等から2019年は世界酒蔵ランキング6位に賞された。

当時と比べると現在全国の日本酒消費量は六分の一となり、弊社は数量でピーク時20%となっている。

厳しい時に一挙にV字回復出来るのは天才的な発想がないと難しい。しかし、天才はいなくても、方向を定め皆で知恵を出し合い、目の前の仕事を確実に・正確に・思いを込めて一歩一歩進めて行く事が我々に出来る事だ。

私は社員皆と今ここにいる縁を思い、仕事へのプライドを持ち、コミュニケーションの活性化を図り、緊密な連携により相互理解を深め、各部署の仕事にもっと深く入り込んで、積極的に改革を進める事を期待する。

生物の進化では強い者が生き残ったのではなく、うまく環境に適合できたものが生き残ってきたと言う。Re:Start 今時代にそれを求められてしまった。周りの環境は色々な要因で大きく変化しており、我々だけが何も変わらずに生き残れるはずはない。変化に応じて、スピードに負けずに常に進化して行かねばならない。

吟味して進む・吟味して醸す!!

あと二ケ月で191回目の酒造りが始まる。圃場の酒米の稲穂は、頭を垂れはじめた。

パック酒の実力

杜氏 一関 陽介

新型コロナウイルス感染症の影響で旅行やお盆の帰省を自粛せざるを得なかった夏もあっという間に過ぎていきました。人が動かないことで飲食店やお土産品店では非常に寂しい夏になったのではとお察しいたします。

三月の緊急事態宣言から半年。行動自粛、生活様式の変化を求められたことによって、何とも言えない息苦しい生活の中で増加する自然災害や四十度を超える猛暑。私たちの生活において過去に例を見ない程の影響があった半年だったのではないでしょうか。

さて、そんなコロナ禍で感じる日本酒の話をしようと思います。まず、生活スタイルが変わった事で私たちが欲しいと思う物が大きく変わったのではないでしょうか。分かっている話ですが、マスクや体温計の欠品に始まり、ウェブカメラが好調でゲーム機は品薄、バーベキュー用品等の需要増など衛生用品やステイホーム関連の商品が好調のようです。

弊社でもコロナ禍において売り上げに影響がある中で好調な商品があります。

その名は『精撰サケパック』。

今の日本酒業界は特定名称酒、さらに言えばアルコール添加をしない「純米酒」が売れる時代です。その勢いに圧倒され精撰は年々減少を続けているのが現状です。そんな中でこの半年間のサケパックの売り上げを見ると、前年比で約10%の伸びを記録しています。私感も入っておりますが、幾つか理由がありそうです。「容器が紙なので捨てるのに楽だ」「家飲みは量が増えるので低価格帯が良い」「料理をする回数が増え、料理酒として使われている」「単に美味い」などを推測しています。

さて、この精撰については一年ほど前にもこの通信に書いた通り、十五年前の三分の一の量にまで減っている中でまだまだ地元の看板商品であり、私がこの仕事に就いて天寿の酒造りを覚えたベースでもあります。蔵に見学に来られた方に私が良く話すことがあります。「最近は特定名称酒(所謂高精白米と華やかな香りが高く出る酵母で醸し、搾ったら直ぐに瓶詰め・火入れをして冷蔵庫で貯蔵したもの)が人気で精撰は影を潜めている。良質の米と徹底した品質管理ができれば悪い酒はできない。米をそんなに削らなくても、貯蔵環境が違っても、できる限り特定名称酒の管理に近づけていくことで自分の造る酒のベースである精撰の品質向上をしたい」と。前述で「単に美味い」と冗談のように書きましたが、その気持ちで酒造りをしているからこそ、そうあって欲しいという願いも込めています。

最後に、いつになったら普通の生活に戻るのか、戻れるのか。もしかすると「普通」が変わる事も想定しなければならないかもしれません。そして、健康でなければ良い酒造りはできないので、自分の身は自分でしっかり守ること。嗅覚を研ぎ澄まし、次はどんな商品が求められるのか、自分達にできる事は何なのかを常に意識すること。この事を念頭に置いて、一ケ月後に迫りくる新年度の酒造りに臨もうと考えています。

