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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

天高く馬肥ゆる秋
2021-11-09

天高く馬肥ゆる秋

代表取締役社長 大井建史

今年も残り二か月となり、鳥海山の紅葉の盛りも過ぎて雪に向かう時期となりました。蔵人達の米作りもまずまずの作柄の収穫を終えて、日焼けした顔に充実感を漂わせ酒蔵に全員集合いたしました。

天寿の酒造りの命題は「地元で出来る最高の酒を造る」こと。昨年三月以来のコロナ禍により耐え難いほどの厳しい状況ではありますが、日頃からご愛顧いただいているお客様や二十年以上お付き合い頂いている海外のお取引先に支えられて百九十二年目の酒造りに入りました。

例年に比べて貯蔵用冷蔵倉庫を埋める在庫に呻きながらも、それでもご期待には絶対お応えできる様、現況に合わせた製造計画をたて、一同気合を新たに邁進いたしております。

十月一日の日本酒の日から緊急事態宣言も明け、実りの秋という事で「食を楽しむ」にはとても幸せな季節です。日本酒も冷やだけではなくお燗にしたお酒が身に染みてくる季節でもあります。

「食を楽しむ」のはとても贅沢な感じがします。もちろんお店も料理も値段もピンからキリまでありますが、私などはさんま(最近は高級魚になってきました)の素焼きに醤油をかけてぬる燗の徳利と盃を持つと、それだけでゾクゾクするほど幸せを感じてしまう今日この頃です。

楽しもうと思う気持ちが有るかどうかで、食の充実感が全然違いますよね?今コロナ不況に喘いでおられる飲食関連の皆様から如何に手軽にその喜びをご提供いただいていたか、行けなくなると身にしみてわかります。

人間が千年以上かけて造り上げた料理・酒そしてそれを楽しむ文化は掛け替えの無いものですし、健康で元気に生きる為のツールでもあります。それがなければ食事は単なる生きる栄養補給の為の餌となってしまいます。それでは悲しすぎますし、何より食事やお酒を酌み交わす喜びやくつろぎの人生における大変な価値を放棄する事は考えられません。

コロナ禍で随分と色々な我慢を強いられました。断念せざるを得なかった事も多々ありました。全く同じ生活には戻れないかもしれません。しかし、我々は一つ一つ問題を解決又は改善しながら、コロナ共生時代の新しい社会を創造して行きたいものですね。

酒造りに感謝と期待を込めて

杜氏 一関 陽介

二十日に秋田県清酒品評会の結果が発表され、三年連続三回目の秋田県知事賞を戴くことができました。昨年度のように首席とはなりませんでしたが、蔵人メンバーの努力が実を結ぶ結果になり本当に嬉しいです。

四年前までは良くて入賞止まりだったのですが、麹菌・酵母菌を替え目指す酒質を変更したことにより高成績をいただけるようになりました。ただ菌を変更すれば成績が良くなるということは当然ありません。製麹方法・もろみ温度管理・搾った後の管理など、目標に向けた私達の微生物管理も変わりました。

この三年連続の県知事賞受賞は、兵庫県多可町秋田村で育った特等の山田錦と地元の鳥海山伏流水で醸すこの酒に、私達が考える製法が上手くマッチした結果と言えると思います。変更に至った経緯はいろいろありますが、何よりも品評会へ出品するのであれば上位へ昇り詰めたいという私の気持ちを理解して造らせてくれている会社はもとより、ご指導いただいた醸造試験場・先輩杜氏の方々には本当に感謝申し上げます。四年連続を目指して今年度も頑張ります。

さて、全国的に緊急事態宣言も解除になり少し街にも活気が出てきているように報道はされていますが、全てが直ぐに元通りということにはならないでしょう。そんな中ではありますが先日、高校の同期が営む飲食店へ何年振りかで訪問しました。想像はしていましたが、コロナ禍に入ってからは感染対策の徹底・人数制限により売り上げは伸びず、また感染状況によっては折角の予約もキャンセルになることで苦しい状況のようでした。明るい性格で、一緒にいる時は笑顔が絶えない彼ですが、今この現状が本当に大変なのだと感じさせる顔をしていたように感じました。同じように全国の飲食店様が大変な思いをされていることを改めて考えれば非常に切なく、また私達の造る日本酒の出番が少なくなってしまったこの現状については、果たして元に戻るのかとさえ思ってしまいます。

