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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

春爛漫
2022-05-18

春爛漫

代表取締役社長 大井建史

ゴールデンウィークも終り、今は田植えの真っ盛りです。新緑が一斉に力強く広がりながらも、その色に幼さや若々しさ、生命の息吹を感じる一年で最も魅力的な季節であり、酒造りにたずさわる私共には、やり遂げた解放感を感じる時でもあります。

東京で生まれ育った家内も田植えされたばかりの稲を見ると「水を張った田んぼの風になびくちょぼちょぼの植たばかりの苗が一番好き」と毎年言いますし、秋田でもこの地域しか食べない早春の山菜〝さし〟を食べると「秋田に嫁に来て良かったと思う」と言います。東京で過ごした期間の倍近く秋田で過ごして来たのに「そこ?」と思いながらも、芽吹く季節が好きと言っているのだなと理解しております。

4月23日の「花見酒まるしぇ」は、前夜の大雨・朝からは雨はほぼ止みましたが、風と低温で前日が桜満開を迎えた矢島でしたが、二割がた花は散ってしまいました。

にもかかわらず400名ものお客様にいらして頂き、共創開催して頂いた飲食店の皆様もコロナ禍での皆様のお買い上げと沢山の笑顔に大変感謝しておりました。天候の悪い中本当にありがとうございました。

六代目が亡くなってからちょうど一年が経ちました。

遺された物を一挙に整理し片付けるのは、中々難しく遅々として進みません(歳のせいも有りますが…)代を重ねた物・思い出のある物が多く、使えない物・使わない物として処分するのか、歴史的な物として保存するのか等々気力を貯めて立ち向かう日々が続きそうです。六代目に引退後たっぷり時間があったのだから等と思うのですが、同時に根気仕事は思いはありながらも進まなかったのだろうと同情したりで、家内と顔を見合わせながらまぁ頑張ります。

七代目となって最初の酒造りが5月2日に皆造(全ての酒を搾り終わる事)となりました。

1830年秋に初めての酒造りが始まり、1831年春に一回目の酒造りを終えて以来192回目の酒造りが滞りなく終わりました。

コロナ前と比べると製造量も減り、私が家に帰って以来37回目で一番少ない造り量となりました。それでも一関杜氏には十回目の記念すべき年であり、その分一本一本への思いと集中度も高まり、火入れもすべて終了し、冷蔵貯蔵用の冷蔵庫もパンパンでハチキレそうな状態です。今年の酒にもご期待ください。

コロナ禍に始まり、悲惨極まりないウクライナ戦争、独裁国の脅威、中国のロックダウン等々世界の平和や経済の安定は予断を許さない状況ではありますが、我々庶民が出来る事は明るい毎日を支える生活を自分達で守って行こうと意識し、何か出来る事を一つでもと思いをはせながら、大切な方と共に心を満たす一杯を傾ける事ではないでしょうか?

LET,S TRY IT!

杜氏 一関 陽介

四月十一日に今季の仕込み作業が終わり、冬期間一緒に酒造りをした蔵人チームも解散となりました。それから残るもろみの管理、搾り作業は製造社員で行い、五月二日に無事皆造を迎えることができました。とはいえ搾って終わりではなく、できるだけ早く火入れを行い商品特性に合わせた貯蔵管理が完了して本当の終わりを迎えます。

毎年大型連休前は商品の出荷量が多く、そこに皆造の時期が重なり、作業予定に変更が生じることもしばしば。注文をいただけることが有難い事と分かってはいても、搾りあがった新酒の瓶詰め・火入れ作業がなかなか思うように進まない事に、私にとっては非常にもどかしく頭を悩ませる時期なのです。

瓶詰めが遅れればタンクで低温貯蔵しておくことも可能ですが、お酒は時間の経過と比例して熟成が進んでしまいます。その為少しでも新鮮な状態で瓶貯蔵したいという想いから休日も交代制で作業をすることがここ数年の通例となっていましたが、今年は計画通りに作業が進み、ゴールデンウィークまでに搾り上がった全てのお酒が全工程終了することができました。お酒にとって良い事なのは当然ながら、何年振りか分かりませんが私もお酒の状態を深く心配することなく休暇をとることができました。

