令和の米騒動
代表取締役社長 七代目 大井永吉
日本全国で国産米が高騰し騒然としておりますね。三年前まで二十年も日本酒の値上げがなかったのは、全体的な販売不振もありましたが、日本の米価が下がり続けた為コスト的に何とかなってきたからです。
日本は米の消費量が減り続け、食糧自給率や食糧安保に危機感を持つ一部の国会議員以外の無関心議員も、日本の農家の弱体化にやっと気づき、突然農家への同情を表し農業政策をにわかに攻撃し始めました。
高齢の農業従事者は長年の厳しい農業環境に子供たちへ農業に対する希望が与えられず、後継者がほとんどいない状態で、秋田県だけでも近年は毎年百人以上の高齢離農者がありますから、それだけでも大変な稲作の減少になっています。
農水省や農協が米の作付面積や収穫量を把握出来ないなどとだれが想像できたでしょう?社会一般の会社が自社で製品をどの位作るか又は作ったか判らないと言っているようなもので、信じがたいです。
農水省や農協の予想より不作だった・投機的な買い占めがあった・インバウンドでたくさん食べられた・補助金をつけて海外に販売した。色々ととりざたされておりますが、結果的に農家に良いことはほとんどありません。
庭先販売と言うようですが農家から業者が直接現金で高値での購入をされたところは、例年より倍額以上の売り上げになった様です。しかし、農協経由のものは制度上農家に高値となったお金がまだ入っていないとの事。備蓄米はやっと市場に出始めましたが、スーパーなどの量販店が発注した外国産米もこれから大量に店頭に並ぶようです。高値で買った業者や投機目的者は損をするので安値では販売できず、結果、せっかく米価が上がったのに上がりすぎて販売価格が倍以上では、一般家庭では米離れが加速し、外食産業では国産米の使用をあきらめ、我々酒造業などは昨今の物価高騰の上に、この秋には原料米がさらに倍になるとの見通しに呆然としているのが現状です。長年にわたって築いてきた契約栽培継続の為には農家を犠牲にすることなど到底できませんので、倍額になろうとも購入して翌年の契約に繋げていかなければなりません。
農協との次年度価格の協議では今年度の更に倍額の要求で、原料米は約束通り購入し酒造りはいたしますが、簡単に酒の値上げもできず途方に暮れるこの頃です。
守るべき国の基幹産業である農業にどう希望を持たせる事が出来るか、いま皆で考えなければ取り返しがつかないところまで来ていると思います。
熟考する夏
杜氏 一関陽介
突然ですが、昨年の同時期と同様の事をご報告できる喜びに浸っております。五月末に審査結果が発表になりました、令和六酒造年度全国新酒鑑評会において金賞をいただくことができました。
三年連続での金賞、杜氏就任から十三年で七度目の金賞受賞(他入賞四回)となりました。忘れることのできない入賞できずに苦しんだ平成二十七・二十八年度があり、そこからほぼ連続で受賞できるようになった自分のチームの成長を自分で褒めたいと思います。
また、IWC・クラマスターなど国際的日本酒コンクールにおいても上位の賞をいただくなど、今酒造年度を好成績で締めくくることができました。飲んでくださるお客様のおかげで毎年酒造りができ、それによって私達蔵人の技術が向上できていることに感謝を申し上げます。
先日、全国新酒鑑評会製造技術研究会に参加し、全国から集まった出品酒を利き酒してきました。令和六年度産の原料米は全体的に難溶傾向であった為、その溶け難い性質からキレイな酒が多かった印象でした。
弊社の出品酒も同様ではありながらも、華やかで味にふくらみのある酒質であったという自己評価です。金賞をいただくことができた理由を考えつつ、来年度も良い結果を出してこの場に戻れるように頑張ろうと思いながら会場を後にしました。
また、私も久しぶりの県外出張でしたので、その足で広島県・千葉県の酒蔵の見学をさせていただきました。日本酒を造るという意味では同じですが、気候や米・水等の原料は当然のこと、使用する道具や製法、コンセプトの違いを実際に聞いて肌で感じることができる有難い時間となり、どちらの蔵もベストを目指し様々な事に取り組まれているとのご説明に感銘を受けました。また、自分達の酒造りについて考える上でヒントを与えていただいた有意義な時間となりました。
時代の流れは早く、今良いとされている流行り(昔からあるが見直されていることを含む)の技術や求められている酒質は短期間で変化するため、蔵の中だけにいるとその流れに追いつけなくなる可能性があります。そういった中で情報を共有していただける横の繋がりは非常に有難く大切です。
令和七年度も原料米の価格高騰と夏の高温による品質への障害が予想される等、今から心配事は山積みです。それは原料米には限りませんが、できるだけ沢山の方と情報交換をさせていただきながら、令和七年度の自分達の酒造りに起こり得る問題を想定し、どう立ち向かうのか、今からしっかりと熟考する夏にしたいと思います。