先日、地元矢島小学校の三年生が社会科見学にいらっしゃいました。私にとっては毎年恒例行事であり、酒造りの工程を小学生でも理解できるように説明することの難しさを痛感させられる時間でもあります。内容を理解してもらいたいが為に、つい先生になったかのように熱弁してしまいがちです。しかし重要なのは約十年後、成人を迎えた時に飲んでもらえるように、そして進学や就職などで県外に出た時には地元の自慢の酒になるように、欲を言えば自分も酒造りをしたいという人材が出てくるような姿勢を魅せる事なのだと思っています。

これからの社会がどのように進んでいくのかが想像できない状況が不安で仕方ありませんが、お陰様で今期も酒造りをすることができます。自分の仕事は良質の酒を造ることではありますが、地域の為、地元の伝統産業を継承していく側面もあることも忘れずに今年の酒造りに臨みたいと思います。酒造りが終わりを迎える来春は、せめて行きたいところへ行きたい時に行ける、会いたい人に会いたい時に会える、そんな春が訪れることを願って…。

天寿百九十二期目の酒造り、頑張ります。

日本はどうしたんでしょうね
2021-09-01

日本はどうしたんでしょうね

代表取締役社長 大井建史

先代である父の四十九日や新盆も過ぎ、開催の良否が物議をかもしたオリンピックも閉幕した。

個人的にはオリンピックで素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた、世界のトップアスリートの皆さんやその大会を支えて頂いたスタッフ・ボランティアの皆さんに、心からの尊敬と感謝を表したいと思う。

私もお年頃か、やたらと涙腺が崩壊させられた。日本選手団は史上最多のメダルを獲得する快挙を達成してくれた。選手の皆さんが一様に述べる、大会がコロナで一年延びた事でその間の精神的・体力的な苦しさ、それを支えて共に進んでくれた家族やスタッフと大会開催を許容してくれた国民への感謝の言葉は、国を代表する選手たちが全力で努力しながらも、その孤独や誰の責任にも出来ないコロナによる開催への不安が如何に深かったかが偲ばれ、参加できた喜びを見て、ましてやメダルが取れた喜びに、共感を深くし大会の意義を噛みしめる事が出来たのではないだろうか。

一方コロナ禍は最大の感染爆発を起こし、またも緊急事態宣言が延長になりエリアも拡大された。国民のコロナや国が強いる我慢への怨嗟が、この感染爆発を治める事の出来ない原因である人流を生み出している。

「一番苦しんでいるのは、今禁止されている人と人が交わることで成り立つ飲食業を含む世界で最もレベルが高く、オリンピック開催の売りにした「お・も・て・な・し」サービス業だ。

お酒を出すのが感染爆発の原因だとばかりにメディアで禁酒を連呼し、飲食店の感染予防投資を強いながら、専門家の市場分析や戦略的判断とは別の根拠でサービス禁止等の行政が為されていないだろうか。

一部の人達が「お願い」を聞かないからと言って単純にお酒が悪いと考えるのではなく、このストレスの多いコロナ禍に安らぎを提供していると考える事は出来ないだろうか。

香港では下記の様な規則が実行され、今の所上手く行っているようです。

①ワクチンバブルが推進する対策をしていないレストラン(タイプA) 午後六時、1テーブル2人、収容人数50%、宴会20人まで可。

②スタッフ全員が十四日毎にコロナ検査、アプリもしくは手書きでの入店記録(タイプB)午後十時、1テーブル4人、収容人数50%、宴会20人まで可。

③スタッフ全員がワクチン一回(タイプC) 深夜0時、1テーブル6人、収容人数75%、宴会20人まで可。

④スタッフ全員がワクチン二回で十四日経過、顧客の三分の二以上がワクチン一回(タイプD)深夜二時、1テーブル12人、収容人数100%、宴会180人まで可。ライブパフォーマンス可。

日本はどうしたんでしょうね?日本らしい具体的かつ根拠のある規則を一刻も早く実現してほしいものだ。

杜氏十年目

杜氏 一関 陽介

私が杜氏就任した平成二十四年は今や弊社の代表商品である純米大吟醸鳥海山の販売数量が急伸を始めた年であった。販売予定量を遥かに上回り繁忙期である年末に品切れを起こし、新酒をお客様にお届けできたのが翌年の三月頃であったと記憶している。杜氏になったばかりとは言え、酒造りは一人でやるわけではないし、ましてや周りには先輩方がいるし、大抵の事はやればできると思っていた。

売れ筋の商品が在庫切れ。好調の波を止めてしまうような酒は絶対に造れなかった。そして、年間を通して販売する商品である為、できるだけ前年度と出来が大きくブレる事だけは避けたかった。半端ではないプレッシャーだった。