私の事はさておき、前号で少し触れましたが、「生酒は翌日・火入れ酒においても一週間以内に瓶詰めし、出来る限り早く火入れを行う」という搾った後の管理基準を定め、コロナ禍で消費が落ち込んでいる厳しい状況であるからこそ品質向上の為に自分達ができることを迅速に進めてきました。結果として予定通り終えることができたのは、その考え方が社内全体に伝わり、少しでも酒質を良くしようと社員各々が役割を果たした成果であるように思え、非常に嬉しく感じています。

今後この努力が酒質にどのように影響していくのか経過観察していきながら、来年度に向けて何ができるのかを今から考えていきたいと思います。

お酒の処理が終わり、蔵の作業はもろみ蔵と上槽室の清掃、道具類の後片付けを残すのみとなりました。どれも非常に重要な作業であり、物への感謝を込めて手入れする事と、来季の酒造りがスムーズにスタートできるようにする為の点検の意味も兼ねています。ゆっくりはしていられませんが、最後の最後まで気を抜かず次につながる丁寧な作業を心掛けたいと思います。

最後になりますが、六月に何年振りかで百貨店(東京都)での試飲販売に立たせていただくことになりました。あまりにも久々過ぎて緊張しておりますが、直接お客様にお酒をご紹介できる貴重な機会をいただきましたので、是非お立ち寄りください。沢山の方とお会いできるのを楽しみにしております。

飲食店・天寿 共に頑張ろう企画「天寿 花見酒 マルシェ」
2022-03-15

飲食店・天寿 共に頑張ろう企画 「天寿 花見酒 マルシェ」

代表取締役社長 大井建史

2月末の今冬最後かと思われる寒波が過ぎると、久々の青空と共に春を思わせる風を初めて感じました。

192回目の酒造りも昨秋の米の出来もよく順調に推移し、お陰様で新酒の評判も上々です。

コロナ禍は二年の長きにわたり猛威を振るっており、三密を避ける事を必須とされる我々飲食業界も、大変な状況の中何とか乗り越えようともがいている最中です。

「天寿蔵開放」は秋田県下で最初にイベント化し、お陰様で参加者が2千名を超えるまでになりましたが、オミクロン株のパンデミックにより二年連続開催を断念いたしました。

しかし、この様な環境下でも、人が健全に生きて行く為にはイベント等の人間同士のかかわりは大変重要な事と考えます。

また、地元飲食業界は蔓延防止法措置も無く補助機会の少ない大変な状況ですが、天寿が何か出来る事、協創する事で相乗効果が期待できる事はないかと考え「天寿 花見酒 マルシェ」をご提案させていただきました。

例年桜が咲くころに雪室に氷温貯蔵した純米酒を開封するイベントへ、飲食店の皆様のテイクアウト販売のブースを出していただき、参加店皆様の強みと力を合わせ発信力を高めて実施したいと思っています。

初めての試みで何人の方にご来場頂けるか、桜は咲くのか、天気は良いのか判りません。しかし、魅力ある参加店皆様と弊社とで力を合わせ、桜咲く季節に明るい話題を発信・実施する事で、地元の皆様の元気を作り出すことに挑戦したいと思います。

企画詳細はこれから磨きをかけますが、鳥海山麓線矢島駅横の天寿精米所近くの広場で、天寿の酒売り場(雪室氷温熟成純米酒・今季最終の搾りたて生酒等の限定酒)と、飲食店ごとの美味しくお得な限定テイクアウト料理の売り場を密や滞留を避けるため一方通行で設営し、出来るだけ安全な販売に務めます。

料理とお酒をもってお好きな花見スポットへGO!! 『アウトドアで安全ですよね』が狙いです。よろしくお願いいたします。

開催予定は4月23日土曜日

午前10時~午後2時

詳細は4P・ホームページ・SNS・ポスター等で

選択される酒造り

杜氏 一関 陽介

年が明けてから大吟醸の仕込みに没頭しているうちに2月立春を迎え、ここからは少しずつ暖かくなっていくのだろうと思っていた矢先。一日に30cmを超える大雪が2度もあり、暦の上では春でも、積雪は150cmを超え、今冬最高積雪になりました。もろみが発酵中の酒蔵にとっては、蔵が雪で覆われる品温は低温で安定しますが、少し寒すぎるかな・・というのが正直な感想です。私も早朝の自宅の除雪に始まり、出社し仕込み水をタンクに移動する頃には既に疲れ果てていることもしばしば。それでも、酒造りにしようする道具や設備が昔と比較できないほどよくなっているとはいえ、この寒さと雪があるからこそ安定した今の天寿の酒造りができるのだと考えれば、この地に蔵があることに感謝しなければならない部分もあるのだろうとも思います。

