酒蔵の心意気
代表取締役社長 大井建史
あけましておめでとうございます。
新体制となった弊社もお蔭様で三年目を迎えました。
この間の社会情勢の変化は大変激しく、それに伴い各業界や会社も、生き残りをかけてそのスピードを追い越そうと必死です。
弊社も、それに対応すべくこの天寿蔵元通信の発行や、様々なイベントを行う事で、私どもの「思い」をご理解頂きたいと努力して参りました。
また、昨年は更なる品質向上のため、壜貯蔵用冷蔵倉庫(一・八リットル×二万本)を完成させ、東京農大の中田久保教授による、撫子や日々草から分離した新酵母での醸造にも取り組み、「雪ごよみ」「天寿純米吟醸」「清澄辛口鳥海山」生貯蔵酒等の新製品を発売いたしました。
今年は、秋田県酒造組合で十年以上の年月をかけて開発し、山田錦以上の酒造好適米にと期待されている「秋田酒こまち」を県内で一番早く試験醸造しており、1月上旬には上槽致します。また、麹造りもさらに研究を重ね、一味向上した酒質になると期待しております。 吟醸ばかりでなく、純米や本醸造でも新商品をご提案させて頂く予定です。
私は、本来経済活動は挑戦する事だと思います。弊社の目指すところは「世界に通用する銘醸蔵」になる事。「お客様に感動を持って味わって頂けるお酒」を造る事。
現在一二八年目の酒造り真っ盛りの「天寿」は、その伝統を守りながらも、目標に向かって益々挑戦するべく、社員一丸となって進んで参ります。
本年もご愛顧の程、よろしくお願い致します。
「パッケージデザイン賞」受賞
おかげ様で、天寿の新商品、完全無農薬米仕込「純吟 天寿」が、第21回秋田県特産品開発コンクールにて「発明協会秋田県支部長賞」と「パッケージデザイン賞」を受賞致しました。
鳥海山の麓、生活廃水の一切入り込まない南向きの田んぼで、弊社自慢の「天寿酒米研究会」が、アイガモ無農薬農法で丹精こめて育てた、酒造好適米「美山錦」を一〇〇%使用いたしました。
箱やラベルに古紙と大豆インクを使用したエコ商品でもあります。 是非ご賞味ください!
蔵のページ
秋、田んぼから収穫された原料米は乾燥、選別され玄米の形で天寿の精米所に入ってきます。
天寿では美山錦栽培(酒米研究会)をはじめとする米作りも酒造りと位置づけていますが、文字通りの酒造りは精米から始まります。精米とは玄米の表面を、削り取って白米にする作業です。
玄米の表層部や胚芽には微生物の増殖や発酵を促進し過ぎる灰分やビタミン類が多く含まれています。又、香りや味、色択を悪くするタンパク質や脂肪分も多く、これらを取り除く為に精米します。
通常、我々が食する飯米は玄米重量の7%8%程度を削る軽微な精米ですが、酒造りに用いる白米はさらに削ります。これ以降は米の組織が固く脆い部分にさしかかるので割れや砕けをおこさない様に丁寧な操作が要求され、専用の精米機と時間が必要です。天寿の酒造りで使用される白米は目的とする酒種によって30%65%を削り連続で最大6昼夜もかかります。それ故、酒造りで精米する事を「米を磨く」とも呼びます。又、残った白米の重量割合を精米歩合と呼び、精米歩合が低いほど高度に精米された白米となり、米でんぷんの割合が高まります。
一般に精米歩合75%程度までは、精米が進むにしたがいタンパク質、脂肪、ビタミン等は少なくなっていきますが、これ以降はそれほど変化が無くなるので米の素質が問われる様になります。天寿が原料米の栽培にこだわる理由がここに有ります。田んぼでの育て方次第で基本となる酒質が左右されると言っても過言ではありません。
もう一つの鍵は米の品種です。最良の栽培方法を行ったとしても根本的な品種特性に勝るものはありません。この為、全国の鑑評会に出品される吟醸酒の大半が山田錦という品種を採用しているのが現状です。これは醸造特製の良さと何よりも仕上がった吟醸酒の香味の点でこれまで山田錦を越える米が無かったという事です。
そんな中、米どころ秋田の威信を懸けて長年開発を続け、今年本格的に試験醸造が行われる「秋田酒こまち」が開発されました。
その開発段階で「西の横綱が山田錦ならば東の横綱は秋田酒こまちである」と専門家をして言わしめ、数ある試験品種の中で初めて山田錦を越える米として期待されています。
天寿ではこの米を使用した吟醸酒仕込みを県内一番乗りで行いました。この酒蔵通信が届く頃、新しいお酒が生まれます。ご期待下さい。
製造課 佐藤俊二
蔵人の紹介
(こめや)
精米師 佐藤栄一(さとうえいいち)
酒造技能士 矢島町出身
昭和30年生 昭和51年入蔵 製麹せいきく、酒母しゅぼ、上槽じょうそう助手の頃から、吟醸酒用の精米時期になると必ず杜氏の指名を受け、精米を担当していた。
平成2年精米担当、平成11年、前任木村から精米主任を引き継ぐ。
精米師のコメント
原料米の受け入れ時点から米の目利きは始まっている。平成15年から農産物検査法に基づく玄米検査が完全民営化されることから、受け入れ側も確かな検査基準を持つことが必要となる。
今年は新しい米「秋田酒こまち」の精米も県内一番乗りということもあり、泊まり込みで杜氏の望む通りの白米に仕上げた。品質を追求するこの仕事に誇りを持っている。