今だから言えるが、搾ったお酒は純米大吟醸にしては香りがおとなしく味は薄く(良く言えばキレイ)ほろ苦いものだったと記憶している。ハッキリと「これではダメだ」と思ったし、自分の考えが如何に甘く、今まで何を学んできたのかとさえ自分を疑った。原料米が毎年こんなにも状態が違って、原料処理に大きな影響が出る事。水温・気温・品温の違いによって出来る酒への影響がこんなにも大きいのかと自然の恐ろしさを見せつけられた。挙げればまだまだあるが、それら全てが美味い酒を醸し出す麹菌や酵母菌が健全に育つ環境作りの為に大切だということを教えてもらった。おかげさまであれから九年で売り上げは更に大きく伸び、今や国内外のコンテストでは常連と言って良い程の商品に成長した。それと同時に私もこのお酒には成長させてもらった。

杜氏就任二年目から生酛造りに取り組んだ。今思い返せば当初は思い通りの酒母経過にはならず、搾ったお酒は自分の思い描いていたものとは異なっていたと思う。新米杜氏の初めての試みということもあって作ったお酒は完売とはなったが…。その後、毎年仕込み配合や温度経過、酵母菌を変えるなど小タンクで試験醸造を重ねながら平成二十八年に生酛純米酒・生酛純米大吟醸の商品化に漕ぎつけた。造った数はこの九年間で仕込み大小併せて三十七本。ここ数年は綺麗な酒質の中にも味わいに深みが出て、一年程度貯蔵すると熟成によって重厚感とまろやかさが感じられるようになった。

令和三年度の酒造りで私は杜氏十年目を迎える。良酒を造る為に必要な事は何も技術だけではない。私達が働く環境も大切である。酒造りの現場は杜氏が中心であるのは間違いではないが、携わる全ての人が輝ける場所であって欲しい。その為にはメンバーそれぞれが自分の立ち位置を把握し、お互いが尊重し合い酒造りに取り組めることで成り立つと考える。この九年間でチームワークやチーム内モチベーションの向上が如何に大切かを学ぶことができた。これからも一緒に働くメンバーを信頼しお互いに成長できる職場を目指したい。

盆が過ぎるとまもなく収穫の秋を迎え、酒造りもいよいよ始まる。昨年の春からコロナウイルスの影響によって出荷量が減り困難な時期が続いているが、今まで学んできたことを武器に自分達にしかできない天寿百九十二回目の酒造りをひたすらに頑張りたい。そしてあの時のプレッシャーはこれからずっと忘れてはいけない。

変わりゆくもの、変わらないもの
2021-07-13

変わりゆくもの、変わらないもの

代表取締役社長 大井建史

コロナウイルス感染症発生以来一年半になろうとしている。

この様な現況の中、お陰様で六代目永吉の七七日忌を終える事が出来た事に安堵しております。

私が社長を継いでからすでに二十三年目となり、次代の教育や新体制・新設備構築等の大切な時期とする筈がコロナ禍のため予測された市場状況から大きく異なる変化が起きてしまった。地方の零細な酒蔵でも、必要な設備の更新を実行しなければ、事業の継続が困難になるが、昨年行うつもりでいた計画は大きく後れ作業に差し障ろうとしている。

コロナ禍の影響は凄まじく、飲食店の営業がウィルス蔓延防止のためとは言うのだが、ワクチン接種や補助金配布の遅れは棚に上げ、飲酒禁止・会食禁止と言う国の施策により経営が困難になり、そのお願いを守り秋田県民は出歩かず感染爆発を防いできたが、行政が責任を負う指示・命令でないため営業成績がいくら悪くても補助金は無く、飲食業界並びに酒業界の業況は大きく落ち込み廃業・倒産するお店が後を絶たない。

小説には自然発生の物でも人為的な物でも、病原体のパンデミックが世界を席巻し、人類の滅亡の危機を迎えるという話は沢山あった。結論は人間の征服欲や対抗意識等の愚かさは死んでも治らない?気が付いたときには遅すぎると言うものだ。

コロナ禍の中、我々業界でも可能な限り協力して来たという事に、ほとんどの方は反論されないだろうと思う。しかし、協力しろとは言っても、強制力のある指示を出すための法改正をするとか、憲法改正に政治生命をかけるという気概のある人は出て来ない。不測の事態に国民のために断固たる決断をするのが真の政治家だと思うのだが…

今年の米も田んぼが緑に覆われて順調に育っている。鹿・カモシカ・熊が新幹線や高速道路で車に当たる事故が増えてきている。天敵である猟師が高齢化で激減しているからだ。家を建てるにもウッドショックで木材がないと言うが、輸入に頼ってきたため国内の製材所は激減し、日本の山には木を切る人が足りない。

昔の様に山に人が入りと言うのは今更難しい。現代に合った山の管理・選択したくなる魅力的な農業・住みたくなる地方の街とはどんな物なのか、地方の行政に丸投げではなく、もっと真剣な具体策を考えなければならない。

人がエネルギーに溢れて近代化に向かった明治時代より、遥かに多い人口を抱えている日本。世界で三番目の経済大国。それにふさわしい行動の力は伴っているのだろうか?