さて、肝心の酒造りですが、鑑評会出品クラスの大吟醸の上槽も無事に終わり、中盤~後半戦に差し掛かってきています。令和3年度産の米は比較的溶けやすく味乗りの良いお酒が出来やすい年であると言われていますが、米の特性をしっかりと見極め、商品それぞれが持つコンセプトを実現すべく緊張感をもった酒造りができているのではないかというのが今季中間での自己評価です。お客様の口に入るまでが酒造りですから、もろみを搾ったら終わりではなく、その後の管理(これから)が非常に大切になってきます。年明けからコロナウイルス感染第6波がやってきて、非常に厳しい2022年幕開けではありますが、それに負けてたまるかと、生酒は翌日・火入れ酒においても1週間以内に瓶詰めを行うなど、搾った後の管理をしっかりすることで少しでも品質を向上させよう、またこれからどんな状況になろうと耐え得る品質の向上を目指そうと社員一丸となって努力しています。

新しい年に
2022-01-07

新しい年に

代表取締役社長 大井建史

謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

本年も変わらぬご愛顧を、お願い申し上げます。

今年は安心して暮らせるウィズコロナ体制が確立することを心から祈っております。

「人と会ってはいけない」と言う人生の根本に関わる事態が起き、人生の岐路にある人達に大きな影響を及ぼした二年余になりました。研修が出来ない。授業が出来ない。部活が出来ない。留学できない。結婚式・披露宴が出来ない。イベントが出来ない。

時代が変わった。新しい生活様式になった。その変化に対応する必要が有るという事は私にも理解できます。

しかし、それと同時に「人に寄り添うおもてなし」日本のお家芸が危機に瀕していると言う事実にも目を向ける必要が有ると思うのです。確かにWEBを使用して顔を見ながらの会議・商談・宴会まで可能とはなりました。禁酒法だと騒がれた飲食店へ行かないお願い。感染防止装備の導入を指導しパーテーションや殺菌・換気設備の投資を義務付けておきながら、営業自粛のお願い。飲食店やそれに関連する皆様、観光・宿泊関係の皆様のご努力と我慢には本当に頭が下がります。

その大変な影響下に在りながら、営業にも出歩けない私たちに出来る事は、「地元で出来る最高の酒」を目指して、一つ一つ改善を積み上げる事。

吟醸系のお酒の管理は品質向上の為全量冷蔵貯蔵となりました。この二十年間こつこつ作り続けた貯蔵用冷蔵庫の在庫は、売り上げ不振となると抱え込みが大きくなり、新酒醸造の縮小調整が必要となります。そんな中でも酒造りは順調に進み、続々と新酒が生まれ、その出来に一喜一憂しながら原料米・酵母・醸造方法の比較醸造を繰り返し、一歩前へ進む努力を続けております。

昨年もお陰様で、全国新酒鑑評会金賞・秋田県知事賞三年連続受賞・ワイングラスでおいしい日本酒アワード最高金賞・クラマスターコンクール金賞・フェミナリーズコンクール金賞・全国燗酒コンクール金賞等々を受賞する事が出来ました。杜氏以下社員が一丸となっての成果に感謝の気持ちでいっぱいです。

蔵開放のイベントは残念ながら今年もドライブスルー販売とさせて頂きます。多くの賞を獲得した実力のある蔵人たちが醸し出す、その日だけの味わいを皆様と酌み交わしたく、今私たちが出来る皆様との絆をつなぐドライブスルー販売会購入特典の、「WEB乾杯イベント」にも是非ご参加ください。

