大吟醸新酒の香が蔵内に
代表取締役社長 大井建史
新年おめでとうございます。
この冬は、早い時期にドカ雪が降ったり、その後雨が続いたりと、根雪になるのは早かったのですが、中々安定した寒さにならず、11月から装着したスタッドレスタイヤが、随分減ってしまいました。
そんな中でも、この正月は寒波の中で迎えました。楽しみにしていた年賀状を眺めながら、「あれっ?」私の名前の建史はパソコンの辞書に載って無いので健史と良く間違われますが、なんとパソコン出力の半分以上がこの間違いでした。「なんだお前さんもか・・」と親しい友人の年賀状を眺めながらがっかりしてしまいました。ふっと弊社の名簿は大丈夫かと考え、落ち着かない状態になっております。良く見ると中には苗字のみの名簿もあり汗顔の至りでありました。自分の名前を間違われる事は本当に不愉快なものです。失礼を省みず申し上げます。是非名簿の不備なものはご指摘ください。すぐに対処致したく、よろしくお願い申し上げます。
前置きが長くなりましたが、1月6日から美山錦大吟醸の上槽が始まりました。これにつきましては、杜氏からの説明もありますが、精米後の調湿・洗米・浸漬・蒸し・放冷と原料処理のやり方を全て変えました。経験的な蒸米の見方をすると、非常に良くなったと思います。
麹造りの温度経過も、もっとキレイなふくらみにしようと変えました。が、全ての結果は搾った大吟醸に出ます。
新杜氏はめずらしく同じ話を繰り返し報告し「経過は順調なんですが…香がおとなしくて…アミノ酸が何時もより低くて…」とぶつぶつ。「そうだなぁ。」と私。「胃の調子が…」と杜氏。原料処理の提案や改善で「これは社長賞出さなきゃいけませんね!」と蔵人と一緒に元気一杯の時とは別人のようです。「大吟醸は思うとおりにやれと言った。結果は杜氏の責任。責任を持つとはそう言う事。」と偉そうに私。(そして、その最終責任は俺だぞ!こっちだって具合が悪くなりそうだよ…)そんな時に「味は良くなって来たが、香がおとなしいなぁ。粕と共に去りぬにならないだろうな。」と会長の一言。「グッ…」と二人。
そんな中でドキドキしながら、見守り・搾った佐藤俊二杜氏作「美山錦1号大吟醸」や翌日雫取りをしながら杜氏ニヤリの「秋田酒こまち大吟醸」前半の地元米大吟醸の搾りが続きます。
新しい試みがこれからの常識となるように、今年もよりご満足頂けるお酒造りに邁進致します。
本年もご愛顧の程よろしくお願い申し上げます。
蔵のページ
酒蔵は今...
杜氏 佐藤俊二
「和醸良酒」という言葉があります。これは、蔵人が自分の仕事を確実に仕上げ、各工程の役割を尊重し合い、皆が一丸となって取り組む事が良い酒を醸す秘訣である事と理解しています。
ところが、昔から『麹師(こうじや)と釜師(かまや)は仲が悪い』というのが酒造業界の隠れた定説でした。これは、毎日最良の蒸し米を麹師に渡したつもりの釜師に対して、麹師が「今日の蒸し米は柔らか過ぎる」とか、或いは「硬過ぎる」と注文をつけます。一方、釜師は「今日も昨日も水加減、火加減は同じだ。それなのに柔らかい?硬い?何故」と両者なりの主張が対立するわけです。
この様な麹師と釜師の意見の食い違いは、洗米前の白米水分が大きく影響します。同じように見えても、白米毎に微妙な水分差異は必ずあります。白米水分が少ないと洗米後、吸水量は多く、逆に白米水分が多いと吸水量は少なくなります。この事が、蒸し米が柔らかくなったり、硬くなったりの主な原因です。
今年の造りにあたっては、蒸し米のグレードアップを目標としました。品質向上の鍵は蒸し米に有るという基本を忠実に実践したかったのです。
今年度設備更新した精米所と調湿白米タンクは、水分の管理精度を高める事を可能にしました。併せて洗米方法を一から見直し、十分に濯げる様に改めました。そして、麹用蒸し米の冷却方法を新たに考案しました。これら品質向上に繋がるアイデアは全て蔵人同士の対話から生まれました。チョークで図を書きながら輪になって皆でアイデアを出し合い、良いと思われることは即実行してみたのです。
今日も釜師が蒸し米を手に取って仕上がりを確認しています。釜師と麹師の笑い声が響く「天寿」です。
蔵人の紹介
※もろみを搾り、新酒を生み出す道具を槽(ふね)と言います。この槽の担当を船頭と言います。天寿ではその責任者を船長と呼んでいます。
船長 豊島昭一(とよしましょういち)
昭和二十一年生 昭和六十年蔵入以来、槽担当。
矢島町出身 酒造技能士、林業士
物静かで、誠実な性格の豊島さんは、背中で仕事を語る典型的な「日本のお父さん」です。
こよなく山を愛し、二十年後、三十年後を見据えて木々を育てています。
船長のコメント
『搾りは酒造りの最終段階。皆が手をかけて醸したもろみを生かすも殺すも槽次第。特別な事は無い。やるべき事をキチンとやることが「ええ酒」造る事だと思うよ』と、申しておりました。脱帽