飲食の有り方もお酒の飲み方も、変化して行くのだろうと思う。しかし、美味い物を食べたいとの想いは無くならない。それをさらに美味しくするのが酒で在り、それを囲む家族や友達・仲間であることは変わらないだろう。

共通の記憶、共通のアイテム、共通の話題。何千年も続けてきたそれを人は捨てる事は出来ないし、よりそれが花開く環境を求めると思う。

その舞台になる飲食の場を皆で守る事はとても大切な事ではないだろうか?

明るく豊かな毎日を支える環境を自分達で守っていこうと意識して頂けたら有り難い。

それは、規則破りの宴会をやろうと言うのではなく、無理な行動を起こす事でもない。

何か出来る事を一つでもと思いをはせながら、心の一杯を傾ける事なのです。

新年度に向けて

杜氏 一関 陽介

七月、酒造年度が変わり、酒蔵にとって新年を迎えました。昨年度を振り返ればいろんな事がありましたが、何よりコロナウイルスによって行動自粛が影響し、お酒が売れない一年だったという一言に尽きます。それでも日頃からご愛飲いただいているお客様に支えられながら生産量の調整がありながらも酒造りをすることができました。如何に自分の仕事が人から支えられているのかを体感した一年でした。

また受賞から一か月以上経過してしまいましたが、令和二酒造年度全国新酒鑑評会において「金賞」を受賞いたしました。昨年度はコロナウイルス感染拡大防止の為、「金賞」の発表はなく「入賞」でしたが(入賞が最高賞)、それも含めれば四年連続の受賞となりました。その他にも、純米大吟醸鳥海山がワイングラスでおいしい日本酒アワードプレミアム大吟醸部門で「最高金賞」を受賞するなど、その他多数の賞をいただいております。お客様の為に美味しいものを造るのが最大目的でありますが、この厳しい市況の中で少しでも社内の士気を高める評価が得られた事に私は嬉しく思っています。

さて、平成二十四年度に杜氏に任命されてから、今年で十回目の酒造りをこの秋に迎えます。自己評価すれば不安で、がむしゃらに取り組んだ五年、自分の酒造りスタイルに少しずつ自信と安定を身に着けてきた四年。会社が目指す「地元でできる最高の酒」を目指すべく、毎年変わる米の品質に向き合い蔵人メンバーに助けられながらひたむきにやってきたと自信を持って言えます。一定の品質の維持ができているからこそ様々な賞がいただけて、またお客様にも購入していただけている。私にとって賞を取り続けることについては喜びよりもその商品位置を確認できるという大きな意味があります。正直良い時も悪い時もあるわけですが、客観的な視点で自分達の酒を見つめ直し改善していく。そしてその内容やスピード感で杜氏の力量や蔵人のレベルが量られるような気がします。十年一括りではないですが、今から始まる一年を今まで体感し学び得た事を発揮するべき年と位置付けています。一言では言えませんが、「良い酒の為に必ずやったほうが良い事は妥協せずに行う」ということです。また会社の方針の中で自分にしかできない事、今のメンバーだからできることを考え秋からの酒造りに臨みたいと考えていますのでどうぞご期待ください。

最後に…。天寿のある由利本荘市矢島は都市部に比べれば人も建物も少ない自然にあふれた町です。住んで十七年になりますが、雪が多いくらいで住んで不便だと思ったことは正直ありません。空気が綺麗で、水が豊富で、良質の米が育ち、人も良い。車がないと生きていけないかもしれませんが…。というのも、私が入社した頃お世話になったベテラン蔵人のほとんどが定年を迎え若返り化を進めています。米の栽培から酒造り、造ったお酒を飲んでもらえる喜びを私達と共感してもらえる人を探しています。電話・FAX・HPからでもなんでも結構です。本気であることが大前提ですが、ご興味のある方からの連絡お待ちしています!