更なる高みへ

杜氏 一関 陽介

令和四年、今年も私の文章を楽しみに読んでいただいている方がいると信じて、酒造りの事や今考えている事などを書かせていただきます。乱文をお許しください。

さて、昨年はコロナウイルスへの感染拡大によって皆様にとっても一年を通して行動自粛を求められる息苦しい年だったのではないかと思われます。私も「県外旅行は自粛」「バーベキュー禁止」など大好きな事が全くできない年でした。年末になってやっと行動制限が緩くなったとはいえ、肉眼では見えないウイルスがいつ自分の身に襲い掛かるかと思えば自粛せざるを得なく、忘・新年会は行わなかった企業や二次会は控えるなど各自で対策をとられた方も多いのではないでしょうか。

また、日本酒に限らず愛飲家の皆様の中には「外飲み」が減り「家飲み」が普段化し、家で飲む安心感からつい酒量が増えている方もおられると思います(笑)。その傾向はこの一年間に蔵から出荷されたお酒の商品構成見ても、多くを飲食店様にお届けしている一升瓶の量が減少している一方で、家の冷蔵庫に入るサイズの四合瓶商品の中には増加しているものもあり、家飲みスタイルが定着しているように推察されます。飲食店様の困難な状況を考えればただ喜ぶことはできないのですが、出荷量が伸びないこのコロナ禍において、直接お店で弊社の酒を選択購入してくださるお客様には感謝しかありません。

そんな状況で始まった今期の酒造りも三か月が過ぎ中盤を迎え、まもなく鑑評会出品酒の造りに入ります。昨年度は大吟醸鳥海が全国新酒鑑評会四年連続金賞受賞に加え、秋田県清酒品評会では三年連続の知事賞受賞。また、純米大吟醸天寿は東北清酒鑑評会で優等賞とインターナショナルサケチャレンジ2021において純米大吟醸の部では最高賞のトロフィー賞を受賞するなど、その他沢山の賞をいただきました。様々なコンテストにおいて受賞すればする程にもっと高い位置に登りたいという欲が出るもので、どうすれば自分達の酒が更に良くなるのかを常に考え、仲間と試行錯誤する毎日です。

私にとって数あるコンテストに出品を続けさせてもらえる事は全国の酒蔵から出品される商品の中で自社の酒の位置をいろんな観点から知ることができると共に、受賞すれば私達蔵人のモチベーションにも繋がる大事な意味を持ちます。受賞したから売れるとは思いませんが、お客様には是非購入時の指標の一つに入れていただければ有難いですし、そこから「美味しい・また買おう」と思っていただけることが何よりも私には最高の賞に値します。

残念なことに一昨年からコロナ禍の影響で製造量はやや減少しておりますが、その分仕込み一本一本に集中することができている良い面もあります。昨年末に発売したしぼりたて生酒四商品についてはフレッシュ感をできるだけ瓶内に残すことを目標に、上槽後二十四時間以内に瓶詰めすることで爽やかな炭酸ガスと華やかな香りを逃さない努力をしました。一緒に酒造りをする蔵人頭と、利き酒勉強中の総務課の後輩は初槽純吟生酒が美味しかったと言っておりました。まだ飲んでいない方は是非お試しください。

早く世の中が平穏を取り戻し、令和四年が皆様にとって酔い年になりますように。私も健康に気を付けながら美味しい酒を春まで造り続けます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

天高く馬肥ゆる秋
2021-11-09

天高く馬肥ゆる秋

代表取締役社長 大井建史

今年も残り二か月となり、鳥海山の紅葉の盛りも過ぎて雪に向かう時期となりました。蔵人達の米作りもまずまずの作柄の収穫を終えて、日焼けした顔に充実感を漂わせ酒蔵に全員集合いたしました。

天寿の酒造りの命題は「地元で出来る最高の酒を造る」こと。昨年三月以来のコロナ禍により耐え難いほどの厳しい状況ではありますが、日頃からご愛顧いただいているお客様や二十年以上お付き合い頂いている海外のお取引先に支えられて百九十二年目の酒造りに入りました。

例年に比べて貯蔵用冷蔵倉庫を埋める在庫に呻きながらも、それでもご期待には絶対お応えできる様、現況に合わせた製造計画をたて、一同気合を新たに邁進いたしております。

十月一日の日本酒の日から緊急事態宣言も明け、実りの秋という事で「食を楽しむ」にはとても幸せな季節です。日本酒も冷やだけではなくお燗にしたお酒が身に染みてくる季節でもあります。