日本酒をお楽しみください
2020-07-02

日本酒をお楽しみください

代表取締役社長 大井建史

清々しい五月晴れから梅雨に移行する時期ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

コロナ禍の中、世界中が呻きながら耐えてやり過ごそうとしています。この間の経済的損失は想像を絶するものが有り、飲食業や我々造り酒屋はすでに貧血状態に陥っています。感染しない広げないが最優先事項と判ってはいますが、この先出血多量にならない様にそろそろアクションを起こさなければとは思うのですが…。

そこでまず足元から。今だから出来る事をと頭を切り替え、製造の詰口部門の体制改善に取り組み始めました。これからの酒蔵のありかたとして「重要なのは酒販店様やお客様に選択し続けて頂ける酒蔵であること」と色々な試みやご要望にお応えすべく頑張った結果、アイテム数が増え続け、その保管・管理に冷蔵庫が圧迫される状況でした。

瓶貯蔵用冷蔵庫内にバラエティーに富んだお酒があることあること。それらを杜氏と共に恐る恐る唎酒をすると、恐れとは全く違う貴重な熟成されたおいしさが!これはうれしい驚きでした。

例えば、4年前の純米酒の生酒に全く生ヒネや老香が無く、酸味や甘味に熟成だけが成し得る柔らかさとキレ!!想像できますか?

しかし、マイナス5度で4年間の生熟成酒の宝物でも、販売する術がなければ熱殺菌してレギュラー純米にブレンドで使う事になります。あぁ、もったいない!今イベントや唎酒会・楽しむ会が全く開けない中、どの様にしてそれを伝えられるかに頭を抱えたり、抱えたり、抱えたりしております。

それにこの系統のお酒は物流に乗せにくいのです。その理由は、

●数がそれ程多くない。多い物でも何件かの酒販店様に売ると言って頂けると無くなります。

●再現性がない。例えば今回は4年置いても生ヒネも老香も出ずバランスよく熟しましたが、次もそうなるとは言えないし怖くて出来ません。

●多くても百本単位なのでラベルは弊社でパソコン作成となります。

●今の所、営業に行き酒販店様に説明できない。通常商品との違いを説明しづらい。熟成と言うとすぐ紹興酒系の変化を想像する方がいますが、その系統とは全く違います。

等々です。しかし、逆に考えると、

●数量超限定

●今この時に飲まなければ二度と味わえない超レアもの。再現は難しい。

●ラベルにお金をかけない超リーズナブルな価格

もし同じお酒の新酒がある物なら、ビフォーアフターの比べのみがお勧めですね。実に面白いと思います。

ワイワイがやがや飲むのも楽しいですが、今この時期は家でゆっくりお気に入りの盃やグラスで、世界がその繊細な味わいに注目する日本酒を、じっくり味わい尽くしてみてください。

天寿では近年の受賞数から2019年世界酒蔵ランキング第六位・2018年全国燗酒コンテスト最優秀燗酒蔵を受賞しております。今だけ屋やメールニュースに紹介いたしますので是非ご注目下さい。

菌と生きる

杜氏 一関 陽介

六月十九日からコロナウイルスによる他県への移動自粛が解除になり、いよいよ人が動き始めている状況ですが、緊急事態宣言前と同じ状況へ完全に戻るにはまだまだ時間がかかりそうです。いつどこで感染するのか分からない事や重篤になる可能性がある事への恐怖、もしそうなった時に身の回りの人へ迷惑をかける事を想像すると、正直なかなか足が外へ向きません。頭の中では積極的に外出し消費活動を行わないと経済が回らない事、当然自分達の酒の需要も増えていかない事も分かっていますので、とるべき行動の難しさに悩んでいるところです。

怖いのは未知だということ。そのような状況の中、恐怖に立ち向かう医療関係者や治療薬やワクチンの開発に携わる方々の苦労には頭が下がります。元々、人間は細菌やウイルスと共生しているわけですから、早くコロナウイルスとも上手に付き合えるようになればと願うばかりです。