六代目永吉永眠
2021-06-03

六代目永吉永眠

代表取締役社長 大井建史

この度の六代目大井永吉の永眠に際しまして、沢山の弔意・ご会葬を賜り篤くお礼申し上げます。

新型コロナウィルス対策の観点から、ご会葬の皆様の安全を最優先にと考えた為ではありますが、ご焼香のみの簡便な形となりました事をお詫び申し上げます。

父は前立腺癌と六年二ヶ月勇敢に戦い続けましたが、残念ながら五月十四日に家族に見守られる中息を引きとりました。どんなに厳しい治療にも敢然と立ち向かう姿に、還暦過ぎの息子の方が勇気を貰っておりました。

昨年五月の披露宴予定でありました跡継ぎ孫娘の結婚式で、長年親しんできた謡曲で「高砂を謡う」と突然宣言し、それを楽しみにしておりましたが、コロナ禍により延期になり共に祝えなかったのが何とも残念です。

六代目大井永吉は昭和六年十月十八日に五代目の子供七人中六番目の次男として誕生し建徳(たけのり)と命名されました。長男泰造が大東亜戦争末期に戦車隊少尉としてフィリピンで戦死、帰って来た遺骨代わりの石を見つめた五代目が慟哭の中「建徳がいる」との言葉を受け急遽後継ぎとなり、後に全国最多優勝校と成った端艇部で活躍した県立本荘高校から兄と同じ広島大学工学部醗酵工学科に進み、国税庁醸造試験場を経て昭和三十一年に大井酒造店入社。四十四歳で社長就任(六代目永吉襲名五十歳)、九十九%県内での販売でしたが最大九千八百石の販売量を達成しました。

私が帰郷し二十六歳で入社した時は五十三歳で、天寿酒造社長・大井製材所の社長・町会議員(二十八年間)・城内部落(地元財産区)総代(四十六年間)等を歴任し多忙にしておりました。五代目もそうでしたが、六代目も町議会議長を務め、その後秋田県町村議長会会長も歴任し、第三セクター由利高原鉄道株式会社社長(無報酬二十四年間)・株式会社秋田県酒類卸社長(改組も含めた十九年間)・社会福祉法人矢島惠育会矢島保育園理事長(無報酬十一年間)等も歴任致しました。

その様な中でも造り酒屋の六代目として、酒造りの技術・品質に厳しく杜氏と対応している姿に、「この人は酒屋なんだ」と妙に感心した記憶があります。亡くなった後に一関杜氏から「この様な時ですが、六代目が喜ぶと思って」と全国新酒鑑評会金賞受賞を葬儀の準備で慌しくしている時に報告してくれ、素晴らしいたむけに成ったと有り難く…。

息子の私が言うのもおこがましいですが、穏やかな良識の人でジェントリーで、運動部三兄弟が高校生になっても腕相撲で勝てない強い父でありました。

父が九十歳を迎えるまで心豊かに過ごせましたのは、皆様のご厚情の賜物であります。

衷心より感謝申し上げますと共に、教えを守り精進して参りますので、今後とも私共にご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

今できる事を

杜氏 一関 陽介

昨年十月五日に始まった今期の酒造りも五月四日に皆造を迎えました。事故も無くこの日を迎えられた事は非常に嬉しく、ホッとしています。コロナウイルスの影響により昨年比で製造量を減らさざるを得ない非常に悔しい年にはなりましたが、酒造りへの気持ちは例年と変わりなく、また一つ一つの作業をより丁寧に進めることができたのではないかと感じています。その思いが酒質に表れて、少しでも皆様に伝わればと願っております。

もろみをすべて搾り終えたとはいえ、蔵の仕事はまだまだ残っています。搾り終えた酒の火入れ作業・使用した機械の洗浄やメンテナンス・タンクをはじめとする仕込み蔵の大掃除などまだまだ盛り沢山です。長かった仕込みが終わり、自分の時間が欲しい私ですが、そこまでやって初めて酒造りが終わりになります。最後まで蔵人メンバーと協力し良酒の為、そして蔵内を清潔に保ち、来年度の酒造りがスムーズに開始できるよう、もう少し気を張って頑張ろうと思います。

毎年この時期になると休日は何をしようかと考えるのが楽しく、本当であればいろんなところへ行きたい私ですが、感染症対策(移動自粛)により少し物足りなさを感じてしまいます。皆様の中にも自粛疲れの方がいらっしゃるのではないでしょうか。外出する機会が減ったことで私は「考える時間」が長くなり、特に仕事については様々な事を考えるようになりました。「今できる事は何か、この状況下だからこそやれる事・やらなければいけない事はないのか」等々。