「食を楽しむ」のはとても贅沢な感じがします。もちろんお店も料理も値段もピンからキリまでありますが、私などはさんま(最近は高級魚になってきました)の素焼きに醤油をかけてぬる燗の徳利と盃を持つと、それだけでゾクゾクするほど幸せを感じてしまう今日この頃です。

楽しもうと思う気持ちが有るかどうかで、食の充実感が全然違いますよね?今コロナ不況に喘いでおられる飲食関連の皆様から如何に手軽にその喜びをご提供いただいていたか、行けなくなると身にしみてわかります。

人間が千年以上かけて造り上げた料理・酒そしてそれを楽しむ文化は掛け替えの無いものですし、健康で元気に生きる為のツールでもあります。それがなければ食事は単なる生きる栄養補給の為の餌となってしまいます。それでは悲しすぎますし、何より食事やお酒を酌み交わす喜びやくつろぎの人生における大変な価値を放棄する事は考えられません。

コロナ禍で随分と色々な我慢を強いられました。断念せざるを得なかった事も多々ありました。全く同じ生活には戻れないかもしれません。しかし、我々は一つ一つ問題を解決又は改善しながら、コロナ共生時代の新しい社会を創造して行きたいものですね。

酒造りに感謝と期待を込めて

杜氏 一関 陽介

二十日に秋田県清酒品評会の結果が発表され、三年連続三回目の秋田県知事賞を戴くことができました。昨年度のように首席とはなりませんでしたが、蔵人メンバーの努力が実を結ぶ結果になり本当に嬉しいです。

四年前までは良くて入賞止まりだったのですが、麹菌・酵母菌を替え目指す酒質を変更したことにより高成績をいただけるようになりました。ただ菌を変更すれば成績が良くなるということは当然ありません。製麹方法・もろみ温度管理・搾った後の管理など、目標に向けた私達の微生物管理も変わりました。

この三年連続の県知事賞受賞は、兵庫県多可町秋田村で育った特等の山田錦と地元の鳥海山伏流水で醸すこの酒に、私達が考える製法が上手くマッチした結果と言えると思います。変更に至った経緯はいろいろありますが、何よりも品評会へ出品するのであれば上位へ昇り詰めたいという私の気持ちを理解して造らせてくれている会社はもとより、ご指導いただいた醸造試験場・先輩杜氏の方々には本当に感謝申し上げます。四年連続を目指して今年度も頑張ります。

さて、全国的に緊急事態宣言も解除になり少し街にも活気が出てきているように報道はされていますが、全てが直ぐに元通りということにはならないでしょう。そんな中ではありますが先日、高校の同期が営む飲食店へ何年振りかで訪問しました。想像はしていましたが、コロナ禍に入ってからは感染対策の徹底・人数制限により売り上げは伸びず、また感染状況によっては折角の予約もキャンセルになることで苦しい状況のようでした。明るい性格で、一緒にいる時は笑顔が絶えない彼ですが、今この現状が本当に大変なのだと感じさせる顔をしていたように感じました。同じように全国の飲食店様が大変な思いをされていることを改めて考えれば非常に切なく、また私達の造る日本酒の出番が少なくなってしまったこの現状については、果たして元に戻るのかとさえ思ってしまいます。

先日、地元矢島小学校の三年生が社会科見学にいらっしゃいました。私にとっては毎年恒例行事であり、酒造りの工程を小学生でも理解できるように説明することの難しさを痛感させられる時間でもあります。内容を理解してもらいたいが為に、つい先生になったかのように熱弁してしまいがちです。しかし重要なのは約十年後、成人を迎えた時に飲んでもらえるように、そして進学や就職などで県外に出た時には地元の自慢の酒になるように、欲を言えば自分も酒造りをしたいという人材が出てくるような姿勢を魅せる事なのだと思っています。

これからの社会がどのように進んでいくのかが想像できない状況が不安で仕方ありませんが、お陰様で今期も酒造りをすることができます。自分の仕事は良質の酒を造ることではありますが、地域の為、地元の伝統産業を継承していく側面もあることも忘れずに今年の酒造りに臨みたいと思います。酒造りが終わりを迎える来春は、せめて行きたいところへ行きたい時に行ける、会いたい人に会いたい時に会える、そんな春が訪れることを願って…。

