日本酒をお楽しみください
代表取締役社長 大井建史
清々しい五月晴れから梅雨に移行する時期ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
コロナ禍の中、世界中が呻きながら耐えてやり過ごそうとしています。この間の経済的損失は想像を絶するものが有り、飲食業や我々造り酒屋はすでに貧血状態に陥っています。感染しない広げないが最優先事項と判ってはいますが、この先出血多量にならない様にそろそろアクションを起こさなければとは思うのですが…。
そこでまず足元から。今だから出来る事をと頭を切り替え、製造の詰口部門の体制改善に取り組み始めました。これからの酒蔵のありかたとして「重要なのは酒販店様やお客様に選択し続けて頂ける酒蔵であること」と色々な試みやご要望にお応えすべく頑張った結果、アイテム数が増え続け、その保管・管理に冷蔵庫が圧迫される状況でした。
瓶貯蔵用冷蔵庫内にバラエティーに富んだお酒があることあること。それらを杜氏と共に恐る恐る唎酒をすると、恐れとは全く違う貴重な熟成されたおいしさが!これはうれしい驚きでした。
例えば、4年前の純米酒の生酒に全く生ヒネや老香が無く、酸味や甘味に熟成だけが成し得る柔らかさとキレ!!想像できますか?
しかし、マイナス5度で4年間の生熟成酒の宝物でも、販売する術がなければ熱殺菌してレギュラー純米にブレンドで使う事になります。あぁ、もったいない!今イベントや唎酒会・楽しむ会が全く開けない中、どの様にしてそれを伝えられるかに頭を抱えたり、抱えたり、抱えたりしております。
それにこの系統のお酒は物流に乗せにくいのです。その理由は、
●数がそれ程多くない。多い物でも何件かの酒販店様に売ると言って頂けると無くなります。
●再現性がない。例えば今回は4年置いても生ヒネも老香も出ずバランスよく熟しましたが、次もそうなるとは言えないし怖くて出来ません。
●多くても百本単位なのでラベルは弊社でパソコン作成となります。
●今の所、営業に行き酒販店様に説明できない。通常商品との違いを説明しづらい。熟成と言うとすぐ紹興酒系の変化を想像する方がいますが、その系統とは全く違います。
等々です。しかし、逆に考えると、
●数量超限定
●今この時に飲まなければ二度と味わえない超レアもの。再現は難しい。
●ラベルにお金をかけない超リーズナブルな価格
もし同じお酒の新酒がある物なら、ビフォーアフターの比べのみがお勧めですね。実に面白いと思います。
ワイワイがやがや飲むのも楽しいですが、今この時期は家でゆっくりお気に入りの盃やグラスで、世界がその繊細な味わいに注目する日本酒を、じっくり味わい尽くしてみてください。
天寿では近年の受賞数から2019年世界酒蔵ランキング第六位・2018年全国燗酒コンテスト最優秀燗酒蔵を受賞しております。今だけ屋やメールニュースに紹介いたしますので是非ご注目下さい。
菌と生きる
杜氏 一関 陽介
六月十九日からコロナウイルスによる他県への移動自粛が解除になり、いよいよ人が動き始めている状況ですが、緊急事態宣言前と同じ状況へ完全に戻るにはまだまだ時間がかかりそうです。いつどこで感染するのか分からない事や重篤になる可能性がある事への恐怖、もしそうなった時に身の回りの人へ迷惑をかける事を想像すると、正直なかなか足が外へ向きません。頭の中では積極的に外出し消費活動を行わないと経済が回らない事、当然自分達の酒の需要も増えていかない事も分かっていますので、とるべき行動の難しさに悩んでいるところです。
怖いのは未知だということ。そのような状況の中、恐怖に立ち向かう医療関係者や治療薬やワクチンの開発に携わる方々の苦労には頭が下がります。元々、人間は細菌やウイルスと共生しているわけですから、早くコロナウイルスとも上手に付き合えるようになればと願うばかりです。
移動自粛が解除になることで考えたことがあります。酒蔵は酵母菌や麹菌を使って麹を造り発酵させ酒を醸します。言ってみれば菌にとって活躍しやすい環境を私達蔵人が整える役目を担っているのです。ですから、蔵に入る人間が優良な菌の活動を阻害するような菌(雑菌)を持ち込んだり、蔵内で増殖させたりする行動は、やがて麹やもろみに混入し、酒に持ち込まれ品質に悪影響を及ぼします。そのような事が起きることを防ぐべく、私達は清潔な帽子・白衣・長靴等の着用・オゾン水や紫外線・高濃度アルコールによる手指や使用する道具類の殺菌などを行っています。この事は、世界的に行われているコロナウイルス感染予防対策と同じだと思うのです。
ウイルスと細菌とは大きさや増殖の仕組みは異なりますが、同じ微生物ですから人が動けば共に動きます。ウイルス感染予防と、良質の酒を醸す為の微生物管理の目的は同じで、人が動いた際に如何に不必要な物を取り込まずに拡げないかだと思います。
菌を扱う仕事をしている者として、人間が行動することで菌を拡げてしまうことや、逆に有用な菌を封じ込めてしまうこともできる恐ろしさを併せ持つのだと認識して、個々が責任ある行動をする必要があると思うのです。酒造りが終わり、時間に余裕がある私ですが、そんなことで遠出は控え、地元の良さを発見できるような夏にできたら良いのかなと考えています。