会社の取り組みとして、昨年来SNSによる発信を増やす事、また毎年恒例の酒蔵開放や試飲会、飲食店様での日本酒の会等、コロナ禍では開催する事が難しいイベントの代替えとしてドライブスルーでの販売会や限定品のネット販売を行い、皆様に少しでも近づけるようにと社員一丸で取り組んでまいりました。まだまだやれることは考えればきっと沢山あるのでしょう。そして、今取り組んでいる事全てが、後に世の中が平常に戻った時、「旅行で秋田に行こう」「天寿に行って蔵見学しよう」「仲間で集まった際には天寿を飲もう」と皆様に思っていただけるような魅力づくりになっていれば有難いと思っています。

私個人としては、まず杜氏として一番の責務は美味しいお酒をお客様にお届けする事です。良酒の為にやるべき事をコツコツ実行し、コロナ禍によって発生した何処へもぶつけようのないストレスを上手くモチベーションに変え、それを高く持ち続ける事が重要だと思います。自分の立ち居振る舞いは身の回りの仲間に伝わり、お酒に伝わりお客様にも必ず伝わります。どんな状況でも美味しく飲んでいただける自慢のお酒で皆様をおもてなしするべく、今できる事をちゃんとやる。

二度と戻らない今日をただひたすらに頑張ります。

座右の銘
2021-03-16

座右の銘

代表取締役社長 大井建史

ついこの間までコロナ禍と大雪に呻いていたが、庭の大雪はそのままながら真っ青な空や輝きを増した太陽と光る鳥海山が春の気配を感じさせる。

緊急事態解除が動き出したがコロナ罹患の数はもう一つ下がらず、耐えて来たこれまでの忍耐の時期から春の躍動の予感とワクチン接種を心待ちにしているのが、正直なところだ。

人は己を律する時、自分の心に留めて置く戒めや励ましの言葉を必要とする。自分の生きて来た経験から共感出来た言葉に、「これこそは」と思う事は誰もが幾度も経験した事だろう。

誰もが生きて来た中で、喜び、傷つき、悲しみ、涙する。一人ひとりがそれぞれの人生において、喜びに震え苦難に堪えて来ているのだとは思うが、十年前の東日本大震災や大規模な洪水、ついには世界規模のコロナ禍。

人類が世界中で同時に居竦み、息を潜め、家に篭る様な事は無かった。可能性はSF小説や戦争小説には有っても、現実世界に起こる程人類は愚かではないと思っていたはずだ。ペスト・天然痘・梅毒・インフルエンザ・エボラ出血熱等々人類は抑え込んで来たのではないのか?

ワクチン開発が人類の英知と平和の希望ではなく、世界の覇権を争う道具と堕するのを目の当たりにすると、何度失敗しても歴史は繰り返し、人間は成長しないのがこの上なく悲しい。

しかし、いつの時代でも希望の光は、狂信ではなく、教条でもなく、経験を経て自分が触れた、自分がそう有りたいと思う「言葉」ではないだろうか。

築二百年に成ろうとしている我が家の仏壇の横には、三代目の書「積善之家必有余慶」がある。若い頃、凡庸な自分の判断基準となる僅かな経験から来る短い定規で、「善」とは何かを考えた事もあった。地元の消防団・商工会・青年会議所等々ボランティア活動にはほぼ参加してきた。「情けは人の為ならず」。先輩から頂いた色紙にある「兀兀地」は現在の私の座右の銘「コツコツと」と言う意味の仏語だそうだ。他の先輩がよく使われるのが「日々是好日」達人の言葉は厳しい。毎日を最高の日にする為に最善を尽くすなど、根が怠け者の私には理想ではあるが鞭の様に感じる言葉だ。

皆様、コロナ禍も一年を超え、人と直接繋りを持つことが難しく、我慢我慢で息苦しい情勢です。天寿では百九十一回目の酒造りが終了間近で、フレッシュな香り漂う新酒が目白押し‼恒例の雪室開封イベントも密を避けるため『第二弾 雪室開封春のドライブスルー販売会』 として行う事に決定致しました。(4P参照)「明けない夜は無い」事を信じて、もう少し家飲みを楽しみながら頑張りましょう。

備える

杜氏 一関 陽介

雪の多かった冬が終わり、矢島にも春の訪れを感じさせる暖かい日が増えてまいりました。今年は四月中旬まで酒造りが続くので、お酒の品質を考えれば、もう少しの間寒いままでいて欲しいと願っているところです。