天寿百九十二期目の酒造り、頑張ります。

日本はどうしたんでしょうね
2021-09-01

日本はどうしたんでしょうね

代表取締役社長 大井建史

先代である父の四十九日や新盆も過ぎ、開催の良否が物議をかもしたオリンピックも閉幕した。

個人的にはオリンピックで素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた、世界のトップアスリートの皆さんやその大会を支えて頂いたスタッフ・ボランティアの皆さんに、心からの尊敬と感謝を表したいと思う。

私もお年頃か、やたらと涙腺が崩壊させられた。日本選手団は史上最多のメダルを獲得する快挙を達成してくれた。選手の皆さんが一様に述べる、大会がコロナで一年延びた事でその間の精神的・体力的な苦しさ、それを支えて共に進んでくれた家族やスタッフと大会開催を許容してくれた国民への感謝の言葉は、国を代表する選手たちが全力で努力しながらも、その孤独や誰の責任にも出来ないコロナによる開催への不安が如何に深かったかが偲ばれ、参加できた喜びを見て、ましてやメダルが取れた喜びに、共感を深くし大会の意義を噛みしめる事が出来たのではないだろうか。

一方コロナ禍は最大の感染爆発を起こし、またも緊急事態宣言が延長になりエリアも拡大された。国民のコロナや国が強いる我慢への怨嗟が、この感染爆発を治める事の出来ない原因である人流を生み出している。

「一番苦しんでいるのは、今禁止されている人と人が交わることで成り立つ飲食業を含む世界で最もレベルが高く、オリンピック開催の売りにした「お・も・て・な・し」サービス業だ。

お酒を出すのが感染爆発の原因だとばかりにメディアで禁酒を連呼し、飲食店の感染予防投資を強いながら、専門家の市場分析や戦略的判断とは別の根拠でサービス禁止等の行政が為されていないだろうか。

一部の人達が「お願い」を聞かないからと言って単純にお酒が悪いと考えるのではなく、このストレスの多いコロナ禍に安らぎを提供していると考える事は出来ないだろうか。

香港では下記の様な規則が実行され、今の所上手く行っているようです。

①ワクチンバブルが推進する対策をしていないレストラン(タイプA) 午後六時、1テーブル2人、収容人数50%、宴会20人まで可。

②スタッフ全員が十四日毎にコロナ検査、アプリもしくは手書きでの入店記録(タイプB)午後十時、1テーブル4人、収容人数50%、宴会20人まで可。

③スタッフ全員がワクチン一回(タイプC) 深夜0時、1テーブル6人、収容人数75%、宴会20人まで可。

④スタッフ全員がワクチン二回で十四日経過、顧客の三分の二以上がワクチン一回(タイプD)深夜二時、1テーブル12人、収容人数100%、宴会180人まで可。ライブパフォーマンス可。

日本はどうしたんでしょうね?日本らしい具体的かつ根拠のある規則を一刻も早く実現してほしいものだ。

杜氏十年目

杜氏 一関 陽介

私が杜氏就任した平成二十四年は今や弊社の代表商品である純米大吟醸鳥海山の販売数量が急伸を始めた年であった。販売予定量を遥かに上回り繁忙期である年末に品切れを起こし、新酒をお客様にお届けできたのが翌年の三月頃であったと記憶している。杜氏になったばかりとは言え、酒造りは一人でやるわけではないし、ましてや周りには先輩方がいるし、大抵の事はやればできると思っていた。

売れ筋の商品が在庫切れ。好調の波を止めてしまうような酒は絶対に造れなかった。そして、年間を通して販売する商品である為、できるだけ前年度と出来が大きくブレる事だけは避けたかった。半端ではないプレッシャーだった。

今だから言えるが、搾ったお酒は純米大吟醸にしては香りがおとなしく味は薄く(良く言えばキレイ)ほろ苦いものだったと記憶している。ハッキリと「これではダメだ」と思ったし、自分の考えが如何に甘く、今まで何を学んできたのかとさえ自分を疑った。原料米が毎年こんなにも状態が違って、原料処理に大きな影響が出る事。水温・気温・品温の違いによって出来る酒への影響がこんなにも大きいのかと自然の恐ろしさを見せつけられた。挙げればまだまだあるが、それら全てが美味い酒を醸し出す麹菌や酵母菌が健全に育つ環境作りの為に大切だということを教えてもらった。おかげさまであれから九年で売り上げは更に大きく伸び、今や国内外のコンテストでは常連と言って良い程の商品に成長した。それと同時に私もこのお酒には成長させてもらった。

