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蔵元通信

日頃お世話になっている皆様に、私ども天寿酒造が何を考え・守り・求め・挑戦しているのか、その思いをお伝えしご理解いただくために、「蔵元通信」を発行しています。
お酒はどのような狙いで造られたものなのか、季節や旬の食べ物に合うお酒、また飲み方、そして鳥海山の登山口であるこの矢島町の様子などをお届けいたします。

大吟醸新酒の香が蔵内に
2003-01-01

大吟醸新酒の香が蔵内に

代表取締役社長 大井建史

新年おめでとうございます。

この冬は、早い時期にドカ雪が降ったり、その後雨が続いたりと、根雪になるのは早かったのですが、中々安定した寒さにならず、11月から装着したスタッドレスタイヤが、随分減ってしまいました。

そんな中でも、この正月は寒波の中で迎えました。楽しみにしていた年賀状を眺めながら、「あれっ?」私の名前の建史はパソコンの辞書に載って無いので健史と良く間違われますが、なんとパソコン出力の半分以上がこの間違いでした。「なんだお前さんもか・・」と親しい友人の年賀状を眺めながらがっかりしてしまいました。ふっと弊社の名簿は大丈夫かと考え、落ち着かない状態になっております。良く見ると中には苗字のみの名簿もあり汗顔の至りでありました。自分の名前を間違われる事は本当に不愉快なものです。失礼を省みず申し上げます。是非名簿の不備なものはご指摘ください。すぐに対処致したく、よろしくお願い申し上げます。

前置きが長くなりましたが、1月6日から美山錦大吟醸の上槽が始まりました。これにつきましては、杜氏からの説明もありますが、精米後の調湿・洗米・浸漬・蒸し・放冷と原料処理のやり方を全て変えました。経験的な蒸米の見方をすると、非常に良くなったと思います。

麹造りの温度経過も、もっとキレイなふくらみにしようと変えました。が、全ての結果は搾った大吟醸に出ます。

新杜氏はめずらしく同じ話を繰り返し報告し「経過は順調なんですが…香がおとなしくて…アミノ酸が何時もより低くて…」とぶつぶつ。「そうだなぁ。」と私。「胃の調子が…」と杜氏。原料処理の提案や改善で「これは社長賞出さなきゃいけませんね!」と蔵人と一緒に元気一杯の時とは別人のようです。「大吟醸は思うとおりにやれと言った。結果は杜氏の責任。責任を持つとはそう言う事。」と偉そうに私。(そして、その最終責任は俺だぞ!こっちだって具合が悪くなりそうだよ…)そんな時に「味は良くなって来たが、香がおとなしいなぁ。粕と共に去りぬにならないだろうな。」と会長の一言。「グッ…」と二人。

そんな中でドキドキしながら、見守り・搾った佐藤俊二杜氏作「美山錦1号大吟醸」や翌日雫取りをしながら杜氏ニヤリの「秋田酒こまち大吟醸」前半の地元米大吟醸の搾りが続きます。

新しい試みがこれからの常識となるように、今年もよりご満足頂けるお酒造りに邁進致します。

本年もご愛顧の程よろしくお願い申し上げます。

蔵のページ

酒蔵は今...

杜氏 佐藤俊二

「和醸良酒」という言葉があります。これは、蔵人が自分の仕事を確実に仕上げ、各工程の役割を尊重し合い、皆が一丸となって取り組む事が良い酒を醸す秘訣である事と理解しています。

ところが、昔から『麹師(こうじや)と釜師(かまや)は仲が悪い』というのが酒造業界の隠れた定説でした。これは、毎日最良の蒸し米を麹師に渡したつもりの釜師に対して、麹師が「今日の蒸し米は柔らか過ぎる」とか、或いは「硬過ぎる」と注文をつけます。一方、釜師は「今日も昨日も水加減、火加減は同じだ。それなのに柔らかい?硬い?何故」と両者なりの主張が対立するわけです。

この様な麹師と釜師の意見の食い違いは、洗米前の白米水分が大きく影響します。同じように見えても、白米毎に微妙な水分差異は必ずあります。白米水分が少ないと洗米後、吸水量は多く、逆に白米水分が多いと吸水量は少なくなります。この事が、蒸し米が柔らかくなったり、硬くなったりの主な原因です。