コロナウイルスの影響で仕込みの量が残念ながら減ってしまった今年度の酒造りですが、その分仕込み一本一本に籠める私達蔵人の気持ちは増していますし、手間を惜しまず自分達が今できる事を考えて日々の酒造りに勤しんでおります。

そんな中、最高峰である全国新酒鑑評会出品酒も二月中に無事に搾り上げ、私は少しホッとしているところです。昨年度は全国新酒鑑評会入賞に始まり、東北・秋田県の品評会で好成績を収める事ができました。中でも秋田県清酒品評会での吟醸酒の部・首席受賞は何よりも私達にとって今年度の酒造りの励みになり、今年も首席・・・という気持ちで取り組みましたが、結果は神のみぞ知るといったところでしょう。

また、日本名門酒会様企画の立春朝搾り、またコロナウイルス対策で天寿酒蔵開放が中止となり、その代替として開催したドライブスルー販売会と行事が続きました。どちらもその日に搾ったお酒を当日出荷するのですが、お酒の質は香りも良く発酵によるガスがお酒に残りピチピチフレッシュに仕上げることができ満足しています。どちらのイベントも今年は例年通りとはいきませんでしたが、お酒が美味しかったという声をいただき嬉しかったのと同時に、来年は通常での開催を願うと共に今年以上の酒の出来にしようと思っておりますのでご期待ください。

出品酒の仕込みやイベントが終わり、少しホッとした毎年この時期に考える事があります。東日本大震災。十年前のあの日、私は仕事が休みで、自宅で昼寝をしておりました。地震にびっくりして飛び起き、前杜氏が出張でいないことを思い出し、直ちに会社に向かったのを今でも鮮明に覚えています。

製麹室には麹が入っていましたし、もろみも沢山ありました。搾りもあったように記憶しています。まだ寒い時期でしたので醪は大丈夫。搾っていた酒も大丈夫。麹は停電で機械が動かないのでストーブで麹室を温め、朝の出麹までなんとか終わらせました。また、余震に備えて箱に入った商品も高くパレット積みしていたものを低い位置に下ろすなど様々な対策を取った記憶があります。あの日から十年。十年経つと人も入れ替わり、あの時いた先輩方の多くが退職され、当時の事を知っている現役メンバーは少なくなりました。何も起こらないのが一番良いのですが、自然には勝てません。自分達にできるのは有事の際に被害を最小限にできるように「備える」というのが非常に大事だと思います。

毎日の酒造りでも予期せぬトラブルはあります。自分が一度経験した事や知識を技術に変え、いつトラブルが起きても対応できるように心の準備をしておくこと。また後輩へ受け継ぎ伝えておくこと。それも「備える」ことの一つだと思います。その備えが商品を守ることは基より、酒質・技術の向上へと繋がると考えています。

世の中、明るい話題は少ないですが、暗くなってもしょうがありません。天寿を飲んで明日も頑張ろうと思ってくださるお客様の為に少しでも美味しいお酒を届けられるよう、蔵人メンバー一丸となって残り一ヶ月気合を入れて醸し続けます。

豪雪の矢島から謹賀新年
2021-01-14

豪雪の矢島から謹賀新年

代表取締役社長 大井建史

明けましておめでとうございます

昨年はコロナ禍に翻弄され、期待されていたオリンピックも延期となり、人類が皆我慢を強いられた年となりました。クリスマス頃には一日の感染者が三千人を超え、また、変異種のウィルスも残念ながら日本に上陸し、コロナ禍の年があけ明るい新年を迎えたと素直に喜ぶ状態ではありません。大変な状況の中、最前線で新型コロナと闘って下さっている医療関係者の皆様に、心からの尊敬と感謝の気持ちで一杯です。我々も出来る限りの自助努力を怠ることなく、この長く暗いトンネルが終わる日まで共に頑張って行きましょう。

天寿酒造は今年百九十一回目の酒造りを行っております。私共大井家も私が七代目を継いでおりますが、大きな変化がございました。昨年四月に娘が入籍し息子が出来ました。コロナ禍で残念ながら披露宴を延期しておりますが、彼らも次の代を継ぐべくスタートいたしました。何年かは造り酒屋の基本を学ぶ事が続きますが、皆様の前に現れましたら未熟な若い二人でございますので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。

さて、毎年ご好評を頂いております天寿蔵開放でございますが、二十二回目を迎える今年はコロナ禍で密を避けるため『ドライブスルー販売会』とさせて頂く事となりました。やしま冬まつりは開催されるとの事でございますが、酒蔵の中にお入り頂き列を成したり飲食したりする事は、今現在最も避けるべき事と考えます。しかし、地域として人としてそして会社としても「今」大事なのは、繋がりと元気とそれを創る美味しさだと思います。

