金賞を受賞しました
代表取締役社長 大井建史
お陰様で、本年度全国新酒鑑評会で金賞を受賞いたしました。
これまでもお伝えして参りましたが、若い新杜氏の下で、酒造りの工程を一つひとつ見直し、良かれと思う方向に改善して参りました。杜氏も勇気のいる事でしたし、蔵人も創意と工夫を発揮し、大変良い雰囲気で推移しておりましたが、この様な良い結果を得る事が出来、一同励みがついたところです。
もちろん、これで全てが良かったと言うことでは有りませんし、方向が間違いなかったという結論を得た訳でもありません。しかし、弊社の鑑評会出品酒はブレンドを致しませんので、模索の中で一つの光が差してきた事には間違いないと思います。
これも一重に、皆様方に暖かく見守って頂いたお陰と、心から感謝申し上げます。
農大花酵母研究会
6月12日に農大花酵母研究会の設立総会と発表試飲会が行われ、私が初代会長に就任いたしました。これまでも、弊社の商品を通じてご案内して参りましたが、この酵母は東京農大短期大学部酒類学研究室の中田久保教授が、長年の研究の結果自然界から新しい清酒酵母の分離方法を確立され、優良清酒酵母を次々と分離しております。花から酵母を分離しているのは、花の蜜に糖分があるため酵母が集まりやすいからです。(果物にはワイン酵母が多いようですが)花酵母と言うと花の香や特徴があるように聞こえ、色物的な印象を持つ方もあるようですが、そのような事は全く無いのです。これまで、個性化をより促進する為、各県の工業試験場等で精力的に開発された新酵母には、既存の酵母の変異種が多いのですが、中田先生の酵母は天然の新種の清酒酵母なのです。
昔は、家付き酵母と言われる蔵の中にいる酵母が生モト酒母に自然に落ちてくるのを醗酵させましたが、野生酵母も多く、大正時代に腐造が大発生し、沢山の酒蔵が倒産しました。これの防止策として優良蔵から優良酵母を純粋分離したものが、現在の協会酵母です。これにより、野生酵母の繁殖を防止し腐造を防げ大変大きな成果をあげましたが、少数の酵母を広く全国で使用するようになり、個性が弱くなった一因とも考えられます。
酵母は、アルコール発酵の主役の微生物ですが、清酒では特に酸の生成に大きく寄与し、その性質が清酒の個性を形成する微生物なのです。中田先生は、「非常に大変な時代だが、まずお前たちが造り酒屋としてがんばれ!」と教え子たちにのみご好意で酵母を無料で分けてくれました。これまでの配布酵母とは違った味・香を持つ天然酵母ですので、使いこなすまでにはまだ時間がかかるかも知れませんが、先生のご好意を最大限に有効活用させて頂く為、研究会を立ち上げ会員全体の品質向上を図り、他の酒類と比べても負けない、個性のある高品質の清酒を醸していきたいと思います。
おかげさまで平成15年度全国新酒鑑評会金賞受賞 蔵の歴史
来期に向けて
杜氏 佐藤俊二
間もなく平成14酒造年度が終了します。一般的によく用いられる暦年(1月12月)や会計年度(4月〜翌年3月)を用いると造りの途中で年度が変わってしまう不具合が生じるため、酒造業界では7月〜翌年6月を酒造年度として使用しています。
本酒造年度も押し迫った5月、多くの蔵元が今年度の出来映えの確認と、その技術向上を目指して製造技術研究会(いわゆる全国の一般公開 於 広島県)へ集まりました。きき酒により自社の酒質の現状と動向を掴み、来期へ向けて新たな設計図を描く為に不可欠な事です。本年度の造りに関しては、蒸し米のグレードアップによる酒質向上が目標でした。品質向上の鍵は原点に立ち返り、基本を磨くことと位置づけたからです。狙いは成功でした。これまでの「天寿」の味わいに透明感が加わったと確信しました。
この事を実現するために蔵の中では各工程の担当者が総力を注ぎました。例えば、割れにくい精米方法への取り組み、新たな浸漬方法への挑戦、蒸し方法の変更、新しい蒸し米冷却方法の発見等、数多くの事例が挙げられます。しかし、これらの成功には蔵人同士の職責をこえた自由な意見の応酬がありました。そしてこの中から湧き出たアイデアをすぐ「へばやるべ!」※1と実行したのでした。皆造(かいぞう)※2の日、社長と蔵人全員で課題を持って造った新酒をきき酒し、酒質の確認を行った上で今年の反省会を行いました。反省会は社長の前で今年の取り組みを説明、検証する場でも有りますから少なからぬ緊張感が走ります。
説明後、社長から「各担当者の努力はもとより、一つの目的に対して蔵人全員が一丸となって取り組んだことが好結果を引き出したと思われる。」と講評があり、今年の取り組みに対して蔵人一同に社長賞を頂きました。そして今回さらに「全国新酒鑑評会」で金賞を受賞出来たことを蔵人全員が喜んでいます。
大吟醸酒に限らず、一つひとつ今の「天寿の思い」を込めて醸しあげました。けれども我々蔵人にとって重要なことは、この今年の「天寿の思い」をお客様に味わって頂き、その声を来期の造りに反映させることなのです。出来上がった酒が天寿らしい質を持ち、それがお客様と共感できる味わいであることが何より素晴らしいことであり、天寿の目指している事なのです。蔵は今年の造りを終え、しばしの眠りについていますが、お客様からの生の声を率直に受け入れ、来期はより精度を高めた造りを実現したいと思っています。
※1「それじゃやってみよう」の意
※2酒造りが全て終わる事の意