杜氏就任二年目から生酛造りに取り組んだ。今思い返せば当初は思い通りの酒母経過にはならず、搾ったお酒は自分の思い描いていたものとは異なっていたと思う。新米杜氏の初めての試みということもあって作ったお酒は完売とはなったが…。その後、毎年仕込み配合や温度経過、酵母菌を変えるなど小タンクで試験醸造を重ねながら平成二十八年に生酛純米酒・生酛純米大吟醸の商品化に漕ぎつけた。造った数はこの九年間で仕込み大小併せて三十七本。ここ数年は綺麗な酒質の中にも味わいに深みが出て、一年程度貯蔵すると熟成によって重厚感とまろやかさが感じられるようになった。

令和三年度の酒造りで私は杜氏十年目を迎える。良酒を造る為に必要な事は何も技術だけではない。私達が働く環境も大切である。酒造りの現場は杜氏が中心であるのは間違いではないが、携わる全ての人が輝ける場所であって欲しい。その為にはメンバーそれぞれが自分の立ち位置を把握し、お互いが尊重し合い酒造りに取り組めることで成り立つと考える。この九年間でチームワークやチーム内モチベーションの向上が如何に大切かを学ぶことができた。これからも一緒に働くメンバーを信頼しお互いに成長できる職場を目指したい。

盆が過ぎるとまもなく収穫の秋を迎え、酒造りもいよいよ始まる。昨年の春からコロナウイルスの影響によって出荷量が減り困難な時期が続いているが、今まで学んできたことを武器に自分達にしかできない天寿百九十二回目の酒造りをひたすらに頑張りたい。そしてあの時のプレッシャーはこれからずっと忘れてはいけない。

変わりゆくもの、変わらないもの
2021-07-13

変わりゆくもの、変わらないもの

代表取締役社長 大井建史

コロナウイルス感染症発生以来一年半になろうとしている。

この様な現況の中、お陰様で六代目永吉の七七日忌を終える事が出来た事に安堵しております。

私が社長を継いでからすでに二十三年目となり、次代の教育や新体制・新設備構築等の大切な時期とする筈がコロナ禍のため予測された市場状況から大きく異なる変化が起きてしまった。地方の零細な酒蔵でも、必要な設備の更新を実行しなければ、事業の継続が困難になるが、昨年行うつもりでいた計画は大きく後れ作業に差し障ろうとしている。

コロナ禍の影響は凄まじく、飲食店の営業がウィルス蔓延防止のためとは言うのだが、ワクチン接種や補助金配布の遅れは棚に上げ、飲酒禁止・会食禁止と言う国の施策により経営が困難になり、そのお願いを守り秋田県民は出歩かず感染爆発を防いできたが、行政が責任を負う指示・命令でないため営業成績がいくら悪くても補助金は無く、飲食業界並びに酒業界の業況は大きく落ち込み廃業・倒産するお店が後を絶たない。

小説には自然発生の物でも人為的な物でも、病原体のパンデミックが世界を席巻し、人類の滅亡の危機を迎えるという話は沢山あった。結論は人間の征服欲や対抗意識等の愚かさは死んでも治らない?気が付いたときには遅すぎると言うものだ。

コロナ禍の中、我々業界でも可能な限り協力して来たという事に、ほとんどの方は反論されないだろうと思う。しかし、協力しろとは言っても、強制力のある指示を出すための法改正をするとか、憲法改正に政治生命をかけるという気概のある人は出て来ない。不測の事態に国民のために断固たる決断をするのが真の政治家だと思うのだが…

今年の米も田んぼが緑に覆われて順調に育っている。鹿・カモシカ・熊が新幹線や高速道路で車に当たる事故が増えてきている。天敵である猟師が高齢化で激減しているからだ。家を建てるにもウッドショックで木材がないと言うが、輸入に頼ってきたため国内の製材所は激減し、日本の山には木を切る人が足りない。

昔の様に山に人が入りと言うのは今更難しい。現代に合った山の管理・選択したくなる魅力的な農業・住みたくなる地方の街とはどんな物なのか、地方の行政に丸投げではなく、もっと真剣な具体策を考えなければならない。

人がエネルギーに溢れて近代化に向かった明治時代より、遥かに多い人口を抱えている日本。世界で三番目の経済大国。それにふさわしい行動の力は伴っているのだろうか?