今年の造りにあたっては、蒸し米のグレードアップを目標としました。品質向上の鍵は蒸し米に有るという基本を忠実に実践したかったのです。

今年度設備更新した精米所と調湿白米タンクは、水分の管理精度を高める事を可能にしました。併せて洗米方法を一から見直し、十分に濯げる様に改めました。そして、麹用蒸し米の冷却方法を新たに考案しました。これら品質向上に繋がるアイデアは全て蔵人同士の対話から生まれました。チョークで図を書きながら輪になって皆でアイデアを出し合い、良いと思われることは即実行してみたのです。

今日も釜師が蒸し米を手に取って仕上がりを確認しています。釜師と麹師の笑い声が響く「天寿」です。

蔵人の紹介

※もろみを搾り、新酒を生み出す道具を槽(ふね)と言います。この槽の担当を船頭と言います。天寿ではその責任者を船長と呼んでいます。

船長 豊島昭一(とよしましょういち)

昭和二十一年生 昭和六十年蔵入以来、槽担当。

矢島町出身 酒造技能士、林業士

物静かで、誠実な性格の豊島さんは、背中で仕事を語る典型的な「日本のお父さん」です。

こよなく山を愛し、二十年後、三十年後を見据えて木々を育てています。

船長のコメント

『搾りは酒造りの最終段階。皆が手をかけて醸したもろみを生かすも殺すも槽次第。特別な事は無い。やるべき事をキチンとやることが「ええ酒」造る事だと思うよ』と、申しておりました。脱帽

伝統に新しい 感性をプラスして…
2002-11-01

伝統に新しい 感性をプラスして…

代表取締役社長 大井建史

129回目の酒造り

今年の秋は駆け足で過ぎ去り、十月の下旬から今にも雪が降りそうな天気続きで、冬があっと言う間にそこまで来てしまったという感じです。

酒蔵では佐藤俊二新杜氏のもと、新しい体制での酒造りが始まりました。設備更新をした精米所では、半月前から試運転が始まり、サンプリングと微調整の繰り返しで、これまでよりもかなり偏平精米がやり易く、枯らし期間の調湿能力は抜群に向上しております。又、調整と今年の米の傾向が確定すると、大幅な省力化が可能になる予定なので、毎日期待にドキドキしながら立会っています。

残念ながら今年の米は七月〜八月のとてつもない長雨と低温の影響で、米質は良いとは言えません。抵抗を思い切り下げ、長時間かけてやさしくやさしく精米しても砕け易く、新精米機の性能比較がしづらくて困っています。

しかし、調湿白米タンクの機能は上々で、その後の洗米・浸漬等の原料処理の新しい試みは、今のところ、新杜氏のもくろみ通り、順調に推移しています。

今年も、絶対に一歩でも半歩でも品質の向上を図りたく、全力で取り組んでいるところです。

蔵元通信発刊四年目に

一九九九年私が社長に就任した11月に創刊以来、これまで号外を含めて19回発行し、今回が20回目となりました。

長い伝統と情熱を持って一生懸命酒造りに取り組んでいる私どもの「 思い」を、この秋田の片田舎から、皆様に熱くお伝えしご理解頂く為には…と社員だけで作成し、インクジェットプリンターで1000枚印刷したら、途中からキーキー音がしてきて…笑ってしまいますよね!その後は中古の輪転機で印刷していますが、写りが悪くて読みづらく申し訳ございません。この蔵元通信はホームページにも掲載されており、メールマガジンの配信もさせていただいております。(これも自社制作で、当然ですがカラーです。)

通信を郵送させていただいている方は、弊社から直接お酒を買って頂いた方・蔵見学に来られた方・イベントにご参加頂いた方・私を含む社員と名刺交換をさせて頂いた方です。今では6000人を超える方々に送られて頂いておりますが、稚拙な作りでもあり、何人の方々に読んで頂いているものか、かなり不安ではあります。(折り込み封入作業は社員総出で二日掛かります。メールマガジンでよろしい方は是非お申し出下さい。ご協力宜しくお願い致します。)

今、これこそが私どもの「思い」をお伝えする最善の術と、これからも皆で知恵をしぼりながら続けてまいりますので、益々のご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

蔵のページ

杜氏就任にあたって

杜氏 佐藤俊二

前任の村上杜氏から天寿の酒造りを引き継ぎ、杜氏に就任いたしました。これまで村上杜氏と共に二人三脚で酒造りを行ってきたという自負が有りましたが、いざ酒造期に入り実務に直面している今、仕事量の多さに驚いています。

