近況
代表取締役社長 七代目 大井永吉
五月の連休寸前に百九十四回目の酒造りも皆造となり、季節の蔵人はそれぞれの農作業へと向かい、蔵の中は静かな熟成の時をむかえました。
品質向上の為、吟醸系のお酒はほぼ即詰で瓶貯冷蔵しており、酒造りだけでなく瓶詰めまでが酒造計画となり、近年は人手不足の中、綿密な計画と社員の理解と協力で成り立っております。
皆造後の常勤の蔵人は、タンク貯蔵酒の火入れや清掃に注力しながらも、瓶詰出荷部門と一緒に瓶詰・出荷作業にも従事しています。
まれにみる原料米の不作・高温障害の年で、杜氏をはじめとする蔵人は、それによる酒化率の低下や、予定数量を入荷出来ない原料米など、米余りとなった昨今では有り得ない困難を強いられました。
そのような苦難の中でしたが、全国新酒鑑評会では昨年に引き続き金賞を受賞。また、これまで酒こまちで醸し、毎年安定して上位受賞してきた「純米大吟醸 天寿」は、試験醸造を重ねてきた新酒造好適米「百田」で挑戦し、IWC金賞・クラマスター金賞のダブル受賞を果たしました。
日本全国人手不足と言われておりますが、そのトップを走っておりますのが残念ながら我が秋田県です。地元の弱電会社の工場拡大もありますが、何しろ若者の県外流出が止まりません。
我が矢島町も明治初期の人口に近づきつつあります。歴史的な円安の中、食糧安全保障などという言葉は円安で吹っ飛び、農業も畜産もふらふらになっています。
先代からの夢である天寿の農業部門を立ち上げこの矢島の地で米をしっかり作り、圃場の保全と農家との共存を図る法人は出来ておりませんが、矢島の圃場が原野化しないように何とか現状を打破して行きたいものです。
今年一月から、現在吟醸酒協会のアメリカイベントに参加している専務取締役とした末弟大井仁史や入社五年目を迎え秋田県醸造試験場研修・大変お世話になった出羽桜酒造さんでの研修も含めた三冬の酒造り・輸出営業等々の業務をして営業に出始めた新米常務取締役の娘婿大井将樹の二人の取締役を中心に弊社も頑張っております。
私はと言いますと、一昨年十一月一日に七代目永吉を襲名し今年は勤続四十年を迎え、社長二十五年目の年に挑戦しております。
五月六月は出張や総会が多く家内にも「良くまぁ続く!」と言われております。「宴会で酒を飲まないのは酒屋の沽券にかかわる」とがんばってはいるのですが、叱られますのでご一緒の際はあまり餌?を与えないようにお願いいたします。
令和五年度の締めくくり
杜氏 一関 陽介
五月末に審査結果が発表になりました令和五酒造年度全国新酒鑑評会において金賞をいただくことができました。二年連続での金賞、杜氏就任から十二年で六度目の金賞受賞(他入賞四回)となりました。タラレバですが、入賞止まりの令和三年度が金賞なら七年連続金賞だったのに・・・とつい悔やんでしまいましたが、まずは今年の受賞を喜びたいと思います。
また最終ページに掲載の通り、IWC・クラマスターなど国際的日本酒コンクールにおいても複数の賞をいただくなど、今年度も好成績で締めくくることができました。様々な賞をいただくほど、もっともっと大きな成果を求めてしまいがちな私ですが、酒造りをするメンバーの最善の努力が毎年一定の結果となって表れることが非常に有難いことだと感じています。
私個人としては、コンテストでの入賞=日頃の研鑽と品質管理への努力賞という位置づけ。ここ数年当たり前に続く異常気象で引き起こされる原料米の障害によって毎年難解と言われる近年の酒造り。持てる技術を活かして自分達が良いと思う酒質を目指し、商品になる最後まで気を抜かない、この事が確実に受賞に繋がり、そして皆様に受賞の報告が出来ることを非常に嬉しく思います。私は自分を褒めることはまずありませんが、たまには労ってあげたい気分です、自分お疲れ様。
ここで受賞したお酒の中から一本選んで少しだけ商品の話をさせてください。
「純米大吟醸 天寿」
最近、様々なコンテストで非常に受賞率の高い商品です。昨年から使用原料米を「秋田酒こまち」から「百田」に変更しました。「百田」は秋田県が新たに育成した酒造好適米新品種で「山田錦」に匹敵する醸造特性があると言われています。酒造りメンバーでもある、天寿酒米研究会の佐藤博美氏が栽培する百田は玄米タンパク質が少なく、また四十%まで丁寧に精米することで、できたお酒は雑味が少なく、香り華やかでふくらみのある酒質に仕上がっています。地元で育った米、湧き出る鳥海山の伏流水、ここに住む人、手仕事で行う製麹・槽しぼり、丁寧な瓶殺菌。「地元で出来る最高の酒を造る」の精神において今できることが凝縮されている商品です。毎日の晩酌用には少しリッチ過ぎるかもしれませんが、ご贈答や家族・友人など大切な人と過ごす時間に飲んでいただければ喜んでいただけるのではないかと思いますので是非お試しください。
さて、今年は梅雨が遅れているというのに、夏がもうそこまで来ているような気候の毎日ですが、田植えから一か月以上経ちいよいよ原料米の生育が気になる時期になってきました。今年も昨年並みに猛暑の可能性が非常に高い予想のようです。そして昨年秋田では七月に水害も起こりました。異常気象が起こらないことを願い、なんとか夏を乗り越え無事に実りの秋を迎えたいその一心です。来期の酒造りまであと約三か月ありますが、私の頭の中はもうスタンバイ状態です。始まるその日に向けて体制を整える実りある夏にしたいと思います。