桜満開の時に
代表取締役社長 大井建史
新型コロナウィルスに罹られた方々や、その影響で大変な思いをされているすべての皆様に心からお見舞い申し上げます。
その様な厳しい環境の中ですが、鳥海山の麓矢島の里は、今まさに桜満開を迎えました。
天寿の酒蔵は百九十回目の酒造りも最終時期で、四月二十七日に皆造を迎える予定です。毎日続々と新酒が生まれ、この状況でも生産を途中で止めようも無く、また、その出来に喜びを感じながらも、貯蔵能力を超えそうな量に胸が詰まります。
例年ならば誇らしい時期に、この喜びを皆様にお伝えする役割の営業も、会社に待機せざるを得ず、新酒の出来をご贔屓頂いている皆様と、喜びを分かち合いながら盃を上げたい所ではありますが、世の中は自粛自粛の縄で縛られ、終わりの見えない苦境に悶々としております。
家業に就いて三十六年。こんなに会社から出かけないのは入社した年以来初めてではないかと思います。仕事のテンポが普段とまるで違うのです。中々この環境に合わせられず、頭を切り替えるには努力が必要です。
酒造業界三十九年の私が二か月近く飲食店にお邪魔していないのはもちろん初めてです。(そうか!家内の今日は何にしようかなと言うやるせない顔は「今日も家にいるのか…」だったのか。)
私はこの地の人間として、ボランティア的役割を地元の高校や保育園に持っております。卒業を自由に祝えない卒業生や予定通り授業の始まらない学生たち、緊急事態宣言で何時休みになるか判らず、登園も自粛を促され送迎の保護者は玄関より中に入れない保育園の状況、現在休業を許されない保育園で、自分が罹患する事も大変ですが知らないうちに子供達にうつす事を恐れる保育士さん達を見ていると、本当に恐ろしい事が起こったのだと実感します。
このコロナ危機は第二次世界大戦以来の最大の危機と言われる方がいます。戦争ではありませんが若者が夢を追えないという意味では重大な事だと思います。学者によっては一~二年かかると言われますが、学生にとっての一年は誰より貴重で輝く年です。その切なさを慮って想いを馳せていると、卒業・桜の絡む歌がテレビから流れます。忙しいと忘れていますが、こんな時間が出来るとセンチメンタルな若い頃を思い出します。
出会い・別れ・巣立ち。同級生である高校の校長が、「卒業式の日は大雪が降って、その日大学受験で上京組が夜行一本しか動かなくて…」私も何時間も遅れた同じ夜行で東京へ…。
昔懐かしい思い出で心が切なくなり、こんな感じを何というのか考えていたら「心房細動が起きそうだ…」美味い酒を飲みながら一人で苦笑いです。あぁ、たまにはこんな晩酌もいいなぁ と思う今日この頃です。ストレス解消には天寿・鳥海山でゆっくり晩酌が一番です(笑)
春よ、来い
杜氏 一関 陽介
皆様に蔵元通信が届く頃には皆造(今期のもろみをすべて搾り終える事)を迎え、今年も無事に酒造りを終えられたことで、達成感に浸っているであろう自分を想像しながらこの文章を書いています。
昨日は、冬期雇用の蔵人メンバーが今期の任務を終えて解散を迎えた日でした。解散にはなったものの、もろみはまだ残っており、残ったメンバーで最後の一本まで丁寧に仕上げ、最後の清掃までしっかりやりきろうと気持ちを入れ直す日でもありました。
とは言え、今期も昨年十月から今日まで大半の時間を酒造りに向けてきましたので、皆造を迎えた暁には「あれをしよう、ここに行こう」などと自分の時間についても計画を立て始めていました。
そんな中、コロナウイルス蔓延による緊急事態宣言が全国に発布され、国内は不要不急の行動を自粛せざるを得ない状況になりました。自分の行動を制限されるのは誰しも不便ではありますが、亡くなられた方や罹患し辛い状況にある方々の事を考えると他人事ではなく、蔓延を防ぐためにも自粛は必要だと思います。テレビでは毎日フィクション映画じゃないかと思いたくなるような報道が流れ、いつ我が身に…と思うと恐ろしくなります。
そして経済面では弊社の取引先の皆様が、この行動自粛で悲鳴をあげています。本当に深刻です。皆様同じだと思いますが、この先どうなるのか分からない事が一番不安です。
私は今のところ普段とあまり変わらない生活ができていることにつくづく感謝しています。
家族が健康で、仕事があって、会社に行けば仲間がいる。「友人は元気か?」と気になれば、SNSで確認できる。住んでいる場所は田舎ですが、人・水・空気は最高で食べ物も美味しい。この日常生活全てが幸せな事で、あって当たり前じゃないのだと気付かされます。
そして、この状況だからこそ自分が生きていくのに本当に必要な事が見えてきます。終息するにはまだ時間が必要な状況のようですが、これからは今まで以上に身の回りの大切な人や物に対して優しい気持ちで接しようと心に決めています。
矢島の桜も人にあまり見られることも無くどこか寂し気に散り始め、あっという間に春は終わってしまいそうですが、早く日常に春がやってくることを願うしかありません。