私の酒造りの実経験はさらに一代前の中野杜氏時代に遡ります。 酒母助手から始まりました。酒母の育成を通じて、米が溶ける、酵母菌が増えるという現象を目の当たりにし、酒造りの面白さ、好奇心が養われたと思っています。又、酵母菌の種類によって細やかに育成法を変えている点も発見でした。

しかし、酒母を担当して得た一番大きな収穫は「酒」に対して畏敬の念を持つことが出来た事だと思っています。これは、酒母助手数年の未熟な時期、酒母師が急病で長期療養が必要となり、酒母育成を責任持って行う様、中野杜氏に言い渡された時の事です。

指示通りの育成操作を行うのではなく、自ら判断しその時々に適切な操作を行う事の難しさを実感し、自分の仕上げた酒母がもろみで順調に発酵する様に祈りました。もし、自分の未熟さの為に失敗してしまったなら、全てがダメになってしまう。と、酒造りの怖さを知りました。それでも事故もなくその年の酒造期を終えられたのは、もちろん私の知らない内に杜氏やもろみ師が上手く調整してくれたためでした。

又、事ある度に「酒見ろ!」と出品酒やろ過した酒を利き酒させてもらいながら「どれえ?(どの酒が良い?の意)」と訓練を積ませてもらいました。杜氏は口癖に「ええ酒lこしぇねばダメなもんだ(よい酒を造らなければダメだ。の意)」と説き、その事は蔵日人全てに浸透し、又、蔵人の誇り、気質でもありました。

中野杜氏から村上杜氏へ天寿の酒造りに対する姿勢は迷うことなく引き継がれ、そして今期から私も蔵人も共々、より「ええ酒」を目指して造りに入ります。今後とも美酒天寿をよろしくお願いいたします。

蔵人の紹介

杜氏 佐藤俊二(さとうしゅんじ)

矢島町出身 昭和三十九年生、

昭和六十一年 東京農大卒業

同年入社

平成五年 二級技能士試験合格

平成十一年 一級技能士試験合格

平成十二年 杜氏試験合格

村上杜氏の下で杜氏補佐を経て

平成十四年 杜氏就任

学生自体はスピード狂でオートバイレースで活躍。

急死に一生の大怪我にも懲りず、郷里に帰っても、レーシングカート(競技用ゴーカート)に熱中していた。

生来の人柄の良さ(?)に加え、仕事に向かえば時間も忘れトコトン追求。若いながら信頼も厚く今年の酒の出来栄えが楽しみだ。

(蔵人 談)

世代交代を経て
2002-09-01

世代交代を経て

代表取締役社長 大井建史

秋田の今夏は超異常気象で、竿灯祭りやお盆休みもずっと雨、台風や熱帯低気圧の通り道状態となり、水の災害が連続しています。隣町では大水害で家・道路・田んぼが冠水した所もありました。天寿酒米研究会メンバーの田んぼには被害こそ有りませんでしたが、受粉期・出穂期の天候が不良で、長雨続きの中、未登熱や軟質米の心配をしています。

創業129年目を迎えた今年、平成三年より杜氏を勤めてきた村上嘉夫杜氏が、後進に道を譲り勇退することになりました。

この間、平成三年・四年・八年全国新酒鑑評会金賞。平成三年・七年秋田県清酒品評会知事賞。全国新酒鑑評会入賞六回等数々の賞に輝き、大吟醸「鳥海の雫」や純米吟醸「鳥海山」等の商品開発にも尽力され、心から感謝するところであります。

杜氏とは、酒蔵でお酒を造る人全員を指すと思っている人もおられますが、本当の意は蔵人の頭領(工場長)の事で、その蔵の酒の全責任を担う重要な人物なのです。(杜氏以外は蔵人と言います)

蔵が目指すより高い品質に近づけるために、何を成すかを考え、実行し、責任を持つのが杜氏の仕事です。そのためには製造計画に対して、どの米を何俵購入するか。蔵人の誰をどこに配置するか。精米計画(何日にどの米を何俵何%まで精米するか)仕込み計画(何%精米のどの米を何kgどの酵母で仕込むか)その他日々の仕事でも米の品種毎の吸水傾向を確認し、蒸しあがりを確認し、麹の状態を確認し、発酵の状態を確認し、搾った酒の傾向を確認し、それぞれのブレを修正しながら、蔵人達の向上心を高め、和を図り、率先垂範しながら新しい酒造りに挑戦していくのです。

