春爛漫
代表取締役社長 大井建史
ゴールデンウィークも終り、今は田植えの真っ盛りです。新緑が一斉に力強く広がりながらも、その色に幼さや若々しさ、生命の息吹を感じる一年で最も魅力的な季節であり、酒造りにたずさわる私共には、やり遂げた解放感を感じる時でもあります。
東京で生まれ育った家内も田植えされたばかりの稲を見ると「水を張った田んぼの風になびくちょぼちょぼの植たばかりの苗が一番好き」と毎年言いますし、秋田でもこの地域しか食べない早春の山菜〝さし〟を食べると「秋田に嫁に来て良かったと思う」と言います。東京で過ごした期間の倍近く秋田で過ごして来たのに「そこ?」と思いながらも、芽吹く季節が好きと言っているのだなと理解しております。
4月23日の「花見酒まるしぇ」は、前夜の大雨・朝からは雨はほぼ止みましたが、風と低温で前日が桜満開を迎えた矢島でしたが、二割がた花は散ってしまいました。
にもかかわらず400名ものお客様にいらして頂き、共創開催して頂いた飲食店の皆様もコロナ禍での皆様のお買い上げと沢山の笑顔に大変感謝しておりました。天候の悪い中本当にありがとうございました。
六代目が亡くなってからちょうど一年が経ちました。
遺された物を一挙に整理し片付けるのは、中々難しく遅々として進みません(歳のせいも有りますが…)代を重ねた物・思い出のある物が多く、使えない物・使わない物として処分するのか、歴史的な物として保存するのか等々気力を貯めて立ち向かう日々が続きそうです。六代目に引退後たっぷり時間があったのだから等と思うのですが、同時に根気仕事は思いはありながらも進まなかったのだろうと同情したりで、家内と顔を見合わせながらまぁ頑張ります。
七代目となって最初の酒造りが5月2日に皆造(全ての酒を搾り終わる事)となりました。
1830年秋に初めての酒造りが始まり、1831年春に一回目の酒造りを終えて以来192回目の酒造りが滞りなく終わりました。
コロナ前と比べると製造量も減り、私が家に帰って以来37回目で一番少ない造り量となりました。それでも一関杜氏には十回目の記念すべき年であり、その分一本一本への思いと集中度も高まり、火入れもすべて終了し、冷蔵貯蔵用の冷蔵庫もパンパンでハチキレそうな状態です。今年の酒にもご期待ください。
コロナ禍に始まり、悲惨極まりないウクライナ戦争、独裁国の脅威、中国のロックダウン等々世界の平和や経済の安定は予断を許さない状況ではありますが、我々庶民が出来る事は明るい毎日を支える生活を自分達で守って行こうと意識し、何か出来る事を一つでもと思いをはせながら、大切な方と共に心を満たす一杯を傾ける事ではないでしょうか?
LET,S TRY IT!
杜氏 一関 陽介
四月十一日に今季の仕込み作業が終わり、冬期間一緒に酒造りをした蔵人チームも解散となりました。それから残るもろみの管理、搾り作業は製造社員で行い、五月二日に無事皆造を迎えることができました。とはいえ搾って終わりではなく、できるだけ早く火入れを行い商品特性に合わせた貯蔵管理が完了して本当の終わりを迎えます。
毎年大型連休前は商品の出荷量が多く、そこに皆造の時期が重なり、作業予定に変更が生じることもしばしば。注文をいただけることが有難い事と分かってはいても、搾りあがった新酒の瓶詰め・火入れ作業がなかなか思うように進まない事に、私にとっては非常にもどかしく頭を悩ませる時期なのです。
瓶詰めが遅れればタンクで低温貯蔵しておくことも可能ですが、お酒は時間の経過と比例して熟成が進んでしまいます。その為少しでも新鮮な状態で瓶貯蔵したいという想いから休日も交代制で作業をすることがここ数年の通例となっていましたが、今年は計画通りに作業が進み、ゴールデンウィークまでに搾り上がった全てのお酒が全工程終了することができました。お酒にとって良い事なのは当然ながら、何年振りか分かりませんが私もお酒の状態を深く心配することなく休暇をとることができました。
私の事はさておき、前号で少し触れましたが、「生酒は翌日・火入れ酒においても一週間以内に瓶詰めし、出来る限り早く火入れを行う」という搾った後の管理基準を定め、コロナ禍で消費が落ち込んでいる厳しい状況であるからこそ品質向上の為に自分達ができることを迅速に進めてきました。結果として予定通り終えることができたのは、その考え方が社内全体に伝わり、少しでも酒質を良くしようと社員各々が役割を果たした成果であるように思え、非常に嬉しく感じています。
今後この努力が酒質にどのように影響していくのか経過観察していきながら、来年度に向けて何ができるのかを今から考えていきたいと思います。
お酒の処理が終わり、蔵の作業はもろみ蔵と上槽室の清掃、道具類の後片付けを残すのみとなりました。どれも非常に重要な作業であり、物への感謝を込めて手入れする事と、来季の酒造りがスムーズにスタートできるようにする為の点検の意味も兼ねています。ゆっくりはしていられませんが、最後の最後まで気を抜かず次につながる丁寧な作業を心掛けたいと思います。
最後になりますが、六月に何年振りかで百貨店(東京都)での試飲販売に立たせていただくことになりました。あまりにも久々過ぎて緊張しておりますが、直接お客様にお酒をご紹介できる貴重な機会をいただきましたので、是非お立ち寄りください。沢山の方とお会いできるのを楽しみにしております。