飲食の有り方もお酒の飲み方も、変化して行くのだろうと思う。しかし、美味い物を食べたいとの想いは無くならない。それをさらに美味しくするのが酒で在り、それを囲む家族や友達・仲間であることは変わらないだろう。

共通の記憶、共通のアイテム、共通の話題。何千年も続けてきたそれを人は捨てる事は出来ないし、よりそれが花開く環境を求めると思う。

その舞台になる飲食の場を皆で守る事はとても大切な事ではないだろうか?

明るく豊かな毎日を支える環境を自分達で守っていこうと意識して頂けたら有り難い。

それは、規則破りの宴会をやろうと言うのではなく、無理な行動を起こす事でもない。

何か出来る事を一つでもと思いをはせながら、心の一杯を傾ける事なのです。

新年度に向けて

杜氏 一関 陽介

七月、酒造年度が変わり、酒蔵にとって新年を迎えました。昨年度を振り返ればいろんな事がありましたが、何よりコロナウイルスによって行動自粛が影響し、お酒が売れない一年だったという一言に尽きます。それでも日頃からご愛飲いただいているお客様に支えられながら生産量の調整がありながらも酒造りをすることができました。如何に自分の仕事が人から支えられているのかを体感した一年でした。

また受賞から一か月以上経過してしまいましたが、令和二酒造年度全国新酒鑑評会において「金賞」を受賞いたしました。昨年度はコロナウイルス感染拡大防止の為、「金賞」の発表はなく「入賞」でしたが(入賞が最高賞)、それも含めれば四年連続の受賞となりました。その他にも、純米大吟醸鳥海山がワイングラスでおいしい日本酒アワードプレミアム大吟醸部門で「最高金賞」を受賞するなど、その他多数の賞をいただいております。お客様の為に美味しいものを造るのが最大目的でありますが、この厳しい市況の中で少しでも社内の士気を高める評価が得られた事に私は嬉しく思っています。

さて、平成二十四年度に杜氏に任命されてから、今年で十回目の酒造りをこの秋に迎えます。自己評価すれば不安で、がむしゃらに取り組んだ五年、自分の酒造りスタイルに少しずつ自信と安定を身に着けてきた四年。会社が目指す「地元でできる最高の酒」を目指すべく、毎年変わる米の品質に向き合い蔵人メンバーに助けられながらひたむきにやってきたと自信を持って言えます。一定の品質の維持ができているからこそ様々な賞がいただけて、またお客様にも購入していただけている。私にとって賞を取り続けることについては喜びよりもその商品位置を確認できるという大きな意味があります。正直良い時も悪い時もあるわけですが、客観的な視点で自分達の酒を見つめ直し改善していく。そしてその内容やスピード感で杜氏の力量や蔵人のレベルが量られるような気がします。十年一括りではないですが、今から始まる一年を今まで体感し学び得た事を発揮するべき年と位置付けています。一言では言えませんが、「良い酒の為に必ずやったほうが良い事は妥協せずに行う」ということです。また会社の方針の中で自分にしかできない事、今のメンバーだからできることを考え秋からの酒造りに臨みたいと考えていますのでどうぞご期待ください。

最後に…。天寿のある由利本荘市矢島は都市部に比べれば人も建物も少ない自然にあふれた町です。住んで十七年になりますが、雪が多いくらいで住んで不便だと思ったことは正直ありません。空気が綺麗で、水が豊富で、良質の米が育ち、人も良い。車がないと生きていけないかもしれませんが…。というのも、私が入社した頃お世話になったベテラン蔵人のほとんどが定年を迎え若返り化を進めています。米の栽培から酒造り、造ったお酒を飲んでもらえる喜びを私達と共感してもらえる人を探しています。電話・FAX・HPからでもなんでも結構です。本気であることが大前提ですが、ご興味のある方からの連絡お待ちしています!

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20歳未満のアルコール類の購入や飲酒は法律で禁止されています。