これが年齢に関係なく「おやじ」と尊敬を込めて呼ばれる所以です。

その重大な役目を引き継ぐ、戦後61四代目の杜氏は佐藤俊二(38才・昭和年入社 矢島町出身)です。この蔵元通信でも蔵のページや田んぼのページを担当しています。

私自身、社長の交代を三年前に行いました。130年に垂んとする歴史の重みを感じながらも、次代を担う責任者として、柔軟に・積極的に行動しながら、絶対に残すべき事と変革すべき事を取捨選択し、この大激変期の波に飲み込まれる事無く、ご愛飲頂いている皆様の為に、又自分たちの為に、如何に良い状態を保ちながら天寿の酒蔵を存続させるかに必死の三年でございました。

酒蔵の長い歴史と伝統は、それぞれの時代にあった変革の歴史とその波を乗り越えて来た伝統です。これからも皆様の笑顔とご声援を糧に、社員が一丸となって「世界に通用する名醸蔵」を目指して参ります。

ここに、新杜氏誕生という新たな兆戦と変革が始まります。我が社といたしましても大きな決断でございました。益々のご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

蔵のページ

もろみ師の重圧

精米師(こめや)、釜師(かまや)、麹師(こうじや)、酒母師(もとや)それぞれが、その技を結集し仕上げた、蒸し米、麹、酒母はもろみへ引き継がれます。 これらを原料に仕込みを行い、適切に管理し、長い発酵期間を経て熟成したもろみを搾って(こして)初めて清酒が生まれます。この酒造りの本体であるもろみ管理を担っているのがもろみ師です。

清酒もろみには数々の特徴がありますが、最大の特徴が、仕込みタンクの中で米デンプンが麹の力によって分解され糖分に変わる糖化と、その糖分を酵母が利用してアルコールや香りを造り出す発酵が同時に行われていることです。

この発酵型式を並行複発酵といい、世界で唯一、日本の清酒醸造だけに確立された独自方法です。

それ故、酒造りは糖化と発酵のバランスが重要で、糖化の変化と発酵をつかさどる酵母の健康状態を見極める、細やかな観察と管理が全てを左右します。

もろみ師は、朝昼晩と、定期的に検温し、各もろみの僅かな温度や状貌の変化から健康状態を推察し、日々行われる成分検査で裏付けを取りながら温度調整を進めて行きます。雪が少ない初冬や春先は夜中に急激な天候の変化がある場合があり、もろみ達が冷え込んで風邪をひいたり、熱を出したりはしないかと、心配は絶えません。そんな時は真夜中であっても様子を見に行く事は珍しくなく、その心配りは、まるで子を思う親のようです。

良いもろみとは、目的とする酒の品質を持つものであり、又、この特性を搾りによって損なうことなく、そのまま清酒へと移行させることがポイントとなります。それ故、最終的に良いもろみ(蒸し米、麹、酒母も同様です)が出来なければ、決して良い酒は出来ません。造りの期間中、もろみ師は他工程の責任者と共にこの重圧を背負っています。

製造課 佐藤俊二

蔵人の紹介

もろみ師 土田邦夫(つちだくにお)

昭和25年生まれ 昭和53年蔵入り

槽師を兼任しながら一貫してもろみ担当。平成7年もろみ主任に就任

矢島町出身 酒造技能士一級

天寿酒米研究会会員

天寿一の酒豪。酒を共にした者で彼の乱れた姿を見た者はいない。本人曰く、「色々な酒を試している内に強くなった。一種の職業病だ」と嘯く。自ら育てる美山錦は毎年最高品質を保つ。

もろみ師のコメント

もろみは一本一本個性があって同じ物は無い。一定の管理だけではうまくいかないので、常に初心者のつもりで見守っている。

より良い品質を 目指して、一歩づつ・・・
2002-07-01

より良い品質を 目指して、一歩づつ・・・

代表取締役社長 大井建史

先月、広島で全国新酒鑑評会の一般公開があり、天寿は惜しくも昨年と同じ銀賞でした。今年も入賞酒の傾向は香も味もフルボディータイプでしたので、きれいな優しいタイプの酒質には、金賞は厳しかったようです。しかし、典型的な秋田型吟醸で、ブレンドは一切無しでの入賞ですから、十月販売の「鳥海の雫」をどうぞご期待下さい。

