経過
代表取締役社長 大井建史
今年の酒造りも5月の連休前には終わりましたが、6月の前半になっても吟醸系の瓶火入れが終わらず、製造・瓶詰のメンバーには土日も交代出勤で頑張ってもらいました。その甲斐あって酒蔵のタンクや冷蔵庫の中は新酒ではちきれそうな程に成りました。
雪消えの清澄で爽やかな季節の中で、念願の釜場の改築が進んでいます。次の酒造りの為にも9月末にはどうしても終了し、設備の試運転も10月初旬には終わっていなければなりません。
こんな田舎でも東京と同じ基準が適用される全国一律の工場立地法の下で、工場立地法上既存建物から五メートル離すため「用を成さない面積になる」か、「酒蔵全体を立て直す」か又は現状のままの改築かと言う選択になり、全国一律を恨みながらも渋々面積も高さも変更出来ない改築を選択しました。
改築は難しいです。36年前に建築した釜場ですが、その時は元々有った釜場を囲う形で建てた物でした。何時から使い始めたかは判りませんが、何度も改修して来たこの古い釜場は、造り酒屋のシンボルの様な物ですから、記念に残す方法は無いかとも考えました。しかし細長い敷地の真ん中では到底難しく、解体と決定しても残念な思いが消え去りません。しかし、煙突と共に解体し、煙道と共に潰して次の新しい設備の床となります。
そう、改築は難しいのです。現在は変更がきかない中でも可能な設備配置に知恵を絞っている所です。蔵の真ん中は全てが通っている為、電気・水道・井戸水・冷媒・蒸気・重油・消火栓・酒の線や配管を最初に全て仮設工事し、それから解体。細い鉄骨は交換しますが、構造の鉄骨を1本1本全て錆を落し、防錆塗装のうえ、初めて建設が始まります。そうなのです。配管・配線は2度しなければいけません。空気の流れ・蒸気の抜け・洗米浸漬のルート・蒸米作業の流れ・洗浄の導線・排水路の確保+酒母室の新設。はい、それはもう色々あります。え~!釜場と造り蔵の間の防火壁が怪しい??? 孫子の為にと剝がしてみたらやはり出てくるお化け。はい、これも作り直し!!費用がかさんでゆく工事の増加に私のこめかみはぴくぴくし、現場監督の表情は工程表を見ながらだんだん強張り始めた今日この頃です。
『良い部分に目を向ける』
杜氏 一関 陽介
4月27日に今期のもろみを全て搾り終わり、約2ケ月が経ちました。その瓶詰め作業も終了し、ホッとしているところです。
そんな中蔵内は釜場の大幅な改修工事の真っ最中で、今までお世話になった釜場の面影がなく寂しい限りです。改修後の釜場への期待と不安はありますが、それを良い形にする意欲に変えて仲間と乗り越えて行く所存です。
さて話は変わりますが、先日全国約200酒類もの日本酒を1度に評価(利き酒)させていただく機会を得ました。「利き酒」は行わない日はないと言っても良いくらい大切な私の毎日の仕事の1つです。年間を通して自社の品質管理の為に、また、造りの時期は毎日のように搾りあがる上槽後の品質チェックの為に行います。
基本的に毎日の仕事という観点では「異味・異臭がないか」「商品の特徴を維持しているか」「熟成が適正であるか」など、どちらかというと欠点がないかを探すことがメインになりがちです。ここで前述の評価会で感じたことを少しお話したいと思います。当然の事ですが、お酒は嗜好品であるので「良い」という基準は人それぞれであると思います。自分が「欠点」と感じた部分が他の方には「個性」になる場合が多分にあると思うのです。大勢で利き酒をするとそれが顕著にわかり、簡単に言うと良いが悪いにもなり得るのです。
今までの自分の利き酒スタイルはどこか簡単に個性を欠点として扱いすぎていたような感覚を覚え、如何にマイナス思考な利き酒であったのかを痛感しました。ただし、その中でも私も1人の人間ですし、酒造りの長としてのポリシーに反するものは欠点であると堂々と言える事も大切なことであり必要です。正解であるかは分かりませんが、これを機会にまず良いところを1番先に挙げられる利き酒を実践していきたいと思いました。
日本酒にも色々あるように人間も十人十色です。悪い部分をみてしまいがちな私ですがお互いを尊重し、良い部分を更に伸ばし合えるようなチーム意識を高く掲げて、夏の繁忙期に向けて挑んでまいりたいと思います。今後とも宜しくお願い致します。