移動自粛が解除になることで考えたことがあります。酒蔵は酵母菌や麹菌を使って麹を造り発酵させ酒を醸します。言ってみれば菌にとって活躍しやすい環境を私達蔵人が整える役目を担っているのです。ですから、蔵に入る人間が優良な菌の活動を阻害するような菌(雑菌)を持ち込んだり、蔵内で増殖させたりする行動は、やがて麹やもろみに混入し、酒に持ち込まれ品質に悪影響を及ぼします。そのような事が起きることを防ぐべく、私達は清潔な帽子・白衣・長靴等の着用・オゾン水や紫外線・高濃度アルコールによる手指や使用する道具類の殺菌などを行っています。この事は、世界的に行われているコロナウイルス感染予防対策と同じだと思うのです。

ウイルスと細菌とは大きさや増殖の仕組みは異なりますが、同じ微生物ですから人が動けば共に動きます。ウイルス感染予防と、良質の酒を醸す為の微生物管理の目的は同じで、人が動いた際に如何に不必要な物を取り込まずに拡げないかだと思います。

菌を扱う仕事をしている者として、人間が行動することで菌を拡げてしまうことや、逆に有用な菌を封じ込めてしまうこともできる恐ろしさを併せ持つのだと認識して、個々が責任ある行動をする必要があると思うのです。酒造りが終わり、時間に余裕がある私ですが、そんなことで遠出は控え、地元の良さを発見できるような夏にできたら良いのかなと考えています。

桜満開の時に
2020-04-28

桜満開の時に

代表取締役社長 大井建史

新型コロナウィルスに罹られた方々や、その影響で大変な思いをされているすべての皆様に心からお見舞い申し上げます。

その様な厳しい環境の中ですが、鳥海山の麓矢島の里は、今まさに桜満開を迎えました。

天寿の酒蔵は百九十回目の酒造りも最終時期で、四月二十七日に皆造を迎える予定です。毎日続々と新酒が生まれ、この状況でも生産を途中で止めようも無く、また、その出来に喜びを感じながらも、貯蔵能力を超えそうな量に胸が詰まります。

例年ならば誇らしい時期に、この喜びを皆様にお伝えする役割の営業も、会社に待機せざるを得ず、新酒の出来をご贔屓頂いている皆様と、喜びを分かち合いながら盃を上げたい所ではありますが、世の中は自粛自粛の縄で縛られ、終わりの見えない苦境に悶々としております。

家業に就いて三十六年。こんなに会社から出かけないのは入社した年以来初めてではないかと思います。仕事のテンポが普段とまるで違うのです。中々この環境に合わせられず、頭を切り替えるには努力が必要です。

酒造業界三十九年の私が二か月近く飲食店にお邪魔していないのはもちろん初めてです。(そうか!家内の今日は何にしようかなと言うやるせない顔は「今日も家にいるのか…」だったのか。)

私はこの地の人間として、ボランティア的役割を地元の高校や保育園に持っております。卒業を自由に祝えない卒業生や予定通り授業の始まらない学生たち、緊急事態宣言で何時休みになるか判らず、登園も自粛を促され送迎の保護者は玄関より中に入れない保育園の状況、現在休業を許されない保育園で、自分が罹患する事も大変ですが知らないうちに子供達にうつす事を恐れる保育士さん達を見ていると、本当に恐ろしい事が起こったのだと実感します。

このコロナ危機は第二次世界大戦以来の最大の危機と言われる方がいます。戦争ではありませんが若者が夢を追えないという意味では重大な事だと思います。学者によっては一~二年かかると言われますが、学生にとっての一年は誰より貴重で輝く年です。その切なさを慮って想いを馳せていると、卒業・桜の絡む歌がテレビから流れます。忙しいと忘れていますが、こんな時間が出来るとセンチメンタルな若い頃を思い出します。

出会い・別れ・巣立ち。同級生である高校の校長が、「卒業式の日は大雪が降って、その日大学受験で上京組が夜行一本しか動かなくて…」私も何時間も遅れた同じ夜行で東京へ…。

昔懐かしい思い出で心が切なくなり、こんな感じを何というのか考えていたら「心房細動が起きそうだ…」美味い酒を飲みながら一人で苦笑いです。あぁ、たまにはこんな晩酌もいいなぁ と思う今日この頃です。ストレス解消には天寿・鳥海山でゆっくり晩酌が一番です(笑)

