目指すもの
代表取締役社長 七代目 大井永吉
残暑お見舞い申し上げます。
全国的な猛暑・残暑・大雨と災害が多発、八月後半に最高温度を記録し、コロナが再度広がる中、米の高温障害を恐れ、体調と作業中の熱中症に気を付けながら過ごすこの頃です。
秋田の大雨災害の折にお見舞いいただいた皆様、心から感謝申し上げます。想像を絶する被害でしたが、お陰様で私共の地域では何事も無く過ごすことが出来ました。あと半日雨が続くと、一級河川の子吉川が氾濫しただろうとの事で、その重大さにぞっといたしました。
秋田は人口減少の最先端?を走っておりますが、それにまた拍車がかからないか…と心配しております。
農業環境の厳しさに親も農家を継ぐことを勧めず、先祖からの田畑を守る人が減った為、地元の人手不足はコロナ後一挙に進んでしまい、十年後の就農人口を考えると、非常に厳しい状況になってきました。
大井本家文書によると大井永吉家文政十三年(一八三〇年)八月十六日分家創業とあります。従いまして只今は百九十五年目に入り、あと一ヵ月でその酒造りが始まります。
初代永吉は何を想い始めたのか?それまで本家の酒造りの中心を担い、創業当初は麹・濁酒から始めたと記されてあります。
当時秋田県は大藩である秋田(佐竹)藩と小藩の亀田(岩城)藩・本荘(六郷)藩・矢島(生駒)藩からなっており、太平洋戦争前まで七軒の造り酒屋が有った矢島は秋田藩内でも矢島酒と呼ばれ売れていたと聞いております。
社長になった当初精米所の大改造・大吟醸仕込み蔵の移動・夜間蓄冷設備の導入と共に城新蔵の冷房・断熱工事及び小型貯蔵用タンクへ入れ替え・船舶用冷凍コンテナ十一基導入・一升瓶が二万本入る中型冷蔵庫五基建設・二〇一七年釜場並びに酒母室の改築・槽場の冷房設備導入・そしてコロナ禍により予定が四年遅れましたが、二〇二三年現在瓶詰工場の設備更新を行っております。
改革を進めてきた二十四年間、並べると設備面だけでもこれだけ色々ありますが、新しいものは必ず古くなります。自分にとってはあっという間でも、四半世紀は誰にとっても長い期間でしょう。でも、この数はたゆまなく進んできた証ではあります。
創業二百年まであと六年。七代目大井永吉を襲名し、皆様に歓んで頂ける「この地で出来る最高の酒を造る」事を目指し益々精進いたします。天寿百九十五年目の酒に乞うご期待です!!
備える
杜氏 一関 陽介
秋田県を中心とする七月十四日からの大雨により、被害に遭われました方々へお見舞いを申し上げます。また、秋田県に限らず、全国各地で発生した集中豪雨により被害に遭われ、未だ復旧の最中にある方々におかれましては、一日も早く平常へ戻られることをお祈り申し上げます。
今回の秋田県豪雨の際、私も一日だけではありますが、復旧ボランティアに参加させていただきました。洪水が残した爪痕からは被災された方々が到底太刀打ちのできない状況であり、想像できない程の恐怖であったのだろうと感じさせられました。見慣れた街の風景が喪失感で溢れているのを覚えています。
いつどこで何が起こるか分からない世の中です。「備えあれば憂いなし」は通用しないくらいの心持ちで、身の回りで起こり得ることに敏感でなければならないと勉強させられました。
この異常気象は雨に限らず、暑さも深刻です。日本酒の原料である米もこの酷暑によって品質に障害が出そうな状況で、出穂後の気温が原料米の溶け具合に最も影響を及ぼすと言われており、気温が高いと不溶傾向になります。弊社がある矢島町の今年八月一日から十四日までの二週間の日平均気温が二七・七度、昨年同時期で二五・七度ですので二度高い計算です。近年原料米が溶けづらかった令和元年で二六・八度。その時よりも高いということは・・・という想定で今期の仕込みに入ることになりそうです。
私は今、今期の製造計画立案の真っ最中です。昨年度の反省を基に何をどのくらい製造するのか日々考えているわけですが、時間がある時に稲刈りを前にした圃場を眺めていると、今年の酒はこんな感じに仕上がるかなと想像できるようになり、その対策まで頭に浮かんでくる自分がいます。気が付けば杜氏十二年目ですから。
もっと言えば、酒造りは私一人でなくチームで行うものですから、油断は禁物ですが自分達の技術には一定の自信があります。技術のことを考えながらも最近私が気になる事は、資材の高騰、一部報道でもあったように一升瓶が不足していることなど、搾った後の酒の貯蔵管理や流通の問題でしょうか。自分では変える事の出来ない問題にぶち当たった時、黙って見ているのではなくて、一度立ち止まって発想を変えてみたりすることで解決できることはないかと思ったりします。具体的な事はないのですが、私はとにかくお客様が飲んで喜んでもらえるものが造りたい。天寿スピリッツを兼ね備えた、お客様に求められる商品を造りたい。その一心です。
目まぐるしく変わる世の中で、変わらない天寿らしさを表現できるように、あと一カ月後に迫り来る酒造りに備えたい、そんな心境です。