前回の蔵元通信でご案内しました5月3日の「やしま駅の市・酒蔵の市」もお陰様で無事終了致しました。当日は気温が30℃近くの大変暑い日でしたが、すごい迫力の大沢しのぶさんの和太鼓で、大変盛り上がりました。雪の確保に苦労した雪室氷温熟成純米生酒もご好評を頂き、大変うれしく思っています。(少し若かったので今頃が美味しいかも!まだ多少在庫あります)また、無農薬田には5月31日からアイガモの雛が放され、元気に活躍を始めました。(※下写真)

イベントを終えた夏の酒蔵は、ひたすら静かな熟成の時です。同時に、次の酒造りの為の改善計画や設備の更新、整備の時でもあります。

30年以上にわたる日本酒の消費量低落傾向に加え、ここ5~6年の急速な落ち込みで、残念ながら我日本酒業界は大変厳しい状況にあります。そんな中でも、社員一丸となって日本食文化の一翼を担いながら、「世界に通用する銘醸蔵」を目指して懸命に努力しているところです。

品質の向上は、我々造り酒屋にとって最大で永遠のテーマであります。

その環境整備の為に過去10年間に渡り、洗壜・充填機の更新、充填用プレートヒーターの導入、吟醸以外の製麹機の更新、発酵タンクの改善・温度調整機能付きのジャケットタンクの一部導入、蒸米工程の改善、城新蔵の低温貯蔵庫への改築、壜貯蔵用の冷蔵倉庫の新築、蔵内火入れ用プレートヒーターの更新等、多岐にわたり実施してまいりました。

昨年の秋から、更なる製造工程の見直しを行っており、先進工場や有名酒蔵を何社も訪ね、勉強させて頂きました。

その結論として今年は、本来最も重要で、この部分で酒質が決まると言っても過言では無い、原料米の精米・調湿・洗米・吸水歩合の、さらに厳密な安定化を図り、そして、これらを如何に省力化しながら精度を上げていくかに挑戦します。

設備投資は、正直大変厳しいものがありますが、この様な時だからこそ、皆様のご期待に添えるより良い酒を醸すべく、気合を込めてがんばって参ります。

蔵のページ

酒母師(もとや)の姿勢

至極当然の事ながら、清酒にはアルコールが存在します。このアルコールや清酒特有の香りは酵母菌という微生物によって造りだされます。麹(蒸し米に麹菌を繁殖させたもの)が米(デンプン)を溶かして(糖化して)ブトウ糖を造り、酵母はそのブドウ糖を食べてアルコールや香りを造ります。酒造りはこの二つの働きを巧みに利用して行っているのです。

酒母は酵母菌を純粋に培養する酒母は酵母菌を純粋に培養する工程であり、酒造りのスタートです。酵母菌は酸味や香気の特徴により「協会7号」、「協会9号」の様に区別され酒種によって使い分けますが、万が一、雑菌が入り込んでしまったなら酒造りではなく雑菌造りになってしまいます。

その為、酒母室は室温7度前後の低温に管理され、関係者以外は立ち入りをご遠慮願っている場所です。ここで酒母を育成するのが酒母師です。

天寿の酒母仕込みは、半切りと呼ぶ平たい容器に仕込み水を準備し、麹と酵母菌を加え、(これを水麹と云います)次に蒸し米を加えます。この時、米粒を潰さない様にする為、素手で丁寧にかき混ぜます。(手でかき混ぜるので「ます)半切りに仕込み、「手もと」を行うと、蒸し米の硬軟や温度の高低が指先で分かる他、速やかな冷却も可能だからです。これらは天寿のこだわりの一つです。

仕込みの翌日になると、水を吸い固く締まった蒸し米が、麹の力で溶けてゆるんできます。このゆるみ具合では原料米の特徴も見えてきます。木製の大きな「ヘラ」でゆっくり反転させると、美山錦は柔らかく「スルリ」と抵抗なく、一般米は硬さを感じさせる「プツプツ」と米粒が当たる感覚です。

