お酒の個性
代表取締役社長 大井建史
128回目の酒造りが終わりました。25日には仕事を全て終えた蔵人たちが家路につきます。 今回の麹造りの取り組みは、大吟醸を始め純米等も味の幅やふくらみが付き、かなり満足の行くものに成りました。
この所、地酒としての酒質の個性化が問われます。どんなお酒かと問われますと私共では「鳥海山の伏流水で超軟水の仕込水を使用し、自慢の天寿酒米研究会産の美山錦を原料米として、蔵人の伝統の匠と情熱で醸しあげた心やすらぐお酒です。」とお答えしますが、どうもこれでは答えにならないようです。もちろん一つひとつの酒の味の説明と違うことは解りますが、その蔵の酒の個性とは何を指しているのでしょう?特別に辛い・甘い・酸が多い・香りが強い・自社酵母使用(私はこれが良くわからないのですが、どうもお酒が良く出来た年の協会酵母を自社保存したものが多いようです)が個性化と考えますか?確かに協会酵母を使用し醸造試験場の指導どおりの酒造りを行い、似たような酒に成っているとのご指摘は解らなくも有りません。しかし、この頃の特定名称酒(吟醸・純米・本醸造等)は大変な種類が有りますが、前記のような先入観でお酒を味わっていないでしょうか?魚でも絞めてからの時間の経過による味の違いを愛でる日本人です。その日本人が千年以上飲み続け、向上させてきた酒造りなのです。私としては、味や香りの極端な違いではなく、その酒蔵の持ち味こそ個性と捉えて頂ければと考えます。
近の雑誌に載っているお酒は、記者が広く酒蔵を取材しない為、かなり偏りを感じるのは私だけではないと思います。酒蔵の全てが良いとは申しませんが、日本にはまだまだ沢山のがんばっている酒蔵があるのです。コクとキレを大事に吟醸してきたこの国の「国酒」をお楽しみ頂きながら、時々そんな思いも感じて頂けたらと思います。
言葉にするのが難しく誤解されるのも怖いのですが、天寿は十種類並べて呑み比べると目立たないが、一対一で比べると勝ち残る酒だと言われた事があります。一杯目のインパクトより、飲むほどに旨味が増し、飲み飽きしない天寿らしい安らぐお酒を目指したいと私は思っています。
今年も5月3日に第三回「やしま駅の市・酒蔵の市」のイベントを行います。弊社の目玉は「雪室氷温熟成純米生酒」ですが、今年は雪消えが異様に早く大変苦労しております。すでに大型ダンプで6台の雪を鳥海山から運びました。なんとかイベントまで持ってくれれば良いのですが・・・ 素人仲間でのイベントですが、皆様に喜んでいただこうという気持ちいっぱいで準備に取り組んでおります。鳥海山も新緑の美しい季節を迎えております。連休を利用して、御家族皆様で是非お出かけ下さい。
蔵のページ
もろみ師の重圧
精米師(こめや)、釜師(かまや)、麹師(こうじや)、酒母師(もとや)それぞれが、その技を結集し仕上げた、蒸し米、麹、酒母はもろみへ引き継がれます。 これらを原料に仕込みを行い、適切に管理し、長い発酵期間を経て熟成したもろみを搾って(こして)初めて清酒が生まれます。この酒造りの本体であるもろみ管理を担っているのがもろみ師です。
清酒もろみには数々の特徴がありますが、最大の特徴が、仕込みタンクの中で米デンプンが麹の力によって分解され糖分に変わる糖化と、その糖分を酵母が利用してアルコールや香りを造り出す発酵が同時に行われていることです。
この発酵型式を並行複発酵といい、世界で唯一、日本の清酒醸造だけに確立された独自方法です。
それ故、酒造りは糖化と発酵のバランスが重要で、糖化の変化と発酵をつかさどる酵母の健康状態を見極める、細やかな観察と管理が全てを左右します。
もろみ師は、朝昼晩と、定期的に検温し、各もろみの僅かな温度や状貌の変化から健康状態を推察し、日々行われる成分検査で裏付けを取りながら温度調整を進めて行きます。雪が少ない初冬や春先は夜中に急激な天候の変化がある場合があり、もろみ達が冷え込んで風邪をひいたり、熱を出したりはしないかと、心配は絶えません。そんな時は真夜中であっても様子を見に行く事は珍しくなく、その心配りは、まるで子を思う親のようです。
良いもろみとは、目的とする酒の品質を持つものであり、又、この特性を搾りによって損なうことなく、そのまま清酒へと移行させることがポイントとなります。それ故、最終的に良いもろみ(蒸し米、麹、酒母も同様です)が出来なければ、決して良い酒は出来ません。造りの期間中、もろみ師は他工程の責任者と共にこの重圧を背負っています。
製造課 佐藤俊二
蔵人の紹介
もろみ師 土田邦夫(つちだくにお)
昭和25年生まれ 昭和53年蔵入り
槽師を兼任しながら一貫してもろみ担当。平成7年もろみ主任に就任
矢島町出身 酒造技能士一級
天寿酒米研究会会員
天寿一の酒豪。酒を共にした者で彼の乱れた姿を見た者はいない。本人曰く、「色々な酒を試している内に強くなった。一種の職業病だ」と嘯く。自ら育てる美山錦は毎年最高品質を保つ。
もろみ師のコメント
もろみは一本一本個性があって同じ物は無い。一定の管理だけではうまくいかないので、常に初心者のつもりで見守っている。