春よ、来い

杜氏 一関 陽介

皆様に蔵元通信が届く頃には皆造(今期のもろみをすべて搾り終える事)を迎え、今年も無事に酒造りを終えられたことで、達成感に浸っているであろう自分を想像しながらこの文章を書いています。

昨日は、冬期雇用の蔵人メンバーが今期の任務を終えて解散を迎えた日でした。解散にはなったものの、もろみはまだ残っており、残ったメンバーで最後の一本まで丁寧に仕上げ、最後の清掃までしっかりやりきろうと気持ちを入れ直す日でもありました。

とは言え、今期も昨年十月から今日まで大半の時間を酒造りに向けてきましたので、皆造を迎えた暁には「あれをしよう、ここに行こう」などと自分の時間についても計画を立て始めていました。

そんな中、コロナウイルス蔓延による緊急事態宣言が全国に発布され、国内は不要不急の行動を自粛せざるを得ない状況になりました。自分の行動を制限されるのは誰しも不便ではありますが、亡くなられた方や罹患し辛い状況にある方々の事を考えると他人事ではなく、蔓延を防ぐためにも自粛は必要だと思います。テレビでは毎日フィクション映画じゃないかと思いたくなるような報道が流れ、いつ我が身に…と思うと恐ろしくなります。

そして経済面では弊社の取引先の皆様が、この行動自粛で悲鳴をあげています。本当に深刻です。皆様同じだと思いますが、この先どうなるのか分からない事が一番不安です。

私は今のところ普段とあまり変わらない生活ができていることにつくづく感謝しています。

家族が健康で、仕事があって、会社に行けば仲間がいる。「友人は元気か?」と気になれば、SNSで確認できる。住んでいる場所は田舎ですが、人・水・空気は最高で食べ物も美味しい。この日常生活全てが幸せな事で、あって当たり前じゃないのだと気付かされます。

そして、この状況だからこそ自分が生きていくのに本当に必要な事が見えてきます。終息するにはまだ時間が必要な状況のようですが、これからは今まで以上に身の回りの大切な人や物に対して優しい気持ちで接しようと心に決めています。

矢島の桜も人にあまり見られることも無くどこか寂し気に散り始め、あっという間に春は終わってしまいそうですが、早く日常に春がやってくることを願うしかありません。

暖冬
2020-03-02

暖冬

代表取締役社長 大井建史

まだ、還暦の私だが、我が矢島町で初めての冬を過ごした。何が初めてかと言うと「雪が無い冬」である。

子供の頃は除雪が悪く玄関から階段を作り道に上がる感覚であった。その後も除雪車が通ってもその雪を捨てるのは困難を極め、トラックやダンプをチャーターしないと自分の家の前の雪を無くす事は出来なかった。毎日の作業は大変だが、道路の雪をきれいに寄せられるようになったのは、流雪溝が出来てからの二十年ほどである。

雪国の除雪予算や計画は莫大であり緻密である。有限の地方予算をその年の天気を対象に計画を立てるのは困難な作業になるが、甘く見ていると大雪の時にそのツケが大きく膨らむので大胆さも必要となる。大変な重責を担いご苦労な事と頭が下がる。

そんな土地柄なのに、今年は「雪が無い!」私が海外に赴任でもしているのであれば、「嘘つくな!」と言う位に雪が無いのだ。

弊社の所在地の流雪溝利用時間は八時十分から三十分間と決まっており、その間毎日十人で除雪をするが、〇.五時間×十人×六十回(三か月)=三百時間がほぼ今年は作業に回せている。今年の除雪は今の所四十時間位だろう。大変な違いがこれでご理解いただけると思う。一月からは雪が無くても気温が一桁だったので、警戒した割には安心できる酒造りとなったが、三月早々の温度上昇が予想され、通常では無い冷房の為の電気料金上昇などが心配される。フキノトウが一か月以上も早く出てきており、夏場の水不足・害虫の異常発生等心配は尽きない。