その後、二週間がかりで加温、冷却、そして保温等の操作を行うことにより適切に酵母を増やし、又、状貌や香気の変化で酵母の活性(発酵力)を掴みながら、酒母を育成し、その特徴を引き出していくのです。

酒母師は、杜氏の求める品質を満足させるため、麹と蒸し米の仕上がりを酒母の育成を通じて総合的に判断し助言する役割も担います。これらの情報は酒母を引き継ぐ「もろみ」の管理上も重要です。的確な判断を導くため、常に正確な操作とそれに伴う僅かな変化も見逃さない様、細心の注意を払っているのです。

製造課佐藤俊二

蔵人の紹介

酒母師 佐藤勝美(さとうかつみ)

昭和17年生 昭和39年蔵入り

精米師、釜師を経て昭和55年から酒母を担当

矢島町出身 酒造技能士一級

天寿酒米研究会会長

順序良く仕上げられる完璧な仕事に、蔵人一同「さすが勝美さん」の呼び声が高い。

酒母師のコメント

「今年は麹のちからが強くなったせいか、湧付け後の温度持ちが非常に良かった。低めに誘導しても勢いが良く、もろみでのキレも良好の様だ。」と仕事一筋でした。

お酒の個性
2002-05-01

お酒の個性

代表取締役社長 大井建史

128回目の酒造りが終わりました。25日には仕事を全て終えた蔵人たちが家路につきます。 今回の麹造りの取り組みは、大吟醸を始め純米等も味の幅やふくらみが付き、かなり満足の行くものに成りました。

この所、地酒としての酒質の個性化が問われます。どんなお酒かと問われますと私共では「鳥海山の伏流水で超軟水の仕込水を使用し、自慢の天寿酒米研究会産の美山錦を原料米として、蔵人の伝統の匠と情熱で醸しあげた心やすらぐお酒です。」とお答えしますが、どうもこれでは答えにならないようです。もちろん一つひとつの酒の味の説明と違うことは解りますが、その蔵の酒の個性とは何を指しているのでしょう?特別に辛い・甘い・酸が多い・香りが強い・自社酵母使用(私はこれが良くわからないのですが、どうもお酒が良く出来た年の協会酵母を自社保存したものが多いようです)が個性化と考えますか?確かに協会酵母を使用し醸造試験場の指導どおりの酒造りを行い、似たような酒に成っているとのご指摘は解らなくも有りません。しかし、この頃の特定名称酒(吟醸・純米・本醸造等)は大変な種類が有りますが、前記のような先入観でお酒を味わっていないでしょうか?魚でも絞めてからの時間の経過による味の違いを愛でる日本人です。その日本人が千年以上飲み続け、向上させてきた酒造りなのです。私としては、味や香りの極端な違いではなく、その酒蔵の持ち味こそ個性と捉えて頂ければと考えます。

近の雑誌に載っているお酒は、記者が広く酒蔵を取材しない為、かなり偏りを感じるのは私だけではないと思います。酒蔵の全てが良いとは申しませんが、日本にはまだまだ沢山のがんばっている酒蔵があるのです。コクとキレを大事に吟醸してきたこの国の「国酒」をお楽しみ頂きながら、時々そんな思いも感じて頂けたらと思います。

言葉にするのが難しく誤解されるのも怖いのですが、天寿は十種類並べて呑み比べると目立たないが、一対一で比べると勝ち残る酒だと言われた事があります。一杯目のインパクトより、飲むほどに旨味が増し、飲み飽きしない天寿らしい安らぐお酒を目指したいと私は思っています。

今年も5月3日に第三回「やしま駅の市・酒蔵の市」のイベントを行います。弊社の目玉は「雪室氷温熟成純米生酒」ですが、今年は雪消えが異様に早く大変苦労しております。すでに大型ダンプで6台の雪を鳥海山から運びました。なんとかイベントまで持ってくれれば良いのですが・・・ 素人仲間でのイベントですが、皆様に喜んでいただこうという気持ちいっぱいで準備に取り組んでおります。鳥海山も新緑の美しい季節を迎えております。連休を利用して、御家族皆様で是非お出かけ下さい。

蔵のページ

もろみ師の重圧

精米師(こめや)、釜師(かまや)、麹師(こうじや)、酒母師(もとや)それぞれが、その技を結集し仕上げた、蒸し米、麹、酒母はもろみへ引き継がれます。 これらを原料に仕込みを行い、適切に管理し、長い発酵期間を経て熟成したもろみを搾って(こして)初めて清酒が生まれます。この酒造りの本体であるもろみ管理を担っているのがもろみ師です。

