より良い品質を 目指して、一歩づつ・・・
代表取締役社長 大井建史
先月、広島で全国新酒鑑評会の一般公開があり、天寿は惜しくも昨年と同じ銀賞でした。今年も入賞酒の傾向は香も味もフルボディータイプでしたので、きれいな優しいタイプの酒質には、金賞は厳しかったようです。しかし、典型的な秋田型吟醸で、ブレンドは一切無しでの入賞ですから、十月販売の「鳥海の雫」をどうぞご期待下さい。
前回の蔵元通信でご案内しました5月3日の「やしま駅の市・酒蔵の市」もお陰様で無事終了致しました。当日は気温が30℃近くの大変暑い日でしたが、すごい迫力の大沢しのぶさんの和太鼓で、大変盛り上がりました。雪の確保に苦労した雪室氷温熟成純米生酒もご好評を頂き、大変うれしく思っています。(少し若かったので今頃が美味しいかも!まだ多少在庫あります)また、無農薬田には5月31日からアイガモの雛が放され、元気に活躍を始めました。(※下写真)
イベントを終えた夏の酒蔵は、ひたすら静かな熟成の時です。同時に、次の酒造りの為の改善計画や設備の更新、整備の時でもあります。
30年以上にわたる日本酒の消費量低落傾向に加え、ここ5~6年の急速な落ち込みで、残念ながら我日本酒業界は大変厳しい状況にあります。そんな中でも、社員一丸となって日本食文化の一翼を担いながら、「世界に通用する銘醸蔵」を目指して懸命に努力しているところです。
品質の向上は、我々造り酒屋にとって最大で永遠のテーマであります。
その環境整備の為に過去10年間に渡り、洗壜・充填機の更新、充填用プレートヒーターの導入、吟醸以外の製麹機の更新、発酵タンクの改善・温度調整機能付きのジャケットタンクの一部導入、蒸米工程の改善、城新蔵の低温貯蔵庫への改築、壜貯蔵用の冷蔵倉庫の新築、蔵内火入れ用プレートヒーターの更新等、多岐にわたり実施してまいりました。
昨年の秋から、更なる製造工程の見直しを行っており、先進工場や有名酒蔵を何社も訪ね、勉強させて頂きました。
その結論として今年は、本来最も重要で、この部分で酒質が決まると言っても過言では無い、原料米の精米・調湿・洗米・吸水歩合の、さらに厳密な安定化を図り、そして、これらを如何に省力化しながら精度を上げていくかに挑戦します。
設備投資は、正直大変厳しいものがありますが、この様な時だからこそ、皆様のご期待に添えるより良い酒を醸すべく、気合を込めてがんばって参ります。
蔵のページ
酒母師(もとや)の姿勢
至極当然の事ながら、清酒にはアルコールが存在します。このアルコールや清酒特有の香りは酵母菌という微生物によって造りだされます。麹(蒸し米に麹菌を繁殖させたもの)が米(デンプン)を溶かして(糖化して)ブトウ糖を造り、酵母はそのブドウ糖を食べてアルコールや香りを造ります。酒造りはこの二つの働きを巧みに利用して行っているのです。
酒母は酵母菌を純粋に培養する酒母は酵母菌を純粋に培養する工程であり、酒造りのスタートです。酵母菌は酸味や香気の特徴により「協会7号」、「協会9号」の様に区別され酒種によって使い分けますが、万が一、雑菌が入り込んでしまったなら酒造りではなく雑菌造りになってしまいます。
その為、酒母室は室温7度前後の低温に管理され、関係者以外は立ち入りをご遠慮願っている場所です。ここで酒母を育成するのが酒母師です。
天寿の酒母仕込みは、半切りと呼ぶ平たい容器に仕込み水を準備し、麹と酵母菌を加え、(これを水麹と云います)次に蒸し米を加えます。この時、米粒を潰さない様にする為、素手で丁寧にかき混ぜます。(手でかき混ぜるので「ます)半切りに仕込み、「手もと」を行うと、蒸し米の硬軟や温度の高低が指先で分かる他、速やかな冷却も可能だからです。これらは天寿のこだわりの一つです。
仕込みの翌日になると、水を吸い固く締まった蒸し米が、麹の力で溶けてゆるんできます。このゆるみ具合では原料米の特徴も見えてきます。木製の大きな「ヘラ」でゆっくり反転させると、美山錦は柔らかく「スルリ」と抵抗なく、一般米は硬さを感じさせる「プツプツ」と米粒が当たる感覚です。
その後、二週間がかりで加温、冷却、そして保温等の操作を行うことにより適切に酵母を増やし、又、状貌や香気の変化で酵母の活性(発酵力)を掴みながら、酒母を育成し、その特徴を引き出していくのです。
酒母師は、杜氏の求める品質を満足させるため、麹と蒸し米の仕上がりを酒母の育成を通じて総合的に判断し助言する役割も担います。これらの情報は酒母を引き継ぐ「もろみ」の管理上も重要です。的確な判断を導くため、常に正確な操作とそれに伴う僅かな変化も見逃さない様、細心の注意を払っているのです。
製造課佐藤俊二
蔵人の紹介
酒母師 佐藤勝美(さとうかつみ)
昭和17年生 昭和39年蔵入り
精米師、釜師を経て昭和55年から酒母を担当
矢島町出身 酒造技能士一級
天寿酒米研究会会長
順序良く仕上げられる完璧な仕事に、蔵人一同「さすが勝美さん」の呼び声が高い。
酒母師のコメント
「今年は麹のちからが強くなったせいか、湧付け後の温度持ちが非常に良かった。低めに誘導しても勢いが良く、もろみでのキレも良好の様だ。」と仕事一筋でした。