夏の思い出
代表取締役社長 大井建史
コロナ禍で出張できない日々が三年近く続いていたが、この夏二つのイベントが有りました。
一つはフランスで開催された日本酒コンテスト「クラマスター」生酛部門最高賞・審査員賞を受賞し、去る七月六日表彰式出席の為パリの日本大使公邸まで行ってきた事。
受賞したのは大変光栄なのですが、正直還暦を超えた私には「コロナ禍の今か!!」感もありました。しかし、百九十三年目を迎える七代目蔵元として参加すべきと社員に勧められ、これまでは無かったワクチン接種証明等出・入国手続きに必要な数々の手続きをこなし、六十三歳の肝試しに行って参りました。
パリのホテルは古い建物をDIYで改装したような部屋で、一人しか乗れない様なエレベーターとすれ違いギリギリの螺旋階段の建物でした。一日目の午前三時頃に火災報知機が鳴るアクシデントが有り、時差ボケの上に眠れない一夜を過ごしました。その後はポケトーク使いに度胸が付き、グーグル翻訳も併用し現代の利器に感謝しながら、審査員のパリソムリエ協会メンバーの方々と日本酒の将来性や鳥海山生酛純米とのマリアージュの幅広さや評価等をお聞きする事が出来ました。ホテルクリヨンのタラのムニエルやチーズソムリエチャンピオンお勧めのチーズ「オッソー・イラティ」との相性は最高でした。言葉の壁でお相手にはご難儀をおかけしながらも有意義に楽しく過ごしました。
パリソムリエ協会の名誉会員になれたことや、パリのユネスコ大使館の尾池ユネスコ特命全権大使を始めとする皆様の日本酒へのサポート体制も素晴らしく、日本酒が世界遺産になれる日もそう遠くはないのではと感じました。
二つ目は「護衛艦ちょうかい」を訪問する機会に恵まれた事。
秋田と山形の県境に聳える麗峰鳥海山の麓に創業以来百九十三年目を迎えた弊社は、この母なる山に守られて酒造りを続けて参りました。
旧海軍の重巡洋艦鳥海からの伝統を受け継がれ、海上自衛隊のイージス護衛艦ちょうかいとして日本国の安全を守る為、日夜ご尽力されている乗り組みの皆様に感謝申し上げると共に、弊社の主力商品鳥海・鳥海山と同じ山を仰ぐものとして何かしら繋がり応援できないものかと思っておりましたが、この度ご縁が有り母港の佐世保市に機会を作ってくれた婿の将樹君と共に行って参りました。
ちょうかいでは乗艦に際し濵本先任伍長に大変お世話になり、艦長の小圷(こあくつ)一等海佐だけでなく飯ケ谷第八護衛艦隊司令にもご挨拶出来ました。
乗艦時はあいにくの雨で、海上で遮るものがなくずぶ濡れになりましたが、これも海上自衛隊ならではの体験と楽しませて頂きました。
艦の神棚には鳥海山大物忌神社のお札が有り、我が母なる山とのかかわりは感慨深いものが有りました。護衛艦への興味津々の私は艦橋の高さに感動し、艦長席に座らせて頂いたおりには感激のあまり大変興奮致しました。
長い航海の合間に弊社のお酒を通して、鳥海山の息吹をお届けすることで、心身ともに癒しを感じて頂く事が出来れば、醸造する我々も酒屋冥利に尽きるのですが…
楽しさを見出す
杜氏 一関 陽介
八月九日に山形県の酒造業界の若手の皆様を対象に講演させていただく機会をいただきました。私が入社した時の気持ちや、今現在杜氏として仕事ができていることの喜びの話、会社の方針や目指す酒の事、自分達が取り組んでいる事など、二時間に亘り話をさせていただきました。秋田県内では講演の経験はあったものの、他県では初めての経験でしたので慣れない場所でもあり非常に緊張いたしましたが、なんとか務めることができたように思います。若輩ながらこの数年、講師依頼をいただくことがあり、我ながら少しずつ要領を得てスムーズに人前で話ができるようになったように感じています。
どんなに経験年数が長くなろうが生涯勉強中の身であると思いながらも、杜氏歴も十年を超えてきますとただ人の話を聞いているだけではダメで、自分が経験してきたことを業界の為、次世代の方々の為に伝えていくことも必要になってくるのでしょう。
私は人前で話をすることに緊張しますし、極度の責任感から毎回物凄い覚悟の上で臨みます。また、自分の語彙力に自信がないので、相手に伝わらないのではないかという恐怖感が抜けません。それでも最近は、話が上手でなくても気持ちが相手に伝わると、有難いことにそれを聞いた相手が更にいろいろな話をしてくれるという楽しさも感じることができるようになりました。
相手が何を聞きたいのか、どう話したら分かりやすいのか。また相手に問うことも内容に必要な気がします。そんなことを考えていると、復習になるのと共に、自分に今足りない事が見えてきたりします。相手に伝えようと努力することが実は自分の為になっていることにようやく気が付きました。
話す内容が一番大切ではあるのですが、伝わらなければ意味がないので、最近は如何に伝えるかに重点を置いて話をするように心がけています。これは何も講演に限ったことではなくて、お客様へのお酒の説明であったり、酒造りの現場での指示や連絡、相談においても同じで、自分の発言における相手の理解度が深いほど仕事の質や効率にも影響しているように実感します。表に出るより、黙々と作業する事の方が好きな私ですが、苦手だと思っていてもいざやってみると上手にできなくても勉強になる事がきっとまだあるので、酒造りに支障がない範囲でいろんなことにチャレンジしてみたいと思います。
まもなく収穫の秋を迎えます。八月は大雨にみまわれるなど天候に恵まれず、弊社酒米研究会の原料米の質も心配されるところです。自然には勝てませんが、研究会メンバーそれぞれの努力で良質の米が一か月後に蔵に入って来ることを願い、それを万全の態勢で受け入れられるように社員一丸準備をしていきたいと思います。