清酒もろみには数々の特徴がありますが、最大の特徴が、仕込みタンクの中で米デンプンが麹の力によって分解され糖分に変わる糖化と、その糖分を酵母が利用してアルコールや香りを造り出す発酵が同時に行われていることです。

この発酵型式を並行複発酵といい、世界で唯一、日本の清酒醸造だけに確立された独自方法です。

それ故、酒造りは糖化と発酵のバランスが重要で、糖化の変化と発酵をつかさどる酵母の健康状態を見極める、細やかな観察と管理が全てを左右します。

もろみ師は、朝昼晩と、定期的に検温し、各もろみの僅かな温度や状貌の変化から健康状態を推察し、日々行われる成分検査で裏付けを取りながら温度調整を進めて行きます。雪が少ない初冬や春先は夜中に急激な天候の変化がある場合があり、もろみ達が冷え込んで風邪をひいたり、熱を出したりはしないかと、心配は絶えません。そんな時は真夜中であっても様子を見に行く事は珍しくなく、その心配りは、まるで子を思う親のようです。

良いもろみとは、目的とする酒の品質を持つものであり、又、この特性を搾りによって損なうことなく、そのまま清酒へと移行させることがポイントとなります。それ故、最終的に良いもろみ(蒸し米、麹、酒母も同様です)が出来なければ、決して良い酒は出来ません。造りの期間中、もろみ師は他工程の責任者と共にこの重圧を背負っています。

製造課 佐藤俊二

蔵人の紹介

もろみ師 土田邦夫(つちだくにお)

昭和25年生まれ 昭和53年蔵入り

槽師を兼任しながら一貫してもろみ担当。平成7年もろみ主任に就任

矢島町出身 酒造技能士一級

天寿酒米研究会会員

天寿一の酒豪。酒を共にした者で彼の乱れた姿を見た者はいない。本人曰く、「色々な酒を試している内に強くなった。一種の職業病だ」と嘯く。自ら育てる美山錦は毎年最高品質を保つ。

もろみ師のコメント

もろみは一本一本個性があって同じ物は無い。一定の管理だけではうまくいかないので、常に初心者のつもりで見守っている。

聞こえますか? 酒蔵の思い
2002-03-01

聞こえますか? 酒蔵の思い

代表取締役社長 大井建史

今年の甑こしき倒し(蒸米の終了=仕込みの終了)は三月十四日です。お蔭様でここまで様々な新しい取り組みをしながらも無事に過ごす事が出来ました。今年の最重点の取り組みは、麹の造り方を原点に帰ってやり直した事です。結果は上々で、酵素力価も予想以上で良い酒となり、呑み切りの結果を楽しみにしているところです。更に、新しい仕込みの純米と本醸造を仕上げましたので、どうぞご期待下さい。

この造り期間中にも、同業者・流通業・飲食業・一般と沢山の方々が酒蔵の見学に来られました。私共も天寿の酒造りをご理解頂く為、心を込めて説明させて頂きました。その中で気になりましたのが、ベルトコンベアーやホースを見て「随分機械化されてますね」とおっしゃる一般の方が、意外に多かった事です。良く聞いてみますと「手造りの酒屋」のイメージは藍染めの半天と前掛けをした蔵人が、甑から蒸米を掘り出し、その蒸米を木桶に入れ、肩に担いで走って運ばなければならない様です。大手のメーカーがイメージ戦略でお使いの映像を、小さい酒蔵の手造りイメージにされるのは尤もの事とは思いますが、すべて自動化され、プログラムとセンサーにまかせきりで醸造し、搾られるのでは無いのです。機械のセンサー任せになったら造り酒屋はそれで終わりだと私は思います。今、手造りの最も重要な事は職人が目で見、香りを嗅ぎ、手で触り、口で味わう等の五感(センサー)を十分に働かせる事なのです。

それが肉体労働で疲れ果て、一本一本の酒母やもろみの状態を見る事がおろそかになる様ではとんでもありませんし、蔵人の労働環境としても良くありません(毎日2トンの蒸米を掘ったり、その蒸米を30キロ位に小分けにして肩に担いで何回も運ぶ事が貴方の毎日の仕事だとしたらどうですか?物を上げたり下げたり運んだりの肉体労働は、出来るだけ機械化して行く努力をするのも蔵元の仕事だと私は考えております。)