昨年八月前半の連続猛暑日により、秋田の米は高温障害がひどく溶けづらい米、おまけに未だかつてない暖冬であるが、百九十回目の酒造りは一関杜氏を先頭にした蔵人たちの奮闘により、思いのほか(笑)順調である。

それでも、二月第二土曜日の天寿蔵開放には、その前の二~三日の雪で少し冬らしくなり、大変有り難い事に前年同様多くのお客様を迎える事が出来た。また、社員を超える人数のボランティアの皆様のお陰でそのお客様方に対応出来た事に、心から感謝申し上げる。

これまで造り酒屋を長年続けて来られたのは、地元のお客様のお陰。そのお客様に日本酒の情報・天寿の蔵やお酒の情報がまるで伝わっていない事を嘆き、二十二年前に天寿の蔵に親しみを持ち「おらほの蔵」と思って頂ける様にと始めた。回数を重ねて参加者が千名を超えて来た頃商工会青年部が、その後で観光協会が参加して来てくれ、「矢島の冬まつり」となり、中学生や高校生のボランティアも参加するイベントに育った。

大変有り難い事だと思っている。私は社内の運営だけで手一杯となっており、外の雪まつりの様子を見る事は叶わないが、弊社も含め至らない点が多々あった事と思う。

人口が激減する過疎の町で、人が集まり元気に闊歩する数少ない一日を、皆様のご指導ご鞭撻により、更なる発展に御導き願う。

金賞受賞によせて

杜氏 一関 陽介

矢島に住んで十六年。暖冬とはいえ、こんなに雪の無い冬は経験した事がないかもしれません。少雪の影響による水不足が今年の稲作に影響がでないかと心配しているのですが、このまま春になってしまいそうな勢いです。

反面、十二月から二月までの間、蔵の中の気温は極端に寒くなったり暖かくなったりすることも無く五~七度を保っており、比較的品質管理はしやすい環境だったように感じています。

全国新酒鑑評会の出品酒も先日無事に搾りあがりましたが、ここから四月初旬まで残り三十本の仕込みがまだ控えています。一息つきたいところですが、緊張感を絶やさず乗り切りたいと思っています。

さて、二月二十日にワイングラスで美味しい日本酒アワード2020の審査結果が発表となり、連続受賞の純米大吟醸鳥海山と、初受賞のスパークリング鳥海山とのW金賞受賞となりました。造り手として大変励みになりますし、喜ばしいことですが、この結果から喜びより先に私が得たのは二つの安心感でした。

一つは毎年国内外のコンクールで必ず賞をいただく商品に成長させていただいた純米大吟醸鳥海山が今年も無事に受賞できた事です。その年の気候条件によって変わる原料米の品質と醸造環境に真摯に向き合い、その年にできる最良の酒を目指し醸す蔵人の技術の証明になるでしょう。

もう一つは発売から日も浅く、まだまだ改良の余地を残すスパークリング鳥海山が受賞に至った事です。仕込み一本ずつ改良を重ねてきたこの商品は、酒質設計から品質の良し悪しまで今もなお試行錯誤中ですが、どうにか受賞できるまでにたどり着いたという安心感を受けました。

賞をもらうことが最終目標ではなく、この賞を励みに私達は試行錯誤し、更に良い酒を醸してお客様の「美味しい!!」の声を求めて参ります。仕込み終盤、蔵人全員が技術を出し惜しまず、フル回転で春まで頑張ります。

謹賀新年
2020-01-01

謹賀新年

代表取締役社長 大井建史

明けましておめでとうございます。旧年中は格別のお引き立てを賜り厚く御礼申し上げます。

昨年は震災や台風などで、大変な被害がもたらされました。被災された沢山の方々に心からお見舞い申し上げますと共に、一日も早い復興をお祈りいたします。

いよいよオリンピックイヤーとなりました。日本国中その期待に盛り上がっておりますが、皆様如何お過ごしでしょうか?