全てを中止ではなく〝可能な繫がり・安心して参加できる・美味しさと生活の豊かさ〟の少しでもお手伝い出来る事を考えて進めております。

初めての試みでご不便・ご不満な部分も露呈するかもしれません。お酒の試飲も出来ませんが敢えて開催するべきと考え、杜氏をはじめとする蔵人達もその朝しぼるお馴染みの「朝しぼり」に全力を注ぎます。その他食卓の喜びに繋がる様な限定酒やお得で美味しい福箱などを取り揃えてお待ちしております。

可能であればオンラインショップでの事前申込み・支払いをして頂けるように整えます。如何にスムーズな受け渡しが出来るか考えて参りますので、メールニュースやホームページにご注目いただき、ご理解・ご協力の程よろしくお願い申し上げます。

鳥海山麓線も含めた冬まつり開催という事で、徒歩のお客様は店舗対応致しますが、ドライブスルーとの併催となる為、店外での待機・入店は一組ずつ・レジの関係で現金のみのお取り扱いとなります。大変寒い中ご不便・ご迷惑をおかけ致しますが、事情ご賢察賜りご理解・ご協力の程よろしくお願いいたします。

ここまで仕事や地域社会を構成する行事が無くなると、片足が足掛かりを無くしてぶらついている様な不安定感が有ります。家内のメニューコントロールのお陰で体重は五キロ近く減り、そこは有難いのですがコミュニケーションツールとしてのお酒の役割が大好きで、それを介しての人との繫がりに幸せを感じていたことが良く判ります。私などは人生が宴会で出来ている様な男ですから、古い仲間とWEB飲み会をした途端如何に寂しかったか判りました。

秋田県内横手・湯沢に続いて三番目の豪雪と闘いながらではございますが、新年の皆様のご多幸をお祈り申し上げます。

仕事とは

杜氏 一関 陽介

明けましておめでとうございます。昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で行動が制限されるなど、今まで経験した事がないような生活への変化を求められる一年でした。酒造りが一段落した昨年四月、酒造りも終わり、ゆっくり旅行でも行こうかと思った矢先の緊急事態宣言。造ったのは良いけれど、どれだけの酒が残ってしまうのだろうかと、ものすごく不安だったことを覚えています。

「来年は酒が造れるのか?収穫した米は?自分の仕事は?」大げさではなくそこまで考えました。外へ出ればマスクや消毒液を購入する人の長打の列。それを見て今何をするべきなのかを深く考えさせられました。

黙って在庫の酒瓶を毎日眺めていても仕方ないと思っていた四月下旬、普段私達が大吟醸酒や本醸造酒といった所謂アル添酒に使用する原料アルコールを手指の消毒用アルコールの代替として期限付きでの製造・販売ができるようになったとの知らせ。但し、販売するためにはクリアしなければならない手続きが多々あり、税務署や消防署へ連日出向き、なんとかゴールデンウイークギリギリでの販売へ漕ぎつけました。手指の消毒を徹底するように言われても消毒用アルコールはなかなか手に入らない時期でしたので、私達のアルコールで消毒することで少しでも安心をお届けできたのではないかと思っています。

その仕事に携わる中で二つの事を感じました。

一つ目は、普段私の仕事はお客様に喜んでもらえる酒を造る事。この度の消毒用アルコール商品の製造という今までにない経験ではありましたが、自己満足で微力ながらも人助けができたような気がして、自分の行いが人の為になるということがこんなに気持ちの良いものであるのかと実感させていただきました。

二つ目は、言い方は良くないかもしれませんが、お客様が求めているものが見える商品の製造・販売は、酒造りと比較できないほど単純であるということ。単純の中には安定したものを常に供給するという難しい面もありますが、微生物を扱い常にブレと戦う私達の仕事にはないゴールが存在すること。正にそれが無いのが日本酒の醍醐味なんでしょうが…。一からお客様に求められる商品に作りあげる自分の仕事の難しさを改めて思い知らされると共に、なんてやりがいがある仕事なんだろうと感じることができました。

私は、仕事とは根本は人の為であり、求められたいという欲が原動力で努力し、それが自らの生活に跳ね返ってくることでモチベーションを維持でき、また頑張ろうと思える物だと考えています。

今年一年、お客様の為に何ができるのかを常に考えながら酒造りに取り組む所存です。まずは世の中が平常を取り戻し、皆様にとって笑顔の絶えない一年になりますようにお祈り申し上げます。

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