町の河川工事の為に弊社には土蔵が残っておらず、古さはありませんが、蔵にご訪問頂いた際に少し耳を澄ませてくだされば、天寿の酒蔵の「思い」をお伝え出来るものと思います。

そんな私共の「思い」をお伝えし、皆様に天寿の酒蔵にさらに親しみを感じて頂きたく、今年も二月九日に酒蔵開放をさせて頂きました。お蔭様で一,三〇〇名を超えるお客様をお迎えする事が出来ました。ご参加頂きました皆様に心から御礼申し上げます。又、今年は更に多くのボランティアの皆様にご協力頂きました。本当にありがとうございました。

しかし、反省点が多々ありました。事前にお申し込み頂いたのは三〇〇名弱で人数の予測が付けられず、更にお昼直前にお客様が集中した為、蔵内が満員状態になり、ご案内した食べ物も昨年より随分増やしましたがすべて品切れしてしまいました。楽しみにして来て頂いたお客様には、誠に申し訳なくお詫び申し上げます。冬場の事で外も使えず、限られたスペースと人数での運営ですので、今後の解決策に苦慮しているところでございます。社員一同、皆様からのアドバイスを切望しております。是非ご意見をお寄せ下さい。

蔵のページ

精米師(こめや)から釜師(かまや)へ

精米によって磨かれた白米は通常2週間程、紙袋に入れたまま白米置き場で静置されます。これは、精米工程で摩擦熱により米粒の品温が上昇し水分が蒸散され、表層部と内部に水分含量のムラが生じる為、品温を下げ、米粒内の水分が均衡するまで待つのが目的です。(この事を白米の枯らしと呼んでいます)枯らしを行わずに水洗いをすると表層側が過吸水し、白米が割れてしまい軟弱な蒸し米になってしまいます。これは通常我々が食する飯米にもあてはまります。巷では新米、擦きたてのお米が美味しいとされていますが、軟らかすぎて炊き方が難しいと思った経験はありませんか?

そして、適度に枯らした白米が精米師から釜師へと引き継がれます。

釜場は白米を酒造りに適した蒸し米に仕上げる場所であり、蔵の仕事の中心です。ここでの責任者が釜師(かまや)です。

酒造りの極意として、「一、麹、二、もと(酒母)三、造り」という言葉が有名ですが、高名な杜氏さん達が揃って口にする極意は「一、蒸し、二、蒸し、三、蒸し」という言葉です。前述の極意を達成するためには何を於いても良い蒸し米を得ることが絶対条件である事を指しています。

釜師は最良の蒸し米を得る為、手早く米粒に付着した糠分を洗い取り、どの位白米に吸水させるかを推し量ります。酒造好適米程、又、高度に精米される程、吸水し易く、浸漬時間が短縮されます。特に大吟醸用の白米を洗米するときは秒単位での処理となります。そして、仕込一本の原料米は非常に高価なので、毎回が失敗の出来ない真剣勝負となるのです。

こうして適度に吸水させた白米を蒸し上げ、出来映えを手で握り、或いは指で押し伸ばしながら、蒸し米の弾力や米粒が均一に広がり粒が残らないように確認し、わずかな差違を見きわめ、翌日の蒸し米へとフィードバックされるのです。

製造課 佐藤俊二

蔵人の紹介

(かまや)

釜師 佐藤 直千代(さとう なおちよ)

昭和22年生 昭和53年入蔵以来一貫して釜を担当。掘り出した蒸し米で「ヒネリモチ」を造り、出来具合を確かめ、微妙な硬軟を見分ける。

酒造技能士一級 矢島町

入蔵前、航空自衛隊に所属。特技の卓球は航空自衛隊千歳大会で優勝する程の腕前。蔵での機敏な動作はこの時に培われたと思われる。出身は隣町の由利町であるが柔和な性格を見初められ佐藤家に婿入り。この事が天寿酒造入社のきっかけになる。

釜師のコメント

酒造りは一つひとつの行程が最高の状態で次行程へと渡す事が出来るようにする事が重要だ。常に次の人が最善を尽くせる様に思いやる酒造りはチームワークに尽きる。

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