私は還暦となり社長就任20年目となりました。地元では「還暦祝い」と称し、厄払いの後中学校単位でお祝いの宴を行うのですが、久しぶりに会う友は当然のことながら皆しっかりと年を重ね、来し方や定年・その延長の話をしながら、気分だけは若いころに戻って楽しみました。年の取り方にも個人差がしっかり出るものなのですね。

そのような中、天皇陛下がご即位され「令和」と元号が改められました。伝統儀式を目にすることが出来、あらためて日本文化の豊かさや美しさを感じられました。

ここで出すのは不敬ではありますが、我々は天皇陛下と同じ学年であり、これから新天皇としての職務に臨まれる覚悟あるお姿に、勇気と気合をいただきました。

10月から190年目の酒造りが、蔵の中で気合を込めて続いております。今年の秋田の酒米は、出穂した8月2日前後からお盆過ぎまで35度を超える猛暑日が続き、それまで日照不足で一週間ほど遅れているとされていた稲の生育も、お盆過ぎには一週間例年より進んでいる状態でした。結果収穫量は104%と良好でしたが重度の高温障害が発生し、一本目の仕込みは粕歩合が50%近く、大吟醸の出品酒並みの酒化率となる程で、原価の高いお酒に成りました。

非常に溶け辛い米質で製造方法を練る必要があります。昨今の異常気象でこの様な対応を何度か迫られ経験も有りますが、これを如何に早く適した形に出来るかが腕の見せ所。

最初に搾られたお酒の状況を検討して、想定との差異が大きい程大胆な調整が必要になります。

蒸米や醸造温度等で調整して行く事になりますが、県内産でも品種や産地・生産者により品質のばらつきが有り、何れにしましても味ブレの出やすい年になりそうです。

弊社杜氏の一関陽介は37歳。まだまだ最年少に近い杜氏ですが今年8造り目と中堅と言ってよい回数となってまいりました。杜氏はもとより蔵人全員で精進しておりますので、天寿190造目の本年もよろしくお願い申し上げます。

飲みニケーション

杜氏 一関 陽介

あけましておめでとうございます。本年も宜しくお付き合いください。

さて、令和最初の酒造りも序盤を過ぎ、蔵はまもなく年に一度の鑑評会出品酒の仕込みが始まろうとしています。昨年の暮れからは有難い事に沢山のご注文をいただき、普段酒造りをしている蔵人メンバーも総出でラベル貼り・包装等出荷作業に勤しみました。例年の十二月であれば、気温も下がり酒造りにはベストな時期に入っているわけですから仕込みに精を出している時期なのですが、「飲んで頂くところまでが酒造り」と頭を切り替え、12月の仕込みを例年より少なくし、人手不足の出荷作業に重点をおきました。そんな想いと共に、皆様に本年度の新酒も美味しく召し上がっていただけていればと切に願うばかりです。

日頃から沢山の方に様々な場面で飲んでもらいたいと思いながら酒造りをしている私ですが、暮れに「忘年会スルー」という言葉を耳にして、少し思うことがありました。

忘年会をスルーしたい理由としてSNS等で良く見かけるのは、「無意味」・「時間がもったいない」・「仲の良い人だけなら良い」・「お金と時間を費やしてまで上司の話を聞きたくない」・「幹事が嫌だ」とか。年齢や立場によっても理由は様々あるようですが・・・。昔流行った「飲みニケーション」という言葉を聞くことも最近は無くなり、内容自体が否定されがちであることが私は非常に残念でなりません。

今やSNS等では沢山の人と簡単に繋がる事ができる等、様々なコミュニティが存在する時代になりました。実際に面と向かって酒を酌み交わしたり、会話をすることが少なくなりつつある今だからこそ、自分の身の回りにいる人の考えを知る事、人のありがたさに触れることが出来る場を作ることが大事だと考えています。そこで笑顔が生まれれば、明日もまた頑張ろうと思う活力が湧き、モチベーションが上がるのではないでしょうか。そんな質の良い意味のある飲みニケーションは必要です。その為には皆が「是非参加したい」と思えるような、スルーしたら後悔する空気を作っていくことが前提だとも思います。

最後に、チームで一つの物を造る私たち蔵人の仕事も、皆が同じ方向を向くことが大切です。一致団結と知識・技術の向上を目的により良い飲みニケーションを図り、昨年よりも更に良い酒を目指します。ご期待ください。

本年も宜しくお願い致します。

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